2022年6月13日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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前回の当コラムでAPHRODITE’S CHILD『666』を紹介した。まさかその直後にヴァンゲリス・パパタナシューが他界するとは。彼のソロ作だけでなく、APHRODITE’S CHILDも再評価されますように。
さて、前々回と前回に続いて、今回も『レコード・コレクターズ』の企画と勝手に連動しちゃいます。同誌は今年で40周年。それを記念して、先々月号(2022年5月号)で「今聴くべき60年代アルバム200」を、先月号(2022年6月号)で「同70年代アルバム200」というランキング企画が組まれた。各選者が、それぞれの年代の名盤を1~30位で決定し、それを集計してベスト200でランキングするというもの。僕も参加させていただいたが、個人として選んだ30作のなかで本ランキングに選ばれなかったものもある。それを前々回、前回の当コラムで紹介させていただいたというわけです。
それに続いて、『レコード・コレクターズ』2022年7月号では、「今聴くべき80年代アルバム200」が企画された。今回も参加させていただいたが、なんと僕が選んだ30作のうち、半分の15作が本ランキングに選ばれなかった。残念!さすがに15作となると、全てに音源をつけてもらうのはカケレコ・スタッフSさんに申し訳ないので、今回は手短に紹介します。
まずは26位に選んだドイツのZENO『ZENO』(1986年)。元SCORPIONSのウリ・ジョン・ロートの弟ジーノ・ロートが率いるメロディック・ハード・ロック・バンドのデビュー作。後にFAIR WARNINGを結成するウレ・リトゲンも在籍した、メロハー・ファン必聴のアルバムです。同作の中でも、ひと際ドラマチックな「Far Away」を聴いてもらえば、その魅力がわかってもらえるでしょうか?
25位に選んだのはJUDAS PRIEST『SCREAMING FOR VENGEANCE』(1982年)で、NWOBHMブームの中で一念発起したベテランが、ヘヴィ・メタルこうあるべしと示した作品。
19位に選んだゲイリー・ムーアの『AFTER THE WAR』(1989年)は、彼のハード・ロック時代最後の作品で、シャープなハード・ロックからアイリッシュ魂溢れる曲まで、彼が80年代に開拓してきた音楽性の最終到達点といえるのではなないかと思って。ここではアルバム・ラストに収録された「Blood Of Emeralds」を聴いてみてください。
18位はマドンナ『LIKE A VIRGIN』(1984年)。まだ純朴な少年にとって、「Like A Virgin」や「Material Girl」のセクシーなミュージック・ヴィデオはショックでした。それだけの理由で選出。
17位はHANOI ROCKS『BANGKOK SHOCKS, SAIGON SHAKES』(1981年)。フィンランド出身のグラム系ハード・ロック・バンドのデビュー作。GUNS ‘N’ ROSESのアクセル・ローズにも影響を与えたバンドです。
16位はBLACK SABBATH『HEAVEN AND HELL』(1980年)。ロニー・ジェイムズ・ディオとBLACK SABBATHの合体が、これほどまでにドラマチックなヘヴィ・メタルにつながるとは! RAINBOWもDIOも、後のBLACK SABBATHも、同作に匹敵するドラマ性の強いヘヴィ・メタル作を残せていないという事実が、同作の孤高性を伝えていると思います。ここではタイトル曲「Heaven And Hell」を聴いてもらいましょう。
15位はベリンダ・カーライル『RUNAWAY HORSES』(1989年)。ヴィジュアル的な好みでいえばマドンナだったけど、声で魅了されたのはベリンダ・カーライルでした。感情を込めるところで、ちょっとハスキーな声でヴィブラートする彼女の歌唱は、中学生の僕の心をしっかりとつかんだのでした。有名ミュージシャンも多数参加しているし、よく出来たポップ・ロック作。ここではジョージ・ハリソンがギター・ソロを弾いた「Leave A light On」を聴いてもらいたいと思います。
14位に選んだDREAM THEATER『WHEN DREAM AND DAY UNITE』(1989年)は、プログレッシヴ・メタルの出発点。
13位はMICHAEL SCHENKER GROUPの『MICHAEL SCHENKER GROUP』(1981年)で、シャープなリフを主体にしたハード・ロック、ヘヴィ・メタルという1980年代スタイルの原点のひとつかと。
11位はMAGNUM『ON A STORYTELLERS NIGHT』(1985年)で、誰もMAGNUMは選ばんやろなぁ、と思いながらも、大好きなバンドなので外すわけにはいかなかった。ドラマ性、重厚さ、ポップさ、美しいバラード、格調高さや威厳といった、英国産ハード・ロックに求めるすべてを網羅した完璧な一枚と思います。『WINGS OF HEAVEN』(1988年)も傑作ですよ。まとめて再発されてほしい。ここでは『ON A STORYTELLERS NIGHT』のトップ曲「How Far Jerusalem」を聴いてください。
10位はHELLOWEEN『THE KEEPER OF THE SEVEN KEYS』(1988年)で、以降にHELLOWEENフォロワーが大量に登場したことをリアルタイムで経験した者としては、同作の衝撃ってかなり大きかった実感があります。以降のパワーメタルの流れを変えたアルバムです。
9位は我らが(?)MARILLION『MISPLACED CHILDHOOD』(1985年)で、フィッシュがシンガーを務めていた時代の傑作コンセプト作。特に叙情性豊かなアルバム前半の展開は、プログレ史に残るものかと。
8位のWHITESNAKE『WHITESNAKE』(1987年)は、1980年代のゴージャスなサウンドのハード・ロックを代表するものとして選出したんですが。
3位に選んだQUEENSRYCHE『OPERATION:MINDCRIME』(1988年)は、入るかと思ったけどなぁ。かなり陰惨な物語だけど、それをアルバム一枚で描いたストーリー作。ダークな物語を表現するのに、ヘヴィ・メタルがいかに有効を証明してみせた作品としても価値の高いものと思ったんですが!
さて、今回紹介したいのは、僕が27位で選出し、本ランキングでも151位に『PARADISE THEATRE』が選ばれたSTYXです。
STYXについて今さら詳しく説明する必要はないかもしれないが、1972年に『STYX』でデビューし、日本ではアメリカン・プログレ・ハードのひとつとして紹介されることも多い。ある世代には、「ドモアリガト、ミスターロボット、ヒミーツヲシリターイ」という、「Mr.Roboto」の軽くて、ちょっとアホっぽいミュージック・ヴィデオのイメージが刷り込まれているという人も多いのでは? しかし、メイン・シンガーのデニス・デ・ヤングが抜けた近作でもコンセプト作に挑むなど、ずっと意欲的なアルバム作りに取り組んでいる。あまりそう思われていないようだが、アメリカン・プログレ・ハードと呼ばれたバンドの中でもプログレ魂は強い。ブロードウェイ・ミュージカル風の曲から、ハード・ロック、ポップ・ロック、バラードなど、各メンバーが様々なタイプの曲を提供。それでいて、どれもヒット性に優れ、かつ品の良さを感じさせるのもSTYXの魅力といえる。
当コラム的に今回紹介したいのは、彼らの7作目『GRAND ILLUSION』(1977年)です。
STYXは、1973年の2作目『STYXⅡ』で米20位をとって以来、ずっと良作を発表してきたにもかかわらず米チャートの50位に手が届かなかったのが、『GRAND ILLUSION』で米6位を獲得。彼らにとっての出世作となった。
アルバム・ジャケットは、シュールレアリスムの巨匠ルネ・マグリットの「白紙委任状」という絵画作品をモチーフにしたもの。僕が中学生の頃、確か美術の教科書に載っていた「大家族」という作品に惹かれて、マグリットの画集を購入。そこに掲載されていた「白紙委任状」にも一目ぼれ。高校生の頃には、「白紙委任状」のジグソーパズルを見つけて即買いしたことも。
「白紙委任状」には、森の中を進む馬上の女性が描かれている。だが、木の向こうにいるのか、こちらにいるのか、目に見えるものと見えていないものを同じ画面に描く非現実的な世界になっている。STYX『GRAND ILLUSUON』では、その「白紙委任状」の馬の部分に網目の着色をし、馬上の女性は塗りつぶされ、代わりに女性の顔がこちらを見ている。見えているものと見えないものだけでなく、そこにないものと、こちらを見ている顔が描かれている。マグリットの穏やかな狂気の世界を、ポップ・アート風にしたものともいえるジャケット・デザインで、彼らのアルバムの中でもインパクトが強い。
STYXの黄金時代到来を告げる充実した内容のアルバムで、ここではシングル・カットされて米8位を記録した「Come Sail Away」を聴いていただきましょう。
STYXが、プログレ・ファンにも、ロック・ファンにも、もう少し評価されてもいいと思っているのは僕だけでしょうか?
それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。
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