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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第六十五回:WALLENSTEIN『MOTHER UNIVERSE』

コロナウイルスが収まりませんね。夏はウイルスが活動しにくいとか、ワクチン打ったら安心なので色々と得なパスポート出しますよとか、どうなったんでしょうね。大人はまあいいとして、かわいそうなのは子供たち。待ちに待った夏休み。海へ行きたい、山へ行きたい、バーベキューがしたい、花火がしたい、おじいちゃんやおばあちゃんに会いに帰省したい!とか、色々なことやりたかっただろうに、行動を制限せざるを得ないような状況になっている。気にせんとバンバンやる人もいるだろう。警戒する人と、警戒しない人と、どっちが正しいというわけではないと思うし、自分の信じる正しさを強要されることほど迷惑なことはないと思っているし、自分もそれはやりたくない。まあ、早く収束してほしいと、それだけです。

それにしても、「おじいちゃん」「おばあちゃん」という言葉は、その響きだけで何ともノスタルジックな気持ちにさせてくれる。自分の存在をすべて受け入れてくれるような、無条件で愛してくれるような、それが「おじいちゃん」「おばあちゃん」のイメージではないかなと。最近のニュースを見ていると、「キレる年寄り」とか、犯罪に手を染める年寄りも多くて、必ずしもそうではないと思うけれども。

かくいう僕にも、おばあちゃんの忘れられない思い出がある。あれは小学校1年生の夏休み、家に泊まりに来てくれたおばあちゃんを野球に誘って公園へ。野球がうまいところを見せたかったんだけど、和装のおばあちゃんをピッチャーにして、ゴムボールをバンバン打つということをした。あの時、おばあちゃんは何歳だったのか。悪いことしたなあ。

おばあちゃんは、いつも帰る間際に僕を呼びよせて、「お母さんには内緒やで、マンガでも買い」と言って千円札を握らせてくれた。僕が内緒にできなくて母に言うと、おばあちゃんは少し困ったような顔をしながら、「ほんま正直な子やねえ。だまっとったらええのに」と。そう言われるのも嬉しかったんだよなぁ。と、ほら、ノスタルジックになるでしょ?

この夏にも、「おじいちゃん」「おばあちゃん」に会えることを楽しみにしていた子供たちは多かったことでしょう。でも、その大好きな二人から、「今はコロナが怖いから来ないでくれ」とか言われるんだから、なんだか切ないよなあ。そんなガッカリしている子どもたちにおススメしたいのが、いや、そういうわけではないけれど、今回紹介したいのはジャーマン・プログレ・バンドWALLENSTEINの『MOTHER UNIVERSE』です。おばあちゃんジャケットで有名な一枚。

WALLENSTEINのルーツをたどれば、1971年に結成されたBLITZKREIGへとさかのぼる。ドイツのフィールゼン出身で、ピアノやベースを操るユルゲン・ドラーゼを中心として結成されたのがBLITZKREIGで、初期のラインナップは、ギターのヴォルフガング・ジンジャー・ステイニケ、ドラムのハラルド・グラスコフ、ベースはオランダ出身のジェリー・ベルカースだった。天文学者を目指してヴォルフガング・ジンジャー・ステイニケが脱退。後任にはアメリカ人のビル・バローンが加わる。ちなみにヴォルフガングは夢をかなえて天文学の本とか出版しています。

イギリスに同名のバンドがいたことと、ドイツ語で「電撃戦」を意味する単語を使用するのは不適切という理由から、BLITZKREIGからWALLENSTEINへと改名する。気になるのは、1970年代初頭のイギリスに存在していたというBLITZKREIGというバンド。どんなバンドだったんだろう?

それはさておき、三十年戦争におけるボヘミアの傭兵隊長、アルブレヒト・フォン・ヴァレンシュタインの名前からとってWALLENSTEINと名乗った彼らは、1971年にアルバムをレコーディング。翌1972年にPlizレーベルから『BLITZKREIG』をリリースする。鉄板を張り付けて作り上げたアルブレヒト・フォン・ヴァレンシュタインの肖像(?)というハードなテイストのイラスト・ジャケット。内容は、ピアノやメロトロンの鍵盤楽器が醸しだすクラシカルな雰囲気で聴かせるシンフォ系プログレ。ハード・ロック的な側面もあるが、叙情的なメロディの美しさが光る良作だ。もうちょっとファンタジー性の強いジャケットでも良かったのではないか?

1972年に2作目となる『MOTHER UNIVERSE』を発表。ベースのジェリー・ベルカースは、同時期にWALLENSTEINのメンバーも参加したソロ作『UNTERWEGS』を発表し、そのままWALLENSTEINを脱退してしまう。一方で、ユルゲン・ドラーゼとハラルド・グラスコフは、WALLENSTEINのアルバムをプロデュースしたディーター・ダークスが整えたセッションに参加。マニュエル・ゲッチングやクラウス・シュルツェらも関わっていたそれらの音源は、1974年にTHE COSMIC JOKERS & STERNENMADCHEN名義の『PLANETEN SIT-IN』、THE COSMIC JOKERS名義の『THE COSMIC JOKERS』として、Kosmische Musikレーベルからリリースされる。

WALLENSTEINも同レーベルへと移籍。ジェリー・ベルカースの後任にディーター・マイアーが加入。さらに専任ヴァイオリン奏者のヨアヒム・ライザーが加入し、1973年に『COSMIC CENTURY』をリリース。本作のジャケット・デザインも面白みに欠けるが、クラシックとハードな面のバランスが良く、彼らのシンフォニック・プログレ・バンド期の傑作といえるものに仕上がっている。

ベースがユルゲン・プルタに交代し、1975年に『STORIES,SONGS & SYMPHONIES』を発表。同作の名義はTHE SYMPHONIC ROCK ORCHESTRA WALLENSTEINになっている。内容的にはポップな歌メロの比重が増し、またヴァイオリンの活躍もあってKANSASを思わせるところもあるが、十分にクラシカルかつ叙情的。前作ほど評価されていないが、これもまた良作です。

1970年代中盤以降になってメンバーが次々と交代。ユルゲン・ドラーゼ、ユルゲン・プルタの二人に、ギターのゲルト・クロッカー、ドラムのニッキー・ゲブハルトという編成となりRCA Victorへ移籍。『NO MORE LOVE』(1977年)を発表する。これは当時日本盤もリリースされ、邦題は『雌雄同体』というスゴイものだったがジャケットもすごい。美しいメロディやクラシカルなアレンジは健在で、内容的には前作と並ぶキャッチーさも魅力の叙情的プログレ作になっている。

WALLENSTEINがポップ化するのはこれ以降で、1978年の『CHARLINE』、1979年の『BLUE EYED BOYS』では、初期の雰囲気が薄れたポップ・バンドと化す。ポップ・バンドとみれば良質で、前者からは「Charline」、後者からは「Don’t Let It Be」というシングル・ヒットが生まれている。1980年の突入と共にHarvest(EMI)と契約して『FRAULEINS』、1981年に『SSSSS…TOP』を発表するが、商業的に成功といかなかった。1982年に思いっきりテクノ・ポップに振り切ったシングル「Tanzen」を発表したのを最後に解散してしまう。プログレ・ファン的には、『NO MORE LOVE』まででしょうか?

さて、今回紹介したいのは、1972年にリリースした2作目『MOTHER UNIVERSE』だ。思いっきり、おばあちゃんです。撮影したのはハラルド・グラスコフ。おばあちゃんはユルゲン・ドラーゼの本当のおばあちゃんとのこと。同作はゲートフォールド・ジャケットで、見開き内側には銀河の写真が配されている。そして、裏ジャケットには、おばあちゃんの後頭部。そう、おばあちゃんの顔のフロントとバックに宇宙が挟まれているデザイン。おばあちゃんの内なる宇宙がゲートフォールドで表現されているのだ。おばあちゃんの内なる宇宙って何?!

ここでは同作の1曲目を飾ったタイトル曲「Mother Universe」を聴いていただきましょう。メロトロンの響きが何よりも心地よい&美しい。ゆったりとしたリズムに乗る叙情的なメロディも耳に優しく響き、叙情メロディ愛好家ならグッとくるはず。他の収録曲もクラシカルなセンスが活きた良曲ぞろいで、ジャーマン・シンフォ系の名作だ。そんなWALLENSTEINを牽引してきたヨルゲン・ドラーゼは、同バンド解散後に何と料理評論家として活動し、料理本を出版しています。音楽やってくれればいいのに。

それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。

Mother Universe

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