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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第五十一回 TREES『THE GARDEN OF JANE DELAWNEY』(イギリス)

もう飽きているでしょう、新型コロナウイルスの話は。このジメジメする蒸し暑い季節にマスクが辛いということも、いまさら書いても仕方がないかなという感がある。しかし、どこ行ったかな我が家の「アベノマスク」は? 何枚かもらったと思うんだけども。

そんな鬱陶しい季節でも、目を楽しませてくれるのがアジサイで、我が家でも一株購入。きれいに咲いています。アジサイにはカタツムリが似合う。しかし環境の変化に伴って、カタツムリも減少傾向にあるらしい。という話をしていると、うちの子どもが「カタツムリは絶対に触ったらあかんねんで」と。保育所の先生に言われたらしい。なぜなら「寄生虫がいるから」なのだとか。調べてみると、カタツムリやナメクジには、広東住血線虫という寄生虫がいることがあって、これが人間の体内に侵入すると、最悪の場合は死に至ることもあるそうだ。そうか、全然知らんかった。自分が子供のころはカタツムリやナメクジをバンバン触って、その手で駄菓子とかバリバリ食べていたように思うが。それで特に健康被害がなかったのは、ただのラッキーだったのかもしれない。まあ、昆虫でも植物でも、野生のものを触ったら手を洗うのは基本ですね。

そこで思い出したのが、イギリスのフォーク・ロック・バンドTREESのデビュー作『THE GARDEN OF JANE DELAWNEY』に収録されている「Snail’s Lament」という曲。邦題にするなら「カタツムリの嘆き」。このTREES、2020年末にデビュー50周年を記念した4CDセット『TREES』が発売された。オリジナル曲以外にも色々と収録されているが、「あれ?これ初出音源だったかな?」とか、ブートレッグまで含めると、既発音源がどれだけあるのか、ちょっと複雑なことになっている。そこで、多少マニアックな内容にはなるけれど、この場を借りて整理させていただきたい。

まずは、オフィシャル及びブートも含め、これまで世に出ているTREES音源を下に列挙する。

(1)Nothing Special、(2)The Great Silkie、(3)The Garden Of Jane Delawney、(4)Lady Margaret、(5)Glasgerion、(6)She Moved Thro’ The Fair、(7)Road、(8)Epitaph、(9)Snail’s Lament、(10)Soldiers Three、(11)Murdoch、(12)Streets Of Derry、(13)Sally Free And Easy、(14)Fool、(15)Adam’s Toon、(16)Geordie、(17)While The Iron Is Hot、(18)Little Sadie、(19)Polly On The Shore、(20)Soldiers Three(Remix)、(21)Murdoch(Remix)、(22)Streets Of Derry(Remix)、(23)Fool(Remix)、(24)Geordie(Remix)、(25)Little Sadie(Remix)、(26)Polly On The Shore(Remix)、(27)Forest Fire(1971 BBC)、(28)Little Black Cloud(1970 Demo)、(29)She Moved Thro’ The Fair(Demo)、(30)Pretty Polly(Demo)、(31)Black Widow(2008)、(32)Little Black Cloud Suite(2008)、(33)Polly On The Shore(1970 Demo)、(34)Prince Heathen〔Prince Heather〕(1971 BBC)、(35)Tom Of Bedlam(1971 BBC)、(36)Cry Of Morning(1971 BBC)、(37)Burgen Polka〔Burglar〕(1971 BBC)、(38)Friar Tuck Gets(1973?live)、(39)His Innocent Hare(1973?live)、(40)Van Daemon’s Land(1973?live)、(41)Polly On The Shore(1973?live)、(42)Nothing Special(1970 BBC)、(43)Streets Of Derry(1970 BBC)、(44)Porry On The Shore(1970 BBC)、(45)Little Sadie(1970 BBC)、(46)The Great Silkie(1970 BBC) 、(47)Forest Fire(1970 BBC)、(48)Soldiers Three(1970 BBC)、(49)Epitaph(1970 BBC)、(50)Glasgerion(1970 BBC)、(51)Snail’s Lament(1970 BBC)、(52)Polly On The Shore(『ROCK BUSTER』(1970)〈CBS〉Different Version)、(53)Streets Of Derry(1970 Demo)、(54)She Moved Throufh The Fair(Live At Café Oto 2018)、(55)Murdoch(Live At Café Oto 2018)

目がチカチカしたらすいません。では、TREESの主要タイトルと上記曲との関係を明らかにしましょう。

(A)『THE GARDEN OF JANE DELAWNEY』(1970)〈CBS〉(1)~(9)
(B)『ON THE SHORE』(1970)〈CBS〉(10)~(19)
(C)『ON THE SHORE』(2007)〈Sony〉(10)~(19)、(20)~(28)
(D)『THE GARDEN OF JANE DELAWNEY』(2008)〈Sony〉(1)~(9)、(29)~(32)
(E)『ON THE SHORE』(2008)〈Sony〉(10)~(19)、(20)~(26)、(33)
(F)『LIVE!』(1989)〈Habla Label〉(27)、(34)~(41)
(G)『ON THE BBC』(1998)〈Highland〉(27)、(34)~(37)、(42)~(51)
(H)『3RD Album…DEMO’S』〈Hood〉(27)、(34)~(40)、(52)
(I)『TREES』(2020)〈Earth〉(1)~(9)、(10)~(19)、(20)~(24)、(28)~(33)、(46)~(48)、
(53)(54)(55)

(A)はCBSからのデビュー作で、(1)~(9)が収録曲。(B)はCBSからの2作目で、(10)~(19)が収録曲。(A)(B)はBGOなどから再発CD化されたこともあったが、ボーナス曲の収録はなかった。

初めてボーナス音源付きで再発されたのが(C)で、2CD仕様による再発。この(C)のディスク2に、TREESのデヴィッド・コスタとバイアス・ボシェルが、(B)の曲のいくつかをリミックスした(20)~(26)、71年のBBC音源(27)、70年のデモ音源(28)が収録されていた。これは日本盤紙ジャケも出た。この71年BBC音源については後述する。この再発には、アメリカのソウル・デュオ、GNARLS BARKLEYが(B)の収録曲(16)を「St.Elsewhere」という曲でサンプリングしたこともきっかけになったとか。

(D)は、(C)に続いて08年にリリースされたデビュー作の再発CD。これには(29)(30)のデモ2曲、08年にレコーディングされた(31)(32)が追加収録されていた。それらと同時期にSunbeamから1作目と2作目が2LP仕様で再発される。その2作目の再発LPである(E)に、なんと1970年のデモとクレジットされた(33)が収録されている。こちらについても後述したい。

まず、BBC音源の話。先述したけど、オフィシャルでBBC音源が発表されたのは、(C)に収録されていた(27)が初めて。しかし、ブートレッグではすでにいくつかの音源が発表されていた。それが(F)で、アナログ盤のみでのリリース。アナログA面に、(27)に加え(34)~(37)というBBC音源が収録されている。アナログB面には(38)~(41)という未発表ライヴ音源を収録。これは一度TREESが解散した後に再編成されてからのライヴ音源(1973年?)といわれている。ただ(41)に関しては、(38)~(40)とは、ちょっと音質が違うような気も。

(G)は、1989年にBBC音源集として突如発売されたブートCD。1970年の“Folk On 1”に出演した時の(42)~(46)、1970年のBBC音源(47)~(51)、(C)収録曲と同じ1971年のBBC音源(27)、(34)~(37)が収録されていた。
 (H)もCDで発売されたブートで、収録曲は(F)と同じ。単純に(F)のCD化なのかと思いきや、(H)のラストに収録された(52)は、「Bonus track from Blockbuster Sampler-different version」とクレジットされている。この「Blockbuster Sampler」というのは、CBSが1970年にリリースしたサンプラー盤『ROCK BUSTER』と書きたかったところを誤植したものと思われる。『ROCK BUSTER』には、TREESが「Polly On The Shore」を提供しているが、どうやら(B)収録曲とは別ヴァージョンらしい。「らしい」というのは、『ROCK BUSTER』収録ヴァージョンを聴いたことがないから。ここまで書いてきてなんだけど、(A)~(I)を全部持っているわけじゃない。ツメが甘くてすいません。

そこで、ここからは推測だけど、先の(F)に収録されていた(41)も(52)と同じ音源の可能性はないだろうか? さらに、(E)のみに収録されている、1970年のデモとクレジットされていた(33)だが、これもデモではなく、『ROCK BUSTER』収録の別ヴァージョンの可能性がないか? すなわち、(33)(41)(52)は同音源なのではないか?と。 誰か、(A)~(I)を全部持ってる人、いませんか?!

さて、そんなTREESが、2020年にデビュー50周年を記念した4CDセット『TREES』を発売した。これが(I)です。オフィシャル初登場となるBBC音源もあるが、ブートまで含めると完全なる初出音源は(53)と、18年にオリジナル・メンバーのデヴィッド・コスタとバイアス・ボシェルがON THE SHORE BANDとして行ったライヴからの(54)(55)のみ。ちょっと物足りないけど、ブックレットも付いている。詳しい内容は内容は次回に譲りたいが、まだまだあるというBBC音源とか、まとまった形で出してほしい。

さて、ようやく当コラム本来のテーマであるジャケ写の話。今回はTREESのデビュー作『THE GARDEN OF JANE DELAWNEY』といきたい。本作のジャケットをデザインしたのはメンバーのデヴィッド・コスタ。英ロック・ファンなら、この名前は聞いたことがある人も多いのではないでしょうか? このデヴィッド・コスタ、TREES解散後には、エルトン・ジョンやQUEEN『NIGHT AT THE OPERA』をはじめとした有名アーティストのジャケット・デザインを数多く手がける。TREESといえば、どうしてもヒプノシスが手掛けた2作目『ON THE SHORE』のジャケットの方が話題に上るが、ちょっとマグリット風のシュールなイメージのある、このデビュー作のジャケットも悪くない。

TREESはトラッドをアレンジした曲も聴きごたえがあるが、オリジナル曲の出来が素晴らしい。ここでは、カタツムリらしいノンビリとした、また朴訥としたメロディが印象的な「Snail’s Lament」を聞いていただきましょう。紅一点セリア・ハンフリスの、時に色っぽく、時に子どもっぽく響く歌声の魅力が味わえます。それにしても、セリア・ハンフリスが今年の1月に他界したことが残念でなりません。

それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。

Snail’s Lament

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  • TREES / ON THE SHORE

    70年発表の2nd、エレクトリック・トラッドにサイケ・フィーリングをまぶしたような個性派ブリティッシュ・フォーク傑作!

    英フォークを代表するグループ、70年作2nd。半分はトラッド、半分はオリジナルという構成で、フェアポート・コンヴェンションからの強い影響を感じさせるエレクトリック・トラッドがベースですが、サイケデリックなフィーリングもあるのが特徴。そのサウンドを生みだしているのが、名手バリー・クラークによるリード・ギターで、ズシリと重く、なおかつ凛とした透明感もあるトーンはリチャード・トンプソン直系ですが、その演奏は、より奔放でロック的ダイナミズムがあって、徐々に音が立ち上るヴァイオリン奏法の多用や、グレイトフル・デッドを彷彿させるサイケデリックにたゆたうようなフレージングはかなり先鋭的。一方で女性ヴォーカルのセリア・ハンフリスは伝統的なフォーク/トラッド・スタイルで、時に清楚なハイ・トーン、時に妖艶な歌い回しで、楽曲を静謐かつ艶やかに彩っています。エレクトリック・トラッドとサイケが結びついたプログレッシヴなアンサンブルと、トラディショナルな女性ヴォーカル。その革新と伝統との奇跡的な拮抗と、そこから生み出されるダイナミズムと緊張感とがこのグループ最大の魅力と言えるでしょう。そんな世界観を見事に描いたヒプノシスのジャケもまた特筆。孤高の存在感を放つブリティッシュ・ロック屈指の傑作です。

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