2019年11月8日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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それはもう20年ほど前のことになるけれど、大阪の梅田にある阪神百貨店に、クリスチャン向けのグッズ専門店があった。たしか本屋と同じフロアにあったはず。僕自身はクリスチャンでも何でもないんだけど、本屋に行ったついでに立ち寄ることがあった。店員さんがシスターの格好をしているのも、なんか独特の雰囲気があったし。あれは本物のシスターだったのかな?たいていは年配のシスターさんだったが、ある日、僕が本屋のついでにそのショップをのぞいてみると、若く美しいシスターさんが店番をしていた。背筋がスッと伸び、凛としたたたずまいのシスターさん。僕は吸い寄せられるように店内へ。いつもは冷やかしだけなんだけど、そのシスターさんと少しでもお近づきになりたくて、十字架のペンダント・トップを買うことにした。片面に「JESUS MARY AND JOSEPH,PRAY FOR US」、もうひとつの面に「SAINT CHRISTOPHER PROTECT US」と書いてあって、イエス・キリストとかの像も描かれている。確か数百円だったはず。
そのペンダント・トップをレジに持っていき、「お守りにしようと思って」と言うと、「大丈夫です。自分の信じた道をまっすぐに歩いていれば、必ず未来は開けます」というようなことをシスターさんが言ってくれた。当時はライターとしての仕事を始めたばかり、生活も不安定だったのが、それ以降にライターとしての仕事も少しずつ増え、結婚もし、子どもも生まれるなど未来が開けることに。あのペンダント・トップのおかげかどうかはわからないけど。あのシスターさんにまた会いたいなという思いはあったが、その後阪神百貨店に行く機会がなく、また阪神百貨店の改装工事とかの影響もあってか、いつの間にかそのショップはなくなってしまっていた。
それ、どんなシスターやったん?と聞かれたら、こんな感じとお伝えしたいのが、FAITHFUL BREATH『FADING BEAUTY』のジャケットだ。教会の中だろうか、修道女と思しき女性が、十字架を前にして立っている。右手を柔らかに胸へと当て、左手は下にスラっと伸ばしている。光る十字架が女性の体を照らしていて、女性は神の存在を感じたのか、見上げる表情が実に凛として美しい。ジャケット・デザインとしてクレジットされているBodgan Kopecは、本作のプロデューサーも務めている人物。彼がこの絵を描いたわけではなく、全体のデザインを担当したということだろう。元になる絵が何かあるのかも知れないが、清廉という言葉がピッタリくる女性が描かれている。この『FADING BEAUTY』のジャケットには色違いで2パターンがある。1974年発表のファースト・プレスは茶色の色調で印刷されている。ところがセカンド・プレス以降は青色の色調で印刷されている。日本で『失われた輝き』というタイトルでアナログ発売された時は、セカンド・プレスの青い色調によるデザインだった。その後の海外でのCD再発ではファースト・プレスの茶色い色調のジャケットが使われている。
茶と青の色調が違うだけで、ずいぶん異なる印象を受けるが、いやFAITHFUL BREATHにとって、これぐらいのイメージチェンジはかわいいものなのだ!ここでFAITHFUL BREATHの歴史を紹介したい。
FAITHFUL BREATHの母体となるバンドMAGIC POWERは、1967年にドイツの都市ボーフムで結成された。中心となったのはギター兼ヴォーカルのHeinz MikusとベースのHorst Stabenowの二人。他にReinhold ImmigとWalter Scheuerという二人のギタリスト、ドラムにJurgen Fischerという5人編成だった。以降はメンバーが流動的で、Ulrich Bockという管弦奏者も参加していたことがあるらしい。音楽的にはビート・バンドからスタートして、やがてプログレッシヴな方向性にシフトしていく。特にMAMA WERWOLLというバンドで活動していたキーボード奏者Manfred von Buttlarが加入後、シンフォニックなプログレ・バンドとしての音楽性を確立。バンド名をFAITHFUL BREATHと改名して活動を続けた。
1974年に自主制作で『FADING BEAUTY』を発表。これが先ほど紹介したジャケットのアルバムで、神聖な雰囲気もする大作を収録。本作録音時のメンバーは、Heinz Mikus(g)、Horst Stabenow(b)、Manfred von Buttlar(kbd)、Jurgen Weritz(ds)の四人。同作はそこそこ話題になったようで、セカンド・プレスもされることに。
メジャー・レーベルとの契約が決まらず、再びライヴ中心の活動を続けていた彼らは、1970年代が終わろうとしていたころ、スカイ・レコーズとの契約を獲得した。前作から6年というインターバルを経た1980年に2作目『BACK ON MY HILL』を発表する。同作では、シンガーにJurgen Renfordtを迎えた五人編成になっている。前作のリリカルさは残っているし、何よりメロトロンの響きも美しい。ラストには約17分の大作「Judgement Day」を収録し、前作よりも洗練された演奏やアレンジ、音作りが楽しめる。ジャケットも『FADING BEAUTY』の神々しさをキープしている。
ところが、1980年に発表された3作目『ROCK LIONS』のジャケットがこれ。ヴァ、ヴァイキング?なぜ?!彼らはライヴでもこのヴィジュアルで活動をすることになる。音楽的にもハード・ロック、ハード・ブギ中心の作風に。本作では、Heinz Mikus、Horst Stabenow、ドラムのUwe Ottoのトリオ編成で、キーボードのManfred von Buttlar、シンガーのJurgen Renfordtは脱退している。ヴァイキング路線が嫌だったのかも? 1983年に発表した4作目『HARD BREATH』では、ヴァイキング姿のHeinz Mikusがジャケットを飾っていた。
ドラムがJurgen Dusterlohに交代。ギターにAndi Bubi Honigが加入したツイン・ギター編成になり、1984年に『GOLD ‘N’ GLORY』を発表する。このジャケットが、もう思わず笑ってしまうイラストで……。
ここでオリジナル・メンバーのHorst Stabenowが脱退してしまう。Heinz Mikus中心にバンドを立て直し、Thilo Hermann(g)、Peter Dell(b)、Jurgen Dusterloh(ds)というメンバーで『SKOL』(1985年)、1986年に『LIVE』を発表。と、ここまでがヴァイキングのイメージ戦略を前面に出していた時期である。B級ハード・ロック好きには気に入ってもらえる内容だと思うが、日本盤でCD再発されないかなぁ?
ドイツではそこそこの人気を得ていたFAITHFUL BREATHだが、ほぼ同じメンバーでRISKと改名。1988年に『THE DAILY HORROW NEWS』を発表して再デビューする。動物が描かれたコミカルなジャケットで、思わずジャングル・ブックか?!とツッコミたくもなる。音楽的にはスラッシュ・メタルに転身。より硬派になったはずが、RISKの初期数作では、かわいいアニマル・キャラクターがジャケットに描かれている。それを貫き通したらいいんだけど、それができないのが彼らで、1992年の『THE REBORN』では、針山の上で座禅を組むミイラになった修行僧?という怖いジャケットに突然すぎるイメージチェンジ。
美しい修道女からミイラの修行僧へ、プログレからスラッシュ・メタルへと、ジャケットも音楽的変遷も紆余曲折ありまくりのFAITHFUL BREATHだが、やはりデビュー作『FADING BEAUTY』のジャケットの清潔感&清らかさは特別で、見る者の印象に深く残るものとなっている。叙情性豊かなインスト主体の作風で、雰囲気を重視しすぎるところもあるけれど、ジャケットのヴィジュアル効果が音楽にも抜群に発揮された一枚になっている。アナログA面には「Autumn Fantasia」と題された2部構成の組曲。アナログB面には「Tharsis」1曲を収録。ひたっているだけでうっとりする良作です。
それでは、また世界のジャケ写からお会いしましょう。
Autumn Fantasia
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