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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第八十七回:MOBY DICK『MOBY DICK』

『老後に楽しみをとっておくバカ』という本が話題になっているそうだ。50代の人に刺さる内容とのこと。未読だけどタイトルには心から同意する。仮に65歳まで仕事をしたとしよう。それで、そこからやりたいことを満足にできるかというと、まず体力、そして気力が残っているかというと、ちょっと自信がない。かといって、50代になった今、やりたいことができるかというと、まず先立つものがないわな。それに子育ても終わってないことを思えば、老後に楽しみをとっておくしかないではないか。そのあたりのクリアの仕方が同書に載っているのかしら? だったら買おうかな。

とりあえず、手元にあったA4の白い紙に、やりたいことをバーッと書き出していく。バケットリストというやつ。バケットリストに関しては、以前にも当コラムで書いたように思うけど、死ぬまでにやりたいことをリスト化するというもので、時々これを作っては、まだまだ長生きせなあかんなと思ったりする。今回も思いつくままに、やりたいことを書きなぐってみたら、A4の白い紙がやりたいことリストで埋まってしまった。改めて見ると、途中に「シャークネード・シリーズを見る」と書いていた。そういえば確か去年だったか、深夜にテレビでやっていたシャークネード・シリーズの5作目と6作目を録画。それをずっと見ていなかった。『シャークネード』は、知る人ぞ知るB級映画。巨大なトルネードに巻き上げられた各種のサメが降り注ぎ、人を次々と襲うというバカ映画。これがシリーズ6作目まである。知らん人は全く知らんだろうし、死ぬまでに見ないと後悔するということはまるでない。見ようと思えば明日にでも見られるか。でもそう思いながら一年ぐらい経っている。まあ老後の楽しみにとっておくかな?

さて、今回はシャークとは海の哺乳類つながりでクジラです。クジラといってもモビィ・ディックです。モビィ・ディックというのは、ハーマン・メルヴィルの小説『白鯨』に出てくる白いマッコウ・クジラのこと。モビィ・ディックと、そのクジラに片足を食いちぎられたエイハブ船長との闘いを描く同小説、読んだことはないけれど、子どもの頃にテレビで放映されていた映画『白鯨』を兄と見たことがある。兄は感動したのか、当時飼ったインコに「エイハブ」と名付けていた。僕は小学校低学年で、映画の内容はほとんど忘れたけど、エイハブ船長がモビィ・ディックと共に海へ消えていくシーンだけは覚えていて、なぜだか胸にズキーンときた。後々まで映画好きになるきっかけのひとつかも。それが50歳にして『シャークネード』はどうよ?

それはともかく、映画であれ小説であれ、『白鯨』は人の心を打つようで、LED ZEPPELINにも「Moby Dick」という曲があるし、MASTODON『LEVIATHAN』のように『白鯨』をテーマにしたコンセプト・アルバムもある。Discogsを見たらMOBY DICKという名前のアーティストも数多くいるみたい。今回は、そのなかからイタリアのハード・ロック・バンドMOBY DICKの『MOBY DICK』です。

MOBY DICKは、1968年にイタリアのナポリで結成された。1960年代後半のナポリは、アンダーグラウンド・シーンでロック・バンド・ブームのようになっていて、CITTA FRONTALE、IL COLLEGIANI、VOLTI DI PIETRAといったグループが活動していた。それらのバンドのメンバーのなかには、後にOSANNAを結成するリノ・ヴァイレッティ、IL BALLETTO DI BRONZOを結成するジャンニ・レオーネなどがいた。MOBY DICKは、IL COLLEGIALIのトニ・ディ・マウロ(g)とVOLTI DI PIETRAのエンゾ・ペトロネ(b)を中心として結成された。ドラマーには、IL COLLEGIALIのアドリアノ・アサンティ(ds)が起用される。当初は専任のシンガーが不在で、アラン・ソレンティなども参加していたようだ。ヴォーカルにサンドロ・コッポラが加入し、ライヴやフェスティバルへの出演を中心に活動していたという。一時期はIL BALLETTO DI BRONZOのマルコ・セシオーニ、パーカッショニストでトニ・エスポジトなどが参加することもあったとか。

1970年6月16日には、ローマのRCAスタジオで「Il Giomo Buono」「Ad Ogni Costo」「Parlo Nel Vento」の3曲をデモ・レコーディングする。残念ながら契約には結びつかなかったが、再びライヴで鍛えた後の1973年、彼らはロンドンへ渡り、5月15日から10日間、オリンピック・スタジオでレコーディングを行なった。歌詞を英語にした楽曲をアルバム1枚分録音し、リリースへ向けての動きもあったようだが、結局は発売されずに終わってしまった。MOBY DICKはほどなくして解散。ベースのエンゾ・ペトロネは、後にOSANNAへ加入して活躍を続ける。トニ・ディ・マウロはスウェーデンにわたり、エンジニアとして活躍。アドリアノ・アサンティはスイスで、サンドロ・コッポラはイタリアで、それぞれに音楽活動を続けていく。

長い間ロック史の闇に埋もれていたMOBY DICK。そこに現れた救世主的インディペンデント・レーベルが、イタリアのAKARMAだ。AKARMAは1998年にイタリアで設立された再発レーベルで、イタリアに限らず1960~1970年代のサイケデリック・ロックの激レア作をバンバン再発するという快進撃をみせる。そのAKARMAから、2001年にMOBY DICKのお蔵入りアルバム『MOBY DICK』が、LPとCDで発掘リリースされた。しかも、1970年代にレコーディングされたデモ3曲を、LPにはボーナスEPとして、CDではボーナス・トラックとして収録するという力の入った発掘リリースだった。メンバーもさぞかし喜んだことと思うが、そのアルバムのジャケットは、確かにクジラだけど、これは日本の捕鯨ですよ?

その是非についてはここではおいといて、捕鯨は日本では江戸時代から盛んにおこなわれるようになる。捕鯨は、普通の漁とは違って、かなり大規模な漁&作業となった。それもあってか、江戸時代には捕鯨の様子を描いた絵画作品や書物などがいくつか作られている。なかでも有名なのが『鯨絵巻』と呼ばれるもので、捕鯨の様子から鯨の種類、さばき方などが描かれている。検索してもらったら、いくつも画像が出てくるし、デジタル・アーカイブで全容を見ることもできる。

MOBY DICKが幻のアルバムのジャケットに使用したのが、この『鯨絵巻』の一場面。実際の作品を左右反転して使用している。モビィ・ディックのイメージといえば、先述したMASTODON『LEVIATHAN』みたいな、ちょっと恐ろしいぐらいに大きな白いマッコウ・クジラだろう。ところがMOBY DICKが選んだのは『鯨絵巻』で、『LEVIATHAN』と比較するまでもなくスペクタクル感に乏しい。MOBY DICKのメンバーが選んだのかなあ。どうしてこの絵を選んだのか、どこから探し出したのか、不思議だ。

だが彼らの音楽性に不思議なところはまるでなく、モロにLED ZEPPELINの影響下にあるハード・ロック。LED ZEPPELINにオマージュを捧げているというか、まあパクリとまではいわないけれど、彼らが大好きだということがストレートに伝わってくる。裏返すと、LED ZEPPELINの与えた影響力って、相当に大きかったんだな、ということがわかるが、やはりそれだけだとメジャーでは通用しない。それゆえ未発売に終わったのか。そこがOSANNAやIL BALETTE DI BRONZOとの違いなのかなという気もする。

では聴くに値しないかというと、いや、そこがおもしろいじゃないか!と。LED ZEPPELINの影響から、どうやってオリジナリティへつなげていこうかと、その試行錯誤感に魅力を感じる向きなら、聴いて損はないはず。でも、なんでジャケットに『鯨絵巻』を選んだんだろう? そこだけは不思議。ここでは『MOBY DICK』の1曲目に収録された「Two Timing Girl」を聴いていただきましょう。LED ZEPPELINのあの曲とか、あの曲とかを思い起こさせるハード・ロック曲だ。

それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。

Two Timing Girl

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