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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第三十七回 MONA LISA『AVANT QU’IL NE SOIT TROP TARD』(フランス)

「まあとにかく新型コロナウイルスですよ」と、前回そう書いてから一カ月が経ったけれども、事態は世界規模でどんどん悪くなる一方。僕が住んでいる大阪でも毎日恐ろしい数の感染者が出ている。周囲の状況も良くなくて、その不平不満をあーだこーだ書き始めていたら、ついに緊急事態宣言が出されました。でも、仕事に行かなくてよくなったけど、その間の収入減はどうしようと悩んでいる人もいるでしょう。いや、緊急事態宣言が出ても仕事を休めず、混雑している電車に揺られて職場へ行くという人もいるでしょう。人によって色んな生活の歪みがある。それに応じる保証がされればいいけれど、まあ期待薄ですな。

伝染病の流行というのは歴史的にみると大昔からあって、その度ごとに大勢の人が亡くなっている。近年でいえばSARS、MERSもいわゆるコロナウイルスで、それから新型インフルエンザとかもあった。それで気になって調べてみたら、SARSもMERSも完全に終息したわけではないし、あの有名なペストも海外では近年も流行していたことがあったんだとか。歴史的にも、現在進行形でも伝染病の脅威というのはなくなっていないんだから、もっと迅速に対応するような仕組みや政策というのを考えてこなかったのかと……って、そんなこと他の誰かがたくさん言っているだろうからやめとこう。

ということで、もう新型コロナウイルスに対して世界も限界。限界だよ、世界ってことで、今回は邦題がズバリ『限界世界』というMONA LISAの4作目『AVANT QU’IL NE SOIT TROP TARD』を紹介したい。

まずこのジャケットを見て、「おお買いたい!」となかなか思わないはずだが、インパクトだけは強烈。金髪のやせ形、筋骨隆々の男が、蝶野正洋ばりのポーズを決めている。でもまったくかっこよくないというか、むしろ病的で怖い。背後にいるのがニワトリというのも、どう解釈したらいいのか。ワシとかタカとかじゃなくて、ニワトリですよ。そして水平線の向こうには満月がぼんやりと輝いている。ニワトリだから朝日だろうか。原題の『AVANT QU’IL NE SOIT TROP TARD』を直訳すると、「手遅れになる前に」という意味になる。本作一曲目が、そのタイトル曲なのだが、その歌詞を見てもジャケットのイラストとは関係なさそう。

裏ジャケットを見ると、男がうつろな目をして自分の腕に顔をうずめている。額には汗をかいていて、どう見ても尋常ではない様子。その傍らにはウイスキーだろうか、酒瓶とコップが置かれていて、こぼれた酒にはハエがいる。この男がアルコール中毒者で、その心象風景が表ジャケットに描かれているということだろうか。さっぱりわからないけど、なんとなく憂鬱かつ異様な雰囲気だけは伝わってくる。

このイラストを手掛けたのは、クレジットによるとMichel Lecoeurという人物。残念ながらどういう経歴の人かはわからなかった。ただひとついえるのは、この裸で奇妙なポーズの男とニワトリというシュールなジャケットが、邦題の『限界世界』というイメージにピッタリだということ。新型コロナウイルスでてんやわんやのわけわからん今の状況にもふさわしいのではないかと。でもさすがにインパクトが強すぎると思ったのか、94年にMuseaからCD再発された際には、男が船の舵を操作している別ジャケットに差し替えられている。

さてMONA LISAについては、Museaからの再発CDに詳細なバイオグラフィーが載っているので、それを参考に紹介したい。MONA LISAの前身バンドは、フランス中央部のオルレアンで67年に結成されたTHUNDER SOUNDというグループ。FERNANDO’S GROUPに在籍していたジャン・ポール・ピエルソン(kbd)、ジャン・リュック・マルタン(b)、フランシス・プーレ(ds)が、そこから独立して結成したバンドだった。当初はサックス奏者やアコーディオン奏者などが在籍し、R&Bのカヴァーなどをレパートリーにしていたという。歌はジャン・ポール・ピエルソンとフランシス・プーレが担当していた。やがてギターのクリスチャン・ガラ、アコーディオン奏者に替わってアラン・クルテ(kbd)が加入し、ほかにトランペット奏者なども加わっていたという。69年になってアラン・クルテと活動していたことのあるジャン・ジャック・フーシェが専任シンガーとして加入。管楽器奏者が抜けると、ブリティッシュ・ハード・ロックのカヴァーをレパートリーにするようになる。やがて英プログレや同国のANGEなどに触発されて、プログレッシヴ・ロックの方向性を追求するようになり、70年7月にTHUNDER SOUNDからMONA LISAへと改名した。

MONA LISAになった時点でのメンバーは、ジャン・ジャック・フーシェ(vo)、クリスチャン・ガラ(g)、ジャン・リュック・マルタン(b)、フランシス・プーレ(ds)、ジャン・ポール・ピエルソン(kbd)の五人。フランシス・プーレとジャン・ポール・ピエルソンの兵役期間を経て、72年から活動を本格化させる。オリジナルの大作曲も作り始め、73年にはANGEの前座を務めるまでになるが、ジャン・ジャック・フーシェが脱退してしまう。彼の後任にはTHUNDER SOUND時代からの知り合いだったというN.S.U.というバンドのドミニク・ル・グネが加入する。73年には「Diableries」「Les Vielles Pierres」の2曲をレコーディング。これは未発表に終わってしまう(後に1作目『L’ESCAPADE』の再発CDにボーナス収録される)。

ANGEのマネージャーの紹介でArcaneレーベルとの契約を獲得。早速デビュー・シングル「Illusion D’Un Temps / Voyage Vers L’Infini」を制作するが、これも理由はわからないが発売されなかった。ライヴで経験を積み上げたMONA LISAは、74年10月にデビュー・アルバム『L’ESCAPADE』をレコーディングする。プロデュースはANGEのジャン・ミッシェル・ブレゾバールが務めた。75年9月には2作目『GRIMACES』のレコーディングを行ない、同年11月にリリースされる。この頃にメンバー間がギクシャクし、一時的にバンド活動を停止してしまう。すぐに再始動するもののクリスチャン・ガラが脱退。新たにパスカル・ジャルドン(g)を加えたMONA LISAは、76年に3作目となる『LE PETIT VIOLON DE MR.GREGOIRE』を発表。同作はフレンチ・プログレの名盤として知られている。

77年8月には、『AVANT QU’IL NE SOIT TROP TARD』をレコーディングし、78年1月にリリースされる。バンド活動は順調にみえたが、ベースのジャン・ジャック・マルタンがツアー活動に疲弊して脱退。パスカル・ジャルドンの友人ジャン・ブタン(b)が加入して活動を続けるが、バンド内部のストレスはピークにあった。78年の夏、パリのオランピアでATOLLらと出演するライヴの直前に、ジャン・ポール・ピエルソンが神経衰弱のため演奏ができない状態となり出演をキャンセルしてしまう。メンバー同士の不協和音もあり、ドミニク・ル・グネが脱退。続いてパスカル・ジャルダンも脱退する。

フランシス・プーレがドラムからシンガーにスイッチ。ドラムにはパトリック・モリニエールが加入した。さらにキーボード奏者ミシェル・グランデが加わったツイン・キーボード編成となり、79年に『VERS DEMAIN』を発表する。このアルバムに関してはプログレ・ファンの間で話題にならないし、楽曲はコンパクトでプログレ色も薄いが、十分にMONA LISAらしさを感じさせる作品となっている。だが同作を最後にMONA LISAは活動を停止してしまう。90年代末に、ドミニク・ル・グネがVERSAILLESのメンバーらとMONA LISAを再結成し、98年に『DE L’OMBRE A LA LUMIERE』を発表している。

さて、今回紹介する彼らの4作目『AVANT QU’IL NE SOIT TROP TARD』だが、ジャケットこそものすごいデザインだけど、GENESISに通じる豊かなキーボード・ワークとシアトリカルなヴォーカルによるドラマチックな楽曲を多数収録した、前作と並ぶ名作だ。ここでは「手遅れになる前に」という言葉とともに、本作の2曲目に収録された、かの伝染病ペストをテーマにした曲「La Peste」を聴いてもらいたいと思います。呪術的なヴォーカルも印象的で、一度聴いたら忘れられなくなるはず。

それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。

La Peste

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  • MONA LISA / GRIMACES

    ANGEの弟分的ポジションのフレンチ・プログレ・バンド、75年作

    フランスのシアトリカル・ロック・グループ、MONA LISAの2nd。75年作。演劇的なドミニクのヴォーカルと、彼に扇動されるようにドラマティックに展開する演奏というスタイルは既に完成の粋。演奏力と緩急の表現力では代表作である3rd、4thに劣りますが、逆に、うまいとは言えないながらも一本気にメロディーを紡ぎだす演奏に胸を打たれます。

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