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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第七十三回:STACKRIDGE『MR.MICK』

我が家には三匹のネコがいるが、そのうちの一匹が慢性鼻炎だ。何かの拍子にクシャミを連発し、黄色い鼻水を飛ばす。我が家ではこれを「スプラッシュ」と呼んでいる。ネコだから自分で鼻水を拭きとることはしない。飛ばしっぱなしなので、たまに落ちている鼻水を踏んでしまうことも。飛ばしてすぐなら拭き取ることもできるが、時間が経つとカピカピになって取るのが難しくなる。特に壁のクロスに付いた鼻水は、無理にこするとクロスごと剥がれてしまうことも。このネコがまた高い所が好きで、いつもお気に入りのキャットタワーの上で休んでいる。休んでいるだけならいいが、そこから「スプラッシュ」されると、鼻水爆弾が降下されることも。先日、ついに僕の顔に鼻水爆弾が落下した。ネコ好きじゃなかったら激怒しているかもしれないが、そんなことをされても何となく「選ばれし者」のようでうれしくなるんだから、ネコ好きというのは変わっている。僕だけか?

そういう僕も今年は花粉症がひどい。花粉の飛散量が数十年に一度の多さなのだとか。という誰かから聞いた話を裏もとらずに書いてみる。市販の薬も飲んでるが、あまり効かないみたい。特に症状がひどい夜は、両鼻にティッシュをつめて原稿を書いている。そのまま洗面所に行って鏡を見たら、まあ情けない顔です。

顔といえば、と今回も強引に展開するが、二つの顔を中央に配置したSTACKRIDGE『MR.MICK』のユーモラスなジャケットが思い出される。ということで、今回はイギリスの小粋なポップ・バンドSTACKRIDGEを紹介したい。

STACKRIDGEの始まりは、1960年代中ごろにブリストルで活動していたブルース・バンドのGRYPTIGHT THYNNEにさかのぼる。同バンドのアンディ・デイヴィス(g)とジム・ウォルター(クラン・ウォルター)(b)を中心とし、やがてジェイムズ・ウォーレン(g)とビリー・スパークル(ビリー・ベント)(ds)、トラッド/フォーク・バンドで活動していたマター・スレイター(flute)、マイク・エヴァンス(violin)らが加わってメンバーが固まり、1960年代末にSTACKRIDGE LEMONと名乗る。やがてLEMONがとれてSTACKRIDGEとなった。

1971年にデビュー・アルバム『STACKRIDGE』を発表。トラッド/フォークをルーツとする親しみやすく牧歌的な演奏、ビートルズ直系のキャッチーなメロディ、童話的といえるユーモラスな歌詞など、唯一無二のSTACKRIDGEワールドを生み出した。ラスト曲「Slark」は、架空の怪物の物語を描いた約15分の大作というプログレッシヴな試みも。英国ポップ・ファン必聴といえるこの名盤のジャケットは、カモメが飛んでいるというイラスト。これを手掛けたのがヒプノシスというのに驚く人もいるかも。彼らが手掛けたPINK FLOYDやUFOのそれと比べるとシンプルだけど、STACKRIDGEの音楽性にはふさわしいデザインといえるだろう。

ライヴではメンバーがパジャマとスリッパ姿で演奏したりと、楽しさに溢れたステージングをみせていたようだが、アルバムのセールスはイマイチだったという。ちなみに、当時ジョン・レノンそっくりの風貌だったアンディ・デイヴィスは、そのジョン・レノン『IMAGINE』のレコーディングに参加している。

1972年には2作目『FRIENDLINESS』を発表。イギリスらしい上品さやユーモア・センスが素敵な逸品。ジャケットはデイヴ・ボースウィックなる人物が手掛けた。白髭のおじいさんに鳥が寄ってきているイラストは、「サタデー・イヴニング・ポスト」誌などで活躍していたイラストレーター、エドマンド・フランクリン・ワードによるもの。これまた牧歌的なSTACKRIDGEの音楽性にぴったりフィットするデザインかと。

商業的に成功といかなかったが、ここで一大転機が訪れる。なんと、彼らの3作目を、あのジョージ・マーティンがプロデュースすることになったのだった。こうして完成したのが『THE MAN IN THE BOWLER HAT』で、1974年に発売されると英23位を獲得する。上品にしてポップ、温かみと柔らかさのあるSTACKRIDGEサウンド究極の名盤といえる渾身の一作だった。本作のジャケットを手掛けたのはジョン・コッシュ。一見すると牧歌的にみえるデザインだが、タイトルが『山高帽の男』、でもジャケットで帽子をかぶっているのは女性というシュールなもの。セピアな色調はSTACKRIDGEのノスタルジックな雰囲気ともよくあっているけど。

さあここから!というところで、ジェイムズ・ウォーレンが脱退。続いてジム・ウォルターとビリー・スパークルのリズム・セクションも脱退してしまう。アンディ・デイヴィス、マイク・エヴァンス、マター・スレイターの3人だけになるが、元AUDIENCEの管楽器奏者キース・ゲメル、元RARE BIRDのポール・カラス(b)、ロイ・モーガン(ds)、キーボードにロッド・ボウケットが加入。1974年に4作目の『EXTRAVAGANZA』を発表する。作曲の中心がロッド・ボウケットになっていて、またFAT GRAPPLEのフィル・ウェルトンが書いた「Happy In The Lord」、ゴードン・ハスケルの曲などをとりあげたりしている。特にアナログB面は4曲中3曲がインストだったり、前3作とは少し趣が異なっている。

ジム・ウォルターが復帰。ここでアンディ・デイヴィスとマター・スレイターのオリジナル・メンバーが一念発起。作家のスティーヴ・オウガルデとコラボレイトし、架空の人物ミック爺さんの物語を描いた一大ストーリー・アルバムを構想する。ドラムがピーター・ヴァン・フック、キーボードが元GREENSLADEのデイヴ・ロウソンに交代。アンディ・デイヴィス自らプロデュースを務めた気合の一枚になるはずだった。しかし、レコード会社は「売れない」と判断し、BEATLES「Hold Me Tight」のカヴァーを録音させてアルバム・トップに据え、曲をカット、順番入れ替えという本来の構想を無視した『MR.MICK』が1976年に発売される。

その事実は後々明らかになったことで、そういわれてみるとストーリー・アルバムにしてはトータル性が微妙だなと思うが、サウンド的には前作よりSTACKRIDGEらしさをとり戻した感があって、ポップス作品としては秀逸。何よりジャケットです。これまでのイラストものとは異なるポートレート写真が使われている。こちらをじっと見つめる老人と若い女の子。女の子はナースかな?目のクリッとした女の子、ええ感じに頑固さを感じさせる老人の表情との対比が面白い。妙な組み合わせの二人の間の物語をアレコレと想像させるジャケットとなっている。撮影したのは写真家のジョン・スウォンネル。アート・ディレクションはデヴィッド・コスタ。デヴィッドは元TREESのメンバーからジャケット・アーティストに転向し、エルトン・ジョンやQUEENのアルバムなども手掛けている。

メンバーにしたら悔しさもあっただろう。STACKRIDGEは『MR.MICK』を最後に解散。アンディ・デイヴィスはジェイムズ・ウォーレンとKORGISを結成してヒットを飛ばすことに。時を経て1990年代末、STACKRIDGEが再結成し、1999年に新作『SOMETHING FOR THE WEEKEND』を発表する。そしてなんと、当初構想した通りの『MR.MICK』、その名も『THE ORIGINAL MR.MICK』が2001年に発表されたのだった! カットされていたナレーションなども復活し、25年ぶりに本来の姿でリリースされることに。STACKRIDGEにとっても記念すべき作品のはずが、ジャケットが?! なんじゃこりゃあ?!

再結成後のSTACKRIDGEは、ベスト盤やライヴ盤もいくつか出しているが、どれもジャケットのセンスが良くない。今はSTACKRIDGEは活動を停止し、アンディ・デイヴィスとジェイムズ・ウォーレンはKORGISを再始動する。彼らが2021年に発表した『KARTOON WORLD』、2022年の企画盤『KOOL HITS,KURIOSITIES & KOLLABORATIONS』は、そのどちらもジャケットのセンスがトホホという感じなのが残念。内容はいいのになぁ。

現在『MR.MICK』は、『MR.MICK』のジャケットを使用し、『THE ORIGINAL MR.MICK』もセットされた2CDヴァージョンも流通しています。ここではどちらのヴァージョンでもアルバムのラストを飾った「Fish In A Glass」を聴いていただきましょう。

それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。

Fish In A Glass

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