2017年9月8日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ
タグ: プログレ新鋭
なかなか普段聴くことのない、「マイナー言語」ヴォーカルの作品をピックアップしていくこの特集。
前回は70~80年代の作品中心でしたが、今回は90年代以降の新鋭グループを取り上げてご紹介したいと思います。
まだまだロックが新鮮だった時代とは違って、世界中に当たり前のように浸透し、辺境のバンドでもグローバルに聴かれるようになった現代。
マイナー言語のヴォーカルは、音楽の中でどのような役割を担っているのでしょうか?
まずはこちらのバンドからご紹介!
フランス出身のバンドですが、一部の曲はなんとラテン語で歌われています。
本格的な音楽教育を受けたキーボード奏者を中心に結成されたフランスのプログレ・バンド、12年作2nd。
切迫した男女混声ヴォーカルにラテン語の神聖な響きも相まって、マグマの荘厳さにさらにミスティックな雰囲気を加えたようなサウンド。
鋭いギターの流麗なタッチはまさにZEUHL直系ですが、過度なヘヴィネスはなく、のびのびとしたコーラスが神秘的で聴き心地の良いハーモニーを生み出しています。
次は北欧から、スウェーデン・ノルウェー・フィンランドのバンドをご紹介。
どこかサイケデリックなバンドが集まりました。
ちなみに北欧の中でもスウェーデン語とノルウェー語、デンマーク語は言語的に近いらしいのですが、フィンランド語は別でエストニア語などに近いそうです。
その違いも合わせて聴いてみてください。
70年代にHOOLA BANDOOLA BAND、GUNDER HAGGなどの牧歌的スウェディッシュ・サイケを生んだ名レーベル、MNW発のサイケデリック・ロック新鋭、12年作2nd。
マイルドなエレキに弾むピアノ、70年代のDNAを継ぐメロウでヴィンテージなアンサンブルに漂う、明るくも霞がかったような幽玄さがなんとも北欧らしい。
揺らぐようなスウェーデン語のヴォーカルも良い意味で土着性がにじみ出ていて、非常に温かみのあるサイケデリック・ロックに仕上がっています。
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現ノルウェー随一の個性派新鋭、17年作4th。
ジェスロ・タル風味のフルートにデヴィッド・アレンに通ずる壊れ気味のヴォーカルが特徴的な、怪しくサイケデリックなトラッド・プログレを展開。
どこか野暮ったさのあるノルウェー語のヴォーカルは薄暗い森の奥から響く呪文を思わせ、泥臭くもこの世ならざる神秘性を持ったミステリアスなバンドです。
フィンランド出身、70年代志向のサイケデリック・プログレ・バンド、15年作2nd。
ヴァンゲリスやムーディー・ブルースや北欧ジャズ、さらにはターキッシュ・サイケを聴きながら作ったという本作は、ヴィンテージなサイケ・テイストとモダンなダイナミクスが共存した特有のサウンド。
エッジィかつヘヴィなギターとグルグルと渦巻くハモンドにエネルギッシュで男臭いヴォーカルが民族調の哀愁を添え、濃厚な聴き心地のサイケデリック・プログレ・ハード!
次は70~80年代編でもご紹介した、西スラヴ語群のポーランドから!
ポーランドの新鋭シンフォ・バンドANANKEの12年作。
物悲しいメランコリーを含んだへヴィネスにポーランド特有の夢見るようなロマンティクさが加わったメロディアス・プログレは、ずばり東欧のANEKDOTENと呼びたい完成度!
東欧特有の耽美でゴシックな雰囲気もポーランド語ヴォーカルによってより強まって、隙のないドラマチックなシンフォ・サウンドを聴かせます。
ポーランドのシンフォニック・ロックグループ、09年デビュー作。
どことなくビョークの雰囲気も感じる、民謡的な「揺らぎ」のある本格派女性ヴォーカルがとにかくすごい迫力。
ヴォーカルと一体になったメランコリックな陰りのある演奏も素晴らしく、ダークかつトラッドな固有のサウンドを生み出しています。これはレベル高し。
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次はロシア。ポーランドと同じスラヴ語派ですが、こちらは東スラヴ語群に属します。
ロシアのバンドも数あれど、今回はロシア「らしさ」を感じるこのバンドを選んでみました!
現代ロシアを代表するバンド、LITTLE TRAGEDIES。99年の本作はLT名義ですが実質はKey奏者GENNADY ILYINによるソロ作。
ギタリストの参加の他はキーボードの多重演奏+ヴォーカルという構成ですが、ロシアの歴史を感じさせる格調高いクラシカル要素や軽快なジャズ・タッチとロック的ダイナミクスが巧みに融合したサウンドはかなりの完成度。
中世音楽やトラディショナルな民謡を思わせるフレーズもロシア語のヴォーカルとうまくマッチしており、荘厳さの中にリリカルさを湛えた色調が大変美しい一作です。
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最後はロシアのお隣バルト三国から、エストニアとリトアニアのグループをピックアップ。
ちなみにエストニア語は先ほども言ったフィンランドと同じ語族に属しますが、リトアニア・ラトビアは別で、とりわけリトアニアは「言語の化石」と言われるほど、古いインド・ヨーロッパ語族の特徴を残した言語とのこと。
一括りにされることの多い国々ですが、言語はかなり異なるようです。
83年に結成され、90年にリリースしたアルバム1枚を残して解散したエストニアのプログレ・グループ、09年の再結成作。
メタリックなギターが重厚なヘヴィ・シンフォからアコースティックなフォークまでバラエティに富んだ本作ですが、最大の特徴は母国語の巻き舌が強烈なアクの強い男性ヴォーカルと美麗な女性コーラスによるどこか民族的なハーモニー。
くっきりとモダンな音作りながらどこか懐かしさのあるキャッチーなメロディ、そして土着的なヴォーカル・ラインが有機的な温かみを生んでおり、非常に聴きやすくオリジナリティ溢れる魅力いっぱいの好盤です。
リトアニアの新鋭ポスト・フォーク・ユニットの15年作。
アコースティック楽器や民族楽器を中心としたサウンドに柔らかなリトアニア語ヴォーカルがメランコリックかつ神秘的。
ヒーリング・ミュージックのように穏やかながら、土着的なフォークロアとモダンなアンビエントが巧みに交差したアレンジは見事で、プログレやフォーク・ファンにもオススメできる内容です。
いかがでしたか?
こうして見ると現代のロックでは、母国語で歌うことで民族的な側面が強調されて、グローバルな音楽の中での個性になっているような気がしますね。
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