2017年11月10日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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2017年のノーベル物理学賞には、世界で初めて重力波を観測することに貢献したアメリカ人研究者三名が選ばれた。重力波とは、質量の大きな天体が動いたりすると、時間や空間がゆがみ、それが波のように伝わるというもの。かの天才物理学者アインシュタインが理論上提唱したものだ。ただしアインシュタインは、その重力波が地球に到達するときには、あまりにも波が小さくなっているため、観測は出来ないだろうとしていた。ところが、先の三人の物理学者を含む研究チームが、2016年にブラックホールの合体によって生じた重力波の観測に成功。つい先日には、欧米の研究チームが中性子星の合体による重力波を観測し、これにより金やレアアースなどの金属が生成された謎にも迫れるのだという。重力波の観測成功によって、今後の宇宙研究が飛躍的に発展していくことは間違いなく、多くの宇宙ファンがワクワクしている。
と、カケレコWebマガジンらしからぬことを書いておいて、おおよその方がお気づきのように、何のことか全然わかっていません。頭の先から足の先まで文系なので、物理学とかはチンプンカンプン。時間や空間がゆがむって、どういうことだ? なんやこうグニャッとなるんかな……ぐらいの想像しかできない。それでも宇宙の話題は好きで、関連本を買ったり、TVの特集なんかもツイ見てしまう。理論はまったくといっていいほど理解できないんだけどね。
でも前回の城と同じく、宇宙に対するあこがれっていうのは、みんな多かれ少なかれあるんじゃないか、と。特に40~50代の人って、多感な頃に空前のSFブームを経験している世代で、これはISLAND『PICTURES』の回でも書いたけど、『宇宙戦艦ヤマト』『機動戦士ガンダム』『スター・ウォーズ』『未知との遭遇』『エイリアン』とか、SFものがまわりにバンバン溢れていた。そういう少年期の体験というのは心の中にしっかり残るもので、オッサンになった今でも宇宙へのロマンは持ち続けているわけです。
宇宙をテーマにしたアルバム・ジャケットは多い。プログレ系ではKING CRIMSON『ISLANDS』、YES『FRAGILE』をすぐに思いつくし、CAMELやVAN DER GRAAF GENERATOR、ELECTRIC LIGHT ORCHESTRAとかにも宇宙ジャケがある。へヴィ・メタル系の宇宙ジャケも多いけど、アニメ的で子供っぽかったりするし、ポップ・ロックとかテクノ系の宇宙ジャケは軽い印象がある。そこへいくと、思わせぶりなプログレの音楽は、宇宙の神秘とベストマッチなんじゃないかと。
そんな宇宙ジャケのプログレ作として今回オススメしたいのは、ギリシャのΑκρίταςが残した唯一のアルバム『Ακρίτας』だ。このΑκρίταςは…って、ええいギリシャ語がややこしい! なので、以降はAKRITASにさせてもらいます。
では、このAKRITAS『AKRITAS』のジャケットをまず見ていただきましょう。全面に宇宙空間が映し出されている。遠くに渦を巻く銀河があり、それを眺めるように子供(女の子?)が宇宙空間に漂っている。宇宙服を着ているわけでもなく、簡易な服装で。普通ならあり得ない光景だ。AKRITASという言葉には、辺境に住んでいる住人、辺境を開拓するものという意味があるらしい。もしかするとこれから地球という辺境の地に降り立とうとしている神の姿を表しているのかもしれない。宇宙空間に無防備な姿で浮かんでいる子供の姿は、AKRITASの音楽性とも合致して、聴き手のイマジネーションをどこまでも広げてくれる。クレジットが全部ギリシャ語で書かれているので、ジャケット担当者のことはよくわからない。フォトグラファーと思しき人のクレジットもあるけど素性はハッキリしない。
裏ジャケットにも宇宙空間が描かれている。アナログ盤で見ると、さぞ宇宙へのロマンを掻き立てられもしようが、僕が持っているのは1994年にギリシャのポリドールから再発されたCDで、CDをプレイヤーに入れると全1曲と表示されてスキップは許されないという代物だ。時間にして33分の組曲だから、わりとスルッと軽く聴けてしまう。アルバムとしての時間は短いが、それだけに彼らが表現したかった世界観が濃縮されたという印象を受ける。
AKRITASの中心人物であるStavros Logaridisは、ベース、ギター、ヴォーカルを担当している。彼はAKRITAS以前に、Kostas Tournas、Robert Williamsの二人とPOLLというバンドで2枚のアルバムを発表している。POLLの2作はドリーミーなサイケ・テイストやフォーク・テイストのあるロック作で、初期のAPHRODITE’S CHILDにも通じる良作。そのPOLLを離れてStavros LogaridisがAKRITASを結成したのは1972年。同年には、APHRODITES CHILDが『666』をリリースしている。この年がギリシャ・ロック・シーンのプログレ爆発期といえるかもしれない。
Stavros Logaridisは、BOURBOULIAというバンドのキーボード奏者Aris Tasoulis、ドラムのGiorgos Tsoupakisとのトリオ編成でAKRITASを結成し、コンセプト作となる同名タイトル作をレコーディングする。作詞にはAPHRODITES CHILD『666』にも関わっていたKostas Ferrisが参加しているが、ギリシャ語なので詳しい内容はわからない。Stavros LogaridisはVangelisとも近しい関係にあったようだ。Stavros Logaridesがソロとなって80年に発表した『SE ALLI GI』では、VangelisがRichard Broadbakerの変名でHUMANITY名義のシングルにて発表した「Bird Of Love」を、「Na M’aqapas」のタイトルでカヴァーしている。
さて72年にポリドールから発表された『AKRITAS』だが、オープニングから変なアドレナリンを注入されたEL&Pみたいな演奏が炸裂。突然何かが憑依したみたいなハイトーンで歌われたり、POLLとは比べられないほど目まぐるしい展開が登場しては消えていく。まさにAPHRODITES CHILD『666』に匹敵するアバンギャルドさもあるが、18分以降はクラシカルかつドラマチックな展開で聴かせてくれる。スペーシーなシンセを伴ってエンディングを迎えると、ジャケットに写る子供のように、宇宙空間に放り出されてしまったような、どこかふわふわとした後味が残る。おそらくすぐにはアルバムの魅力が理解できない。でもだからこそもう一度聴いてみるかという気にさせてくれる。それも宇宙への興味と同じといえるかも。さて、これだけ気合の入ったアルバムを生み出したAKRITASだが、実はアルバム未収録シングル曲も発表されていたようで、後の再発CDにはボーナス・トラックとして収録されている。
『AKRITAS』は、ギリシャ国内での評価は低くなかったようだ、本国で3位のヒットになったなどという情報もあるが、本作を最後に解散してしまう。Stavros Logaridesはソロに転向してポップ・ロック・アーティストとして活躍。Giorgos Tsoupakisもスタジオ・ミュージシャンとして、数多くのギリシャのアーティストの作品に参加していく。残念ながらAris Tasoulisの活動については、あまり知られていない。
それでは、また世界のジャケ写からお会いしましょう。
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ギリシアを代表する名作、73年の唯一作。バロック調のオルガン、端正なタッチのクラシカルなピアノ、アグレッシヴなキーボード、エッジの立ったエキセントリックなギター、手数多くアグレッシヴに疾走するドラム、静と動のパートの鮮やかな対比。これぞまさにプログレ。イタリアン・ロックを想わせる、性急さと畳み掛けるようなテンションも魅力。曲間なく全体がつながったコンセプト作で、静と動を自在に操る演奏力と、30分以上を一気に聴かせる構成力も見事です。
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