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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第三十三回 ATLANTIS PHILHARMONIC『ATLANTIS PHILHARMONIC』(アメリカ)

今でこそワインを飲むことは特別なことでもなんでもなくなってきているが、1990年代中頃は、まだそれほどワインはポピュラーなものではなかった。ボジョレー・ヌーヴォーとかの話題性をきっかけに、少しずつ一般家庭に普及していったという印象を持っている。印象だけだから間違ってるかもしれないけれど。なんでそんなことを書いたかというと、僕がワインを飲むようになった1990年代中頃は、「ワインが好き」と言うだけで、やたら突っかかってくる人が多かった。

「ワイン好き」というと、セレブ気取りで、うんちくを並べたがって、鼻持ちならないというイメージ。まあ、そういう芸能人がいたこともあったけど、なぜかワイン=高級感という先入観が持たれていて、「ワイン好き」=「ええかっこしい」ととらえられた。僕が住む大阪は、とにかく「ええかっこしい」に対しては厳しい土壌なので、それもあってか、「ワインが好き」と言うだけでやたら攻撃的になる人がいた。「へー、ワインが好きなん?ワインの味がわかるんや。俺はわからんもんな。ブドウの品種とかもわかるん?肉料理には赤で、魚は白とか飲み分けてるんやろ?かっこええなー」と、こんな感じで言われる。このセリフ、字として見るとそこまで嫌味っぽくないが、あなたが思う3倍ぐらい嫌味な感じで言ってもらうと、ちょうどいい。「どんなお酒が好き?」と聞かれて、「ビールが好き」といっても、「へー、ビール好きなん?ビールの味がわかるんや。麦の品種とかわかるん?料理によってラガーとエールで飲み分けたりするんやろ?」なんてことは言われないのにね。「ワイン好き」ならワインにものすごく詳しいんやろなあ!と誤解してる人も多い。なんも知らんて。ただオイシイと思ってるから飲んでるって、それだけ。

いや、もうひとつワインを飲んでいる理由がある。それが、動物のワイン・ラベル収集という目的。僕が人生で最初に飲んだワインが、ドイツのシュバルツェ・カッツという白ワイン。そのラベルには黒猫がデザインされている。それが僕の収集癖に火をつけて、動物がデザインされたワイン・ラベルを約25年にわたり集め続けている。いつか「動物のワイン・ラベル集」って本を出したいんだけど、興味ある出版社さんいませんか?

一向に音楽の話に行かないが、ようやくここから。もとから動物好きということもあり、ワイン・ラベルだけでなく、動物が写っていたり、描かれているCDのジャケットにも惹かれる。そのなかでも最近ちょっと疑問に感じたのが、ジャケットにクマが描かれたATLANTIS PHILHARMONICの同名アルバムだった。

同作は、1974年にアメリカのダーマ・レコーズから発表されている。アメリカン・プログレ・ファンには少しは知られたアルバムで、はじめて再発CD化されたのは1990年。アメリカのザ・レーザーズ・エッジからで、日本でもマーキーから『幻の大陸を求めて』という邦題で発売されていた。2008年にはドイツのライオン・レコーズからデジパック仕様で再発CD化される。僕が手に入れたのがそれだった。2016年には、日本のベル・アンティークから4曲のライヴ・テイクをボーナス・トラックとして加えたものが再発されている。

さて、この『ATLANTIS PHILHARMONIC』だが、アメリカ産バンドらしからぬ、オルガンをメインとしたハード・ロック、プログレッシヴ・ロックをしていて、たまに引っぱり出して聴きたくなる。先日も何気なく手に取ったのだけど、ふとジャケットを見て、「あれ、これクマとちゃうかも?」と。

ジャケットに描かれている動物、僕は今までずっとクマだと思っていたのだけど、よく見るとおかしな造形をしている。黒目が縦長になってるが、これだとネコだよね?丸くクリっと見開いているのもクマらしくない。牙が生えてるけど、クマにしたら小さすぎる気がするし、なぜか前歯が抜けている。よく見ると左手が突き出ていて、向かって右側の天使の手を掴んでいるように見える。クマなのか?海中に没したという大陸アトランティスの伝説に基づいたバンド名だから、それに関係する生き物か?とも思ったけど、調べたら特に動物の話は関係なかった。よくよく考えると、アトランティスの伝説とも関係のないジャケットだということに気がついた。裏ジャケには一応大陸らしきものが描かれているけど、意図しているものは謎だ。イラストを手掛けたのはロリー・ボネットなる人物。ダーマ・レコーズのアルバムのいくつかでイラストを手掛けているが、どういう人物かの詳細は不明。

さて、このATLANTIS PHILHARMONIC、1971年にオハイオ州クリーブランドで結成された、キーボード奏者とドラマーのデュオという異色のユニットである。ジョー・ディファジオはクラシックの素養があるキーボード奏者で、ギターやベースなども操ることができる。ドラムはロイス・ギブソンで、結成当初はATLANTISと名乗っていた。1974年にATLANTIS PHILHARMONIC名義で同名作を発表。ジュネーヴ湖のキャッスル・スタジオ(Castle Studios Lake Geneva)で録音されたとクレジットがある。「ええっ、スイスのジュネーブ?!」とも思われて、実はジョー・ディファジオはスイス出身では?という噂もあったが、レイク・ジェニーバはウィスコンシン州の市の名前。

『ATLANTIS PHILHARMONIC』発表後にはサイケ・ロック・バンドのFREEPORTに在籍していたギターのロジャー・ルイスが加入。ライヴ活動もしていたようで、さらにセカンド・アルバム用の録音も完成させていたが、発売されることはなかった。その音源が、2008年にATLANTIS PHILHARMONIC Ⅱ名義の『GRAND MASTER』というタイトルで発掘リリースされている。1975年には後にリック・デリンジャー、パット・ベネターなどと活動するマイロン・グロムバチャーが加入するも、彼らの活動は長続きしなかったようだ。それ以降の二人の活動は知られていないが、どうやらジョー・ディファジオが開設しているらしいホームページに、関連音源をリリースしたい旨が紹介されている。いまだ実現していないようだけど。

『ATLANTIS PHILHARMONIC』のジャケットはスペーシーな印象があるけれど、アメリカのスペーシーなロック・バンドとしてイメージされるJOURNEY、BOSTONなどとは音楽性が大きく違っている。どちらかといえば、NICE、初期のDEEP PURPLE、URIAH HEEPなどと近いセンスだろうか。そう思うと、クマがガオーっていうジャケットの雰囲気は、音楽性にあってなくもない。いや、クマかどうかはわからないけど。ここではアルバムの1曲目を飾る「Atlantis」を聴いていただきましょう。

それでは、また世界のジャケ写からお会いしましょう。

Atlantis

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