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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第二十五回 KAIPA『SOLO』(スウェーデン)

新年度が始まってしまいましたね。次の元号も令和に決定して、なんだかフレッシュな気分……という方は多いんでしょうか? どうなんでしょうか? 四月になると「新生活スタート!」とか、「新しい自分と出会える!」なんてフレーズがCMなどでもバンバン飛び交うわけですが、「新生活も新しい自分もいねーよ!」と、思わず悪態つきたくなる人の割合って、全国民の何パーセントぐらいいるのでしょうか? かくいう僕もその一人でして、今年の初めぐらいから、ずーっと目がまわりそうなほど忙しくて、新生活とか新しい自分とか感じる余裕もなく毎日が過ぎていっている。

今年はゴールデンウィークが十連休もあるけれど、いつも通り仕事しなければいけない僕のような方も、全国民の何パーセントぐらいいるんでしょうか? 働き方改革もへったくれもない。ついさっきだけど、メガネのレンズが汚れていることに気がつき、メガネを外して、近くにあったティッシュでレンズを拭いて、拭き終わったティッシュではなくメガネをごみ箱に捨てるという行動に出てしまいました。だいぶお疲れです。

そういえば先日、二年前に体調を崩したけれど復帰後は頑張って仕事しているという知人に会ってきた。「やあ、元気そうやんか」というと、「ええ体はね。でもメンタルはボロボロです。職場が爆破されないかなって毎日思っています」と、笑えないトーンで話されてしまいました。「くれぐれも君が爆破しないようにね」とだけ伝えたけれど。みんなお疲れだなあ。

暗い前置きで申し訳ないが、四月になったというのにドンヨリした日々を過ごしている皆さんも多いのでは? そんな時でも心を癒してくれるのが音楽です。誰しも「あー、休みてーなー」という気分になることはあるかと思いますが、そんな時に思わず手に取ってしまうKAIPA『SOLO』を今回は紹介したい。

まずはジャケットを見てください。この淡いグリーンの色調! これだけで心がフワッと現実世界から離れていくような気がする。よく見ると、木立の間には五人の子供たちがいる。川の手前に立つ子供と、川の向こうにいる四人の子供。川の手前の子供は、荷物を下に置いて、川の向こうをじっと見ている。川の向こうにいるのは、もしかすると子供ではなく森の妖精たちだろうか? 川の手前の子供が森にやって来て、森の妖精たちと出会った場面なのかもしれない。

川の向こうにいる子供のうち一番右の子は、二本の木の根元に挟まるようにして寝ている。両足を投げ出して、やわらかな表情で「なーんにも難しいことはわかりませ~ん」といった感じだろうか。右から二人目の子は、木の根っこに足を引っかけて、頭を向こうに寝転がっている。こんな無邪気な寝方がありますか? 右から三人目の子供は、木の枝をベッド代わりにスヤスヤ。頭が下の位置にあるので、ちょっと苦しい体勢だけど、スースーといった寝息が聞こえてきそうなほど安らか。一番左にいる子供は、川に足を浸して、両手を頭の後ろで組んで、完全に脱力モード。ああ、なんと平和な光景だろう! どの子になりたいかなあと思って見ているだけで、ほんわかとした気分になってくる。この童話的な世界を表したジャケットの雰囲気が、そのまま『SOLO』という作品の内容ともキッチリ結びついていて、北欧叙情プログレの名作にふさわしいジャケットとなっている。

こう書いたらデビュー作のジャケットにも触れないわけにはいかない。プログレ・ファンなら有名ですが、このジャケットです。

真っ赤な全裸&禿げ頭のおっさんが、両手を広げて空中に浮かんでいるという……。いいように書けば「印象的な」「象徴的な」となるんだろうけど、僕にとっては「恐怖」でしかない。アナログ・サイズで見ると特に。音楽性もイメージできないしね。そうか、デビュー作だから、レコード会社から無理強いされたんだな、と思ったら、メンバーのロイネ・ストルト自らが手掛けたとクレジットされている。スウェーデンが世界に誇る叙情派ギタリストのロイネ・ストルト。だけど、どうにもお茶目なところがあるようだ。

最近でも、ロイネ・ストルトがPAIN OF SALVATIONのダニエル・ギルデンロウたちと結成したTHE SEA WITHIN『THE SEA WITHIN』(2018年)の内ジャケットで、顔の半分だけヒゲを剃った自分のアップ写真を掲載していた。このアルバム、表ジャケットのイラストが本当に美しくて、近年のロイネ・ストルト関連作の中でもお気に入りなのだが、ジャケットをめくった一ページ目が、ロイネのオフザケ写真で思わず笑ってしまう仕掛けになっている。

KAIPAに話を戻すと、彼らの二作目『INGET NYTT UNDER SOLEN』のジャケットには、宇宙服を着た二人組が月面作業者に乗っている写真が使われている。そんなにスペーシーなアルバムでもないんだけどなぁ。そこでようやく作品の質とジャケット・センスの一致をみたのが三作目の『SOLO』なのでした。

ではスウェーデンが誇る叙情派プログレの名バンドKAIPAについて簡単に紹介しておこう。KAIPAの中心人物となるのは、キーボード奏者のハンス・ルンディン。彼は1964年に五人編成のST MICHAEL SECTを結成。1965年発表の「Road Runner」から計三枚のシングルを発表する。1970年にはハンス・ルンディン、トーマス・エリクソン(b)、ギュンナー・ウェストベルグ(ds)というトリオ編成でSAN MICHAEL’S名義で同名アルバムを発表。セカンド・アルバム用の録音を行なうが未発に終わってしまう。こちらは後に『NATTAG』というタイトルでCD化されている。

1974年にはURA KAIPAと名乗り、シングル「For Sent」を発表。ドラムがインゲマール・ベルグマンに交代し、当時17歳だったギタリストのロイネ・ストルトが加入。1975年にデビュー作の『KAIPA』を発表する。1976年には、組曲を収録した『INGET NYTT UNDER SOLEN』を発表。ハンス・ルンディンは、本作を初期作の中で最高傑作としている。専任シンガーとしてマッツ・ロフグレンが加入。ベースがマッツ・リンドベリに交代して1978年に発表されたのが『SOLO』となる。

先に彼らの歴史をもう少しだけ紹介すると、ロイネ・ストルトが脱退してソロ活動を開始。KAIPAはメンバー・チェンジをして、1980年に『HANDER』、1982年に『NATTDJUSTID』と、時代性を反映させたポップな作品を発表するも解散してしまう。のちにハンス・ルンディンとロイネ・ストルトを中心に再結成して、2002年に『NOTES FROM THE PAST』を発表。以降もハンス・ルンディンを中心に活動を続けて優れた作品を発表している。ロイネ・ストルトは途中でKAIPAを離れているが、2016年にはインゲマール・ベルグマン、トーマス・エリクソンの元メンバーらとKAIPA DA CAPOを結成して『DARSKAPENS MONOTONI』を発表している。

『SOLO』はKAIPAが叙情派プログレを貫いていた初期三作の最後の作品ということになる。ロイネ・ストルトとハンス・ルンディンの曲を約半数ずつ収録。メロディアスなギターと温かみのあるシンフォニックなキーボードが、『SOLO』のジャケットにあるような童話的ファンタジーを掻き立てる楽曲を多数収録している。どこから聴き始めても、疲れた頭と体と心を癒してくれる柔らかな音色とメロディに出会える素敵な作品です。ぜひジャケットを眺めながら聴いていただきたい。ここでは、「Respektera Min Varld」をおススメしておきます。

それでは、また世界のジャケ写からお会いしましょう。

Respektera Min Varld

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  • KAIPA / ANGLING FEELINGS

    スウェーデン・プログレの黎明期を担った名グループ、オリジナル・キーボーディストHANS LUNDINを中心に強力メンツを揃えた07年作!

    オリジナルkey奏者Hans Lundinを中心に、MATS/MORGANのMorgan Agren(dr)、RITUALのPatrick Lundstrom(vo)など強力メンツによる07年作!

  • KAIPA / VITTJAR

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  • KAIPA / NATTDJURSTID

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    スウェーデンを代表する名グループ、82年リリースの5作目。打ち込みを大幅に導入した80年代然としたニューウェーブ/エレポップ・サウンドを展開。

  • KAIPA / SOMMARGRYNINGSLJUS

    ご存じ北欧シンフォニック・ロックを牽引する人気グループ、24年リリースの15thアルバム!

    名実ともに北欧のレジェンドと言えるシンフォニック・ロック・グループ、24年リリースの15thアルバム。女性ヴォーカルAleena Gibsonの物悲しい歌唱から幕を開け、北欧の雪原や雪深い森を映し出すような叙情的で粛々とした演奏が続く序盤から、悠然と立ち上がっていくKAIPAの世界観に惹きこまれます。Patrik Lundstromのヴォーカルも加わって、男女のヴォーカルがエモーション溢れる歌声を引き継ぐと、力強く躍動し始めるギターとシンセサイザー。この1〜2曲目にかけて徐々に熱くドラマティックに盛り上がっていく展開が言葉を喪う程に素晴らしい。この揺るぎなき音世界は彼らにしか見いだせない境地と言っていいでしょう。Hans Lundinの色彩溢れるキーボードも最高の、北欧シンフォ然としたファンタスティックで気品高い3曲目も絶品です。持ち前の圧倒的スケールと情景描写力が見事に発揮された、今作も傑作と呼ぶべき内容です。

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文・市川哲史

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