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「そしてロックで泣け!」第十回 ナルニア「アガペー」

いきなりだけど、サビの決めフレーズは大切。ディープ・パープルの「バーン」なんて、あのサビの盛り上がりの極まるところで、「バーン!」って叫ぶからカッコイイ。あれが「バーン!」じゃなくて、「アガペー!」だったら、そりゃあもうずっこける。

デレク・アンド・ザ・ドミノスの「レイラ」もそう。サビのフレーズが「レイッラー!」だから、たまらなくかっこいい。あれが「アガッペー!」だったら、それはもうガクっとくる。

でも、あるんです、サビで「アガペー!」と歌う曲が。まずは聴いてもらいましょう。

試聴 Click!

どうです? 思いっきり「アガペー!」って歌ってるでしょ? この「アガペー」は、イギリスのナルニアというバンドが、74年に発表した唯一のアルバム『アスラン・イズ・ノット・ア・テイム・ライオン』に収録されている。

ナルニアのメンバーは、女性シンガーのポーリン・フィルビー、キーボード&ギターのピーター・バンクス、ギター&リコーダーのジョン・ラッセル、ベースのティム・ハットウェル、ドラムのケネス“ジンジャー”ディクソンの五人。

ピーター・バンクスは、イエスのギタリストとは同名異人。こちらのピーターは、後にアフター・ザ・ファイアを結成する。しかし、ナルニアの中心は彼でなく、全ての曲を手掛けているポーリン・フィルビーだ。

ポーリンは、68年に5曲入りEPでデビュー。宣教師をしている夫のジャックとコーヒー・バー(今でいうライヴ・ハウス)を経営していて、そこで歌っていたことをきっかけにデビューしたようだ。

69年には、彼女のオリジナル曲を中心に収録したソロ・アルバム『ショー・ミー・ア・レインボウ』を発表。同作はゴードン・ギルトラップの参加でも知られる。

その後の足取りはわかっていないが、74年になってナルニアを結成する。『アスラン~』収録曲のほとんどがポーリンの作なので、ナルニアの中心人物はポーリンと見て間違いないだろう。

ナルニアはライヴ活動もしていて、74年にブロドウゥン・ピッグのサポートをした時のフライヤーには、ナルニア(フィーチャリング・ポーリン・フィルビー)と書かれている。当時、ポーリンの知名度はそれなりにあったのかもしれない。

ベースのティム・ハットウェルは、後にグレイヴィ・トレインのノーマン・バラットが結成したバラット・バンドに参加している。バラット・バンドもクリスチャン系ロック・バンドで、ティム・ハットウェルは、後に牧師になったようだ。

アフター・ザ・ファイアのメンバーになるピーター・バンクスとジョン・ラッセルが顔を揃えているので、どうしても彼らがナルニアの中心だったのでは?と思ってしまうが、ポーリンやティムを中心としたクリスチャン系人脈からスタートしたのではないかと思う。『アスラン・イズ・ノット・ア・テイム・ライオン』をリリースしたミルラというレーベルも、クリスチャン系レーベルだ。

さて、では「アガペー」とはなんのことかというと、まあ解釈は色々あるらしいが、ギリシア語で「無償の愛」「不朽の愛」のことを指している。「アガペー」の歌詞の中にも登場する「エロス」は「性愛」で、「フィロ(フィリア)」は「友愛」のこと。アガペーは、それをも凌駕する「無償の愛」なのだ。ポーリンは歌う。

「アガペー、アガペー、愛はアガペーなんだって私に教えて!」

「無償の愛」こそが「愛」であってほしい。その切なる思いが、この曲には込められているのだ。「ラヴ」をテーマにした歌は数多くあるが、さすがはクリスチャン系のポーリンだけに、さらに踏み込んだ解釈で、「愛」は「無償の愛」でなければならない!と歌っている。

そのことを頭に入れてもう一度聴いてみると、さっきはちょっとププッと吹き出してしまいそうになった人も、印象が異なって聴こえるのではないだろうか?

「わたしは永遠に向かって歩く、あなたは始まりであり、終わりである」という歌詞もあるなど、ここでは「アガペー」=「神の愛」として歌われているのかな?とも思うが、「無償の愛」を心から求める女性の歌とも解釈できる。

2度目のサビの後、ポーリンのスキャットとメロトロンで幻想的なパートへ突入。そこから一転して勇壮さのあるインスト・パートに。そして、激情高ぶるラストの歌パートへ突入というドラマ性豊かな曲構成も素晴らしい。「無償の愛」を求める切ないまでのポーリンの歌に、思わず胸が熱くなる。たとえ「アガペー」という響きがマネケであっても、だ。

他の収録曲もポップなものから叙情的な曲まで、いずれもクオリティは高い。メロトロンやリコーダーなどの各種楽器を使ったアレンジも優れている。プロデュースを担当したのは、ストロウブスのトニー・フーパー。なるほど、プログレッシヴ・フォークと形容したくなるナルニアの音楽性は、ストロウブスを思わせる部分も多い。

これだけ作曲能力も高い才女ながら、ポーリン・フィルビーのナルニア以降の活動に関しては、あまり詳しく分かっていない。はたして、彼女は「アガペー」を手に入れることが出来たのでしょうか?

それでは来月も、ロックで泣け!


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  • NARNIA / ASLAN IS NOT A TAME LION

    女性ヴォーカルPauline Filbyの歌唱とメロトロンの使用が印象的なドラマティックな英プログレ、74年作

    69年にソロ作もリリース(ゴードン・ギルトラップ参加!)していた女性SSWのPauline Filbyを中心に、後にAFTER THE FIREを結成するギタリストのJohn RussellとKey奏者のPeter Memory Banks等で結成されたバンド。ハイ・トーンの可憐なPaulineのヴォーカル、フックに富んだ流麗なメロディを活かしたブリティッシュ・プログレが印象的。アンサンブルで特筆なのが、ムーディー・ブルースばりに止めどなく溢れ出るメロトロン。イエスのクリス・スクワイアばりのゴリゴリ感で疾走するベース、アルペジオやカッティングなどリズムを中心に歌に寄り添ういぶし銀のエレキ・ギターも安定感抜群です。曲によってはメロトロンではなく、グリーンスレイドばりのメロディアスなオルガンが溢れて、これも絶品。気品あるフォーク・ロックも魅力で、キラキラと輝く陽光のようなリコーダーの調べ、柔らかにリリシズムをつむぐピアノに心あらわれます。ルネッサンスのファンはきっと気にいるでしょう。

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