イギリス南部に浮かぶワイト島。
この島で68年~70年に3度開催されたのが、ワイト島フェスティヴァルです。
特に有名なのが1970年8月26日~30日に開催された第3回で、前年のウッドストック・フェスを超えるおよそ60万人の観客を集めた、史上最大規模の音楽フェスティヴァルとなりました。
結成直後だったELPの存在を世に知らしめたフェスとして、またジミ・ヘンドリックスが死去する3週間前にパフォーマンスを行なったフェスとして、あらゆる意味で70年代の到来を象徴する音楽イベントだったことは間違いないと思います。
そんなELPやジミヘンの他、ザ・フー、ムーディー・ブルース、テイスト、ドアーズ、ジョニ・ミッチェル、マイルス・デイヴィスなど有名アーティストのステージが映像化・音源化され現在に伝わっていますが、実はこのワイト島フェス、今となってはニッチ&ディープな存在と言うべきアーティストたちも数多く出演していました。
今回はカケレコらしく、そんなニッチな参加アーティストにスポットを当ててご紹介していきたいと思います!
ワイト島フェス1970の栄えあるトップバッターを務めたのが、このJUDAS JUMP。ピーター・フランプトンと共にTHE HERDで活躍したキーボーディストAndy BownとHenry Spinettiを中心とするバンドで、THE MOVEやFACESに加え、XTCをも先取りしたような軽快なポップ・センスが魅力的です。
どんなパフォーマンスでこの歴史的フェスの口火を切ったのか、映像or音源が観てみたいなぁ!
恐~い金ピカ顔ジャケからは中身の想像がつかないと思うけど、これがとっても愛すべき英プログレ・ポップの名品なのです!THE MOVEやFACESのファンならムフフとなるサウンドですよ~。
つづいて登場したのが、リッチー・ヘヴンスのレーベルからデビューしたカリフォルニア出身の女性SSW、Kathy Smithです。ジョニ・ミッチェルの影響を感じさせるヴォーカル・スタイルによる神秘的な弾き語り曲が素晴らしく、当日のパフォーマンスもかなり好評を博したらしいです。
ちなみにレーベルオーナーのリッチー・ヘヴンスは、ウッドストックでは一番手を、このワイト島フェス1970ではトリを務めるという大役を担っています。
幻想性や神秘性をまとった歌声とメロディ。そこにトニー・レヴィンやヤン・ハマーが緊張感あるジャジーなアンサンブルをぶつけちゃう、という孤高の一枚。マイナーながら、ジョニ・ミッチェルにも負けてませんね。
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彼らこそ知る人ぞ知る英国フォーク・ロックの好バンド!ジャズ志向のピアニストIan Whitemanとサヴォイ・ブラウンで活動したブルージーなギタリストMartin Stoneが中心となったグループで、それらの要素が絶妙に溶け込んだ懐の深いフォーク・ロックを鳴らしました。
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その他の出演アーティスト: Rosalie Sorrels、David Bromberg、Redbone、Kris Kristofferson
本フェスで躍進を遂げたELPですが、そのkey奏者と言えばキース・エマーソン。彼のプロキャリア初バンドT-BONESでフロントマンを務めていたのがこのGary Farrでした。60年代末よりフォーク・ロックSSWとしてソロ活動を開始しており、ブルージーな渋みを帯びたフォーク・ロック・スタイルが実にカッコ良し。
僕はこの曲をはじめて聴いた時、本気で涙腺ゆるみましたよ。リチャード・トンプソンが参加したコクと憂いと干し草の香りがする英フォーク・ロック屈指の名曲。個人的にはディラン『ブロンド・オン・ブロンド』収録の名曲と比べても遜色なし!
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有名バンドですが、貴重なデビュー時ラインナップでの出演ということでピックアップ。のちにキング・クリムゾンの作詞担当として活躍するRichard Palmer James(当時はRichard Palmer)在籍時で、リリース直後の1stアルバムを引っ提げての出演でした。
70年代後半にはポップで垢抜けた作風でアメリカを中心に世界的成功を収める彼らですが、デビュー当時はプログレ色が強く陰影のあるサウンドでした。最も知られるポップ期からすると評価が低いですが、この哀愁のメロディやどうしようもなくブリティッシュなオルガンの響きなど、70年代初頭の英国ロック好きにはたまらない要素が満載♪
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リヴァプール・シーンやグリムズやプレインソングで活動、プログレ界隈ではグリーンスレイドやピンク・フロイドもサポートしたいぶし銀の名ギタリストAndy Roberts率いるグループ。米国ルーツ・ミュージックへの憧憬を滲ませたアプローチながら、そこはかとなく溢れ出してくる英国的な叙情性が持ち味と言えるでしょう。
米国憧憬の中にもフィドルが英国的な陰影を描くフォーク・ロック、ルーラルなコーラスが染みるスワンピーな曲、ペダル・スティールが美しいハートウォームな曲など、英国的メロディが堪能できます。この2曲目の名曲ぶりと来たら!
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元JUICY LUCYのヴォーカリストRay Owenが結成したハード・ロック・グループMOON。JUICY LUCY時代からの特色であったガナリ声のヴォーカルはますます荒々しくインパクトが強まり、ジミ・ヘンドリックスからの影響が強いブルージーなファズ・ギター、ドタバタとしたドラムを伴ったストレート且つパワフルなアンサンブルが痛快です。
場末感ぷんぷんの超B級ジャケに負けずに、サウンドもインパクトあります。さっすが、元ジューシー・ルーシーのヴォーカルだけある変質ジミヘン狂ぶり!
黒魔術バンドとして売り出され、当時はサバスとも比較されたグループですが、サウンド自体は、淡いトーンのオルガンを中心に陰影のあるフルートがジャジーに絡む典型的なブリティッシュ・ロックなんですよね。
当時サバスとも比較された黒魔術バンド。とはいえ内容はPROCOL HARUM&JETHRO TULLに気品ある弦楽器アレンジを加えたような、実に叙情溢れるブリティッシュ・ロック。そのギャップがたまりません!
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黒魔術ロックという分野においてブラック・サバスとともに草分け的存在といえる英バンド、ブラック・ウィドウの70年ライヴ映像が海外サイトDANGEROUS MINDにて紹介されていますので、シェアいたしましょう。
70年代初頭のアンダーグラウンドな英国ロックを世に送り出した名レーベルVERTIGO。その中でもクラシカル・ロックの名作2枚を残したことで今もって人気が高いのがこのグループです。
映像を見ると、アルバムの印象以上にヘヴィ&アグレッシヴな演奏に痺れますね!
70年にVERTIGOレーベルよりリリースされた1stアルバム、ピアノ/オルガン/メロトロン/ハープシコードを用いた絢爛なキーボードワークが冴えるクラシカル・ロック名盤!
その他の出演アーティスト: Howl、Terry Reid、Groundhogs、Gilberto Gil and Caetano Veloso
3日目の一番手で登場したのがFAIRFIELD PARLOUR。67年~68年にロンドンで活動したサイケ・ポップ・バンドKALEIDOSCOPEを前身に、メンバーはそのままに改名したグループです。ピーター・ダルトリーが書く英国らしい格調高さと叙情美に満ちた流麗なメロディと切なく胸に響くヴォーカルが本当に素晴らしいんですよねぇ。何気にこのフェスで一番ステージを観たかったグループかも。
英国的なリリシズムを存分に堪能したいなら、この作品以上のものってないかもしれません。流れるように美しいメロディー、格調高い管弦、そして優しさに満ちたメロトロンの音色。涙なくして聴けない名作ですね。
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トロントで結成された、総勢13人編成のブラス・ジャズ・ロック・グループ。一時は日本でも人気を博したようですね。この日と翌日の2度出演したことからも、その人気ぶりがうかがえるところです。あの重厚に鳴り響くブラス・セクション、さぞ圧巻だっただろうなぁ。
69年のカナダにこんなハイレベルなブラス・ロックが!?華やかなポップスからアグレッシブなジャズ・ロックまで自在に行き来する端正なアンサンブルはセンス抜群!
その他の出演アーティスト: Arrival、Taste、Tony Joe White、Chicago、Family、Procol Harum、Redbone、The Voices of East Harlem、Cactus、Mungo Jerry
この日は本フェスの目玉も目玉。出演はJohn Sebastian、Shawn Phillips、Lighthouse(2回目)、Joni Mitchell、Tiny Tim、Miles Davis、Ten Years After、EL&P、The Doors、The Who、Sly and the Family Stone、Melanieという豪華なんてもんじゃない顔ぶれでした。
その中から、EL&Pとドアーズのパフォーマンスをお楽しみください♪
いまや知る人ぞ知るグループですが、当時はシカゴやBS&Tに対する英国からの回答とも評された英ブラス・ロック・グループです。唯一作は渋すぎるキーフジャケが印象的ですね。後年にはチューブスを手掛けたプロデューサーRikki Farrがマネージメントを務めていました。
このオープニング・ナンバーの熱気ときたら! 引きずるようなギター・リフとリズム、強烈なエネルギーを放つブラス、そして熱唱ダミ声ヴォーカル!ただただ、圧巻・・・。いきなりキレ味鋭く畳みかけるキメのパートも悶絶。
その他の出演アーティスト: Good News、Kris Kristofferson (2回目)、Ralph McTell、Free、Donovan、Pentangle、Moody Blues、Jethro Tull、Jimi Hendrix、Joan Baez、Leonard Cohen、Richie Havens
ワイト島フェス1970出演のニッチなアーティストを見てまいりましたが、お楽しみいただけたでしょうか?
皆様にとって新たな発見があれば幸いです!
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スタッフが、ウッドストック・フェスティバルでのベストアクトを選びました。
70年にVERTIGOレーベルよりリリースされた1stアルバム。1曲目「Introduction」は、ブリティッシュ・ロック然としたハードなリフから、一転して叙情的なハープシコードへとつながる展開が素晴らしい名曲。コーラス部分のマイナー調のメロディーも美しく、コーラスも絶品。続く2曲目「Heaven」も、バロック調の荘厳なメロトロンの響きと格調高いメロディーが絶妙に合わさった佳曲。その他の曲も、ジャズの要素を取り入れた白熱のインプロビゼーションやハープシコードとギターのみによるインストなど、オリジナルなサウンドを作り出そうとするバンドの意欲が真空パックされた魅力的な曲で溢れています。
カリフォルニアを拠点に活動、計60万人を動員した70年ワイト島フェスで好演を披露した女性SSW、71年作2nd。虚ろなアコギ爪弾き、ひっそりとリリカルなピアノ、憂いと透明感に溢れたヴォーカル。神秘的な弾き語り曲での言葉を失う素晴らしさはもちろん、トニー・レヴィンやヤン・ハマーなど豪華ミュージシャンがサポートしたジャジーなタッチの緊張感ある楽曲も絶品。ジョニ・ミッチェルのファンをはじめ、ブリジット・セント・ジョンなど英フォークのファンも必ずや心奪われる名作です。
英スワンプ・ロック/フォーク・ロックの傑作として愛される70年の2ndアルバム。バックを務めるのは、FAIRPORT CONVENTIONの名ギタリストRichard ThompsonとMIGHTY BABYのメンバー。骨太な中にも英国的な陰影が浮き出た絶品のアンサンブルを聴かせています。アメリカ南部への憧れが滲み出ていますが、スワンプ・ロックというほど土臭さはそれほどでもなく、美しいストリングス・アレンジやリリカルなピアノやフルートをフィーチャーするなど、いかにも英国的な叙情性とアメリカン・ロックの骨太さとグルーヴが結びついた絶品英国フォーク・ロックと言えるでしょう。「Revolution Of The Season」はメロディ、アンサンブルともに涙なしでは聴けない英フォーク・ロック屈指の名曲。ほんっと悶絶ものの素晴らしさです、この曲。
リヴァプール・シーンやグリムズやプレインソングでの活動でもソロでも英ロックのファンにはお馴染みのアンディ・ロバーツが、元ヤンコ・パートナーズやミック・エイブラハムズ・バンドのKey奏者ボブ・サージェントらと結成したグループ。サンディ・ロバートソンのプロデュースで録音され、アトミック・ルースターやジンハウスやハンニバルなども所属するB&Cレーベルより71年にリリースされた唯一作。2曲目「Sad」の名曲ぶりが凄い!抑制されたリズム隊とピアノが「くるぞくるぞ」と聴き手の期待を煽るタメの効いたイントロから雰囲気たっぷり。バックにはメロトロンも鳴らされ、ハイ・トーンのスモーキーなヴォーカルがエモーショナルに憂いのあるメロディを歌い上げる。リズムが走り、オルガンが鳴らされ、ピアノがジャジーなフレーズを彩ると、そこは英国ならではの翳りある世界。そこに追い打ちをかけるように鳴らさせるメロトロン!ブリティッシュ・ロック一級の名曲ですね。その他の曲も粒ぞろいで、米国憧憬の中にもフィドルが英国的な陰影を描くフォーク・ロック、ルーラルなコーラスが染みるスワンピーな曲、ペダル・スティールが美しすぎるハートウォームな曲など、英国的なメロディが堪能できます。英フォーク・ロック/SSWのファンはもちろん、ネオン・レーベルあたりのジャジーで叙情的な英ロックのファンにもたまらない名作!
カナダはトロントで結成されたブラス・ロック・グループ、69年2nd。同年1stに引き続き、ヴァイオリンやチェロ奏者を含む13名の大所帯から繰り出される賑やかなアンサンブルは端正かつ迫力満点!壮大なスケールのTHE BAND「Chest Fever」ブラス・ロック・カヴァーに幕を開け、キャッチーで愛くるしいオリジナル曲「Feel So Good」に続いたかと思えば、3曲目では11分にも及ぶ流麗かつスリリングなジャズ・ロック・セッションが展開されたりと、ジャンルの垣根を越えた豊富なアイディア、緻密で多彩なアレンジも見事。華やかなポップ・ソングからアヴァンギャルドな実験性までを自在に行き来する、プログレッシヴ・ブラス・ロックの傑作です。
ARPシンセのミニマルなイントロ、そこに格調高く響くピアノのバッキング、パワフルにリズムが刻まれエネルギッシュなシャウトが入ると、4人にしか到達できない高みのサウンドへ。完璧な導入ですね。
0881130562(UNIVERSAL)
990円 (税込1089円)
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