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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第二十九回 ASGARD『TRADITION & RENOUVEAU』(フランス)

友だちから熱中症で倒れたという連絡があった。心配していたら、数日後には「もう復活したよ」とビールの画像が送られてきた。大したことがなくてよかったけれど、今年の暑さも、まさに災害級といえるもの。みなさまいかがおすごしでしょうか?

「大丈夫、俺、暑さには強いからさ」などと、根拠もなく体力に自信のある僕のような中年のおっさんほど熱中症になりやすいらしい。体力があったのは10代、20代の話でね。鏡を見たら白髪交じりの頭、たるんだ下腹部の自分に、20代の頃のような体力があるはずない。でも自分ではわからないんだよな。若かりし頃の自分のままなんだよ、頭の中は。

かくいう僕も、実は先日軽く熱中症になった。その日は朝から猛烈に暑い日だったんだけど、なかなか水分をとる機会がなく、夕方には「ノドが渇いたなあ……」という状態に。しかし、「ノドがカラカラなほどキンキンに冷えたハイボールがオイシイんじゃないか?」というアホな発想が勝ってしまい、ほぼ水分をとらぬまま帰宅。まずはシャワーを浴びて汗を流し、キンキンに冷えたハイボールを呑んで、ノドの渇きを潤した……気分になっていたんだけど、アルコールでは水分補給にならないらしい。むしろその逆で、アルコールは利尿&発汗作用を強めるため脱水状態になりやすいらしい。しかもその前にシャワーを浴びているので、体が完全にカラカラの状態でアルコール摂取。寝るまでは良かったけれど、深夜に頭が割れるように痛くなった。頭痛薬を求めて動こうとするが、手足がジンジンしびれてまともに動かせない。これが脱水症状か?!熱中症か?!とパニックになった次第です。まあ、もう復活して呑んでますけど。

脱水症状はコワイ!ということで、息子にもお茶をこまめに飲むよう注意している。ところが、この親にしてこの子ありというやつか、「大丈夫、平気、平気」と、帽子もかぶらず友だちと遊びに。帰ってきたら、「なんか頭が痛い……」と。「それ、お父ちゃんもなったんや!脱水症状やぞ!」というと、「ちがうで、脱水少年や!」だって。脱水症状を脱水少女と思ったのね。と、そんな小ネタもはさんでみました。

だからどうしたと言われそうだが、そんな命の危険に関わる酷暑だからこそ、気分だけでも涼しげに過ごしたい。ということで、今回はフランスのASGARD『TRADITION & RENOUVEAU』のジャケットを紹介したいと思います。

まず薄もやのかかった木立が涼しげじゃないですか? インサートに掲載された別ショットを見ればよくわかるが、木立の向こうには川が流れている。赤い布にくるまっているのがASGARDのメンバーで、サングラスのメンバーの首には白いベールが巻かれ、それが川のように画面の手前に向かって伸びている。メンバーの側には、白い布に身を包み、川の彼方を眺める女性が立ちすくんでいる。女性の向こうにはヒゲ面の男性がしゃがみこんでいる。その二人に背を向けて、頭から黒い布を垂らす人物が座り込んでいるのも見える。どこか死後の世界のような、そこと現世との境目にあるような、とてつもない異世界感が漂っている。


この異世界感は、ブリティッシュ・ロックのジャケットで有名なキーフを思わせる。寒々とした空気感、白く広がる布の神聖なイメージが、画面全体を清らかかつ涼しげ、そしてどこか物寂しい雰囲気で包み込んでいる。このジャケットはイヴ・ペドロンという写真家によるもの。彼のホームページを見ると、白いベールを効果的に使った写真をいくつか手がけていることがわかった。

ASGARD『TRADITION & RENOUVEAU』は、78年発表のセカンド・アルバムで、大手ワーナーブラザーズから発売されている。ユーロ・プログレ・ファンの間では有名な作品で、このジャケットを見たことがあるという人も多いに違いない。しかし、大手から発売されていることがかえって権利関係をややこしくして再発されにくい、というパターン。初めて本作が再発CD化されたのは2001年のこと。韓国のM2Uレーベルから1500枚限定で再発された。これが日本でマーキーから国内配給されることに。それからしばらく再発がなかったのが、2015年にはヨーロッパの小国リヒテンシュタインのハイフライ・サウンド・アンスタルトというレーベルから再発CD化されている。

僕が持っているのはM2U/マーキーからの再発CDで、ちなみに番号は745番。同封された輸入盤ブックレットにはバンドのヒストリーが詳細に書かれている……ようだけど読めない、ハングル語だから。

ASGARDという名前のバンドは多い。特にヘヴィ・メタル系のバンドにやたら多い。そのおかげで、アマゾンではASGARD『TRADITION & RENOUVEAU』がヘヴィ・メタルのジャンルに入れられている。ASGARD=アスガルドというのは、北欧神話に出てくる神々のアース神族が住んでいる場所のことを指す。人間が住むのはミッドガルド。この辺の話は確かにメタル・ファンが好きそうですね。

ここに紹介するASGARDは、フランスのノルマンディー地方、カーンで結成されたプログレッシヴ・フォーク・グループ。その活動のはじまりは、1974年にPatrick GrandpierronとBernard Darschの二人で始めたフォーク・デュオのANDON TREGERNだった。そこにWilliam Lawdayが加入。トリオ編成になったところでASGARDと改名した。

1976年にはワーナーブラザーズと契約を獲得。デビュー・アルバム『L’HIRONDELLE』を発表する。同作にはキーボードでGuy Printempsがゲスト参加している。トラディショナル曲とオリジナル曲を収録していて、エレクトリック&ロック色はそれほど強くないが、トラッド・ミュージックの叙情性やメロディの魅力が光る良作に仕上がっている。同作からは「Sur L’I Sur L’o」がシングル・カットもされている。こちらもなかなか再発CD化がされない作品となっている。

ASGARDには新たにJacques Jourdan(b)が加入し、ライヴも精力的に行なったそうだが、1978年に2作目となる『TRADITION & RENOUVEAU』を発表するころには、Patrick Grandpierron以外のメンバーを大幅に一新。彼に加えて、Daniel Mantovani(g)、Dominique Urruty(b)、Dominique Labarre(ds)という四人編成で、ドラムにゲストとしてUmberto Pagniniが参加している。アナログA面に当たる1~6曲目はトラッドのアレンジ曲とJean Humenryのカヴァー曲で、7~10曲目がオリジナル・ナンバー。前作のスタイルを踏襲する音楽性だが、前作よりもアレンジが凝ったものになり、プログレッシヴ・フォークといえる音楽性になっている。くれぐれもヘヴィ・メタルではない。バンドは1980年代に差し掛かるころに解散したようだ。

『TRADITION & RENOUVEAU』の涼しげで、どこか物悲しさも漂うジャケットは、一度見たら忘れられないほどのインパクトがある。そのイメージは、そっくりそのまま本作の内容にも通じている。ここではアルバムの冒頭に収録された「Le Braconnier」を聴いていただきたいと思います。思わず「あっつー」と言いたくなる夏の夜にぴったりの一曲です。
それでは、また世界のジャケ写からお会いしましょう。

Le Braconnier

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