2017年8月11日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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今から10年以上も前のことだけど、営業職に就いた友人が、「得意先とは政治と野球の話をしない方がいい」と教えてくれた。それぞれに主義主張を持ちやすい話題なので、ピタリとはまればいいけど、はまらなければ口論に発展する恐れがあるから避けた方がいいということらしい。
友人の言葉として頭の隅に留め置いていたおかげか、営業職に就かなかったおかげか、これまで他人と野球や政治の話でモメることはなかった。僕が野球や政治に対して主義主張がないということもあると思う。いや、自分なりの考えはあるんだけど、それを人に披瀝して、他人と考えを共有したり、意見をもらったりというつもりがない。SNSとかで、そういうことを書いている人もいるけど、えらいなあと思う。そんなことで他人とやり取りしたりって、もう面倒くさいんだよなぁ……。
なので、できる限り政治の話は避けたいけれど、最近思うのは、国内でも海外でも、政治家とかトップに立つ人間の言動が滑稽すぎるということ。歴史的に見ても、指導者のカリスマ性の高さと滑稽さとは表裏一体だったりするので、こんなものなのかも知れないけど、なんかお笑いみたいに思えるものも多い。
と、そんなことを考えて、ふと思い浮かんだのが、イタリアのNUOVA IDEA『CLOWN』のジャケット。王様とクラウンが鼻を突き合わせてにらみ合い。二人の間を様々な人種の人たちが、苦悶の表情を浮かべながら滑り落ちていくという象徴的なイラストが使われている。昨今の首脳会談とか国会答弁とか、そういうのを見ていてもこんな感じじゃないですか? どっちが王様で、どっちがクラウンだか……いや、どっちもクラウンじゃないか?みたいな。
NUOVA IDEA『CLOWN』のジャケットは、Gianni Zaniniが手がけている。彼はイタリアン・ロックのアルバム・ジャケットをいくつか手がけているが、プログレ系で有名なのは、PLANETARIUM『INFINITY』だろうか。そちらのシュールさに比べると、NUOVA IDEA『CLOWN』は、まだわかりやすい風刺的作品であり、現在にも十分に通用するテーマ性も持っている。
さて、このNUOVA IDEA、イタリアン・ロックの中では、まあまあ知られた存在だと思うが、とにかくバイオグラフィーがややこしい。この機会にまとめてみたい。
NUOVA IDEAの原点といえるのは、60年代末のイタリア、ジェノヴァで結成されたPLEPである。メンバーはPaolo Martinelli、Luciano Biasato、Enrico Casagni、Paolo Sianiの四人で、彼らの頭文字をとってPLEPと名付けられた。彼らは1969年にシングル「La Scala / L’anima Del Mondo」をリリース。A面の名義はGil del J.PLEPとなっていて、この頃にキーボード兼シンガーのGiorgio Usaiが参加していた。
Paolo MartinelliとLuciano Biasatoが脱退し、Marco ZocchedduとClaudio Ghiglinoが加入してNUOVA IDEAへと発展していく。1970年にはデビュー・シングル「Pitea, Un Uomo Contro L’infinito / Dolce Amore」を発表。同A面曲を始め、以降に彼らが発表したシングルA面曲のいくつかは、ジュークボックス盤でも発表されている。
NUOVA IDEAは、UNDERGOUND SET名義で『THE UNDERROUND SET』(1970年)と『WAR IN THE NIGHT BEFORE』(1971年)という2枚のアルバムを発表している。これがサイケデリックからプログレへの過渡期ならでといえる音で、またNUOVA IDEAの演奏力の高さも味わえる内容であり、今では人気の高い作品となっている。
UNDERGROUND SETでは数枚のシングルも発表しているが、これはプロデューサーのGian Piero Reverberiを中心とした企画ものだったようだ。ちなみにGian Piero Reverberiの兄のGian Franco Reverberiもプロデューサーとして著名で、NUOVA IDEAのアルバムも手がけることになる。
1971年にはNUOVA IDEAとしての2枚目のシングル「La Mia Scelta / Non Dire Niente…(Ho Gia Capito)」を発表している。同シングル・ジャケットにもGianni Zaniniの名前がクレジットされている。
同1971年にはデビュー・アルバム『IN THE BEGINNING』を発表。20分に及ぶ大作「Come,Come,Come…(Vieni,Vieni,Vieni…)」をアナログA面に収録したプログレッシヴな内容を誇る力作になっていた。ライヴやフェスティバルにも頻繁に出演し、イタリア国内でも知名度を高めていく。1971年に発表されたコンピレーション盤『AL FESTIVAL POP VIAREGGIO 1971』には、Come,Come,Come…(Vieni,Vieni,Vieni…)」のライヴ音源が収録されていて、デビュー当初の彼らのパフォーマンスを聴くことができる。
Marco Zocchedduが脱退し、OSAGE TRIBEを結成。1972年に『ARROW HEAD』を発表している。翌1973年にはDUELLO MADREで『DUELLO MADRE』を発表。ハードな側面も強い前者、ジャズ・ロック色の強い後者と、いずれもイタリアン・ロックの隠れた名作として知られているが、どちらもアルバムは1枚を残すのみで解散。それ以降もイタリアン・ロック界で活動を続ける。
NUOVA IDEAには、Marco Zocchedduに代わってAntonello Gablliが加入する。1972年にシングル「Mister E.Jones / Svegliati Edgar」、同シングル曲を収録したセカンド・アルバム『MR.E.JONES』を発表する。続いて1973年に発表されたサード・アルバムが『CLOWN』である。同作ではAntonello GabelliがArturo Ricky Belloniに交代して制作されている。こうしてみると、かなりメンバーが流動的だったことがわかる。
1973年にはアルバム未収録シングル「Sara Cosi / Uomini Diversi」を発表。AB面曲ともに良曲ながら、Paolo Sianiが脱退してしまう。彼の後任にFlaviano Cuffariを加えて活動継続を模索するも、NUOVA IDEAは解散の道を選んでしまう。
Ricky Belloniは、すぐにPaolo Sianiと合流してTRACKを結成。1974年に『TRACK ROCK』を発表している。TRACKはアルバム一枚で解散。Ricky BelloniとPaolo SianiはEQUIPE 84に参加。Ricky Belloniはソロ名義でシングルを発表したのを経てNEW TROLLSへと加入し、『CONCERTO GROSSO 2』(1976年)から1980年代中ごろまで同バンドに参加する。
Paolo SianiはOPUS AVANTRA『LORD CROMWELL PLAYS SUITE FOR SEVEN VICES』(1975年)に参加した後、PAPY, MAMY & SON名義でシングル「Bubble Gum / Chrysalis」(1975)、「La Salsa / Sciubi Sciu-a」(1976)を発表している。
他メンバーの動向も見ておこう。Giorgio UsaiもNEW TROLLSへと加入を果たし、『ALDEBARAN』(1978年)、『NEW TROLLS』(1980年)でRicky Belloniと共演している。その後ソロ・シングルなども出して、イタリアン・ロック界で活動を続ける。Enrico Casagniは1977年にソロ・アルバム『QUALCUNO STANOTTE…』を発表したことが知られている。Claudio Ghiglinoはアレンジャーなどで活動を続けたようだ。
NUOVA IDEA解散後も、メンバーはそれぞれにイタリアン・ロック界で活躍をつづけていたが、2011年と2012年には、Giorgio Usai、Paolo Siani、Marco Zoccheddu、Ricky BelloniというメンバーでNUOVA IDEAとしてのライヴを行い、その様子と過去のテレビ出演などの映像を集めたDVD『LIVE ANTHOLOGY』がリリースされている。
メンバーの遍歴をたどってNUOVA IDEAへと辿り着くケースが多いと思うが、彼らの残した3作ともに、サイケデリック・ロック、オルガン・ロックとプログレッシヴ・ロックのオイシイところを併せ持った良作だ。なかでも『CLOWN』はひねりの効いたメロディとプログレらしいドラマチックなアレンジが効いた充実作となっているので、ぜひ聴いていただきたい。
ここでは『CLOWN』のトップを飾った「Clessidra」を聴いていただきましょう。Clessidraとは水時計のこと。『CLOWN』のジャケットで王様とクラウンが鼻をつき合わせている部分が水時計のようになっている。昨今の不穏な国際情勢にもピッタリの曲調だと思います。
それでは、また世界のジャケ写からお会いしましょう。
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70年発表の1stアルバム。ブリティッシュ・ロックからの影響が感じられるオルガン・ロックを基調としながら、イタリアらしい歌心のあるメロディーとそれを最大限にドラマティックに響かせる構築的なアンサンブルが絶品。へヴィなリフによるハード・ロック・チューンからアコースティカルなリリカルなバラードまで、どの曲も根底に流れる歌心がたいへんイタリア的な名作。
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