2020年6月12日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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前回から続くNEKTARの後半戦です。イギリス人メンバーを中心にドイツで結成されたNEKTARは、グロテスクかつSF怪奇志向のジャケットによる2作目『A TAB IN THE OCEAN』を1972年に発表。これが注目を集めることに。続く『REMEMBER THE FUTURE』(1973年)は、オッサンの妖精を中央に据えた怪奇ファンタジー路線のジャケット、アルバム全1曲という恐ろしくコマーシャル性の低いアルバムに。ところが、これが米19位というヒットを記録したのだった。ここまでが前回の話。
これを好機とみたNEKTARの所属レーベルであるベラフォンが、1974年にライヴ・アルバム『SUNDAY NIGHT LIVE AT THE LONDON ROUNDHOUSE』を発表する。アナログA面に1974年3月27日に録音されたロンドンのラウンドハウス公演音源2曲を収録し、B面にはスタジオでのジャム・セッションを収録するという変則的ライヴ盤だった。ジャケットも含めて突貫工事感が否めない。後の再発CDでは、B面のジャム・セッション音源をカットし、ラウンドハウス公演音源を追加収録した内容に変更されている。
NEKTARはすでに次作に取り掛かっていて、サーカスの世界と人生をかけて描いたコンセプト作『DOWN TO EARTH』を発表する……のだが、ジャケットはサーカス団員に仮装したメンバー写真という彼らにしてはオーソドックスなものに、NEKTARのジャケットで象徴的に描かれる玉や円のモチーフは左下に見ることができるが、アメリカでの成功が与えた影響は大きかったと思われる。内容もポップ・センスが前面に出たものになっている。
アメリカに魂を売った?とんでもない!NEKTARは続く『RECYCLED』(1975年)で、初期のグロテスク&SF趣味を全開にするのだった。中央でギョロギョロしている怪物の目玉、怪物が手にした蛇で作られる輪、怪物の奥には丸い太陽が輝き、怪物の周りには黄色い玉がいくつも飛び交っているなど、前作で控えめだった玉や円のモチーフだらけ。裏ジャケットも強烈で、NEKTARジャケ名物といえる異形の怪物と目玉のモチーフが描かれている。このNEKTAR渾身のSF怪奇趣味のジャケットは、あの『A TAB IN THE OCEAN』『REMEMBER THE FUTURE』を手掛けたヘルムート・ヴェンスケの作。かなりグロテスクだけど、NEKTARの美学というものに改めて真正面から挑んだ作品といえる。内容的にもシンセサイザーで参加したラリー・ファストの貢献があって、NEKTARが本来持っていたサイケ&スペーシーなセンスが爆発している。本作をNEKTARの代表作に推す声は高い。
ところがNEKTARの音楽面での背骨と思われたギターのロイ・アルブライトンが脱退してしまう。NEKTARは後任にデイヴ・ネルソンを迎えて、1977年に『MAGIC IS A CHILD』を発表。英国的重厚さを担っていたロイの脱退もあってか、サウンドが明るく軽やかなものになっている。いわゆるアメリカナイズされた作品として、プログレ・ファンからは評価されていないかもしれないが、美しい女性が光る玉を手に持ち、水面に飛び込まんとしている瞬間を描いたジャケットは、NEKTAR史上最も美麗な、彼らにふさわしくない(?)ものになっている。内袋にもこの女性の顔のアップが掲載されているのだけど、これが誰あろうブルック・シールズ。当時12歳だったというから、その美貌に驚く。しかしアルバムは時代の変化もあってヒットといかず、NEKTARは解散してしまう。
1980年になって、オリジナル・メンバーのロイ・アルブライトンとアラン“タフ”フリーマンに新たなリズム・セクションを迎えてNEKTARが再結成され、『MAN IN THE MOON』を発表する。時代が時代だけにコンパクトな楽曲集になっているが、メロディック・ハード・ロックの良作だ。ジャケットはNEKTARらしいSFセンスのあるデザインだけど、かなりシャープな印象を与えるものになっている。内容&ジャケットともに良くできた作品だが商業的には伸び悩み、再び解散してしまう。
約20年の時を経て、再びロイとアラン、ドラムのレイ・ハードウィックで再結成。2001年に『THE PRODIGAL SON』をCDで発表する。NEKTARらしさが復活した内容より何より、ジャケットが怪奇すぎる!特に海外盤は折り込みのポスター仕様になっていて、さらに怖さが際立つデザインになっていた。
2004年にはオリジナル・ドラマーのロン・ハウデンが復帰。ベースのランディ・デンボが新加入した四人編成で『EVOLUTION』を発表。10分前後の曲も増えていて、音楽的にも往年のNEKTARへより回帰するものだった。ジャケットにもSF&怪奇センスが復活。服の襟に目がある首無しの怪物が中央に描かれ、本来頭がある部分には地球のような惑星が浮いているという、NEKTARジャケットの黄金パターンを踏襲している。と思ってクレジットを確認したら、イラストを手掛けたのは、かのヘルムート・ヴェンスケ!
アラン“タフ”フリーマンは抜けるが、メンバーを補充して2008年に『BOOK OF DAYS』を発表。こちらはヘルムート・ヴェンスケではないものの、グロテスク&SF怪奇趣味のジャケットになっている。2012年の『A SPOONFUL OF TIME』は、PINK FLOYDやRUSH、TOTOなどの曲をカヴァーしたアルバムで、ミックスだけでなくベースでビリー・シャーウッドが参加。ジャケットはスペインで活動するジーザス&ジャヴィエール・カルモナ・エステバン兄弟が手掛けている。これまたNEKTARの象徴ともいうべき蜂が描かれたSFチックなジャケットだ。
このジーザス&ジャヴィエール・カルモナ兄弟は、スペーシーかつファンタジックなイラストを得意としていて、NEKTARが2013年に発表した『TIME MACHINE』では、SF映画のワン・シーンのような美麗イラストを提供。ここへきて集大成的な仕上がりのジャケットになったといえるだろう。
さてこれからという2016年7月26日、ロイ・アルブライトンが他界してしまう。NEKTARも活動停止かと思いきや、『TIME MACHINE』に参加していたキーボード奏者のクラウス・ヘナツィとロイの息子のチェ・アルブライトン(ds)らがNEW NEKTARとして2018年に『MEGALOMANIA』を発表する。
その一方でオリジナル・メンバーのロン・ハウデンとデレク“モー”ムーアらを中心とし、過去のアルバム未収録マテリアルの再録音なども収録した新作をレコーディング。これが前回にチラッと紹介した2020年発表の新作『THE OTHER SIDE』となる。ジャケットを見てビックリ!SF怪奇&グロテスクなイラスト。待望のNEKTAR名義の新作なのに、なぜこのデザイン??と思ってクレジットを見たら、ヘルムート・ヴェンスケ!!しかし、まだNEKTARを知らない人が、このジャケットを見て購買意欲が掻き立てられるかどうか。いや、そこを振り切ってでもNEKTARらしさを貫いた潔さに拍手でしょう!
さて、一気にNEKTARの後半戦アルバム&ジャケットを紹介しました。時々マトモな方向性をみせることもあったが、SF怪奇&グロテスク趣味のジャケットにこだわり続けてきた、その美学はもっと評価されてもいいと思う。といっても、ナカナカ手を出しにくいジャケットではあるけれど。まずは『RECYCLED』から試してみてほしい。アルバムは7部構成の「パート1」と4部構成の「パート2」の全2曲。ジャケットのぶっ飛び感そのままに、カラフルかつ起伏激しい展開で駆け抜ける名作です。
それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。
Recycled Part1
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英国ミュージシャンにより結成されドイツを拠点に活動したプログレ・グループ、20年作!ベーシスト/ヴォーカリストのDerek MooreとドラマーのRon Howden、ヴィジュアル・エフェクト担当のMick Brockettというオリジナル・メンバー3人に、元FIREBALLETのギタリストRyche Chlandaら新メンバーも迎えた6人編成での制作。74年の「Devil’s Door」と78年の「SkyWriter」というアルバム未収録曲2曲を軸にしているだけあって、内容はずばり70年代NEKTARの空気感そのまま!テンションこそ落ち着いてはいるものの、歯切れよくドライヴ感のあるギターや暖かみに満ちたオルガン、ちょっぴりスペーシーな雰囲気醸し出すシンセなど、骨太ながらも明るく色鮮やかなポップさを感じさせるアンサンブルは往年のファンならニンマリすること必至。これはチェックして損なしの充実作です!
英国人メンバーによってドイツにて結成&活動するプログレ・グループ、73年作の3rdアルバム。ディープ・パープルやユーライア・ヒープ系統の重厚感溢れる英ハード・ロックに、クラウト・ロックに通じるサイケデリックなまどろみ感をプラスしたような作風が特色で、サイケにたゆたうギターとオルガンが突如としてハードドライヴィンに疾走する時の演奏テクニックは、YESを彷彿させるものがあります。ソウルフルで熱いヴォーカル、ハードエッジで突き進むリード楽器と渡り合う、ソリッドに打ち下ろすような硬質なリズム・セクションも印象的。70年代英プログレ/ハード・ロックのパワフルさとジャーマン・ロック的サイケ感覚が絶妙にミックスされたアート・ロックの傑作!
イギリス人のミュージシャンたちがドイツで出会い、ドイツにて結成されたバンドであり、初期はPINK FLOYD系のサイケデリック・ロックを得意としながら徐々にその作風を変化させ、コンセプト性の導入と大作主義、そしてシンフォニック・ロック的なマイルドさと彩りを加味していったプログレッシブ・ロックグループの75年作。各種シンセサイザーで彩られた、彼らの作品中最もカラフルなシンフォニック・ロックの名盤となった本作は、アメリカン・プログレ・ハードに通じるようなキャッチーなメロディーを持ちながらダイナミックで荘厳なシンフォニック・ロックが堪能できる傑作です。
盤質:無傷/小傷
状態:良好
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