2014年6月5日 | カテゴリー:ユーロ・ロック周遊日記
タグ: プログレ
ユーロロックの名盤をピックアップしてご紹介する「ユーロロック周遊日記」。本日は、旧ユーゴを代表するプログレ・グループの一つ、SMAKの75年のデビュー作『SMAK』をピックアップいたしましょう。
ジャズ/フュージョン、クラシック、ハード・ロックが高度に融合した19分の大曲「Put Od Balona」を収録していて、ディープなプログレ&ユーロ・ロックのファンから愛され続ける東欧屈指の名作。
作品を聴いていく前に、まずはデビューまでのバンドのストーリーを振り返ってまいりましょう。
バンドの中心は、現セルビアのクラグイェヴァツ出身で旧ユーゴを代表するギタリストRadomir Mihajlovic。彼がドラマーのDejan Stojanovicと出会って意気投合し、71年にバンドが結成されます。バンド名は、第二次世界大戦時のクラグイェヴァツの虐殺で命を落とした生徒達に捧げられた演劇「Smak Sveta(End Of The World)」から取ってSMAKに。
73年、ハイ・トーンの歌声を持つヴォーカルBoris Arandelovicがオーディションで加入。オーディションでは、ディープ・パープルの「チャイルド・イン・タイム」が演奏されたようです。
74年には、デビューシングル「Zivim Ja」をリリース。ジェフ・バックばりにキレ味鋭いRadomirのギターを軸に、東欧ならではのエキゾチズムが香るパーカッションやフルートをフィーチャーしたアンサンブルと、ハイ・トーンのBorisのヴォーカルが魅力の好ナンバーで、セルビアのラジオ番組で年間最優秀シングルにセレクトされるなどヒットを記録します。
74年11月にはベオグラードで初ライヴを行い、BIJELO DUGMEやPOP MASINAなどトップバンドと共演。その数日後のベオグラード大学でのライヴに、後にBIJELO DUGMEにも参加する名Key奏者Laza Ristovskiがゲスト参加。75年はじめに正式メンバーとなり、ようやくメンバーが揃います。
そして、POP MASINAやYU GRUPAやTAKOなども在籍する大手レーベルZKP RTLJと契約。75年に満を持して録音し、リースしたデビュー作が『SMAK』です。
19分の大曲で構成されたB面が人気なのですが、ジミ・ヘンドリックスやジェフ・ベックやジミー・ペイジからの影響が感じられるエッジの効いたギターを中心に、ファンクやジャズのエッセンスも加えたセルビアン・ハード・ロックで畳みかけるA面もまたデビュー作とは思えないテクニックとアレンジが見事。
キレキレのスリリングなフレーズ、オリー・ハルソールばりにジャジーで流れるようなフレーズ、独特の哀感を持つエキゾチックなフレーズ、タメの効いたウィッシュボーン・アッシュばりのツイン・リードなど、なるほどRadomir Mihajlovicのギターは、さすが旧ユーゴ屈指と言える実力がみなぎっています。
そして、やはりB面すてを使った大曲「Put Od Balona」が白眉。
イタリアのRICORDIより世界デビューを果たした旧ユーゴ屈指のプログレ・バンドKORNI GRUPA(世界デビューではKORNELYANS)に影響を受けて作曲されたようで、ジャズ・ロック、クラシックを軸に、民族音楽のエッセンスも取り入れたテクニカルかつ流れるようなプログレを聴かせています。
テクニカルなアンサンブルがめくるめく大曲ながら一発録りされたようで、バンドのテクニックもまた特筆。
オープニングから最初の3分は、アコースティック・ギターとピアノによるクラシカルで格調高いアンサンブルを聴かせます。凛として爪弾きからアル・ディ・メオラばりの超絶フレージングまで、Radomir Mihajlovicはアコースティック・ギターの腕前も超一流。Laza Ristovskiによる、トレースのリック・ヴァン・ダー・リンデンばりのコロコロとファンタスティックなピアノ&ハモンド・オルガンも絶品。
4分過ぎには、ドラムが不穏に走り出し、ゴングも鳴り響き、一気にプログレッシヴに。5分過ぎでは、ゴリゴリと疾走するベースのリフをバックに、ハモンド・オルガンのアグレッシヴなリードが炸裂!まるでレ・オルメ『フェローナ~』ばりのキーボード・プログレを聴かせます。バックはどんどんテクニカルなジャズ・ロック的要素を増していきつつ、ムーグ・シンセは華やかなトーンでクラシカルなフレーズをぶつけるところなど、なるほど、KORNELYANS (KORNI GRUPA)の世界デビュー作『NOT AN ORDINARY LIFE』を彷彿させます。
9分過ぎからは、ジェフ・ベック・グループにキース・エマーソンが加入したような、ヘヴィ&ファンキーなグルーヴに乗せて、キーボードとギターが、時にクラシカル、時にジャジーにスリリングなリードをぶつけて白熱していきます。ここぞで一閃する超絶スピーディーなギターとキーボードのユニゾンによるキメのパートは、マハビシュヌ・オーケストラもびっくり!
ラストまでテンション落ちることなく、ジャズ、クラシックを織り交ぜながらダイナミックに突き進んでいきます。
R&B~ブルースをしっかりと根っこに持ち、ジャズ/フュージョン、クラシック、民族音楽のエッセンスを折り込み、これほどまでに躍動的に聴かせられるバンドはユーロを見渡してもそうは居ないでしょう。
イタリアのP.F.M.やレ・オルメ、オランダのトレースあたりのファンは間違いなく聴いて驚くはず。
バンドは、76年にEP『SATELIT』をリリース。この作品のプロモーションが凄くて、ベオグラード発ニューヨーク行きの飛行機に20人のジャーナリストを招待し、機内でバンドがライヴを行います。その時の映像は、シングル「Satelite」のプロモ映像に使われています。
Youtubeでなんとその動画を発見!
名Key奏者Laza Ristovskiは、EPを最後に脱退し、BIJELO DUGMEに参加します。
B面の大曲の路線でもう一枚アルバムを作っていれば、きっとデビュー作を超える名作となっていたことでしょう。
名ギタリストRadomir Mihajlovicと名Key奏者Laza Ristovskiという傑出したミュージシャン2人の才能がぶつかりあった唯一のアルバム『SMAK』。ユーロ・ロックのファンは必聴です!
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旧ユーゴはセルビアはプログレ名盤の宝庫。
こちらで特集しておりますので、あわせてチェック是非!
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