2014年12月12日 | カテゴリー:そしてロックで泣け! 舩曳将仁,ライターコラム
精力的な活動をしているが、日本ではあまり知られていないというアーティストがいる。イギリスの女性シンガー、マディ・プライアもその一人だ。
彼女のデビューは、ティム・ハートとの男女フォーク・デュオで1968年に発表した『フォーク・ソングス・オブ・オールド・イングランド Vol.1』なので、かなりのベテランだ。朴訥さのなかにも愁いや情感を感じさせる独自の声を持っていて、僕はフォーク系女性シンガーとしてサンディ・デニーに匹敵すると思っている。
そこにビビッときたのは、さすがのアシュリー・ハッチングス。彼がフェアポート・コンヴェンションを脱退し、トラッド・ロックを追求すべく69年に結成したスティーライ・スパンに、ティム&マディのコンビを招集。マディが歌ったスティーライ・スパンの初期3作は、トラッド・ロックの傑作として知られている。
だが、マディにはもっと柔軟性があった。彼女はアシュリー脱退後のスティーライ・スパンで中心となり、バンドをよりコンテンポラリーな方向にひっぱっていく。軽やかさと深みを自在に操り、トラディショナルな音楽をポップ・ミュージックへ橋渡しするマディの貢献は絶大で、スティーライ・スパンは75年の『オール・アラウンド・マイ・ハット』で英7位のヒットを記録する。
ソングライターとしても豊かな才能を持ち、78年には全曲オリジナルの『ウーマン・イン・ザ・ウイングス』を発表してソロ・デビュー。スティーライ・スパンのリック・ケンプと結婚、娘ローズの出産などもあったが、ソロやスティーライ・スパンのほか、ジューン・テイバーやジョン・カークパトリックとの共演作、カーニバル・バンドとのコラボレイト作など、現在に至るまで活動ペースは衰えるところを知らない。
2013年にスティーライ・スパンで発表した『ウインタースミス』を含め、近年の作品でも「ハズレ」と思えるようなアルバムはほとんどない。いずれにも彼女の歌の魅力が表れている良作ばかりなのに、どうも日本では評価が低い!
そこでマディ・プライアの泣ける名曲として、ぜひ聴いてもらいたいのが、ソロで発表した「ディープ・イン・ザ・ダーケスト・ナイト」だ。マディの夫(現在は離婚)のリック・ケンプ作で、彼女が歌う同曲には下記の3つのヴァージョンがある。
(1)は時代性もあってシンプルなAOR調のアレンジ。(2)はユーリズミックスのデイヴ・スチュワートがアレンジして、アニー・レノックスもバッキング・ヴォーカルで参加している。ドラマチックなアレンジで、英詞とフランス語の歌詞が(1)に追加されている。
ここでオススメしたいのは、セルフ・カヴァー中心の『イヤー』に収録された(3)。歌詞は(2)のヴァージョンを踏襲している。ピアノ等必要最小限のバックで、しっとりと歌うマディの声は、まさに慈愛の輝き。年を重ねて深みを増した彼女の声の魅力がストレートに感じられる。では、歌の内容をみていこう。
「真っ暗な夜の深み 一人浜辺に立ち もうすぐ帰るというあなたを待っているのね。記憶の奥深く 今もさまよっている逃亡者のよう どこかベッドを整えられる場所を 疲れた頭を横たえられる場所を探してるのね」
男は敷居をまたげば7人の敵あり、なんて昔から言うけど、もう7人どころか、正体も素性もわからん集団と戦ってるようなストレスを抱えてるよ!という人は多いでしょう。辛く、厳しい現実に頭を打ってクタクタに疲れている人に、マディは優しく呼びかける。そして次のように歌う。
「嵐の時には、私が港になってあげるわ。あなたを温める太陽になってあげる。雨や雪の時には、私が避難所になってあげるから、どこに行っても私のことを思いだしてね」
そんなこと言うてくれるパートナーがいたら、外に敵が何人おってもがんばれるわー! と思わず声に出して叫びたくなるほど、マディの柔らかで慈愛に満ちた声が心を震わせてくれる。
と、受け手になって聴いてもホロリとくるが、愛する人に向けてのメッセージとしてもピュアに響く。愛する人が苦しみ、悲しみ、傷ついている時、僕が港になって、太陽になって、避難所になってあげたいと、そういう純な気持ちを伝える歌としても心にに染みてくる。
この曲のオリジナル(1)は83年の発表。マディ・プライアとリック・ケンプの間に娘ローズが生まれた年である。もしかするとリック・ケンプは、生まれてくる愛娘のためにこの歌を作ったのかも……。そう思って聴くと、子持ちの方は、またグッとくるはず。いや、もう、どんな聴き方しても、彼女の声がしっとりと泣かせてくれる名曲だ。
今の恋愛事情には疎いけど、ストーカー被害とかDVとか、昨今は人を好きになるということが、どうも攻撃的になっているように感じる。人を愛し、慈しむというのは、相手のためを思って、時に港になったり、太陽になったり、避難所になってあげたりって、そういうことなんじゃないのかなぁ。
マディ・プライアの「ディープ・イン・ザ・ダーケスト・ナイト」は、そんなことを考えさせてくれる。この曲が胸に響く人なら、きっと素敵な恋愛ができると思うんだけど、どうだろう?
ちなみに、(1)(2)のヴァージョンは、82年の『フックト・オン・ウィニング』と『ゴーイング・フォー・グローリー』との2in1CDとして、2010年に発売された『フックト・オン・グローリー』で聴くことができる。こちらもぜひ聴いてみてほしい。
では、また来月、ロックで泣け!
音楽ライター 舩曳将仁
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