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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第十二回 RAINBOW THEATER『ARMADA』(オーストラリア)

特定の音楽ジャンルのファンに対するイメージというのがある。ロックンロール・ファンは陽気でパーティー好き、フォーク・ファンは素朴でまじめ、ヘヴィ・メタル・ファンは邪悪そう? 邪悪ってのとは違うか。でも派手なネーチャンが好きそうとかかな? ではプログレ・ファンはというと、良く言えば知的で物静か、悪く言えば理屈っぽい根暗というところだろうか。あくまでイメージだけど。

もうだいぶ前になるが、音楽好きの友達が、「オレはスポーツが好きなプログレ・ファンというのは、ちょっと信用でけへんな」と言い出した。「部屋にこもって、スピーカーの前に座って、緻密かつ精巧に作られた音楽をじっくり聴きこむインドア志向のプログレ・ファンが、一方では仲間とワイワイ言いながらスポーツで汗をかくなんておかしいやろ?!」と。スポーツ好きの僕としては納得がいかなかったんだけど、自分でするよりも見るほうが好きなので、インドア志向は正解かな。

それはさておき、スポーツ観戦ファンにとって、今年は冬季オリンピックにサッカーのワールド・カップと、楽しみが多い年となっている。特にワールド・カップは、今大会はしっかり観戦する予定。もう関連本も2冊買って各国の戦力分析を進めている……って、こういうことをするのがインドア志向やなぁ、やっぱり。

さて、そんなワールド・カップ出場国のひとつ、スペインのチームのことを、日本のマスコミはいつの頃からか「無敵艦隊」と呼んでいる。スペインは、2010年のワールド・カップ南アフリカ大会で優勝したが、その時も「無敵艦隊のスペインが優勝!」と、多くのメディアで書かれていたように思う。ところがそんな風に呼ぶのは日本だけらしい。

この「スペイン=無敵艦隊」という呼称がどこから来ているのかというと、時は1958年にまでさかのぼる。当時もろもろあってスペインとイングランドの関係が悪化。ついにスペイン王フェリペ2世がイングランド侵攻を決意。その時に編成させた艦隊のことを、のちにスパニッシュ・アルマダ(無敵艦隊)と呼んだ。でも結果的にはスペインの敗北で終わってしまう。だからスペインにとって「無敵艦隊」というのは、ありがたい呼称ではないらしい。でも「無敵艦隊」という響きがかっこいいのはわかる。言いたくなるもんね、「ムテキカンタイ!」って。

そんなことを考えていて頭に思い浮かんだのが、RAINBOW THEATER『ARMADA』のジャケット。スペインではなくオーストラリアのバンドのデビュー作。連想ゲームみたいな書き出しで申し訳ないが、今回は彼らを紹介したい。

というのも、このジャケット、パッと見た感じでは何を描いているのかよくわからない人も多いと思う。ただしタイトルの『ARMADA』を見ると、「これはスペインの無敵艦隊のことだな!」と、インドア志向の知的なプログレ&サッカー・ファン(?)は気づくわけだ。赤く見える船は、戦いや悪天候により海中に没したスペインのガレアス船を表している。船にくっついてツボのように見えるのは大砲だ。よく見ると、錨や操舵ハンドルも描かれている。あちこちを泳ぐ魚は、人間の顔を持ち、尾びれは人間の手になっている。海中に没した乗組員の亡霊か?

このイラストを手掛けたのは、George Browningという人物。RAINBOW THEATERの中心人物、Julian Browningの父である。オーストラリアでは著名な画家だという。同作に収録されたスパニッシュ・アルマダをテーマにした組曲「Armada」からインスピレーションを受けて描かれている。

オーストラリアのシンフォ系プログレ・バンド、RAINBOW THEATERが結成されたのは73年。メルボルン出身のJulian Browning(g,kbd)、Ferg McKinnon(b)、Graeme Carter(ds)のトリオで活動をスタートさせる。やがてMarty Rose(vo)、Steve NashとFrank Graham、Don Santinの3人の管楽器奏者、キーボードにMatthew Cozensが加わり大所帯のバンドとなった。

Julian Browningがオリジナルの曲作りを開始。彼の音楽的興味は幅広く、70年代初頭のブリティッシュ・ロック、ジャズ、ブルース、ストラヴィンスキーやワグナーなどのクラシック、そしてKING CRIMSONに影響を受けたという。特に手本にしたのはKING CRIMSONだったといい、是が非でもという思いでメロトロンを購入している。当時は高価な機材だけに、なかなか裕福な家庭だったのかもしれない。

Marty RoseがKeith Hobanに交代し、1975年にデビュー・アルバム『ARMADA』のレコーディングを開始。販売するレコード会社も決まらないままにレコーディングを進めたという。クリア・ライト・オブ・ジュピターというレーベルと契約を獲得して75年に『ARMADA』を発表。KING CRIMSONの初期のスタイル、メロトロンの導入、ジャズ・ロック、組曲形式、そしてクラシックからの影響をふんだんに盛り込んだプログレッシヴ・ロック作となった。同作からは「Petworth House / The Darkness Motive」がシングル・カットされている。この「Petworth House」はイギリスの画家、ターナーの同名作品からインスピレーションを受けて作られたというから、まあ知的ですよね。

RAINBOW THEATERは、『ARMADA』発表後にライヴ活動も行っているが、Julian Browningには、さらにクラシックの影響を強めたアルバムの構想があった。RAINBOW THETAERの基本メンバーに加え、ブラスやストリングス・メンバーを多数起用して、2作目『FANTASY OF HORSES』を76年に完成させる。同作のジャケットもJulianの父Georgeがイラストを手掛けている。

そのジャケットのプリントも完成していたが、クリア・ライト・オブ・ジュピターは、ジャケットのプリント代とレコードのプレス代が払えないと通告。レコーディング費用が嵩んだのではないかとも思うが、Julianはプリント代とプレス代を自腹で払ったというから、これはもうまちがいなく金持ちだ。しかし、そのゴタゴタのせいで、『FANTASY OF HORSES』の裏ジャケットにはクリア・ライト・オブ・ジュピターのレーベル・マークとレコード番号が入っているが、アナログ盤のディスク面はRTM(Rainbow Theater Music)というレーベル表記になっているという不思議な仕様となってしまう。

RAINBOW THEATERは、『FANTASY OF HORSES』発表後もライヴ等を行ったようだが、メンバーが流動的になるなど活動は順調に進まず、1977年初頭には解散してしまう。その後もJulian Browningはコンポーザーとして活躍しているようだ。

さて『ARMADA』である。プログレ・ファンの間では『FANTASY OF HORSES』の方が有名かもしれないが、この『ARMADA』もかなりの良作である。教会音楽を思わせる荘厳さ、KING CRIMSONからの影響を思わせるダークさやジャズのエッセンスを挟み込みながら、重厚なドラマ性を訴えかけてくる楽曲は、オ―ストラリアのプログレの中にあっても、かなり硬派なイメージがある。メロトロンのツボを心得た使い方も秀逸だ。そのなかでもKING CRIMSON「Devil’s Triangle」を思わせる「Armada」の出来が秀逸で、おどろおどろしい雰囲気のジャケットともぴったりのサウンドとなっている。じっくり練られた楽曲に、Julian Browningのプログレ気質がよく表れている。スポーツはしないような気がする。あくまでイメージだけど。

それでは、また世界のジャケ写からお会いしましょう。

Armada

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