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<ロック黄金時代回想企画>1969年デビュー・アルバム特集Vol.11 ー NICK DRAKE『FIVE LEAVES LEFT』

こんにちは。スタッフみなとです。

ロックが怒涛の複雑化を遂げ、ハード・ロックやプログレッシヴ・ロックといった新たなる音楽が誕生していった1969年からちょうど50年。それを記念し、カケレコWEBマガジンでは「1969年デビュー・アルバム特集」を連載中!

今回取り上げるデビュー作は、生前にたった3枚のアルバムを残した英SSW、ニック・ドレイクの69年作『FIVE LEAVES LEFT』

このアルバムが出来るまでの経緯と、楽曲の魅力を掘り下げてまいります!

ニックが音楽を始めるまで

1948年、ビルマ(現ミャンマー)で生まれたニック・ドレイク。

父親は木材を扱う貿易会社に勤めており、母親は主婦兼アマチュアの作曲家でした。

ニック・ドレイクは音楽的にも気質的にも、母親に多く影響を受けているそうです。

ニックが幼いころに一家はインドのボンベイへ、そして英国へと引っ越しをします。

イングランド中部ウォリックシャー州の、タンワース・イン・アーデンがドレイク家の「故郷」となりました。

タンワース・イン・アーデン: 写真
タンワース・イン・アーデン (トリップアドバイザー提供)

少年期のニック・ドレイクは、スポーツに打ち込む活発な子供でした。

背が高く、運動能力が生まれつき備わっており、ラグビーや短距離走でその才能を発揮。

次第に音楽への興味が高まり、フォーク、ブルース、R&Bなどあらゆる音楽を聴き漁り、自分でも演奏したいと思うようになります。

ギターを始めたのは、英国のパブリック・スクール、マールボロ・カレッジにいた10代の頃でした。

楽器を習得する天賦の才に恵まれていたニックは、クラリネットやサックスやピアノも次々とものにしていったそうですが、一番夢中になって弾いていたのがギターで、いつも教室でギターを爪弾いていたそうです。

やがてケンブリッジ大学のフィッツウィリアム・カレッジに進学したニックは、本格的に作曲活動を始めていきます。

プロデューサー、ジョー・ボイドとの出会い

1967~68年、ニックがケンブリッジに在籍していた頃、とあるニックのライヴをフェアポート・コンヴェンションのアシュリー・ハッチングスが目撃します。

その時彼は、ニックの物腰とカリスマ性に、ただただ衝撃を受けたそうです。

アシュリー・ハッチングスはマネージャーのジョー・ボイドに、ニックをすぐさま紹介しに行きました。

米ボストン生まれのジョー・ボイドは、エレクトラ・レコードのロンドン支部の社員としてイギリスの地を訪れていました。

インクレディブル・ストリング・バンドを発掘し、やがてエレクトラ・レコードを離れたジョー・ボイドはウィッチシーズン・プロダクションを創立。そして66年にUFOクラブを立ち上げます。

ピンク・フロイドやソフト・マシーンが出演したことでも有名なクラブですね。

UFOクラブに出演していたフェアポート・コンヴェンションをスカウトし、彼らの1stアルバムのプロデュースもしています。

そんな中出会ったのが、ニック・ドレイクだったのです。

ニックから受け取った4曲入りのテープを聴いたジョー・ボイドはただちにその才能を認め、1968年にウィッチシーズン・プロダクションとニックは契約を結びます。

そして68年の7月に、ロンドンのサウンド・テクニクスにて録音が始まりました。

69年デビュー作『FIVE LEAVES LEFT』

アルバムの効きどころを3つピックアップいたしました。

1、秀逸なアレンジ

2、豪華演奏陣

3、繊細さ

聴きどころ その1、秀逸なアレンジ

『FIVE LEAVES LEFT』を聴いて感じるのは、この音楽を「フォーク」と片付けてしまうのは無理があるなということです。

ニックの細やかなギターとボーカルに重なるストリングス・アレンジが見事で、まるで室内楽のような響きなのです。

ニックのデモ・テープを聴いたとき、プロデューサーのジョー・ボイドは楽曲のレベルの高さに感銘を受けるとともに、スタジオでの繊細なアレンジが必要になると考えました。

ジョー・ボイドがお手本にしたのは、レナード・コーエンの67年作『SONGS OF LEONARD COHEN』における、親密で繊細なアレンジ。

ジョー・ボイドは、最初はストリングスのアレンジにリチャード・ヒューソンを推していました。

リチャード・ヒューソンは、ジェイムス・テイラーのデビュー作のストリングス・アレンジ、またのちにはビートルズの「The Long And Winding Road」や「I Me Mine」をアレンジしたりなどして評価のあった編曲家でした。

しかしニックはリチャード・ヒューソンのアレンジがどうしても気に入らず、録音は難航します。

不調に終わったセッションの帰り、ジョー・ボイドの車の中でニックが提案したのは、学友のロバート・カービーを起用することでした。

経験のない学生をアレンジャーに迎えることに不安を感じたジョー・ボイドでしたが、スタジオで顔を合わせ、カービーのアレンジを聴いたときにその素晴らしさに打たれます。

カービーがストリングスをアレンジした楽曲を聴いてまいりましょう。

♪Way To Blue

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この楽曲は、ニックは最初ピアノで歌っていたそうです。

ロバート・カービーと2人で、バックはストリングスだけで良いと判断し、6人の弦楽奏者で録音しました。

バロック音楽の影響を受けた厳粛なサウンドが、静かな力強さをもって迫ってきます。

次の楽曲は、ハリー・ロビンソンによるアレンジです。

♪River Man

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『FIVE LEAVES LEFT』で多くの楽曲のアレンジを手掛けたロバート・カービーですが、「River Man」だけは、自分ではうまくできない、と辞退します。

「「River Man」は英国の作曲家、フレデリック・ディーリアスの作品のようなサウンドにしたい」とニックに言われたジョー・ボイドは、編曲家ハリー・ロビンソンを起用します。

ハリー・ロビンソンは当時、映画や劇場でオーケストラをアレンジしていた編曲家でした。

ニックのほかにも、サンディ・デニーやイアン・マシューズなどを手掛けています。

「River Man」では、4分の5拍子を刻むニックのギターとくぐもったボーカルに、霧や雲のような柔らかく美しいストリングスが絡み、優美で幻想的なサウンドを築いています。

聴きどころ その2、豪華演奏陣

スタジオに入った時点で、ニックは曲をほとんど完成させていました。

完璧主義者のニックの頭のなかには、その曲の最良な「完成形」が既にあったのです。

プロデューサーのジョー・ボイドは、今作を仕上げるにはニックにふさわしい技量を備え、かつお互いに影響し合えるようなミュージシャンが必要だと判断し、英国フォーク界の名プレーヤーたち…リチャード・トンプソンやダニー・トンプソンを招集しました。

彼らの名演が光る楽曲を聴いてまいりましょう。

♪Time Has Told Me

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ベースはダニー・トンプソン、ピアノはポール・ハリス、そしてエレキ・ギターにリチャード・トンプソンです。

リチャード・トンプソンのギターが、ペダル・スティール・ギターのような柔らかく美しい音なのです!

ニックのボーカルを邪魔することなしに、独創的なフレーズを重ねています。

♪Three Hours

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ベースはダニー・トンプソン、コンガはガーナ出身のパーカッション奏者、ロッキー・ドジザーヌです。

ニック・ドレイクとダニー・トンプソンはこの曲のレコーディングが初対面だったそうです。

ニックの流れるようなギター、静かに脈打つようなダニー・トンプソンのベース、そしてロッキーの軽やかなコンガが有機的に絡み合い、躍動感のあるサウンドを作り上げています。

聴きどころ その3、繊細さ

♪Day Is Done

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もしかしたら、ニック・ドレイクのアルバムを通して聴くことをあまり積極的にしたくないリスナーの方もいらっしゃるかもしれません。

それは、あまりにも「繊細」で「陰鬱」だからではないでしょうか。

「Day Is Done」の歌詞を少し見ていきましょう。

♪Day Is Done

一日が終わると

太陽は沈み すっかり見えなくなる

手に入れたものや 失ったものと一緒に

一日の終わりに

「Day Is Done」は、アルベール・カミュの随筆『シーシュポスの神話』をもとにしたもので、その虚無的な歌詞に胸打たれます。

神の怒りに触れたシーシュポスが転がり続ける岩を延々と運ぶ罰を受けるという、人の生の不条理を描いた作品ですが、ニックが亡くなった時のベッド脇にもこの本があったそうです。

いずれは死ぬ運命でありつつ、毎日を繰り返すことの虚しさや絶望感をニックは感じていたのでしょうか。

いずれにせよ、ニック・ドレイクの楽曲を聴いていると、沈み込むようなメロディと歌詞に「出口のなさ」「途方もない憂鬱」を感じることがあります。

人がいつかどこかで必ず感じている人生の暗い側面に、ニックはとどまり続けてしまったのかもしれません。

聴いていると少々辛くなってしまうのも確かです。しかし、ニックの作品は、「自分の歌が誰かの救いになれば」と自身が生前言っていたまさにその通りに、必ず誰かが必要とし、そして救いを与える種類のものであるでしょう。


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  • NICK DRAKE / PINK MOON

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