2021年4月9日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
タグ:
前回のコラムで書いたバーバラ・トンプソンの14枚組CD『LIVE AT BBC』が到着。英文ブックレットも充実の内容。バーバラの写真がもっと多いとよかったというのは贅沢か。しかし、BBC音源をゴソッと集めてボックスにする企画は、なかなか衝撃的だった。発売元のレパトワは、ほぼ同時にCOLOSSEUMの6枚組CD『TRANSMISSIONS LIVE AT THE BBC』も発売。そちらも購入したけど、聴きごたえ十分。この企画、ぜひ続けてほしい。
衝撃的といえば、明石家さんまが司会を務めるバラエティ番組『痛快!明石家電視台』が30周年を迎えたのも衝撃的だった。先月にはそのスペシャル番組が放送されていて、今この原稿は、録画したそれを見ながら書いている。えっ、ちょっと待った! 高校生になったばかりの僕が、「今日から始まる明石家さんまの新番組楽しみやなぁ」と、布団の上に座ってワクワクしていたのが、もう30年前のこと? 見た目はすっかりオッサンと化したし、取り巻く環境も大きく変化したけれど、あれから30年間、ほぼ欠かすことなく『痛快!明石家電視台』を見続けて、今も高校生の頃と同じように腹を抱えて笑ってるって、これってナカナカの衝撃ではないか、成長してんのか?してないのか?とか。
それはまあ一人で考えるとして、40代半ばを過ぎても衝撃を受けることが、まだまだ色々とある。そのなかでも、これはどうしてもこのコラムで伝えておきたいという衝撃の事実がありまして、それが英ロック・バンドのTOE FATに関することです。
TOE FATといえば、1970年に発表したデビュー・アルバム『TOE FAT』のジャケットが有名。このジャケットを手掛けたのは、PINK FLOYDやUFO他で有名な、デザイン集団ヒプノシス。首から上が親指になっている「親指人間」が、中央にズーンとバストアップで写っている。向かって右側には腕を組んだ姿勢の「親指人間」が。向かって左側には座っている「親指人間」と、その後ろに「親指人間」の女性が立っている。場所は海岸。シュールで知られるヒプノシスの中でもシュールすぎるジャケットだ。以前に、カケレコ・スタッフの佐藤さんも「脱力せざるを得ない残念ジャケ」と書かれていたけど、本当、その通り。アメリカ盤では、女性の「親指人間」が裸で良くないということから、前に座る男性の「親指人間」ともども消去され、なんと羊に変えられている。よりによって羊? それはそれでオリジナルに輪をかけてシュールに。さらに脱力ものです。
TOE FATは同年に2作目の『TWO』をレコーディング。こちらもヒプノシスがジャケットを手掛けたが、サナギや木の枝のようなものが見えるミクロな風景の中に、「親指人間」たちがいるという。「親指人間」って、こんなに小さかったのね!
だが衝撃なのは、このジャケットではない。衝撃は彼らのヒストリーに関すること。2020年にエソテリックから彼らの2枚のアルバムとシングル曲をセットにした2CDが発売され、英文ブックレットにマルコム・ドームがTOE FATのヒストリーを掲載している。中心人物のクリフ・ベネットからも証言を得ているそのなかで、衝撃の事実が明かされているのだ。かいつまんで紹介しよう。
TOE FATのシンガー、クリフ・ベネットは、1960年代初頭からCLIFF BENNETT & THE REBEL ROUSERSを結成して数々のシングルを発表する。クリフ・ベネット以外のメンバーは何度か入れ替わり、CLIFF BENNET & HIS BANDなどと名前を変えたりしながら活動を続けるが、1969年には解散してしまう。契約が残っていた所属レーベルのパーロフォン(EMI)と話し合いがもたれ、新たにハード・ロック・タイプのバンドを結成することになる。
こうして誕生したのがTOE FATだった。1970年にパーロフォンからリリースされたデビュー作『TOE FAT』の裏ジャケットには、クリフ・ベネットに加え、ケン・ヘンズレー(g,kbd)、リー・カースレイク(ds)、ジョン・コナス(b)がメンバーとしてクレジットされていた。いずれもTHE GODSというバンドのメンバーである。ジョン・コナスはTHE GODSのギタリスト、ジョー・コナスのこと。
と、これが約50年にわたり信じられてきたTOE FATの結成ヒストリーだが、先に紹介したエソテリックの再発CDライナーによると、どうも事情が違うらしい。クリフ・ベネットが、以前にレコーディングで知り合っていたケン・ヘンズレーを通じて、彼が在籍していたTHE GODSのメンバーをリクルートした、というところまでは正しいが、ケン・ヘンズレー、リー・カースレイクと、もう一人はジョー・コナスではなく、同じくTHE GODSのジョン・グラスコックだったという。そう、ジョン・コナスというクレジットは、ジョーをジョンと間違ったわけではなく、グラスコックをコナスと間違っていたのだ。これを書いている3月末の時点では、WikipediaもDiscogsもジョン・コナスがTOE FATの初期メンバーとしている。だが、ジョー・コナスがメンバーだった事実はなく、当初からTOE FATのベースはジョン・グラスコックだったのだ。マルコム・ドームは、ジョー・コナスもジョン・グラスコックもTHE GODSのメンバーだから混同されたのかもしれないと書いている。まあ、そうなんだろうけど。
この誤解を後押ししたのが、TOE FATの2作目『TWO』のクレジットである。実は同作レコーディング前にメンバー・チェンジをしていて、ケン・ヘンズレーとリー・カースレイクが脱退。新たにアラン・ケンドール、ジョン・グラスコックの兄のブライアン・グラスコックが参加している。『TWO』のメンバー・クレジットでは、ブライアン・グラスコックは正しくクレジットされているのに、ベースだけは再びジョン・コナスと書かれている。マルコム・ドームは「不可解なこと」と書いている。ちなみに、この『TWO』収録曲「There’ll Be Changes」に、FLEETWOOD MACのピーター・グリーンがゲスト参加してギターを弾いている。彼の名前がクレジットされていないのは、権利関係だったようだ。
TOE FATは『TWO』発表後にほどなく解散。ジョン・グラスコックはCHICKEN SHACKを経て、兄のブライアンとともにCARMENへ参加。アラン・ケンドールはBEE GEESのアルバムに参加と活動を続けていく。クリフ・ベネットは新たにCLIFF BENNETT’S REBELLIONを結成してアルバムをレコーディング。1971年に同名タイトルのアルバムを発表している。ところが、1972年にTOE FAT名義のシングル「Brand New Band / Can’t Live Without You」が発表される。これに関して、クリフ・ベネットははっきり覚えていないというが、CLIFF BENNETT’S REBELLIONのセッション時かそれ以前にレコーディングされたものが使われただけで、TOE FATを再結成して活動しようとしたわけではなかったとのこと。
これが事実だ! と断定していいかはわからない。できればジョー・コナスからの証言もほしいところだ。ともかく現時点では、クリフ・ベネットの証言を交えたTOE FATの最新ヒストリーとなるのがこれということ。『TOE FAT』発表から50年目にして判明した衝撃の事実。すでにこの世にいないジョン・グラスコックの参加作品が、これで2作品増えたということだけでも大きな意義がある再発CDのライナーだった。
さて、肝心の内容はというと、クリフ・ベネットの適度にキャッチーなメロディ・センスと、後にURIAH HEEP、JETHRO TULL、CARMENなどでブイブイ鳴らすメンバーによるハード・ロック・スタイルの演奏が、絶妙にかみ合ってるのか、かみ合ってないのか、よくわからんけども、その煮え切らないところが実に英国B級ハード・ロックらしい。ここでは『TOE FAT』に収録されたエルトン・ジョンのカヴァー「Bad Side Of The Moon」を聴いていただきましょう。これを聴けば、TOE FATがどんなバンドかわかってもらえるはず。
それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。
【関連記事】
コラム「そしてロックで泣け!」が好評だった音楽ライター舩曳将仁氏による、新連載コラム「世界のジャケ写から」。世界のプログレ作品より魅力的なジャケットを取り上げ、アーティストと作品、楽曲の魅力に迫ってまいります。
【関連記事】
コラム「そしてロックで泣け!」が好評だった音楽ライター舩曳将仁氏による、新連載コラム「世界のジャケ写から」。世界のプログレ作品より魅力的なジャケットを取り上げ、アーティストと作品、楽曲の魅力に迫ってまいります。
【関連記事】
コラム「そしてロックで泣け!」が好評だった音楽ライター舩曳将仁氏による、新連載コラム「世界のジャケ写から」。世界のプログレ作品より魅力的なジャケットを取り上げ、アーティストと作品、楽曲の魅力に迫ってまいります。
それ以前の「世界のジャケ写から」記事一覧はコチラ!
前連載コラム「そしてロックで泣け!」はコチラ!
コメントをシェアしよう!
カケレコのWebマガジン
60/70年代ロックのニュース/探求情報発信中!