2019年12月11日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ
スタッフ佐藤です。
中欧・東欧諸国の中でも屈指の規模を誇るハンガリーのプログレ・シーンにおいて、OMEGAやEASTらと共にトップ・グループとして君臨したのがSOLARISです。
2019年、そのSOLARISから素晴らしい新作が届けられたのはご存知でしょうか。
持ち味である哀愁たっぷりのフルートや力強いうねりを伴ったシンセも活躍する、生真面目かつどこまでもエネルギッシュなこのサウンド、80年代当時から全然変わっていなくて嬉しい限りです。
今回は、そんな中東欧が誇る偉大なるバンドSOLARISの歴史を紐解いていきたいと思います!
と、その前に彼らの母国ハンガリーとその地で生まれた音楽について触れておきましょう。
ヨーロッパの一国であるため意外かもしれませんが、民族的には「アジア系」のマジャール人を中心とするハンガリー(日本と同じく、姓→名、都道府県→市区町村→番地の順に書き記します)。16世紀初頭にオスマン・トルコに敗北を喫して以来、150年ほど国土の一部をトルコに支配され、その後は、ハプスブルク家の支配下に入り、オーストリアやチェコやスロヴァキアなどとともにハプルブルク帝国の一部を形成するなど、長く他国によって支配されてきた歴史を持ちます。
そんな異国の文化が入り乱れたハンガリーの地で生まれた音楽が、ロマのジプシー楽団による舞踏音楽「ヴェルブンコシュ(verbunkos)」。インド北西部から移り住み、ハンガリーに定住したロマ達が、ハンガリーの中で社会的な居場所を確保するべく、上流階級のために演奏した伝統音楽が「ヴェルブンコシュ」で、自分たちのためではなく、上級階級を喜ばせるため、という目的が根底にあったため、時に情熱的で時に哀感たっぷりに、めまぐるしく畳み掛けるアンサンブルが特徴となりました。
数世紀にわたり他国の支配下にあった経験からくるメランコリー、文化の重層性が生むエキゾチズム、ジプシー楽団の特徴だった畳み掛けるような「情熱」とまるですすり泣くような「悲哀」、その二面性が生み出す感情のダイナミズムは、SFをモチーフとするスペイシーで硬質なスタイルと融合する形で、確かにSOLARISのサウンドの根底に流れていると感じられます。
そんなSOLARISの歴史が始まったのは1980年。ハンガリーの首都ブダペストの大学で、音楽とSFを共通の趣味に持つ学友たちによって結成されました。バンド名は、ポーランドの作家スタニスワフ・レムのSF代表作『ソラリスの陽のもとに』からSOLARISと名づけられました。オリジナル・メンバーはマネージャーを含むこの6人。(姓→名の順で表記)
彼らは学内でのステージや地元のバンド・コンテストで高い評価を得て、80年に1stシングル(他バンドとのスプリット盤で、SOLARISはB面「Rock Hullam」)と81年に2ndシングル(「Eden」「Counterpoint」)をリリース。満を持して84年にリリースされ、社会主義体制下の国のバンドによるデビュー作としては異例と言える4万枚を売り切った作品が『MARTIAN CHRONICLES(火星年代記)』でした。
メンバーのうち、ベーシストをのぞく4人に「キーボード」のクレジットがある通り、バンドの最大の持ち味が多彩なキーボード・ワーク。時にクラシック・ミュージックの金管楽器のように勇壮に鳴り響き、時にクラウト・ロック的にスペーシーに空間を無機的に彩り、時にミュイーンと発振しながら重厚なトーンでリードを奏でるなど、幾重にも重なりながら荘厳な音空間を描きます。そこに、全編でリードを奏でるフルートが土着のエキゾチズムとメランコリーを、様式美HR/HM的なギターがスピード感とドラマを、ドラムとベースが舞踏音楽の地ならではの躍動感を盛り込むと、ハンガリーならではの唯一無比の壮大なるシンフォニック・ロックが鮮やかに鳴り響きます。
彼らが傾倒していたアメリカのSF作家レイ・ブラッドベリによる「火星年代記」をテーマに、「I」から「VI」までの構成で23分にわたり繰り広げられる組曲が何と言っても圧巻。東欧らしいスペイシーなトーンのシンセをメインに突き進む硬質なサウンドを軸に、無常感を演出する哀愁に満ちたフルートや、日本人の琴線に触れる泣きのギターらが絡み、ドラマチックで壮大な音世界を築き上げます。
その後、2ndに向けてレコーディングも行いますが、結局アルバムをリリースすることなくSOLARISは活動を停止します。
86年には、中核メンバーであるCziglan Istvan、Erdesz Robert、Kollar Attilaが、女性ヴォーカルLilla Vinczeをフロントに迎えた新バンドNapoleon Boulevardを結成。SOLARISとは打って変わって80年代らしい打ち込みも導入したロック・サウンドですが、そこはかとなく漂う民族色を帯びたメランコリーはSOLARISに通じる気がします。
彼らのアルバムは本国で次々と大ヒットし、一躍ハンガリーのトップ・グループとして人気を博しました。
Napoleon Boulevardでの活動と並行して、80年代末にはSOLARISとしての活動も再開されます。まずは未発表音源を中心とした2枚組の作品『1990』を90年にリリース。1980年に作曲されたバンドの初期作品集、2ndアルバム用だった23分を超える大作「LOS ANGELES 2026」など貴重な音源満載で、特に「LOS ANGELES 2026」は名作「MARTIAN CHRONICLES」の延長線上にあるドラマティックな名曲で一聴の価値ありです。
96年には、前年に出演したアメリカLAでの大規模プログレ・フェス「PROGFEST」に出演した際の音源を『LIVE IN LOS ANGELES』としてリリース。その後、98年に中心メンバーであったギタリストIstvan Cziglanが病気で亡くなるという悲劇に見舞われますが、バンドは活動を継続します。
そうして1999年には、『MARTIAN CHRONICLES』に匹敵する完成度の傑作『NOSTRADAMUS』を生み出します。タイトルが示す通り「ノストラダムスの大予言」をテーマに、ひたすら荘厳かつエネルギッシュに展開されるヘヴィ・シンフォニック・ロックは、デビュー作を愛する世界中のプログレ・ファンに、再び大きな感動をもたらしてくれました。
全編に男女コラールを配し宗教色も濃厚に漂わせつつ、ビシバシとタイトなリズム隊と重量感みなぎるギター、そしてフルートとシンセ&オルガンが熱っぽく絡み合う、ロックのダイナミズムが全面に発揮されたサウンドは、もしかすると『MARTIAN CHRONICLES』をも凌駕するスケールの大きさかもしれません。デビュー作より14年、変わらぬ問答無用のSOLARIS節を堪能させてくれる一枚となりました。
そして、00年と05年のアーカイヴ音源集を、07年にはメキシコでの白熱のライヴを収めたCD&DVDをリリースするなど、00年代も精力的に活動を続けます。
デビュー作『MARTIAN CHRONICLES』発表から30年目となった2014年には、なんとその続編となる『MARSBELI KRONIKAK II (Martian Chronicles II) 』をリリース!
歳月を経て制作されたかつての名作の続編というと「あれ?」というものも少なくありませんが、彼らの場合は往年のメンバーがしっかりとSOLARISらしい音を保持しているので、さすが外しません。
前作『NOSTRADAMUS』で切り拓いたコラール渦巻く荘厳なアレンジやギター主体のヘヴィ・シンフォニックなスタイルを織り交ぜつつ、『MARTIAN CHRONICLES』に滲んでいた無常感や哀愁みなぎるドラマチックなサウンドを見事に引き継いでいて、理想的な続編に仕上がっていると言って間違いないでしょう。
従来よりエッジの効いたキレのあるインストゥルメンタルで突き進むパートは、プログレ・ファンとしてはとにかく血が滾ります!
その同年には、デビュー作『MARTIAN CHRONICLES』の演奏をメインに『II』の曲もプレイしたライヴ音源と映像をリリース。東欧らしい奥ゆかしさと重厚さと民族舞踏音楽的な躍動感とが混ざり合ったあのサウンドが、現代のサウンドクオリティによって新たに生命を吹き込まれていて、オリジナル盤を愛聴されてきた方も新鮮な興奮を覚えるはず。
そして!
2019年、今度は99年作『NOSTRADAMUS』の続編『NOSTRADAMUS 2.0 – RETURNITY』を発表。これがまた凄い作品でした!!
女性ヴォーカルも伴ってエネルギッシュに渦巻くコーラスが全編に配された壮大なサウンドで聴き手を飲み込むようなスタイルは99年作そのまま。
終始力みっぱなしで生真面目なまでに厳粛なサウンドにもかかわらず、呪文のように響くコーラスがオカルティックな世界観が形成していて、その怒涛のテンションも相まってフランスのMAGMAすら引き合いに出したくなります。
もちろん、デビュー時からの持ち味である哀愁たっぷりのフルートや無機質さと熱量をあわせ持ったシンセも活躍。
冒頭34分の大作で聴ける、この終始力みっぱなしのまま進行していく生真面目なまでに厳粛なサウンドは、まさしく唯一無二のSOLARISワールド!
一方で、この曲のような民族色も見せつつ伸びやかでファンタジックに紡ぐナンバーもあって、こちらのリリカルな表情も大変に素晴らしいんです。
SOLARISの新作として快作であるだけでなく、現代の東欧シンフォニック・ロックの傑作と呼んで問題ないでしょう。
ハンガリーが誇るプログレ・グループSOLARISの魅力を感じていただけたでしょうか。
近年は若手メンバーも加入しているようですが、バンド自体が80年結成ということで、オリジナル・キーボーディストであるErdész Róbertでも1958年生まれの61歳。
きっとこれからもまだまだ圧巻のSOLARISワールドを聴かせてくれることでしょう。
今後のSOLARISの動向にも注目していきたいですね!
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名実ともにハンガリー・プログレを代表するバンドと言える彼らの2019年作。99年にリリースされた『NOSTRADAMUS』の続編となっています。いやはや今作も怒涛の熱量とスケール!!女性ヴォーカルも伴ってエネルギッシュに渦巻くコーラスが全編に配された壮大なサウンドで聴き手を飲み込むようなスタイルは99年作そのまま。終始力みっぱなしで生真面目なまでに厳粛なサウンドにもかかわらず、テーマも反映してかどこかMAGMAにも通じる呪術的な世界観が形成されていくサウンドが印象的です。デビュー作『MARSBELI KRONIKAK』からの持ち味である尺八のように鳴らされる激しいフルートと太くうねりのあるシンセサイザーのコンビネーションももちろん冴えわたっておりやはり素晴らしい。冒頭34分の大作が圧巻ですが、哀愁を帯びたメロディアスなギターも活躍する他の曲も魅力的です。有無を言わせぬ迫力で押し寄せてくる、唯一無二のSOLARISワールドを堪能できるシンフォニック・ロック傑作です。おすすめ!
80年代から活躍するハンガリーを代表するプログレッシヴ・ロック・グループ。95年のLAでの「PROGFEST」出演時のライヴ音源。
SMP004/5(SOLARIS MUSIC PRODUCTIONS)
2枚組、デジタル・リマスター、街と青空のジャケット(オリジナル盤とはジャケット違い)
レーベル管理上、盤にキズが多めにある場合・ジャケットに若干折れが場合がございます。ご了承ください。
東欧のみならずユーロ屈指と言えるシンフォニック・ロック傑作『火星年代記』を84年に残したハンガリーの名グループによる、『火星年代記』の続編として制作された2014年作。オリジナル・メンバーのRobert Erdesz(Key)、Attila Kollar(Flute)、Laszlo Gomor(Dr)を中心に録音されていて、深淵なトーンで荘厳に鳴り響くシンセ、時に幻想的に流れ、時に躍動するフルートなど、往年の重厚なるサウンドが見事に蘇っています。力強くタイトなリズム隊、伸びやかに奏でられるギターなどによるモダンなサウンドとのバランスも絶妙。スラヴ的なエキゾチズムも盛り込みつつ、これでもかとドラマティック&エネルギッシュに展開していく壮大なシンフォニック絵巻が圧巻なさすがの傑作と言えるでしょう。
ハンガリーを代表するプログレッシヴ・ロック・グループ。04年のメキシコでのライヴを収録したCD+DVD。
ハンガリーを代表するシンフォニック・ロック・バンド。ユーロ・ロック屈指の傑作と言えるデビュー作『火星年代記』をメインにした2014年のライヴ映像。2014年リリースの『火星年代記』の続編『II』からも演奏しています。オリジナル・メンバーのRobert Erdescによるクラシカルなピアノやスペーシーで荘厳なキーボード、そしてAttila Kollarによるエキゾチックかつメランコリックなフルート。東欧らしい奥ゆかしさと重厚さと民族舞踏音楽的な躍動感とが混ざり合ったマジカルなサウンドが明瞭な音質で時を超えて蘇っています。『火星年代記』のファンは必聴の逸品です。
5998272703307(SOLARIS PRODUKCIOS)
DVD、PAL方式、リージョン記載なし、ブックレット元から無し
レーベル管理上の問題により、盤面にキズが多めについております。予めご了承ください。
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