プログレッシヴ・ロックの中古CD豊富!プログレ、世界のニッチ&ディープな60s/70sロック専門ネットCDショップ!

プログレ、60s/70sロックCDのネット通販/買取

24時間以内発送(土・日・祝は翌営業日)、6,000円以上送料無料

COLUMN THE REFLECTION 第61回 ~スーパートランプの名盤『Crime Of The Century』 ・・・そして『Breakfast In America』という現象に続く彼らの軌跡~ 文・後藤秀樹



~名盤『Crime Of The Century』・・・そして『Breakfast In America』という現象に続くスーパートランプ(Supertramp)の軌跡~





スーパートランプが英国で74年9月に出した3枚目のアルバム『Crime Of The Century』はプログレの名盤と呼ばれる作品だが、今では忘れられた存在になってしまったのかなかなか話題には上ってこない。



◎画像1 Supertramp


新しいロック・ファンにとって、その後に超ビッグ・ヒットとなった『Breakfast In America』の印象が強すぎてプログレとして改めて聞く機会を持たないのだろうか。そんなもどかしさを感じてからしばらく経つので、今回はスーパートランプに関して触れてみようと思う。


2005年にリリースされた彼らの歴史を追った2枚組の『Retrospectacle』というアンソロジーのライナーの冒頭には「スーパートランプは明らかにスターになる存在ではなかった。それでも、このイギリスのアート・ロック・クインテットは、ファッショナブルではないものの洗練され知的な歌を持って70年代最大のアルバムのひとつに数えられる作品を残した。」と記されている。




§1 『時代(世紀)の罪(Crime Of The Century)』と題されたスーパートランプの名盤の衝撃


スーパートランプというバンドについては、英国ロック好きであれば多くの人がその名を知っているだろう。70年代最大のアルバムのひとつとは、『Breakfast In America』をさすわけだが、彼らの歴史における代表作は間違いなく『Crime Of The Century』と言えるだろう。



◎画像2  『Supertramp / Crime Of The Century』


それは、私が最初に聞いたアルバムでもある。英国では74年9月にリリースされていたが、日本では75年になって紹介された作品だ。まずジャケットが印象的だった。宇宙空間に鉄格子、その金棒をつかむ手が描かれている。何を訴えようとしているのだろうか? 力を込めたように感じられるその意匠に何かメッセージがあるのだろうか。アルバム原題の意味は直訳すると「時代(世紀)の罪」。どこか重いテーマの作品だろうと想像した。

間違いなくタイトルナンバーの持つ重厚さはスーパートランプの存在を圧倒的な迫力で伝わってきた。

しかし、アルバム全体にプログレ要素はあるものの意外なほどポップ・センスの漂う当時としても独特な作品だったという思いが強い。



★音源資料A School

試聴 Click!


アルバムに針を下ろすと、1曲目の「School」はハープ(ハーモニカ)のイントロに始まる意外なオープニング。そしてギターにのってハイ・トーンのヴォーカルが聞こえてくる。このヴォーカルが彼らの世界観を伝えることになるロジャー・ホッジソン(Roger Hodgson)である。彼自身のギター、そしてキーボードがその声を支え盛り上げていく。中間部のギター・アンサンブルは聞き物のひとつ。そして、彼らのもうひとつの武器となるジョン・ヘルウェル(John Hellwell)のウッドウィンズ(サックス、クラリネット)も登場し、この「School」を彼らの代表曲のひとつへと導くことになる。当時聞いた自分の耳にはプログレという意識はそう高まらなかったものの、ヴォーカルとともにギターも担当するホッジソンの力量に感心するとともに、リズムの二人、ベースのダギー・トンプソン(Dougie Thompson)とドラムスのボブ・シーベンバーグ(Bob Siebenberg)にも注目した。しかし、重要人物はじつはキーボード担当のリック・デイヴィス(Rick Davis)であるということには後になって気づくことになる。

2曲目の「Bloody Well Right」のイントロからのキーボード群に、ここでのヴォーカルはデイヴィスであり、曲によって歌い手が替るのも面白かった。かなりポップな曲だが、あくまでもロック・バンドが演奏する緩急のついたポップさは歓迎すべきものだった。続くホッジソンのヴォーカルの「Hide In Your Shell」も同様の印象を受けたが、ヘリウェルのサックスが導くサビのメロディはより魅力的だった。

アルバムは、全8曲で構成され、長尺曲が多いのだがデイヴィスがヴォーカルをとる「Rudy」はひとつの聞き物。要所で導入されるオーケストラ・アレンジのリチャード・ヒューソン(Richard Hewson)もいい仕事をしている。



★音源資料B Crime Of The Century

試聴 Click!


しかし、何よりも私を虜にしたのはラストのタイトル曲「Crime Of The Century」だった。ここはデイヴィスがヴォーカル担当だが、曲のよさ、展開の見事さ、アンサンブルの心地よさ、どれもが完璧だったと思える。曲のほぼ中間からエンディングまでの流れを聞く度に「時が止まって、このままいつまでも流れていて欲しい」という思いにとらわれるほどに魅力的だ。


ハイ・トーンのヴォーカリストというとすぐにイエスジョン・アンダーソンが思い浮かぶが、ホッジソンは全く違った表現で聞かせている所に彼らの個性は感じられた。ただし、「Dreamer」だけはどうにも好きになれなかった。改めて聞くと、その後のシンセ・ポップの先駆けのようなエレピに先駆性も見えるのだが、当時はあからさまにシングル・ヒットを狙った感じがして少々姑息にも思えた。

しかし、彼らの思惑通りこの「Dreamer」75年2月に英シングル・チャートで13位を記録することになる。まあ、アルバム『Crime・・・』74年11月に4位(米国では38位)となっているのでその勢いに乗ったとも言えるのだけれど。


この『Crime・・・』の成功にあたっては、プロデューサーのケン・スコット(Ken Scott)の存在が見逃せない。彼はレコーディング・エンジニアとしてビートルズの「ホワイト・アルバム」、プロコル・ハルムの「ソルティ・ドッグ」、VDGGの「ポーン・ハーツ」等数多くの作品を手がけると同時に、プロデュース業も精力的に手がけている。

スーパートランプと関わる当時はデヴィッド・ボウイRCAからの一連の作品を手がけており、スーパートランプ同様にA&Mからデヴューした多国籍メンバーを抱えるエスペラントを、そしてビリー・コブハム、スタンリー・クラーク等クロスオーバー系のミュージシャン、そしてマハヴィシュヌ・オーケストラも担当している。70年代中期以降にはチューブス、ディキシー・ドレッグス、Devo等時代の尖鋭的なアーティストを見いだすと同時に、ジェフ・ベックの80年の『There & Back』をも担当するなど大物プロデューサーとしその名を知られている。



********************************************

スーパートランプのアルバム75年4作目『危機への招待(Crisis? What Crisis?)』が、77年には5作目の『蒼い序曲(Even In A Quiet Moment)』がリリースされている。日本では国内盤の『危機への招待』76年に発売されたので、その2作品は矢継ぎ早に発売された印象がある。

彼らはその間、『Crime・・・』、『危機への招待』が続けて米国でヒットしたことから、76年に米国に移住し、その年の5月に最初の(そして唯一の)来日公演を行っている。5月28・29日に中野サンプラザでの開催だったが、その数日前にNHK「ヤング・ミュージック・ショー」のためのスタジオ・ライヴを収録している。放送されたのは8月28日。全9曲で『Crime・・・』から6曲、『危機への招待』から3曲だった。私は当然TVにかじりついて見た。期待したとおり「School」にはじまり「Crime Of The Century」に終わる構成が大正解。彼らが演奏する様子が画面の中で映し出されたことに大感激だった。ジャケットの鉄格子が徐々に大写しになる映像は幻想性が拡大につながり実に効果的な演出だった。



 
以前にもこのコラムで触れたことがあるが、当時の「ヤング・ミュージック・ショー」は宝箱のようなもので、特にNHK制作となる73年のリンディスファーン、75年のストローブスはどれほど素晴らしかったか、今思い出してもわくわくしてくる。版権のこともあり映像化は難しいのだろうが、もういっぺん見たいな・・とずっと思っている。
(書籍『僕らの「ヤング・ミュージック・ショー」 (城山隆) 』情報センター出版局(2005)の中ではそれらの事情も含め詳細に紹介されていてじつに興味深い。是非探して読んでみることをお勧めしたい。)




§2 続く『危機への招待(Crisis? What Crisis?)』、そして『蒼い序曲』の素晴らしさ

4作目の『危機への招待(Crisis? What Crisis?)』のジャケットを見ると、工場の煙突から煤煙が上がり、住宅地に黒い雨が降り、そんな中、どこか場違いなビーチでくつろぐサングラスの男。現在では環境問題と言われるが、当時社会問題だった「公害」をテーマにしたような感じに思えた。特にそのビーチに配置されたものだけがカラーで、バックがモノクロというインパクトはとても強いものがある。



◎画像3 『危機への招待(Crisis? What Crisis?)』


しかし、収録された曲の歌詞を見る限り皮肉さは感じられるもののメッセージ性は見られない。

全体にアコースティックでソフトな雰囲気が強いが、各楽器の絡み等は随分計算して構築されている。本当は前作のようなプログレ的コンセプトを想像したのだが、その期待は外れた。しかし、上質なメロディが次々とめまぐるしく変化していく曲調が多く、芳醇な面白さを体験することが出来るし、演奏面での充実も素晴らしい。落ち着いて聞くことの出来るアルバムと言える。

特に興味深かったのは4曲目の「私小説(Ain’t Nobody But Me)」で、スタートはロック・ブルースなのにサビの部分はビートルズ系のポップ調になること。彼らの曲のクレジットはすべて、ホッジソンデイヴィスの共作と記されているが、それは契約上の約束だ。主導権はどちらかにあるわけだが、聞きながらどちらの曲かの見当はつけやすいと思える。

しかし、この「私小説」などは文字通りの共作感が強い。というのも、スーパートランプのスタート時点からの双頭リーダーという印象が強い2人なのだが、年の差が6歳あってデイヴィスの方が年上だ。デイヴィスはその2人が聞いてきた音楽体験の違いが曲作りに出ていたと語っている。彼はロックン・ロール、特にチャック・ベリーファッツ・ドミノが好きだったが、ホッジソンの方はビートルズトラフィックに影響を受けているという。

リード・ヴォーカルを担当しているからという理由だけでなく、どちらが中心になって作った曲なのかを想像しながら聞くことも楽しみ方のひとつだと思うのだがどうだろうか。



★音源資料C 「私小説(Ain’t Nobody But Me)」

試聴 Click!


本作は75年夏にLAのA&Mスタジオで前作同様ケン・スコットをプロデューサーに迎え録音を開始したものの、時間をかけすぎて資金不足になってしまった。慌ててロンドンに戻ってランポート・スタジオで続けるが、さらに移動してスコーピオ・スタジオでようやく秋に完成させることができたという。

本作は米国で44位、英国では20位を記録している。



◎画像4 『蒼い序曲(Even In A Quiet Moment)』


5作目の『蒼い序曲(Even In A Quiet Moment)』のジャケットは、前作とは違ったイメージを広げられる不思議さを持っていた。デンバー郊外の山の上で雪まみれになったグランド・ピアノ。譜面台にはアルバムのラスト曲「Fool’s Overture」のスコアが置かれている。


面白いのは前作と本作のレコード・ジャケットが共通の作りになっていたこと。どちらもシングルジャケットなのだが内側が色刷りになっていた。『危機への・・・』の方は黄色。この『蒼い序曲』は青色。レコードを取り出すときにしか気づかない部分だが、そんなところへのこだわりもスーパートランプの面白さのひとつだったように思えた。本作は、彼ら自身がプロデュースしている。

アルバム1曲目はホッジソンがヴォーカルをとるアコースティック・ナンバーの「少しは愛を下さい(Give A Little Bit)」。日本ではシングルになったわけでもないのにアルバムが出た時にラジオで随分とかかった覚えがある。中盤のサックスの演奏は当時のAOR的な響きに似て聞こえる。多くの人にとってもなじみ深い曲ではなかろうか。「ラヴァー・ボーイ(Lover Boy)」は淡々とした弾き語りに始まるが、徐々に盛り上がるドラマチックなデイヴィスらしい曲。本作では、他にも「ダウンストリーム(Downstream)」「これからは(From Now On)」に聞かれるような彼のバラード的ナンバーも際だっていた。

アルバム原盤タイトル曲の「この静寂の時でさえ・・・(Even In The Quietest Moments・・・)」は、小鳥のさえずりのSEに始まる曲。(前作の冒頭でも効果音が入っていたが、この作品中にも印象的なSEがいくつか登場する。)全体にアコースティックな趣だが、前半のクラリネットの音色、中盤のオルガンがタイトル通り静かな時の流れを表しているようだ。後半のスーパートランプらしいコーラスも面白い。とても印象に残る曲だ。



★音源資料D 「この静寂の時でさえ・・・(Even In The Quietest Moments・・・)」

試聴 Click!


「ババジ(Babaji)」は、ヒマラヤに隠れ住んでいた伝説の不老不死の聖者のことを歌った曲。ビートルズ『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』のジャケットにもその姿が映っていることで知られている。ロックが東洋思想に影響を受けた例はそれまでも多々あったが、この77年という時期に改めてこうして取り上げられたことは意外だった。曲の方はあくまで彼ららしいポップ・ロック。

ラストの「蒼い序曲(Fool’s Overture)」はこのアルバムの邦題がつけられた10分を超える曲。中盤まで静かに展開し、時を経てホッジソンが静かに荘厳に歌い出す。そして後半で素晴らしく盛り上がるロック・シンフォニーとも言える作品。『Crime・・・』の緊張感伴うプログレとは別世界だが、これはこれで魅力的な大作であることは間違いない。

レコーディングは、コロラドのカリブ・ランチとLAのレコード・プラント。完全に米国が舞台だ。その米国では16位、英国では12位を記録している。(因みにオランダと、カナダでは1位を記録している。)

前作を上回る評判となったわけだ。


こうして聞いてくると、英国プログレが73年をピークにその勢いが弱まった印象があるのだが、そうした時期にスーパートランプは周囲の状況(既にパンク、ニュー・ウェイの勢いが強かった時期だ)にとらわれることなく、じつに丁寧なアルバムづくりをしていた事実が浮かび上がってくる。そして、その姿勢が、続く『Breakfast In America』に結実していくことになる。




§3 そして、『Breakfast In America』という現象へ


『危機への招待』と『蒼い序曲』に関しては、日本でのリリース間隔が短く感じられたと先に書いたが、続く『Breakfast In America』(79年3月)の登場は、どこか唐突な印象があった。前作が77年4月にリリースされたわけだから、実際には約2年間という長い時間が過ぎていたことになる。



◎画像5 『Breakfast In America』


この頃は、ピンク・フロイド『ザ・ウォール』を出し、人気はELOフリートウッド・マック、そしてUFOマイケル・シェンカーThin Lizzyゲイリー・ムーアが話題となり、TotoやStyx、Boston、Kansasといった米プログレが勢いを持つ時代になっていた。

喫茶店の有線放送で「Breakfast In America」が流れた時に、何のインフォーメーションもない中ですぐに「これはスーパートランプだ。」と気がついた。ホッジソンのヴォーカルはすぐそれとわかったし、コーラスも前2作でもよく聞けた彼ららしい印象的なものだった。ユーモラスな曲調は磨きがかかりすぎて「あれっ」とは思ったが、もっと意外だったのはあっという間に曲が終わったこと。後で確かめてみたのだが、2分39秒というひと昔前のシングル盤レベルの短さだ。それがあっという間に全米チャートの1位になってしまったのだから本当に驚いた。



★音源資料E 「Breakfast In America」

試聴 Click!


レコード店に行ってジャケットを見て、その意外さに「何かの間違いじゃないの?」とひっくり返りそうになった。でも、とにかく聞いてみなくてはと思い米盤を買ってきた。

メンバーは3作目の『Crime・・・』以降変わっていない。ロジャー・ホッジソンとリック・デイヴィスを中心に、ジョン・ヘリウェル、ダギー・トムソン、ボブ・シーベンバーグの5人。

一通り聞いて、まず「Lord Is It Mine」のポップ感覚がBJH(Barclay James Harvest)に似ているなと思った。BJHも息の長いグループで、HarvestからPolydorに移ってからも私の中では追い続ける存在だった。ポップ・ソングが多くなっても彼らなりの世界観は不変と思い、80年代に入っても無視できなかったのだが、ここに来てスーパートランプとの共通項が出来た格好になった。

ただ、大きな違いはスーパートランプヘリウェルの存在にあり、これまでもサックス、クラリネット等で曲の世界を広げる大きな役割を果たしていたのだが、タイトル曲「Breakfast・・・」では高音域から低音域まで幅広く管楽器を駆使して曲の奥行きを広げていることは素晴らしかった。

「Breakfast In America・・・」は単純なポップ・ソングに見えて、よく聞くと計算されたヴォーカルとコーラス、そして各楽器の絶妙なアレンジがなされている。それらは、これまでの2枚のアルバムで試みてきたことの完成形になったことは間違いない。スーパートランプのクレヴァーさと堅実さが、実を結んだと言えるだろう。

アルバム、シングルの米国での大ヒットを受けて、世界中でヒット・グループになったスーパートランプ。日本でもオリコンの2位にランク・インして、ロック・ファンのみならず広く知られた存在になった。テレビのCMソングにもなった。さらに、ジャケットに映ったモデルのリビーさんも人気者になりプロモーションのために来日までしている。ある番組ではジャケット通りのウェイトレス・ウェアに『自由の女神』ポーズを披露して喝采を浴びていた。正に日本でも社会現象となった瞬間だった。

このアルバムからは合計4枚のシングル・ヒットも生まれ、そうしたエピソードのひとつひとつがまさに80年代に向けた「スーパートランプ」現象、「Breakfast In America」現象だったと呼んでいいだろう。

アルバムは何でも全世界で2000万枚以上売れたということも驚異的だ。




§4 そもそもスーパートランプとは?


『Crime・・・』3枚目の作品ということは既に述べた。しかし、それ以前の2枚のアルバムは当時日本では発売されていなかった。じつは米国のA&Mレコードが自国以外のバンドと契約するようになった極めて初期のアーティストがスーパートランプだった。というわけで、最初の2枚もA&Mから出されることになる。



◎画像6 『Supertramp』


最初のアルバムにあたる『Supertramp』は、今にして思えばピーター・ガブリエルの「フラワーマン」を思い起こさせる顔がカラフルに描かれたジャケットに包まれていた。最初のメンバーはリチャード・デイヴィスロジャー・ホッジソンの他に、ギターにリチャード・パーマー(Richard Palmer)、ドラムスにロバート・ミラー(Robert Miller)の4人組で、ホッジソンは当初ベース担当だった。70年の6月にレコーディング、翌7月に発売された。


新たなバンド名の「スーパートランプ」だが、集まったメンバーの一人、パーマーが、英国詩人W.H.Davisの自伝「The Autobiography Of Super-Tramp」(1908)のタイトルから見つけ、デイヴィスが自分と同じ名前を持つ詩人の自伝であることに興味を示したことで決まったという。Supertrampには「漂流者」という意味がある。


ファースト・アルバムの『Supertramp』は日本ではしばらく未発売のままで、『Breakfast・・・』のヒットを受けて79年にようやく紹介された。77年に海外で再発された際にジャケ裏に「この作品は新作ではない・・・」等の添え書きが加えられていたのだが、日本盤もその表記が添えられた形で出された。

内容の方は、70年代初頭の謎の多い英国ロックといった魅力的な作品と評価できる。アルバム冒頭とラストに同じ曲が配置されているのも幾分トータルな作品を意識したところも微笑ましい。彼らの中ではアート・ロックと自分たちの音楽を呼んでいた。そんな時期だった。

個人的には2曲目の「It’s A Long Road」や7曲目の「Nothing To Show」といったオルガンが活躍する曲が気に入ってよく聞いた。



★音源資料F 「It’s A Long Road」

試聴 Click!


8曲目の「Shadow Song」ホッジソンの声質と曲調が初期ジェネシスの静的な部分をイメージさせていて面白いが、聞き物はやはり12分を超える「Try Again」だろう。中盤まで静かに進むが一気に盛り上がる場面は快感だが、途中で完全な沈黙場面も30秒近く続くのは不思議だった。

本作でのコンポーザー表記は、全曲デイヴィス、ホッジソン・アンド・パーマーとなっている。

このリチャード・パーマーは、クリムゾンの『太陽と戦慄』から『Red』までの歌詩を担当し、同時進行的にドイツエマージェンシー(Emergency)の一員として活躍。その後も至る所で名前を見ることになる。



◎画像7 『消えない封印(Indelibly Stamped)』


71年6月には2枚目のアルバム『消えない封印(Indelibly Stamped)』がリリースされる。71年3~4月に英オリンピック・スタジオで録音されたものだ。

日本ではキング・レコードの「A&Mロック名盤1900シリーズベスト20~ブリティッシュ・ロック編」の1枚として77年に出されたのが最初。私もその時初めてその姿を見ることになり期待していたのだが、いざジャケットを見てあまりにインパクトが強く、退いてしまったことを思い出す。

この時点で既にメンバー・チェンジがあって、前作に参加したリチャード・パーマーロバート・ミラーが脱退。新たにベースにフランク・ファレル(Frank Farrell)、パーカッションにケヴィン・カーリー(Kevin Currie)、フルート、サックスにデイヴ・ウィンロップ(Dave Winthrop)が加わっている。ここで、ホッジソンはベースからギター&ヴォーカル担当となった。合わせて、デイヴィスもヴォーカルをとるようになり、ホッジソン、デイヴィスのダブル・ヴォーカルというスーパートランプのスタイルが確立していくことになる。合わせて、コンポーザー表記もデイヴィス-ホッジソンとなるわけだ。(1曲を除く)

強烈なジャケットを横目で見ながら恐る恐るレコードに針を落とした。

1曲目「パパは気にしない(Your Poppa Don’t Mind)」は完全なロックン・ロールだが、このタイプの曲も嫌いじゃない。デイヴィスの作品ということは今ではすぐに理解できる。4曲目、5曲目でも彼らしいロック・ブルースの世界が登場する。7曲目ではカントリーも顔を出し面白い。2曲目「歌の世界へ(Travelled)」は前半部の霧の中に響くようなフルートが効果的なアコースティック・ナンバー。後半はサックスも加えて盛り上がりを見せる。3曲目「悲しきロージー(Rosie Had Everything Planned)」も夢み心地のラヴリーな曲。全体にデイヴィスのカラーが強く感じられ、ラストの「エイリーズよ急げ(Aries)」の意外性を持ったラテン・ジャズも面白い。



★音源資料G 「歌の世界へ(Travelled)」

試聴 Click!


1枚目と同じ路線のアート・ロック・アルバムと彼らは語っていたのだが、ちょっと違った感じを受ける。私はジャケットが好きにはなれないもののこのアルバムは結構気に入っている。しかし、米チャートでは158位ということで成功とは言えなかった。そこで、改めてメンバーチェンジを含め、時間をかけて新たな方向を目指すことになっていくわけだ。その結果が『Crime Of The Century』として実を結ぶわけだ。




§5 さらに、それ以前のデイヴィスとホッジソンについて振り返ってみると・・・

リチャード・デイヴィス66年ロンリー・ワンズ(The Lonely Ones)のオルガン担当としてプロの生活を始めている。67年にそのバンド名はザ・ジョイントと変え、ドイツでアングラ映画のサウンドトラックを制作していたことは以前から伝わってきていた。

2005年になってそのザ・ジョイントの未発表音源CD『FREAK STREET』(CYCLONE CCD002)が発売され、その音楽が明らかになった。



◎画像8 『The Joint / Freak Street』


彼らはその後69年夏まで活動していたことが分かるのだが、ザ・ジョイントのメンバーとして、ウォーム・ダスト(Warm Dust)に加わるキース・ベイリー(Keith Bailey)オーディエンス(Audience)ジューダス・ジャンプの(Judas Jump)に加わるトレヴァー・ウィリアムス(Trevor Williams)も参加していた。まず、その事実が興味深かった。

そのCDには10曲収録されているのだが、じつに興味深い音源だ。その中から1曲聴いてみよう。デイヴィスのオルガンがじつにカッコいい。



★音源資料H The Joint / Chariot Mercury

試聴 Click!


スーパートランプに関するバイオグラフィーの中には、今挙げたザ・ジョイントに関して、「デイヴィスホッジソンが結成した」と記されているものがあるが、それは違うと思われる。今紹介した音源CDのクレジットを見るとホッジソンの名前はない。

ザ・ジョイント時代バンドには後ろ盾のようなオランダの大富豪(通称SAM)の経済的支援があったことは有名な話だ。その大富豪が新たなプロジェクトを立ち上げるなら協力することを伝えられ、デイヴィスは前向きに考え、69年にメロディ・メイカーにメンバー募集広告を出したのも事実だ。それに応えたのがファースト・アルバムに集うメンバーであり、その中の一人がロジャー・ホッジソンだったということになる。彼はザ・ジョイントに短期間参加した後、新たなプロジェクトとしてスーパートランプの一員になるわけだ。

因みにSAMの支援はザ・ジョイント時代から72年10月まで続いていた。確かに、ザ・ジョイントからスーパートランプを立ち上げるまで苦労が続いただけに、デイヴィスにとってその支援はありがたいものだった。しかし、結果的にスーパートランプとしても2枚のアルバムを出したが、商業的失敗はかなりの借金となってSAMを苦しめてしまったのだ。しかし、デイヴィスは音楽的にさらに進めたいという思いを持っていた。その思いをSAMは理解し、それまでの借金を帳消しにしてくれたのだ。

『Crime Of The Century』に向かうバンドの決意は、どれほどのものだったかが分かるエピソードだ。



◎画像9 『Retrospectacle~The Supertramp Anthology』

73年、ケン・スコットをプロデュースに依頼し、最初の作品が「Land Ho/Summer Romance」というシングルで73年9月に録音され、74年4月に発売されている。A面はホッジソンによるモダン・ポップ、B面はデイヴィスらしくブルージーな味わいになっていることも、その後のスーパートランプの音楽の2つの側面を象徴しているようで興味深い。

冒頭でも紹介した2005年『Retrospectacle』で初めてCD化されているのだが、このアンソロジーは資料的にも詳しい上に、選曲もなかなか面白くお勧めしたい。ここに紹介したSAMとのエピソードはそのアンソロジーのブックレットに記されたデイヴィスの回想である。




§ 今回のアウトロ



もう6月になるのですね。今年に入って冬から春にかけて全国的に毎日の気温差が大きく、私の身体がその変化についていかなくなってきました。それと重なって3月からちょっと忙しくなったこともあり、体調は今ひとつの毎日です。改めて自分の歳(年齢)を感じるようになっています。そんな中、今回は久しぶりに少し長めの原稿となりました。

スーパートランプは、やはり忘れられないバンドのひとつです。アルバム『Crime Of The Century』にはまり、その世界をその後に追いかけたくなりましたが、なかなかそのプログレ的な再現は見られませんでした。それでも、アルバムが出る度に、デイヴィスの渋い重厚さを持った曲とホッジソンの明るくポップな軽快な曲、2つの要素がモダンなアレンジで展開される様子を楽しんできたことを改めて実感しています。

今回は私が聞いてきたアルバムの順番に並べたので、歴史的には分かりにくいものになってしまったかもしれませんが、こんなふうに聞いてきた奴もいるのだなと感じ取っていただければありがたいです。


80年に出た『Paris』と題された2枚組のライヴを聴いたときには、驚きとうれしさの両方を感じました。オープニングが「スクール」で、ラストが「クライム・オブ・ザ・センチュリー」。彼らのコンサートの基本となるセットリストでした。(『ヤング・ミュージック・ショー』での演奏を思い出しました。) さらに言えば、彼らのライヴではアンコールを行わないという事実。すべてのライヴがそうだったのかどうかは確認していませんが、セットリストそのもので自分たちの世界は完結しているという彼らの主張・思いがよく伝わってきました。

もちろん、彼らの作品は『・・・Famous Last Words・・・』(82年)、『Brother Where You Bound』(85年)、
『Free As A Bird』(87年)
・・・とアルバムが続くわけで、その中にも忘れられない曲もあるわけですが、今回は70年代の活動に特化しました。その後、82年にはホッジソンが脱退し、彼らの歴史は一旦1988年に終わります。

ホッジソンはソロ活動に入り94年には「イエスに加入か?」と情報が流れましたが、直前でジョン・アンダーソンの復帰が決まり、立ち消えとなりました。(それでも「Talk」ホッジソンが1曲のみ参加しています。)一方、スーパートランプデイヴィスを中心に90年代以降も何度も活動再開が試みられるのは大きな人気を誇ったがゆえのことでしょう。ただ、ホッジソンの存在あってのスーパートランプだったことにこだわってしまうのは多くの人が感じていることだろうと思います。


あと、アルバムで聞ける演奏だけでなく、ライヴでは圧倒的な存在感を誇るウッドウィンズとコーラス・ヴォーカル担当ジョン・ヘリウェルですが、ちょうど『Crime Of The Century』を聞く直前には、アラン・ボウンIslandからの2枚『Listen』『Stretching Out』(もちろんLPです)を手に入れて聞いていたので(そこではジョン・アンソニー名義での参加でしたが)、最初はデイヴィスホッジソン以上にヘリウェルに関心を持っていたことも思い出です。アラン・ボウンのトランペットと2人のアンサンブルは結構ブラス・ロックでした。



◎画像10 80年代のアルバム


今回のおしまいに小ネタをひとつ・・・

ホッジソンの実質的な活動はスーパートランプが最初ですが、その前に69年Argosyという名の下に1枚のシングルをDJMで作成していました。そのレコーディングにはあのエルトン・ジョンがセッション・ピアニストとして、さらにカレヴ・クエィ(Caleb Quaye)も加わっていたことが明らかになっています。

ついでに紹介しておくとデイヴィスの学生時代のバンドには、ギルバート・オサリヴァンがドラマーとして(!)一緒に活動していたということです。その後、すぐにシンガー・ソングライターのブームがやってくる訳で、英国音楽の横のつながりも感じられて興味深いものです。







COLUMN THE REFLECTION 第56回 極私的・キーボード・ロック再考試案  ~ 英国オルガンの音色に魅せられ続けて・・・名曲探訪④・マニアック名盤編A 文・後藤秀樹

【関連記事】

COLUMN THE REFLECTION 第56回 極私的・キーボード・ロック再考試案  ~ 英国オルガンの音色に魅せられ続けて・・・名曲探訪④・マニアック名盤編A 文・後藤秀樹

音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!今回も氏が選ぶ英国キーボード・ロックの名曲を、グループの来歴と共にご紹介。カケレコ・ユーザー御用達グループ多数でお送りします☆


COLUMN THE REFLECTION 第57回 極私的・キーボード・ロック再考試案  ~ 英国オルガンの音色に魅せられ続けて・・・名曲探訪⑤・マニアック名盤編B 文・後藤秀樹

【関連記事】

COLUMN THE REFLECTION 第57回 極私的・キーボード・ロック再考試案  ~ 英国オルガンの音色に魅せられ続けて・・・名曲探訪⑤・マニアック名盤編B 文・後藤秀樹

音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!今回は氏が選ぶ英国キーボード・ロックの名曲集の最終回。今回もカケレコ・ユーザー御用達バンド達をディープに掘り下げてまいります♪


COLUMN THE REFLECTION 第58回 忘れられない一発屋伝説⑦  ~ 日本の洋楽シーンでヨーロッパのポップスが台頭した時期を振り返る 1~ 現在につながるダニエル・ビダルとシルヴィ・バルタンの歌を中心に・・・フランス編A 文・後藤秀樹

【関連記事】

COLUMN THE REFLECTION 第58回 忘れられない一発屋伝説⑦  ~ 日本の洋楽シーンでヨーロッパのポップスが台頭した時期を振り返る 1~ 現在につながるダニエル・ビダルとシルヴィ・バルタンの歌を中心に・・・フランス編A 文・後藤秀樹

音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!今回は日本でヨーロッパのポップスが人気を博した時代を振り返る第1回、フレンチ・ポップ編をお送りします。


COLUMN THE REFLECTION 第59回 忘れられない一発屋伝説⑧  日本の洋楽シーンでヨーロッパのポップスが台頭した時期を振り返る 2  ~見事なポップ・センスの中にロマンの味わいを聞かせたミッシェル・ポルナレフの世界観 文・後藤秀樹

【関連記事】

COLUMN THE REFLECTION 第59回 忘れられない一発屋伝説⑧  日本の洋楽シーンでヨーロッパのポップスが台頭した時期を振り返る 2  ~見事なポップ・センスの中にロマンの味わいを聞かせたミッシェル・ポルナレフの世界観 文・後藤秀樹

音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!今回は日本でヨーロッパのポップスが人気を博した時代を振り返る第2回。「フレンチ・ポップの貴公子」ミッシェル・ポルナレフを主役にお送りいたします。


COLUMN THE REFLECTION 第60回 ちょっと辛かった時期に心に響いたNazarethとAerosmith  ~「Love Hurts」「Dream On」から「Make It」へ~ 文・後藤秀樹

【関連記事】

COLUMN THE REFLECTION 第60回 ちょっと辛かった時期に心に響いたNazarethとAerosmith  ~「Love Hurts」「Dream On」から「Make It」へ~ 文・後藤秀樹

音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!今回は浪人時代の氏を支えたという2つの楽曲、ナザレス「Love Hurts」とエアロスミス「Dream On」を中心に語ってまいります。

「Column The Reflection」バックナンバーはこちらからチェック!

SUPERTRAMPの在庫

「SUPERTRAMPの在庫」をもっと見る

コメントをシェアしよう!

あわせて読みたい記事

中古CD買取案内

カケレコ洋楽ロック支店

新着記事

もっと見る

プロのライター&ミュージシャンによるコラム好評連載中!

文・市川哲史

文・深民淳

文・舩曳将仁

文・netherland dwarf

人気記事ランキング

* RSS FEED

ロック探求特集

図表や代表作品のジュークボックスなどを織り交ぜ、ジャンル毎の魅力に迫ります。