2017年9月2日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ
タグ: プログレ
世界広し、そしてロックもまた広し。その誕生以来、ロックは世界各国あらゆる国で演奏されてきました。
そしてロックに付き物のヴォーカル。やはり英語詞がメジャーとはいえ、プログレ・リスナーの皆さんにはイタリア語やスペイン語ヴォーカルであればすでに馴染み深いのでは?
今回は70~80年代のユーロ作品の中から、イタリア語やスペイン語よりもさらに縁が遠そうな「マイナー言語」ヴォーカルのロックをピックアップしてみました。
メジャー言語とは異なる、新鮮でローカルな言葉の響きを楽しんでみてください。
まずはイギリス……を構成する4つの地方の一つ、ウェールズのバンドをご紹介。
あまり知られていませんが、ウェールズでは英語と並んで独自言語のウェールズ語が公用語とされ、道路標識なども英語とウェールズ語の両方で書かれています。
現在ウェールズ語の読み書きができるのはウェールズ人の約二割しかいませんが、一部の地方ではウェールズ語が第一言語として話されているそうです。
ちなみに、ハード・ロック・バンドのバッジーやディープ・パープルのロジャー・グローヴァー、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイルなどがウェールズ出身者。
サイケ・ハード・バンドにアニー・ハズラムが加わったような感じ!?ウェールズのプログレ・グループ、76年作の2nd。
ハード・ロッキンでブルージーなサウンドに、どこか敬虔な響きのあるウェールズ語の女性ヴォーカルが加わって、オリジナリティ溢れる音色を創り出しています。
ちょっと漂うB級感も愛すべき魅力!
次はスペイン……からフランスにまたがり、独自の文化をはぐくむバスク地方出身のバンドをご紹介。
ウェールズと同様、バスク語はスペインのバスク自治州全域とナバラ州の一部でスペイン語とともに公用語とされており、日常的に使われています。
ちなみにバスク語の起源にはまだ謎が多く、世界で最も難解な言語の1つと言われているそう。
「悪魔がバスク人を誘惑するためにバスク語を習ったが、7年かかって覚えたのは『はい』と『いいえ』だけだった」なんてジョークもあるほどです。
そんなバスク地方から生まれたシンフォの代表的グループといえば、ITOIZですよね。80年作の2nd。
キャメルやジェネシスに通じるリリカルなアンサンブル、切なさに胸がつまるバスク語のヴォーカル。絶品です。
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お次は辺境ユーロ・ロックの宝庫・東欧より、チェコやスロヴァキア、ポーランドなど、西スラヴ語群の言語を歌うヴォーカルを探してみました。
まずは旧チェコスロバキアより、チェコのグループ!
こちらはチェコ出身、東欧を代表するとも言える名プログレ・グループの74年作。
迫力満点のブラス・セクションとテクニカルなバンド・アンサンブルの繰り広げる白熱のせめぎ合いは、マハヴィシュヌやアレアにも比肩するダイナミックさ。
ジャズ、シンフォ、ブルースを取り込んだハイテンションかつ壮大なサウンドながら、哀愁のチェコ語ヴォーカルがこれまた引けを取らずエネルギッシュで、ものすごい熱気を生み出しています。
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こちらもチェコから。77年作/80年作の2枚組。
イタリアのLIBRAを彷彿とさせるファンク+ジャズ・ロックな作風ですが、何と言ってもチェコ語の女性ヴォーカルが鮮烈!
ジャニス・ジョプリン並のパワフルな歌唱に美声のスキャットまで、透明感のある歌声を存分に披露しています。
ゴリゴリと歪んだベースの強烈なグルーヴ感も気持ちよく、尖ったサウンドが非常に特徴的なグループです。
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70年代より、ユーロ諸国や南米/アジアなどの辺境には、英米の名バンドたちにも負けないハイレベルなプログレ・バンドが数多く存在しました。
今回は、そんな中から東欧は旧チェコスロヴァキアのプログレ・グループたちを一挙ご紹介いたしましょう。
次はスロヴァキア側のバンドを見てみましょう。
旧チェコスロバキア(現スロヴァキアのブラチスラバ)出身のバンドで、オリジナルは2枚組で全4曲という大作の71年作2nd。
このアルバムは、スロヴァキアの新聞紙NOVY CASが発表した『スロヴァキアの歴代作品100枚』において、なんと2位を獲得した同国を代表する傑作!
共産圏のロック、というより、ハプスブルク帝国の文化遺産が息づくブラチスラバという土壌で育まれたロック・ミュージックという方がしっくりくる豊穣なクラシカル・キーボード・プログレを展開。
旧C面では、後に連名作も出す盟友、ヴォーカルのPavol Hammelを迎え、陽光溢れるようなリリカルなヴォーカル・ナンバーを聴かせます。
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西スラヴ語諸国、次はポーランドから!
ポーランドの秘宝、77年作。アルバム名はポーランド語で「創世記第二章」といった意味でしょうか。
ゴング『ユー』からデヴィッド・アレンとジリ・スマイスが抜け、ジャン・リュック・ポンティが乱入してセッションしたらこんな音になったかも!?という、エキゾチックでサイケデリックなジャズ・ロックが非常にクール。
男らしさのなかにどこか冷たさのある東欧語のヴォーカルもサウンドによく浸透しています。
最後はグリーンランドのバンドをお届け。
グリーンランドは、北極圏に属する80%が雪と氷に覆われている世界最大の島で、デンマークの領有地。
話されているグリーンランド語は、アラスカ北部に住む先住民族エスキモーの言語に属します。
ご紹介するSUMEは、世界で初めてグリーンランド語で歌ったと言われるバンドです。
73年デビュー作。
先住民族イヌイットが北欧の植民者を矢で撃ち殺し、切り取った腕を掲げているという衝撃的なジャケや、グリーンランド語で自由と解放を歌い上げる彼らにグリーンランド人たちは当初戸惑いつつも、次第に国民的人気を誇るグループとなりました。
民族音楽ドラム・ダンスと英パブ・ロックが結びついたようなサウンドの中に、現代でも通用するようなポップで新鮮なメロディーが散りばめられており、本当に73年作か!?と驚かされます。
辺境プログレ・ファンのみならず、サイケなフォーク・ロックや、90年代インディー・ポップ・ファンにもオススメできる一枚!
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いかがでしたか?
誕生以来、ロックは自由で柔軟な音楽として様々な国に根付き、愛されてきました。
だからこそ、英語で歌うことで音楽をグローバルに届けることもできたし、時には母国語でローカルなアイデンティティを示すこともできたのでしょうね。
我々もロックをきっかけに、マイナー言語に興味を持ってみるのもいいかもしれません!?
バスク地方出身の好グループ。シンフォニック・ロックの大傑作「ITOIZ」に続いてリリースされた2ndアルバム。80年作。ジャケットのイメージ通りのノスタルジックな雰囲気はそのままに、サックス、ヴァイオリン、シンセサイザーの導入により前作以上にバラエティに富んだプログレッシヴなサウンドが印象的。女性ヴォーカルITZIARが一曲ゲスト参加。1stと並ぶスペイン・シンフォニック・ロックの傑作。
ウェールズのプログレ・バンド、76年作の2nd。手数多くタイトなリズム隊、時にサイケで時にハードロッキンなエレキ・ギター、そしてハモンド・オルガンが一気呵成に畳み掛けるパートはサイケ・ハードなんですが、どこか良い意味でB級感がたまりません。さらに、時に宗教がかって厳かで、時にスペーシーに鳴るシンセをフィーチャーしたり、男性ヴォーカルはどこか神秘的だし、女性ヴォーカルの清楚な歌声はまるでアニー・ハズラムだし、すごいオリジナリティ。ブルース・ロックとサイケ・フォークを一緒に鳴らして、神秘性や敬虔さで包み込んだような感じ。愛すべきウェールズのバンド。オススメです。
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