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「音楽歳時記」 第四十三回 8月2日 パンツの日 文・深民淳

みなさま、暑中お見舞い申し上げます。えらいことになってますね、この夏は・・・。7月に入ってからというもの、出社するだけでダメージ受け、もう木曜日あたりになると、完全に電池切れのような状態となり、熱中症寸前の状態が続いております。7月は毎年の楽しみであるツール・ド・フランスが開催されており、この原稿を書いている時点ではアルプス山岳ステージ3連戦が始まり、いよいよツールも佳境。この原稿はアルプス2ステージ目を観ながら書いていましたが、この日はここ数年、総合成績でぶっちぎりの強さを見せているイギリスのチーム、SKYのゲラント・トーマス、昨年のチャンピオン、クリス・フルームがゴール前で驚異的なスパートを見せ1位3位に入った場面を見ながら書いています。山岳が始まるとSKYは本当に強いなぁ、と。

さて、8月2日はパンツの日だそうです。奈良の下着メーカー、磯貝布帛工業(イソカイ)が自社製品「シルビー802」にちなみ制定。大阪のオグランも8(パン)2(ツ)の語呂合わせからこの日をパンツの日としたそうです。勝手に制定記念日の最たるものですね。

学生は夏休みの時期、それでパンツといえばやはり、ALICE COOPER(まだこの時期はバンドだったので英語表記です)の『School’s Out』がまず頭に浮かびます。フランク・ザッパのレーベルStraightからデビュー。初期は後のストーナー系サウンドにも通じるサイケデリック通過型のヘヴィなロック・サウンドを叩き出すバンドでしたが、演劇性のあるステージが話題となり、サウンドも次第にアメリカン・ハード・ロックの王道を往くものに変化し、1971年にその後もアリス・クーパーの最初の全盛期を演出するボブ・エズリンをプロデューサーに迎えたアルバム『Killer』とそこからシングル・カットされた「Under My Wheels(俺の回転花火)」、「Be My Lover」がスマッシュ・ヒットなり一気にスターダムにのし上がります。このアルバムのオリジナル盤についていたアリス・クーパー・カレンダーがファンに受け、レコードにおまけをつけるというのがお約束になった第2弾が『School’s Out』でした。

ワーナーが以前発売したSHM-CD紙ジャケットでこのオリジナル・ジャケットは忠実にミニチュア化されましたが、10CCの前身とも言えるHotlegsの『Thinks: School Stinks』(1970年)のアートワークに着想を得た、変形見開きゲートフォールドは当時のアメリカでポピュラーだった机の天板が持ち上がり、下が物入れになった学校の机を模したもので、アーティスト表記やタイトルは机にナイフで刻み込んだ風の処理がなされた凝った作り。その天板担っている部分を持ち上げると下の物入れにロクでもないものがいっぱい入った写真が見え、ジャケット裏の切り込みを折り曲げると机の脚となり、アメリカの悪ガキの学校机のミニチュアが出来上がるという仕掛けになっていました。さらに凄いのは、天板部分と物入れの間に挟まれ収納されたレコード本体が紙製の女性用パンティで包まれていたことでした。基本このパンティ、白がほとんどだったようですが、他にも薄いピンクと青があったという噂があります。実際、ピンクは見たことがある(それが本当にオリジナルの紙パンティだったかは不明)のですが、青はこれまで一度も見たことがありません。このパンティ付きLP、アメリカ初回盤は当然のこと、日本、ヨーロッパでも忠実に再現され、世界中のティーンエイジャーのリビドーを激しく刺激したことはいうまでもありません。

アートワークも衝撃でしたが、内容も発売から50年近く経とうとしている現在でもアリス・クーパーの代表作とされるだけあり、作品としても非常に充実しています。ボブ・エズリンのアイデアで「学校なんて永遠に休み!」というほとんど世の中に喧嘩を売っているようなコーラス部分を子供たちに歌わせる、PTA噴飯もののタイトル曲はあまりにも有名ですが、このアルバム、アリス・クーパー流ミニ・ミュージカルがフィーチュアされており、それが良くできているんだ。当時、アルコール依存の反社会的ロック・スターのイメージが定着していた彼ですが、実際アルコール依存度は高かったものの、反社会的キャラクターはマーケットのコア・ターゲットであるティーエイジャーのニーズをクレバーに読み取り、そこにどう発信すれば受け入れられ、逆にその対岸にいる見識者から顰蹙を買えるかを見据えてのものだったのです。

実際のアリス・クーパーはアメリカのエンタテインメント全般に造詣が深く、映画、テレビ、ミュージカル等に深い見識を持っていたアーティストでした。
その彼が『School’s Out』に持ち込んだのがブロードウェイ・ミュージカルから映画となり世界中で大ヒットとなった『ウエストサイドストーリー』。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』に着想し舞台をNYに移し、ポーランド系とプエルトリコ系の非行少年グループの抗争を描いた物語で音楽をレナード・バーンスタインが担当。映画化は1961年のことでした。

ミニ・ミュージカル部分は3曲目「Gutter Cat VS. The Jets」とそれに繋がる4曲目「Street Fight」。唸りを上げるベースのイントロからスタートするハード・ロック・チューン3は途中にレナード・バーンスタイン作曲の『ウエストサイドストーリー』挿入曲のメロディラインをブリッジとして後半ミュージカル風の盛り上げを経て、ミュージカルで言えばグループ間の乱闘シーンの群舞にあたる4へ展開していきます。『ウエストサイドストーリー』由来のナンバーはこの2曲なのですが、続く「Blue Turk」のダークでジャジィな雰囲気や後半8曲目に置かれたドラムのニール・スミス作、「School’s Out」とは対極に位置するティーンエイジ・バラード「Alma Mater」、そしてラストに置かれ、ブラス・セクション、ストリングスが活躍、最後に再び「Gutter Cat VS. The Jets」のメロディが繰り返されるシンフォニックなエピローグ「Grande Finale」が登場するに至ってこのアルバム全体がティーンエイジャーの夏の体験を描いたロック・ミュージカルだったことがわかる仕掛けになっています。

Gutter Cat VS. The Jets

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元々、演劇性の強いライヴ・パフォーマンスが人気だったアーティストですが、そのパブリックイメージを完全に定着させたのがこの『School’s Out』で、バンドとしてのAlice Cooper解散後、ソロに転じた最初のアルバム『Welcome To The My Nightmare』で再びこの手法を使い大きな成功を収めます。

パンツつながりで久々に聴いた『School’s Out』、かなりインパクト強かったですね。アリス・クーパーも凄いのですが、ボブ・エズリン、『School’s Out』聴いていて気になり始めました。ちょっとまとめ聴きしてみようかなと思います。

それにしても、パンツは大事だよねぇ。勝新太郎さんの例を挙げるまでもなく、パンツはセンセーショナル。もう還暦超えたジジィではありますが、パンツはどこか刺激的でありますね。その刺激的って話で行けば、これが頭に浮かびます。The Winkiesが1975年クリサリスからリリースした『The Winkies』。ヒプノシスがアートワークを担当した海パン野郎衆下半身激写風が印象的なアルバムです。夏にもぴったりの一枚ですね(どこが)。

話飛ばしますが、ヒプノシスって結構、股間もの結構あるよねぇ。男性の股間で言えばWishbone Ashの『There’s The Rub』(1974年)白いズボンの股間にクリケットの玉をこすった赤い跡。間接的に射精をイメージさせますし、女性ものだとMontrose『Jump On It』(1976年)、East Of Eden『New Leaf』(1971年)、Flash『Flash』(1972年)など、次々に浮かんできます。

この『The Winkies』もそんな中の一枚なのですが、ジャケットは結構有名ですが、内容は知らんという人が多いかと思います。パブ・ロックとかのくくりで紹介されることが多い作品で、中心人物はカナダ、モントリオール出身のフィリップ・ランボウ。The Winkies解散後はソロに転じ、’70年代末から’80年代頭にかけソロ・アルバムを発表します。そのサウンドはThe Rolling StonesやSmall Facesの小気味良いストレート・アヘッドのロックン・ロールの流れを汲み、グラム・ロックを通過してきた英国マーケットの流れに合わせたタイトなサウンド。ちょっと埃っぽくって斜に構えたアダっぽさは同じ頃出てきたNo Diceなどと並ぶ’70年代半ばのB級ロックン・ロールの楽しさを今に伝えてくれる逸品だと思います。海パンThe Winkies、おネェさんの背負い投げが見事に決まったNo Dice共にCD化済み。確かどちらも韓国産の紙ジャケットにもなっていたかと思います。

このThe Winkiesが知られるきっかけとなったのが、ブライアン・イーノとの関係です。1974年にソロ・アルバム『Here Comes The Warm Jets』を発表したイーノは直後に唯一の英国ソロ・ツアーを行ったのですが、このツアーのバックバンドに抜擢されたのがThe Winkiesでした。自分たちのアルバムではタイトな小型Stonesといったサウンドを叩き出していたThe Winkiesとイーノの組み合わせというのは今ひとつピンときませんが、プログレ+アヴァンギャルドmeetsヘタウマみたいな奇天烈サウンドが魅力だった『Here Comes The Warm Jets』だけに結構いい組み合わせだったのかもしれませんね。フィリップ・ランボウのソロがCD化されているかどうかは分かりませんが、1979年に英EMIから発表された『Shooting Gallery』は彼が影響を受けたであろう、ボブ・ディランやブルース・スプリングスティーンの影が見て取れる硬派な歌ものロックで、これも同時期に話題になっていたガーランド・ジェフリーズなどと共によく聴いたことを思い出しました。

Trust In Dick/Long Song Comin’

試聴 Click!

さて、先月でしたか怪談本好きという話を書きましたが、先日書店で凄い本を見つけたので紹介させてもらいます。

「日本現代怪異事典」朝里 樹・著という本で、戦後から現代に至る日本を舞台に語られた怪異を2000種以上集めた労作です。こっくりさん、カシマさん、口裂け女、トイレの花子さん、テケテケ、クネクネなど懐かしさを感じる昭和の時代の怪異から2000年代になって登場した怪異まで、とてつもないヴォリュームを網羅した労作です。音楽関係だと学校の七不思議の定番である、真夜中に鳴るピアノやベートーベンの怪なんかがありますが、この本に収録されたベートーベンの怪の項の中にあったヴァリエーションで真夜中にベートーベンとシューベルトの肖像画が口喧嘩をするという話には笑いました。夜中に読んでいたので大声で笑い出したらそれこそ家庭内怪異になっちゃいますから、忍笑いだったのですが、よく考えたらそっちのほうが側で見ていたらよっぽど気持ち悪い。それこそ怪異です。

索引まで入れると総ページ数500というヴォリュームのある本なのですが、先に挙げた懐かしい怪異・都市伝説のヴァリエーションが数多く掲載されていることに感銘を受けました。よくここまで纏めたなぁ、と読んでいて頭が下がります。と、同時に当時の子供達が想像力を働かせ生みだした数々のヴァリエーションを読みながら、子供が考え出すことって本当に凄いなぁと感心しましたね。さて、ここではこの本でも紹介されており、誰もが知っている「真ん中の怪」を取り上げたいと思います。よくご存知の話かと思います。3人で写真撮ると真ん中の人が早死にするという、あれです。「日本現代怪異事典」によればこの都市伝説のオリジンは明治時代に遡るそうです(まぁ、江戸時代なわけはないでしょうね、写真だし)。終戦直後の1947年に文部省の迷信調査協議会が全国を対象に行った調査では「3人で写真を撮ると真ん中の者が死ぬ」という話が迷信として全国に伝わっていたという結果出ていたそうです。

今更、この迷信を信じている人はほとんどいないでしょうし、いや、本当にそうだったんだよ、と言われてもそれは結果論でしかないかと・・・。

トリオのバンドというと僕は年寄りなんですぐにCreamが頭に浮かんでしまいます。というわけでCreamのアルバム中、メンバーの写真が使われているものの中で故ジャック・ブルースが真ん中にいるものはあるのか、調べてみました。Creamのオリジナル・アルバムでバンドが解散するまでに出た作品中、メンバーの写真が使われていたのはデビュー作『Fresh Cream』、2nd『Disraeli Gears』、そしてこれをバンド在籍時の作品とするかは微妙なのですが、『Goodbye』の3枚。ご覧いただければ分かるように『Goodbye』以外はブルースが真ん中に写っています。解散後に出た作品も見ていくと、『Live Cream』はブルースが真ん中、『Live Cream Vol.2』は正面から写したライヴ写真なのでジンジャー・ベイカーがセンター。ずっと後になり2003年に出た『BBC Sessions』に使われた写真はブルースが真ん中。その写真をモチーフとした再結成ライヴ・アルバム『Live At Royal Albert Hall』も結果は当然同じとなります。ジャック・ブルースがセンターに来ることが多かったのは単純に身長の関係だったと思います。Creamの3人の中ではブルースが最も身長が低く、横並びの写真を撮る時には彼を真ん中に置いた構図がバランスが良い。それだけだったと思いますね。Cream活動中発表作で唯一の例外である『Goodbye』にもちゃんと法則があって、左からブルース、エリック・クラプトン、ジンジャー・ベイカーの順になっているのは左から背の低い順に並べたのが分かります。ま、後付けの迷信の最たるものですね。まったくしょうもない話でした。

さて、今月の1枚ですが、完全に夏バテ・モードです。何も聴く気が起きません。セミがうるさいです。カケレコ事務所の庭にはヘビが出現したそうですが、あんまり暑いせいかうちのほうはボンゾくんと散歩に行ってもこの夏はヘビも出ません。そういうわけで、何も聴く気力のないときのための一発!今月はジョン・ケージ「4分33秒」を挙げておきます。YouTubeのリンクもつけておきましょう! 

https://www.youtube.com/watch?v=LSvaOcaUQ3Y

「4分33秒」はYouTube上にもいくつも上がっていますが、これは最高音質をうたっています! 44.1kHz/24bit。素晴らしい! パーフェクトなノイズレス!ではまた。


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