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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第五十二回 TREES『ON THE SHORE』(イギリス)

前回に続いてTREESです。ようやく我が家に、彼らの50周年記念アイテムである4CD『TREES』が届いた。本のように見開くパッケージで、4CDが入ったスリーブと、ヒストリーや写真を掲載したカラーページから構成されている。ヒストリーに目新しい情報はなかったが、彼らのセカンド『ON THE SHORE』に関わる興味深い写真があった。それは後述するとして、まずは前回紹介できなかったTREESのバイオグラフィーから。

TREES結成のきっかけは、大学を卒業したデヴィッド・コスタ(g)とバリー・クラーク(g)の出会いだった。二人はバンド結成に向かい、バリー・クラークと同じ家に住んでいたというバイアス・ボシェル(b)を誘う。彼の本名はトバイアス・ボシェルというそうだが、短くバイアスと名乗っていた。次に、バイアス・ボシェルと同じ学校に通っていて、銀行で働いていたアンウィン・ブラウン(ds)が加わることになった。デヴィッド・コスタは学生の頃にフィリップス・レコーズで働いていたことがあり、そこで広報として働いていたスー・ハンフリスの妹、セリア・ハンフリスが最後のピースとして加入し、1969年にTREESが結成された。

TREES結成当初は、どういった音楽性で活動しようかというアイディアがなかった。デヴィッド・コスタが1960年代初頭からセシル・シャープ・ハウスに通ったり、フォーク・クラブで演奏したりして、マーティン・カーシーとも知り合いになっていたことから、TREESの音楽性もフォーク寄りのスタイルになったという。

TREESは、HAWKWINDやHIGH TIDEが所属していたクリアウォーターとマネジメント契約を結び、そこで制作したデモ・テープをきっかけにCBSとレコーディング契約を獲得する。この時点でTREESはギグの経験がなかったというから、よほどデモの出来が良かったのだろう。再発CDなどに収録された発掘デモは、この時の音源かもしれない。

TREESはデビュー作『THE GARDEN OF JANE DELAWNEY』をレコーディングし、1970年に発表。収録曲の半分がトラッドのアレンジで、半分が主にバイアス・ボシェル作のオリジナルとなっている。バイアス・ボシェルのメロディ・センスには並々ならぬものがあり、タイトル曲や「Epitaph」に漂うゴシック的な冷ややかさは、他のフォーク・ロック・バンドと異なるTREESの個性となっていた。

シングルとして「Nothing Special / Epitaph」を発表。すぐにセカンド・アルバムのレコーディングに入り、『ON THE SHORE』を発表する。同作にはオリジナル曲が3曲のみ。前作からインターバルが短かったからかもしれない。

このTREESヒストリーは、BGOからの再発CDのライナーを参考にしているが、その中に「「Polly On The Shore」の別ヴァージョンがCBSのサンプラー『FILL YOUR HEAD WITH ROCK』に収録されている」という記述がある。これは間違いで、同サンプラーに収録されているのは、1作目収録曲の「The Garden Of Jane Delawney」である。実際に聴いたわけではないが、どうやらこれはオリジナルと同じヴァージョンと思われる。「Polly On The Shore」の別ヴァージョンが収録されているのは、CBSの別のサンプラー盤『ROCK BUSTER』だという話は前回も書いたとおり。

1971年に入って、デヴィッド・コスタ、アンウィン・ブラウン、バイアス・ボシェルが脱退し、ロビー・ヒューレット(b)、LIVERPOOL SCENEのピート・クラーク(ds)が加入(ゲスト参加?)していたが、1971年5月には解散する。ところが、同年11月になって、セリア・ハンフリスとバリー・クラークに、MR.FOXのバリー・ライオンズとアラン・イーデン、JSD BANDのチャック・フレミングというメンバーで再結成される。しかし短期間で解散となった。

この2作目発表後のTREESのヒストリーについては、BGO再発CDライナーとヴァーノン・ジョインソン『TAPESTRY OF DELIGHT』等で記述内容が若干異なっている。興味深いのは、1972年にBASFレーベルから発表された、アメリカ人フィル・トレイナーによるTRAINER名義の『TRAINER』に、1971年11月の再結成TREESメンバー+バイアス・ボシェルが参加していること。バイアス・ボシェルも11月の再結成メンバーだったのだろうか? 2作目発表以降の時間軸に沿ったメンバー変遷には不明な点が多い。

1973年になって、アンウィン・ブラウン以外のTREESメンバーでバンド結成を画策するが、セリア・ハンフリスは最初のリハーサル直後に脱退。残されたメンバーは、THE NAVIGATORと名乗って活動を続ける。最終的にTREESメンバーで残ったのはデヴィッド・コスタとバリー・クラークだけで、彼ら以外に数多くのメンバーが参加するプロジェクトとして、CASABLANCAを結成するに至る。CASABLANCAは、1973年に同名タイトルのデビュー作を発表し、以降も数作発表している。

バイアス・ボシェルはキキ・ディーをはじめとしたミュージシャンと活動。デヴィッド・コスタはジャケット・デザイナーとして著名になる。バリー・スパークスは宝飾関係の仕事についている。アンウィン・ブラウンは教師の道に。地元で音楽を演奏することもあったようだが、すでに故人となっている。セリア・ハンフリスはDJのピート・ドラモンドと結婚して音楽シーンから離れている。セリアは、元FAIRPORT CONVENTIONのジュディ・ダイブルが発表したソロ作『TAKING WITH STRANGERS』(2009年)へ久しぶりにゲスト参加したほか、クリス・ウェイドによるフォーク・プロジェクトDODSON AND FOGGのアルバムにもバック・ヴォーカルで参加するなど、復帰の兆しを見せていたが、前回にも書いたように2021年1月に他界してしまう。

もう15年ほど前になるが、僕がホームページでTREESのことを紹介したところ、日本で宝飾関係の仕事をしている方からメールをいただいた。その方は、バリー・スパークス、TREESのマネージャーをしていたニコラス・ハリスと仕事をしていて、彼らが「昔はプロのミュージシャンだった」というのを、ずっと「本当か?」と疑っていたそうだ。それが僕のHPを見て、「本当だった!」と思ったとか。当時の写真なども見せてもらったそう。大阪の人間らしい図々しさ(?)全開で、その画像を送ってもらったり、サインを頼んだりすればよかったかなぁ?

ここで、前回に書いた「Polly On The Shore」について。前回には、『TREES』などに収録された同曲の1970年のデモと、ブートレッグ『3RD Album…DEMO’S』に収録された『ROCK BUSTER』収録ヴァージョン(とクレジットされている曲)が同じかも?と書いたが、実際に聴き比べてみると、前者の歌い出しはセリアのみで、後者はセリア+男性ヴォーカルになっている。結果として、全くの別テイクでした。

さて、ようやく当コラム本題のジャケットの話。今回はTREESの2作目『ON THE SHORE』です。撮影はポ・パウエルことオーブリー・パウエル、デザインはストーム・ソーガソン。イギリス屈指のジャケット・デザイン集団ヒプノシスだ。なだらかな勾配の丘に立つ少女、その少女が水を撒く一瞬に描かれる放物線、という構図がすばらしい。動きが出るはずの瞬間にもかかわらず、そこに映っているすべての被写体が生命性を無くしてしまったかのように静かだ。セピアな色調のせいだろうか。女の子の名前はカテリーヌ・ミーハンという。ヒプノシス・ファン、ブリティッシュ・ロック・ファンからも人気の高いジャケットとして知られている。

2018年12月21日、バイアス・ボシェルとデヴィッド・コスタが中心になり、ON THE SHORE BANDとしてライヴを行なった。『TREES』にもその時のライヴ音源が収録されているが、その会場となったCAFÉ OTOのライヴ紹介ページに、なんと『ON THE SHORE』撮影時の別カットが使われているのだ。(https://www.cafeoto.co.uk/events/the-music-of-trees/)

当然、撮影時のアウトテイクはあるだろうけど、まさか現存しているとは! と驚いていたら、『TREES』にも当時のフィルムが掲載されている。小さいサイズなのではっきりとわからないが、それを見ると、カテリーヌ・ミーハン嬢は、様々な場所で何度も水をまいていた様子。このフィルムの版権がどうなっているのかわからないけど、全部見てみたいというファンは多いのではないだろうか?

デモや未発表ライヴ音源、BBC音源もまだまだあるはず。ジャケット写真のアウトテイクも含めて、このあたりをコンプリートしたアイテムが出ないものか?

それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。

Geordie

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  • TREES / ON THE SHORE

    70年発表の2nd、エレクトリック・トラッドにサイケ・フィーリングをまぶしたような個性派ブリティッシュ・フォーク傑作!

    英フォークを代表するグループ、70年作2nd。半分はトラッド、半分はオリジナルという構成で、フェアポート・コンヴェンションからの強い影響を感じさせるエレクトリック・トラッドがベースですが、サイケデリックなフィーリングもあるのが特徴。そのサウンドを生みだしているのが、名手バリー・クラークによるリード・ギターで、ズシリと重く、なおかつ凛とした透明感もあるトーンはリチャード・トンプソン直系ですが、その演奏は、より奔放でロック的ダイナミズムがあって、徐々に音が立ち上るヴァイオリン奏法の多用や、グレイトフル・デッドを彷彿させるサイケデリックにたゆたうようなフレージングはかなり先鋭的。一方で女性ヴォーカルのセリア・ハンフリスは伝統的なフォーク/トラッド・スタイルで、時に清楚なハイ・トーン、時に妖艶な歌い回しで、楽曲を静謐かつ艶やかに彩っています。エレクトリック・トラッドとサイケが結びついたプログレッシヴなアンサンブルと、トラディショナルな女性ヴォーカル。その革新と伝統との奇跡的な拮抗と、そこから生み出されるダイナミズムと緊張感とがこのグループ最大の魅力と言えるでしょう。そんな世界観を見事に描いたヒプノシスのジャケもまた特筆。孤高の存在感を放つブリティッシュ・ロック屈指の傑作です。

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