2014年6月12日 | カテゴリー:ユーロ・ロック周遊日記,世界のロック探求ナビ
タグ: プログレ
EASTERN TIMEやATLANTIDEレーベルより続々と旧ユーゴの作品、とくにセルビアはベオグラード出身のプログレ/ハード・ロック・バンドの作品がリイシューされておりますので特集いたしましょう。
まずは、旧ユーゴの歴史をざっと振り返ってまいります。
旧ユーゴは、1970年代当時の正式国名が、ユーゴスラビア社会主義連邦共和国で、「7つの国境、6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字からなる1つの国」と言われ、セルビア人、クロアチア人、スロベニア人、マケドニア人、モンテネグロ人の多民族が住む社会主義国家でした。
国の中心を担っていたのは主にセルビア人で、旧ユーゴの首都は、現セルビアの首都でもあるベオグラード。
ベオグラードは西ヨーロッパとトルコとの間にあるバルカン半島のほぼ中央に位置し、紀元前6000年もの前から人が住んでいたというヨーロッパ最古の都市。
ヨーロッパとアジアを結ぶ戦略的な要所として、古代より争いの場となり、東ローマ帝国、オスマン帝国をはじめ、長い歴史の中で、キリスト教国、イスラム教国のいずれの領土にもなってきた歴史を持ちます。
第二次大戦時はナチの迫害を受けて市民大虐殺もおこり、戦後は、トルコとソヴィエトの間で折衝の場となるなど、緊張感が途切れることがありませんでした。
そんな政治的・文化的に自由を奪われた状況の中、ラジオを通してイギリスやドイツのロック・ミュージックに親しんでいた若者たち。
ナチによる文化・言論統制による文化的な暗黒時代(1930年~60年)が終わりを迎えた後、堰を切ったように若者達はロックへと向かいました。
西ヨーロッパのキリスト教文化とトルコのビザンツ文化が混ざり合った豊かな文化的背景と抑圧されていた若者の欲求の解放とがぶつかりあって生み出されたベオグラード発のセルビアン・ロック。
以前に取り上げたスペインのバスクやバルセロナ、フランス南東部のニースなど、同じような歴史的背景を持った地域から生まれたグループ達と同じように、文化的な混濁と民族自決の精神が生む、独特の緊張感と悲哀を感じさせるサウンドが印象的です。
バルカンの歴史が生んだセルビアン・ロック。どうぞお楽しみください。
ベオグラードを代表するグループがKORNI GRUPA。
68年に結成され、ビート・ポップから出発し、バンドメンバーを変えながら、サイケ、フォーク、ジャズを取り入れてプログレッシヴなサウンドを指向。満を持して72年に国営レコード会社のPGP-RTSよりリリースされたデビュー作が本作です。
セルビア初のロック・アルバムで、旧ユーゴでも4番目と言われている旧ユーゴ最初期の作品。
ハードエッジなギターと時にジャジーで時にクラシカルなピアノ/キーボードを中心に、サイケデリックに渦巻く「混沌」とクラシカルな「気品」とが同居した、まだ洗練されていない剥き出しのエモーションが溢れるダイナミックなアンサンブルは、ヨーロッパ的洗練と非ヨーロッパ的土着性とがぶつかりあったバルカンならでは。
KORNI GRUPAはイタリアのRICORDIと契約し、KORNELYANSとして世界デビューを果たします。
旧ユーゴ最高峰、というより、ユーロ・ロック最高峰と言えるほどの一大プログレ傑作で、ジェントル・ジャイアントばりの超絶技巧とメロディ・センスとハーモニーがとめどなく聴き手を飲み込みます。
旧ユーゴを代表するギタリストのRadomir Mihajlovicと、後にBIJELO DUGMEにも参加する名Key奏者Laza Ristovskiが在籍する旧ユーゴを代表するグループ。
KORNI GRUPAのシンフォニックな楽曲に影響を受けて作られたB面すべてを占める大曲が何と言っても白眉で、オランダのトレースのような端正なクラシカル・ロックから伊レ・オルメばりのテンションいっぱいのオルガン・ロックを軸に、ジェフ・ベックばりのキレ味鋭いギターが炸裂するサウンドは、ユーロ・ロックのファンは歓喜すること間違いなし!
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旧ユーゴを代表するプログレ・グループの一つ、SMAKの75年のデビュー作『SMAK』をピックアップ!
74年のデビュー作。抑制されたエモーショナルなギターはフォルムラ・トレに通じてるし、ハード&ジャジーに畳みかけるところは英パトゥが頭に浮かびます。ヨーロッパ的気品と土着の荒々しさとがバランスしたサウンドは、いかにもセルビアン・プログレ。
72年に結成。74年にJUGOTONレーベルよりリリースされたデビュー作。
抑制されたエモーショナルなギターはフォルムラ・トレに通じてるし、ハード&ジャジーに畳みかけるところは英パトゥが頭に浮かびます。
ヨーロッパ的気品と土着の荒々しさとがバランスしたサウンドは、いかにもセルビアン・プログレ。
旧ユーゴ最初期のハード・ロック・グループで、現在でも活動を続ける名グループ。
ブルージーかつキレのあるギターが素晴らしく、英国で言えばTEAR GASのZal Cleminsonあたりに匹敵するセンス。
ウィッシュボーン・アッシュやテア・ガスあたりの骨太&メロウ&哀愁溢れるハード・ロックのファンは気に入るはず。
YU GRUPAの結成メンバーながらメンバー間の対立によりデビュー前に脱退したKey奏者とギタリストの2人を中心に73年に結成されたグループ。シンガーは初期KORNI GRUPAに在籍してシングルを残したことでも知られ、後にはセルビアを代表するシンガーとなるDusan Prelevic!
旧ユーゴが誇るオルガン・プログレの名作と言える75年の唯一作。
まるで英国のパトゥにキース・エマーソンが入ったかのような強烈さ!
セルビアのサバス!
左CHでエネルギッシュにかきむしられるリズムギター、右CHで爆音を轟かせてアグレッシヴに疾走するベース、中央でシャープなリズムを刻むドラム、そして気だるいヴォーカル。
ソリッド&ハード・エッジなパートから一転、エコーに包まれサイケデリックなコーラスパートへと切り替わったと思うと、またもや突如ギターがキレのある早弾きで突っ走る!
オープニング・ナンバーからこれは痺れます。
1stでのキレ味はそのままに、オルガンやストリングスやムーグ・シンセによるプログレッシヴな味付けも印象的な2ndもまた名作。
スティル・ライフなどドラマティックなVertigo産ハード・ロックのファンにもオススメ!
78年作なので、先に挙げたグループ達より少し若いバンドになります。
いにしえよりユーロ・ロック・ファンに愛された秘宝的シンフォ名作。
プログレ・シーンだけでなく、フォーク・シーンも旧ユーゴにはあったんですね!
こんなにも煌びやかで神秘的でなおかつ陽光のように温かなフォーク・トリオが政情不安定な旧ユーゴで生まれていたとは!感動的な一枚。
MELLOW CANDLEやITHACAなどミスティックなフォーク・ロックが好き?でしたら、この女性Voフォーク・バンドを試聴是非!
旧ユーゴはベオグラードに、これほどまでにクラウト・ロック/サイケ~スペース・ロックのファン悶絶必至のバンドが居たとは・・・。フロイドやホークウィンドやカンやノイ!のファンは必聴ですよ~。
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EASTERN TIME、ATLANTIDEレーベルからは、セルビアのグループの他にもスロヴェニアやクロアチアといった旧ユーゴ連邦から独立した国の他、ルーマニアの作品もリイシューされていますので、ついでにピックアップ。
こ、この1曲目、ずばり旧ユーゴはスロヴェニアからのフランスATOLLへの回答!シャープなリズム隊、壮麗なキーボード、音響センス抜群なギター、そして、スロヴェニア語のセンチメンタル&ドラマティックなヴォーカル。ジャケは残念ですが、サウンドはグレイト!
IZVIRと同じく、現スロヴェニアの首都リュブリャナ出身。
旧ユーゴ屈指と言われるジャズ/フュージョン・ロック・バンド!
アドリア海にほど近い土地柄か、地中海フレイヴァーとエキゾチズムが香るサウンドが魅力!
ハイ・トーンの美声女性ヴォーカル、そして、まるで教会音楽のようにクラシカルで気品に満ちた男女3声のコーラス・ワーク。
神秘的なリコーダーも良いし、80年代はじめのスロヴェニアにこんなにも格調高いフォーク作品が生まれていたとは!
旧ユーゴはクロアチア屈指の傑作!ウィッシュボーン・アッシュばりのドラマティックなツイン・リード、幻想的にたなびくオルガンやフルート、そして、炸裂するデヴィッド・バイロンばりのハイ・トーン・シャウト!
旧ユーゴはクロアチアのザグレブ出身のオルガン・ロック・グループ、72年のデビュー作。
トラフィックに通じるR&BフィーリングにVertigo直系のくすんだヘヴィネスを加えたサウンドは本格感ぷんぷんですね。
旧ユーゴの東北側に位置するルーマニアのグループ。75年のデビュー作。
レーベルからのインフォにはジェスロ・タルやグレイヴィー・トレインが引き合いに出されていますが、吹き飛ばすアグレッシヴなフルートなど、確かにその通り。
さらに英フラッシュやキャパビリティ・ブラウンに通じるニッチ・ポップ風味もあって、このグループ、かなり良いです。
こちらもルーマニアのグループ。
60年にはビート・グループとして活動しながら、評価を得ず、ルーマニアのフォークロアを取り入れてオリジナリティを確立し、71年にデビュー
この2ndも民族色濃厚で、オープニングから、祭り囃子のような土着的パーカッションに、こぶしを効かせたようなうねるギターが躍動してます!
いかがでしたか?
バルカン地方のプログレ。多様な民族が織り成す歴史と文化が香るサウンド、お楽しみいただけたなら嬉しいです。
バルカン地方と同じく民族的に不安定な歴史を持つスペインはバスク地方、フランスはニース地方のプログレもまた同様のメランコリックで緊張感漂うサウンドが印象的。是非、あわせてチェックください。
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本日の「ユーロロック周遊日記」は、フレンチ・プログレを名バンドCARPE DIEMによる75年のデビュー作『En Regardant Passer Le Temps(時間牢の物語)』をピックアップいたしましょう。
ルーマニアのグループ、75年のデビュー作。再発レーベルからのインフォにはジェスロ・タルやグレイヴィー・トレインが引き合いに出されていますが、吹き飛ばすアグレッシヴなフルートなど、確かにその通り。個人的には、ブルースがベースにありつつもエッジの立ったトーンで鋭角に切り返すギターやゴリゴリとシャープなベース、ハイ・トーン寄りのニッチ・ポップ・フレイヴァーもあるルーマニア語のヴォーカル、憂いある豊かなコーラスあたり、英国のフラッシュやキャパビリティ・ブラウンなどを彷彿させます。格調高いクラシカルなピアノに艶やかなストリングスが入るバラードも魅力で、3曲目「Speranta」は、プロコル・ハルムやイ・プーもびっくりの気品ある美メロ名曲。フルート入りの英プログレやユーロ・ロックのファンはもちろん、英ニッチ・ポップのファンにもオススメしたい好グループ。秘宝臭ぷんぷんのジャケの通りの名作!
72年に旧ユーゴのベオグラードにて結成されたフォーク・トリオが74年にリリースした唯一作。凛としたアルペジオが幾重にも折り重なりファンタスティックな音世界を描くアコースティック・ギター、そこに気品を添える艶やかなストリングスや麗しのフルート。曲によってドラムがビートを刻み、オルガンがメロウネスを加え、フォルムラ・トレのアルベルト・ラディウスを彷彿させる抑制されたトーンのギターがエモーショナルなフレーズを添えます。3人が歌うヴォーカル&ハーモニーがとにかく絶品の美しさで、神々しさすら感じさせる透明感ある歌声、ただただ幸福感に包まれる三声ハーモニーに終始うっとり。煌びやかな神秘性とともに、陽光のような温かさもあるユーロ・フォークの逸品。これは傑作です。メロウ・キャンドルやチューダー・ロッジなど英フォークのファン、ITHACAなどサイケ・フォークのファンをはじめ、ピンク・フロイドの叙情的なフォーク・ナンバーが好きな方にも是非聴いてほしい!
旧ユーゴはベオグラード出身、YU GRUPAの結成メンバーながらメンバー間の対立によりデビュー前に脱退したKey奏者とギタリストの2人を中心に73年に結成されたグループ。75年の唯一作。シンガーは初期KORNI GRUPAに在籍してシングルを残したことでも知られ、後にはセルビアを代表するシンガーとなるDusan Prelevic。オープニングから分厚く荘厳に鳴り響くクラシカルなオルガン。前のめりの性急かつシャープなドラムが入ると、テクニカルなピアノ、荒々しく熱情的なヴォーカルも入って、バンコなどイタリアン・ロックに通じる爆発的なシンフォニック・ロックを聴かせます。ブルージーな野蛮さとクラシックの荘厳さとがせめぎ合うアンサンブルは、まるで英国のパトゥにキース・エマーソンが入ったかのような強烈さ。プロコル・ハルム的クラシカル&ソウルフルなバラードもグッとくるし、これは素晴らしいグループです。名作。なお、本作リリース後、バンドは解散。ベーシストのDusan CucuzはTAKOを結成します。
旧ユーゴはクロアチアのザグレブ出身のプログレ・グループ、PGP-RTBレーベルから75年にリリースされたデビュー作。幻想的にたなびくオルガンやフルート、ウィッシュボーン・アッシュばりのドラマティックなツイン・リード、そして、デヴィッド・バイロンを彷彿させるハイ・トーンのシャウト・ヴォーカル。叙情的で陰影に富んだサウンドは、ハーヴェストやヴァーティゴ・レーベルの叙情的な英プログレのファンにはたまらないでしょう。エッジの立ったトーンのエネルギッシュなリズム・ギターが冴えるハード・ロックもまた魅力的。旧ユーゴ屈指の名作です。
72年に結成された旧ユーゴスラビアはベオグラード出身のプログレ・グループ。74年にJUGOTONレーベルよりリリースされたデビュー作。オープニング・ナンバーから10分を越える大曲で、抑制されたトーンで感情を切々と紡ぐアーティスティックな佇まいのリード・ギターが印象的な情感たっぷりのナンバーで、イタリアのフォルムラ・トレを彷彿させます。ヴォーカルの語感もイタリアっぽいですし。2曲目は一転して、強烈に歪んだファズ・ギターによるスリリングな変拍子ギター・リフ、ボコスカとダイナミックに畳み掛けるリズム隊によるハード・ロックを炸裂。ギターにはジャジーな響きがあって、英国のパトゥが頭に浮かびます。ヴォーカルはやはりイタリアン・ロックに近い感じで、ハードなサウンドの中にユーロならではの奥ゆかしさや気品を感じます。以降も、アーティスティックなナンバーとハードなナンバーを織り交ぜながら、ロバート・プラントばりのシャウトに痺れるブルース・ハードな最終曲まで一気に畳み掛けます。辺境臭はなく、本格派ぷんぷんの名作。素晴らしい!
張りつめた旋律美を持つテクニカル・シンフォに、『太陽と戦慄』の硬質なヘヴィネスを加え、ロシアらしいエレガンスでまとめ上げたこのセンスは超一級!
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東欧プログレの頂点に君臨する金字塔ですよね。硬質なシンセを中心にエネルギッシュかつとんでもない迫力で突き進むアンサンブルに完全ノックアウト・・。
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ハンガリーのプログレ・グループ、96年リリース作。クリムゾンで言えば、格調高い『リザード』と硬質で狂暴な『太陽と戦慄』を掛け合わせた感じかと。一聴の価値ありです。
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たおやかなアコギをバックにフルートがリリカルに舞い、溢れんばかりにメロトロンが鳴らされる!極めつけは、美声の女性ヴォーカル!ファンタスティックなシンフォニック・ロックとして一級品の傑作!
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