2023年5月12日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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ケイト・ブッシュがロックの殿堂入りをすることになった。本人も喜びのコメントを発表。2022年には、Netflixのドラマ『ストレンジャー・シングス』で、彼女の1985年のシングル曲「Running Up That Hill」が使用され、いやいや使用されただけでなくて、英1位、米3位、フランスやドイツ、オーストラリアなどの各国でも1~3位を記録するヒットになったという。そんなこともあってのロックの殿堂入りだろうか。とにかく、おめでとうございます。
個人的にはアーティストのポートレートのジャケットにピンとこないけど、ケイト・ブッシュのデビュー作『THE KICK INSIDE』には、やっぱりピンときます。もちろん日本盤オリジナル・アナログ盤ね。同作の英オリジナル盤ジャケットは、カイトに乗ったケイト・ブッシュが、大きな目の前を飛んでいるというもの。ケイト・ブッシュ自身のアイディアでもあったようだけど、以降のアルバム・ジャケットと比べても、この英デビュー作だけデザインがエキセントリックすぎないか? 同作にはジャケ違い各国盤が多いというのも、そこに理由がある気がする。しかし、あの日本盤ジャケットと可憐な歌声に心打たれた後追いファンの僕が、「Wuthering Heights」のプロモ・ビデオにおけるケイト・ブッシュのパフォーマンスを見て、そのイメージの違いに度肝を抜かれたのは懐かしい思い出です。
『THE KICK INSIDE』日本盤のジャケットを、ケイト自身が気に入っていないという話もある。確かに各国盤ジャケットの中でも、日本盤はセクシーさが強調されているように思う。セクシーな感じで売り出されるのが気に食わない女性アーティストも当然いる。それで思い出されるのが、HEARTのアンとナンシーのウィルソン姉妹だ。HEARTのデビュー作『DREAMBOAT ANNIE』のジャケットを飾ったのが、ウィルソン姉妹のツー・ショット。「安心してください、着てますよ」なんだけど、肩下ぐらいまでが裸で撮影されることで、見る者に全裸を想像させる狙いがある。しかも、「わたしたち、はじめてだったの」というセクシーなキャッチコピーもつけられて雑誌広告を打たれたとあって、ウィルソン姉妹が激怒したといわれている。
フランスの女性ポップ・シンガー、ローズ・ローレンスも、この手法のポートレート写真をアルバム・ジャケットに使用している。1982年のデビュー作『DERAISONNABLE…』では、まだそこまでの感じがするけれど、1983年のセカンド『VIVRE』では、完全に狙ってます。ここではその賛否に触れませんが、こういう手法があるということです。
ローズ・ローレンスって誰やねん? という方も多いでしょう。彼女は、1982年のシングル「Africa(Voodoo Master)」でフランス1位を獲得したポップ・シンガー。続いてリリースしたシングルは「Mamy Yoko」というタイトルで、日本語にするなら「よう子おばさん」でしょうか? 「アフリカの次は日本だ!」という、スタッフの悪ノリ具合も感じられるけど、これもフランスで4位のヒットを記録している。富士山や提灯を背景に、胡坐をかいてローズが歌うプロモ・ビデオは、今見るとケイト・ブッシュの「Wuthering Heights」と一味違うおかしさがあります。こういうレアな映像も見ることができるのは、いい時代ですね。
フランスでは知られた存在のローズ・ローレンス。そのキャリアのデビューとなったのが、フレンチ・プログレの名バンドSANDROSEだったといえば、カケレコ・ユーザーにも「おおっ!」と思ってもらえるのでは。ということで、今回は、Museaからの再発CDライナーと、『ユーロ・ロック・プレスVol.12』に掲載されていたジャン・ピエール・アラルサンのインタビューなどを参考に、フレンチ・プログレの名作『SANDROSE』を紹介したい。
SANDROSEの中心となったのは、ギターのジャン・ピエール・アラルサン。彼は1966年にLE MODSというビート・グループでシングルを発表してデビューを飾る。シンガーのジャック・デュトロンのバック・バンドのメンバーを務めた後に、LE SYSTEME CRAPOUTCHIKというバンドに加入している。同バンドは、1969年に『AUSSI LOIN QUE JE ME SOUVIENNE』、1970年に『FLOP』という2枚のアルバムを発表している。LE SYSTEME CRAPOUTCHIKには、歌手であるクロード・ピュテルフラムがライターとしてバンドに関わっていて、アルバムはいずれも彼のFlamophoneレーベルからリリースされている。
そのジャン・ピエール・アラルサンの元に、ギタリストとして録音に参加してくれないかというオファーが入る。それが、アンリ・ガルラを中心にマルセイユで結成されたEDEN ROSEだった。パリにデビュー・アルバムの録音で来ていて、いいギタリストがいないかと探していたところ、プロデューサーがジャン・ピエール・アラルサンを紹介したのだとか。彼はアンリ・ガルラと意気投合してEDEN ROSEに加入。1970年に『ON THE WAY TO EDEN』を発表。ライヴも行なったそうだ。
この頃にジャン・ピエール・アラルサンは、すでにSANDROSEの構想を進めていた。クロード・ピュテルフラムが歌詞を担当し、後に『SANDROSE』に収録される「Old Dom Is Dead」も完成していたという。同曲は、SANDROSEが発表する以前の1970年に、LENIS CHOREAのシングル「Mea Culpa」としてFlamophoneからリリースされる。Museaから1988年にリリースされた『SANDROSE』再発CDのライナーでは、「LENIS CHOREA は、クロード・ピュテルフラムとSYESTEM CRAPOUTCHIKで録音されたものの別名」と紹介されていて、また「後にオランダのグループがカヴァーした」と書かれている。『ユーロ・ロック・プレスVol12』のジャン・ピエール・アラルサンのインタビューでは、「LENIS CHOREAは偽名ではなく、オランダのバンドです」と答えている。Discogsで検索すると、オランダのシンガー、ハンス・ヴァン・ヘマート(Hans van Hemert)が、1972年にシングルで「Old Dom Is Dead」をカヴァーしてシングルでリリースしている。ジャン・ピエール・アラルサンの勘違いなのかなあ? ちなみに、ジャン・ピエール・アラルサンの知り合いだったという女優のサンドラ・ケントのシングル「Eternity / Old Dom Id Dead」(1971年)でもカヴァー。ジャン・ピエール・アラルサンは録音及びオーケストラ・アレンジなどで関わっている。ああ、ややこしい。
ジャン・ピエール・アラルサンは、自らのバンド構想にEDEN ROSEのアンリ・ガルラとミシェル・ジュリアンを誘った。アンリはベースにEDEN ROSEのクリスチャン・クレールフォンを引き入れる。ラスト・ピースとして、舞台で活躍していたローズ・ボドウィニーが加入し、SANDROSEが結成される。1972年にリリースされた『SANDROSE』の収録曲は、ジャン・ピエール・アラルサンとアンリ・ガルラが中心となって書かれた。叙情的かつ繊細なギター、そこに絡むオルガンやメロトロンのサウンドが印象的な同作は、フレンチ・プログレの名作として知られる。
その『SANDROSE』のジャケットを飾るのが鳥のイラスト。躍動感があるし、古代の壁画のようなプリミティヴな魅力がある。南国の鳥なのか、カラフルな羽の色も印象的。ジャケット裏には大型の恐ろしい鳥が牙をむいていて、なるほど表ジャケットの二匹はこの鳥を怖がっていたのかもしれない。散りばめられた花や植物のモチーフも可愛らしい。とても印象に残るイラストなのだが、何かの絵画作品なのかな。デザインに関してはクレジットがないからわからない。誰か元ネタ知りませんか?
素晴らしい作品を残したSANDROSEだが、数回のライヴを最後に解散。解散後なのかどうか、ジャンコ・ニロヴィックが中心となったユニットGIANTの『GIANT』(1972)で、SANDROSEの「Underground Session」がカヴァーされている。同作にはジャン・ピエール・アラルサンも参加している。彼はミシェル・ザカやフランソワ・ベランジュといったシンガーとのコラボレイトやソロ作なども発表するが、一時期は音楽を引退してアルプスの山小屋の番人をしていたこともあったという。ローズ・ボドウィニーは、ローズ・メリルと名乗って1970年代にシングルを発表。1980年代にローズ・ローレンスとして再デビュー。ヒットも飛ばしたのは先述した通り。残念だが2018年に他界している。
さて、ここまで書いてきたけれど、SANDROSE周辺に色々な関連音源があることがわかっていただけたかと思います。この辺のもろもろの音源も、今ではYou Tubeで聴けたりするが、誰かコンパイルしたCDを出してくれないかなあ。Museaからの再発CDブックレットには、ライヴ写真と思われるものが掲載されているが、未発表ライヴ音源とかもないのかなあ。ここでは『SANDROSE』から「Old Dom Is Dead」を聴いていただきましょう。
それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。
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フレンチ・オルガンロックバンドEDEN ROSEから発展、女性ボーカリストのRose Podwojnyを加えて結成されたグループの73年唯一作。EDEN ROSEはキーボーディストHenri Garellaのサウンドがフューチャーされたオルガン・ロックでしたが、SANDROSEはソウルフルなRose Podwojnyの歌声とJean Pierre Alarcenのエモーショナルなギターを中心にしたアプローチであり、Henri GarellaはEDEN ROSEからの流れそのままのジャジーなオルガンに加え、KING CRIMSONやGENESISのようなメロトロンも使用し、シンフォニック・ロック然としたサウンドを作り出しています。
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