2014年8月21日 | カテゴリー:MEET THE SONGS,世界のロック探求ナビ
タグ: ロック&ポップス
今日の「MEET THE SONGS」は、GS旋風を引っ張ったスター達が結成したスーパー・グループ、PYGが71年にリリースした唯一作『PYG!』をピックアップ。
GSムーヴメントの中でスターに上りつめながら、その内に音楽的野心を密かに燃やしていた実力者たちが、英米ロックにリンクした「ニューロック」ムーヴメントの時代に結成したグループがPYG。
メンバーと彼らが在籍していたグループを見ると、う~ん、なるほどスーパーですね。
<タイガーズ>
沢田研二 Vo
岸部修三(一徳)ベース
<テンプターズ>
萩原健一 Vo
大口ヒロシ ドラム
<スパイダース>
大野克夫 オルガン
井上堯之 ギター
結成は、1970年末。タイガーズ、テンプターズ、スパイダースともに解散を発表した1970年の年末に、沢田研二を売り出そうとしていた大手芸能プロダクションの渡辺プロの主導で結成されました。
バンド名は、「GS時代の華々しさとはおさらばして、ブタのように蔑まされたってただただ自分たちの音楽を追究していこう。」という意味を込め、PIGの「I」を、BYRDSやCYRCLEと同じく「Y」とスペルしてPYGに。メンバーは、沢田研二に一目置かれていた実力者の井上堯之を中心に、GSきっての実力派が集められました。
こうして、ただ一人のミュージシャンとして再出発したメンバー達でしたが、彼らが直面したのは、期待や称賛ではなく、「商業主義」というレッテル。時は硬派なロックを指向する「ニューロック」の時代。GSムーヴメントでの名声があだとなり、また、大手芸能プロダクション主導だったこともあって、ロック・ファンからは痛烈に批判されてしまいます。
バンドのお披露目となった71年3月の京都大学でのロックフェスMOJO WESTや71年4月での日比谷野音での日比谷ロック・フェスでは、罵声だけでなく、モノまで投げ込まれるなど、徹底的にその存在を否定されました。
まさに「ブタのように蔑まれた」スタートをきった後の4月10日、スーパーグループのデビュー曲とは思えない悲壮感とともにリリースされたデビューシングルが「花・太陽・雨」です。
音をあらためて聴いて、ただただびっくり。
なぜこれほどまでの実力者たちが蔑まれなければいけなかったのか。
ジョン・レノン「マザー」を彷彿させる荘厳なるイントロ。カフカ『異邦人』に影響を受けた歌世界。
広がり豊かなアコースティック・ギター、淡いトーンのメランコリックなオルガン、抑制されたトーンで切々と叙情をつむぐドラマティックなギター、そして、繊細さに胸が詰まるヴォーカルとメロディ。
自分達の音楽を奏でることができる、という胸の高鳴りとは裏腹に彼らに浴びせられた批判を思うとただただ胸が痛くなります。
ロックへの崇高なる野心がつまった色あせない名曲でしょう。
そして逆風が吹く8月10日にリリースされたファースト・アルバムが『PYG!』。
これがまた「花・太陽・雨」に負けない佳曲ぞろいでまたまたびっくり。
オープニング・ナンバー「戻れない道」から、かきむしられるファズ・ギターのリズムとウェストコースト・ロック調のメロウなリード・ギター(はっぴいえんどの鈴木茂と双璧!)がカッコ良すぎです。
岸部修三のベースも凄い!俳優のイメージしかありませんでしたが、この豪腕ベースのエネルギーたるや。ゴールデン・カップス~フードブレインでお馴染みの日本が誇るゴリゴリベーシストの加部正義にも負けていません。
はっぴいえんどの1stに通じるウェストコースト調のフォーク・ロックの2曲目「明日の旅」。ショーケンらしいセンチメンタルな歌唱が光る日本らしいワビサビのきいた3曲目のバラード「もどらない日々」。ブルージー&メロウで本格派ぷんぷんの9分を超えるブリティッシュ・ロック調の大曲「やすらびを求めて」。A面から風格すら漂わせながら畳みかけます。
「花・太陽・雨」からはじまるB面も素晴らしくて、おぉ、なんだこの名曲は、ふむふむ、「何もない部屋」というのか、なるほど、若者の苦悩たっぷりでエモーション溢れまくりでドラマティックじゃないか、なに、作曲はジュリーで作詞はショーケン!ドリフの途中の歌のところで出てきたり、たまにコントにも登場してた人っていうイメージしかなかったのに、なんと、凄い作詞作曲コンビじゃないか!
なんて興奮しまくりつつ、大野克夫のセンチメンタリズムたっぷりのエレピが美しい繊細かつオシャレなバラード「白い昼下がり」もいいし、そして、何より「LOVE OF PEACE AND HOPE」のグルーヴィーでカッコ良いこと!
アルバムでは英語なのですが、「自由に歩いて愛して」というタイトルで日本語バージョンでシングルカットされていて、その音源がYoutubeにありましたので、ピックアップいたしましょう。
PYGは結局、リスナーから正統な評価を受けることなく1枚のアルバムを残したのみで金銭的に活動継続ができなくなり自然消滅してしまうのですが、井上堯之と大野克夫と岸部修三は、井上堯之バンドとしてバックバンドやサントラの作曲・演奏で活躍していきます。
井上堯之バンドと言えば、『太陽にほえろ!』のサントラで有名ですが、あのほとばしるグルーヴ感の源流と言えるのがこの「LOVE OF PEACE AND HOPE」と言えるでしょう。
躍動するギターのアルペジオとリズム、まるでサンタナばりに熱き血潮のパーカッションとグルーヴィー過ぎるオルガン!
ジュリーとショーケンのダブル・ヴォーカルもカッコ良すぎ!
日本が誇るグルーヴィー・チューンと言って過言ではないでしょう。
そして、ラストを飾る「祈る」がまた素晴らしい名曲なんですよね~。
日本的なワビサビとともに、ブリティッシュ・ロックに通じるスモーキーさもあって、何より叙情ほとばしる演奏が素晴らしい!
特にゴリゴリとした岸部修三のベース、哀愁みなぎるハモンド・オルガンが実にドラマティックです。
それにしても、これだけの実力を持ったグループが正統に評価されなかった不運。
内田裕也が主導するフラワートラベリン・バンドや、米軍向けのラジオと基地でのライヴで鍛え上げられた横浜発のフードブレインたちと比べると、GSのスターというその出自から当時のリスナーからそっぽを向かれてしまうことは分かる気もしますが(ニューロック=反GSとも言えますし)、でも、そのサウンドだけを取れば間違いなく「ニューロック」屈指といえますし、PYGが受け入れられていれば、井上堯之や大野克夫や岸部修三はバックバンドに回ることはなく、ロックの第一線でバリバリ活躍してもっともっと名作を残していたかと思うと残念でなりません。
GSの残党たちがニューロックの時代に「商業主義」のレッテルと戦い、ロックへのひたむきさを音に刻み込んだ日本のロック史に残る悲運の傑作!
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