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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第七十二回:RIVERSIDE『ID.ENTITY』

GIGAスクール構想というのをご存知だろうか。小中学校の児童&生徒一人に一台PC端末を、という国の政策。詳しくはウィキペディアでも見ていただくとわかると思うが、まあ様々なメリット、デメリットがある。自分の子供たちを見ていると、デメリットの方が多いように思え、ここでネチネチ書こうかと思ったけど、あんまり政治的な発言はしたくないので一つだけ。うちの子供の小学校ではタブレットPCが提供されているけど、充電するためにほぼ毎日持って帰ってくる。教科書とかノートもドッサリあって、そこにプラスしてタブレットだから、ランドセルが重くなるって! いずれは教科書もタブレットで見ることになるのかもしれないが、それも正解かなぁ? 何かあったらネットで検索っていうのも、子供たちからネット社会に対する警戒感を奪っている気がするし。あっ、一つ以上書いてしまった。それにしてもマイナポイント、コロナ対策、インボイス制度、ヤングケアラー、児童&老人虐待、迷惑動画、増税に物価高、異次元の少子化対策などなど、最近耳にする言葉を思いつくままに挙げただけでも暗澹たる気もちになりますね。

そんな閉塞感漂う現代社会で生きる身に、ポーランド出身のプログレ・バンドRIVERSIDEの新作『ID.ENTITY』が突き刺さる。こんな混沌とした社会のなか、どうやって自分自身を保つかというようなテーマを描いた傑作だ。約20年の活動歴を誇り、ベテランの域に達しているRIVERSIDE。そんな彼らのアルバム・ジャケットには、いつも人間存在の不確かさや危うさのようなテーマが描かれていたように思う。そこで、今回はポーランドの至宝、RIVERSIDEとそのジャケットについて紹介したい。

RIVERSIDEが結成されたのは2001年のワルシャワ。バンド結成のきっかけは、ピョートル・コジエラスキ(ds)が、ピョートル・グルジニスキ(g)を乗せた車でMARILLIONを聴いていたことにある。ピョートル・グルジニスキもMARILLION、ひいてはプログレが好きで意気投合。当時ピョートル・コジエラスキは二つのデス・メタル・バンドで、ピョートル・グルジニスキは別のヘヴィ・メタル・バンドで活動中だったが、プログレに転身して新しいバンドの結成に向かう。二人は自らスタジオを所有していたキーボーディストのヤツェック・メルニツキを誘う。ベースにはXANADUというバンドで活動していたマリウシュ・ドゥダを加え、RIVERSIDEが結成された。

ライヴ活動やデモ制作などを経て、2003年にデビュー・アルバム『OUT OF MYSELF』を発表する。このアルバムはプログレ・ファンの間で話題を呼んだ。当初は本国のみのリリースだったが、世界発売が実現。その際にアルバム・ジャケットが変更され、トラヴィス・スミスのイラストが使用された。トラヴィスは、OPETH『STILL LIFE』やDEATH『THE SOUND OF PERSEVERANCE』などのオカルト&ドゥーミーなジャケット・アートで知られるイラストレーター。RIVERSIDE『OUT OF MYSELF』の再発盤にも、崩れ落ちそうな木造の小屋が体と同化し、顔を覆う手だけがカラーの人物のシルエットという、ドゥーミーな雰囲気のジャケットを提供している。

キーボーディストのヤツェック・メルニツキは、デビュー作の製作途中で脱退していて、後任にミハウ・ワパイェが加入する。2005年にEP『VOICES IN MY HEAD』を発表し、プログレ・メタル・バンドなどを扱うレーベルのインサイド・アウトとの契約を獲得。2005年に2作目となる『SECOND LIFE SYNDROME』を発表する。ジャケットには、顔の造詣が崩れた二人の人物が描かれ、一人の人物の顔は額縁の中に描かれている。同作のジャケットもトラヴィス・スミスが担当。

2007年には3作目『RAPID EYE MOVEMENT』を発表。ここまでのアルバム三作は、「THE REALITY DREAM TRILOGY」という三部作となっている。作品を増すごとに重厚さとメロディの魅力が増し、音楽的にも多彩になっている。同作のジャケットもトラヴィス・スミス。額縁の中に描かれた顔をいつくしむように抱く仮面(?)の人物という、これもまた人間の存在の不安定さやペルソナについて描いているように思えるものだった。同作は本国ポーランドで2位を記録。ヨーロッパでも人気を高めていった。

2008年にはマリウシュ・ドゥダがLUNATIC SOULという別プロジェクトをスタートさせる。RIVERSIDEも同時進行で、2008年にライヴ・アルバム『REALITY DREAM』をリリース。これもトラヴィス・スミスのデザインで、後ろ向きの裸の人物が、額縁の中からの手によって抱えられているという、『RAPID EYE MOVEMENT』のアンサーのようなイラストになっていた。

2009年には4作目『ANNO DOMINI HIGH DEFINITION』を発表。ジャケットのテイストは異なっていたが、手掛けたのはトラヴィス・スミス。ジャケットの中央、街の中で様々に降り注ぐ光に照らされてたたずむ人物は薄く透けているよう。存在感の希薄さや孤独を感じさせるものになっていた。本作は大作志向の5曲入りという内容ながら、ポーランドで初の1位を獲得している。

2011年のEP『MEMORIES IN MY HEAD』を挟んで、2013年に5作目『SHRINE OF NEW GENERATION SLAVES』を発表する。プログレ・メタルだけに留まらない、彼らのフェイヴァリットであるMARILLIONやPORCUPINE TREEを思わせるセンスも前面に出ていた。トラヴィス・スミスの手掛けたジャケットは、いよいよ不気味さを増している。「Escalator Shrine」という曲からのイメージだろうか、ジャケットには目だけが光る人物がエスカレーターに並んでいる様子が描かれている。ブックレット内側には首のない人物、顔が描かれていない人物、仮面をつけた人物などがいて、かなりホラーなテイストが強い。同作はポーランドで2位を記録している。

2015年には『LOVE, FEAR AND THE TIME MACHINE』を発表し、本国のみならずヨーロッパ各国で高い評価を獲得。トラヴィス・スミスのジャケットは牧歌的な印象の強いものに。同作でワールドワイドなメジャー級バンドへとのぼりつめた彼らだったが、2016年2月21日、ピョートル・グルジニスキが肺塞栓症で他界してしまう。

2017年に全インストのリミックス&新曲集『EYE OF SOUNDSCAPE』を発表。トリオ&ゲスト・ミュージシャンと制作した2018年のアルバム『WASTELAND』は、本国で1位を獲得する。彼らの怒りと悲しみを内包するような深みのある作品で、ジャケットには顔の上半分と腕が失われ、土に埋もれた石像が描かれている。虚無感や喪失感を強く感じさせるジャケットだった。2020年に発表されたライヴ・アルバム『WASTELAND TOUR 2018-2020』のジャケットも『WASTELAND』のデザインを踏襲するもので、いずれもトラヴィス・スミスによる。人間存在の不確かさや危うさだけでなく、儚さまでをも感じさせるデザインとなっていた。



『WASTELAND』にゲスト参加していたマチェイ・メラーが正式加入し、2023年に発表したのが新作『ID.ENTITY』だ。音楽的にはヘヴィさを残しながら、楽曲の個性を際立たせるために、70~80年代のプログレやニューウェーブなどのより多彩な音楽性をアレンジに用いている。マチェイ・メラーのギターの泣き度は高いし、やわらかいが胸に響くメロディの魅力も十分。本国では2位になっている。

新しい章の始まりという意味もあるのか、これまでのトラヴィス・スミスに代わって、ポーランドのアーティスト、ヤレク・クビツキがジャケット・デザインを担当。トラヴィスよりも色彩感覚豊かだが、RIVERSIDEがこれまでのジャケットで打ち出してきた人間存在の不確かさや脆さというテーマ(と、勝手に思っているだけだけど)を見事踏襲している。最初に見た時は今回もトラヴィス・スミスかと思ったぐらい。歌詞もそれらとリンクする内容で、人々の分断や軽薄なオンライン・コミュニケーションへの警鐘、商業主義が蔓延し、社会状況が悪化する中で、人と人はどのように関わり、また自分自身をどう保つかという問題に迫っている。これがチャートで1位になるんだから、ポーランドの音楽リスナーは耳が肥えてますな!ここでは、ミュージック・ビデオが公開済の「I’m Done With You」をおススメしておきます。

それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。

I’m Done With You

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