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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第三十八回 NEKTAR『A TAB IN THE OCEAN』(ドイツ)

まさか3カ月連続で新型コロナウイルス感染症のことから書き始めることになるとは。緊急事態宣言も5月末まで延長とか、いや解除だとかになって、世間の人のストレスもどんどん高まっていることと思われる。個人的にも色々と弊害が出始めている。ライナーを手掛けた新作CDが、発売元の活動停止に伴い発売延期になったり、マスクをずっと着けているのでマスクの形に日焼けして頬だけが黒くなりデーモン閣下みたいになってしまったとか、まあその程度で済んでいるけれども。

子供たちもずっと家にいたらストレスがたまるので、人込みを避けて近くの川原へ時々遊びに行っている。ある日、子どもたちと川の水際を歩いていたら、コイが岸に打ち上げられて死んでいた。鳥についばまれたのか、目玉はくりぬかれて、体は半分にちぎれている。子どもたちは「うわあ!」「気持ちわるー」とか言いながら、何度も近寄ってのぞいて見ていた。「怖いもの見たさ」なのだろう。

そういえば僕が子供の頃は『北斗の拳』が流行っていて、「ひでぶ!」とか言いながら爆発する人物の絵をノートに描いて母から叱られたものだ。グロテスクなものに対する「怖いもの見たさ」の興味というのは、子どもにもあるものなのだろう。しかし、NEKTAR『A TAB IN THE OCEAN』のジャケットを子どもに見せるかどうかは、ちょっと躊躇されるほどにグロテスクだ。

ということで、今回は2020年に新作『THE OTHER SIDE』を発表したドイツのNEKTARを紹介したい。その新作は、過去のマテリアルの再利用があるとはいえ、往年のNEKTARを思わせるメロディアスさ、大作志向もあり、実に良くできた作品だった。まさかSF&怪奇趣味のジャケット・センスまで引き継いでいるとは思わなかったけど。

そんなNEKTARのはじまりは、ロン・ハウデン(ds)とデレク“モー”ムーア(b)という二人のイギリス人がフランスで出会ったことにある。ロンはデレクのUPSETTERSに加入。バンド名をPROPHETSに改め、1965年にドイツで活動を開始する。MI5というバンドにいたアラン“タフ”フリーマン(kbd)を引き抜き、バンド名をPROPHECYと改めた。PROPHECYは、イギリスからドイツへ遠征に来ていたRAINBOWSと共演することがあり、RAINBOWSのロイ・アルブライトンと仲を深める。ロイ・アルブライトンは誘われるままにPROPHECYへ加入。ちなみに残されたRAINBOWSのメンバーはイギリスに戻り、STILL LIFEとしてヴァーティゴからあの名作『STILL LIFE』を発表する。

さて、PROPHECYだが、1970年になってNEKTARと改名。照明担当のミック・ブロケットとキース・ウォルターズをメンバーとして招き入れた。彼らはバチルス・レーベルと契約を結び、1971年にデビュー・アルバム『JOURNEY TO THE CENTER OF THE EYE』をリリースする。世界核戦争勃発が近い地球を離れ、土星に向けて打ち上げられたロケットが、宇宙の中に見えた巨大な目の中に飛び込んで……といったSFストーリーに基づくコンセプト作だった。ジャケットはそれに合わせた目のアップになっている。同じように目を中央に配したデザインのものとして、ヒプノシスが手掛けたGREATEST SHOW ON EARTH『HORIZONS』(70年)を思い浮かべる人もいるだろう。そこでは黒目の中にメンバーの姿を見ることができる。それに比べるとNEKTARの方は工夫が足りないが、目玉、そして目玉が印象付ける円や球は、彼らのジャケットの特徴的なモチーフになっていく。

デビューしたころのNEKTARは、ステージでミック・プロケットとキース・ウォルターズが操るスライドやリキッド・ライトなどの装置を使ったライト・ショーを行なうなど、音楽性もそれに見合うサイケデリック・ロックのテイストが強かった。1972年3月から4月までは、IFとともにイギリス・ツアーを行ない、そんな彼らのライヴが評判を呼ぶようになる。1972年4月にはファースト・シングル「Do You Believe In Magic? / 1-2-3-4」を発表。同年10月にセカンド・アルバムのレコーディングに入り、2作目となる『A TAB IN THE OCEAN』を発表した。

このジャケットがNEKTARのSF&怪奇趣味のはじまりを告げるものになった。NEKTARを象徴する球体、それも宙に浮いた奇妙なフラスコから発生している緑色の球体の前に、皮膚が木の皮のように剥がれ、今にも崩れ落ちようとしているゾンビのような人物が立っている。手にはフラスコから繋がっている電気コードのようなものを持っている。このグロテスクなジャケットを手掛けたのは、ヘルムート・ヴェンスケというデザイナー。PELL MELLやSTEEL MILLのジャケットをはじめ、ベラフォン・レーベルのアルバムで多くのジャケット・アートを手掛けているアーティストだ。『A TAB IN THE OCEAN』は裏ジャケットのコラージュも奇妙そのもの。ヒエロニムス・ボス「最後の審判」の絵の前にカエルやバッタ、奇妙な人物たちをあしらった常軌を逸したデザインになっている。

『A TAB IN THE OCEAN』は、アナログA面に大作タイトル曲1曲を収録。B面には後にIRON MAIDENがカヴァーする「King Of Twilight」を収録するなど内容的にも充実したものとなり、彼らの知名度が高まっていった。その勢いにのって、1973年2月8日~10日の3日間で、スタジオ・ライヴによるレコーディングを行ない、アナログ2枚組の『SOUNDS LIKE THIS』を発表する。この頃に照明担当のキース・ウォルターズが脱退している。

『SOUNDS LIKE THIS』のジャケットは、中央に目玉があり、その下でメンバーが演奏しているというシュールなデザインになっている。前作同様にヘルムート・ヴェンスケが手掛けたもので、前作よりグロテスクさは減っているかもしれないが、イラストとコラージュによる、これもまたインパクトの強いものになっている。

1973年8月、彼らは新作のレコーディングを行ない、アルバム全1曲という大作『REMEMBER THE FUTURE』に挑戦する。ジャケットを手掛けたのは、前2作に続いてヘルムート・ヴェンスケ。黒い背景の真ん中に目玉のように見えるものがあり、その前に羽の生えた男女の妖精が飛び交っている。その妖精の一人が中央で逆さまになっているのだが、なぜオッサンの妖精なのだ?! 裏ジャケットのイラストもかなり奇妙なものになっていて、決して美麗といえない。目の不自由な少年と青い鳥の物語に基づくデザインなのかもしれないが、どこかシュールかつホラーな雰囲気が漂っている。しかもアルバム一枚で全一曲という、およそコマーシャル性の低いアルバムながら、これが米19位というヒットを記録するから不思議だ。

ここまでの初期4作は、NEKTARがサイケデリック・ロック・バンドからプログレッシヴ・ロック・バンドへ進化し、さらにはアメリカでの成功を手にするまでの時期にあたる。円や球をトータル・イメージとし、SF&怪奇路線のグロテスクかつシュールなジャケットにこだわってきたNEKTAR。これで成功を手にしたのは快挙といえるが、商業的成功と引き換えに、それを手放してしまうことになる。それについてはまた次回で。

今回は『A TAB IN THE OCEAN』収録曲「King Of Twilight」を聴いていただきたいと思います。イギリス人メンバーでありながらイギリス的な暗さを感じさせないメロディ、半ば強引に展開するところなどにNEKTARらしさが表れた曲となっている。ジャケットがもっと美麗ならば、とも思うが、パンクやエクストリーム・メタル系のグロテスクなジャケットのハシリといえるかもしれない。

それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。

King Of Twilight

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