2016年3月25日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf,ライターコラム
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本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
ラテンアメリカを象徴する音楽的特色である「フォルクローレ」について言及する場合には、歴史も含めた専門知識が不可欠となるでしょう。そもそも「フォルクローレ」とは英語の「フォークロア」がスペイン語化したものであり、音楽に限らず風俗や習慣といった民間伝承全般に対して用いられる単語ですが、和製外来語としては、「フォルクローレ」の場合には音楽(ポルトガル語を公用語とするブラジルを除く)に、そして「フォークロア」の場合には民俗学に用いるといった使い分けがされているようです。つまり、ラテンアメリカにはそれぞれの国の「フォークロア」に根ざした様々な「フォルクローレ」が存在しているということでしょう。そんな中で最も広く知られている「フォルクローレ」が、ボリビア、ペルー、エクアドルといった国々における「アンデスのフォルクローレ」です。上記の国々が先住民文化を色濃く残していることもあって、古い歴史を持つ音楽のように誤解されがちな「アンデスのフォルクローレ」ですが、例えば「コンドルは飛んでいく」などの代表的な楽曲は、スペインによる植民地支配の影響を音楽的に内包する形で20世紀中盤に誕生したものであり、先住民による伝統音楽としては「アウトクトナ」と呼ばれるスタイルが別に存在しています。両者の融合によって「アンデスのフォルクローレ」が成り立っているということは、使用される各楽器の起源(先住民系のケーナやサンポーニャ、スペイン系のチャランゴやボンボ)にも表れているでしょう。
他のアンデス諸国と並びプログレッシブ・ロックの話題を聞くことが少ないボリビアではありますが、フォルクローレ・グループとして高い評価を受けるWARAの存在は多くのプログレッシブ・ロック・ファンに知られています。1973年にリリースされた彼らのデビュー・アルバム『El Inca』は、DEEP PURPLEやURIAH HEEPといったブリティッシュ・ロックからの影響を感じさせるバンド・サウンドとフォルクローレが融合した傑作として、辺境プログレッシブ・ロックを代表するアイテムのひとつとされてきました。PINK FLOYDによる『The Dark Side Of The Moon』を筆頭に、ブリティッシュ・プログレッシブ・ロックのトップ・グループたちが後世に残る名盤を連発していた時期に、ロック後進国であるボリビアからWARAが登場した背景には、スペイン系(クリオーリョ)、白人と先住民の混血(メスティソ)、先住民(インディヘナ)といった階層構造から成るボリビア社会、そしてペルーから伝播してきた先住民復権運動である「インディヘニスモ」が深く関わっています。作家や思想家たちが各々の分野で先住民の擁護を訴えていたように、WARAのメンバーたちは先住民の苦難を想起させる圧迫感や緊張感を、真にプログレッシブと呼ぶべきコンセプトと音楽性で表現したのです。また、フォルクローレの色合いが強まるセカンド・アルバム以降の作品はプログレッシブ・ロックとして紹介される機会こそ少ないものの、「インディヘニスモ」の理念が彼らの作り出すサウンドの中で強い存在感を保ち続けたことは間違いないでしょう。先住民文化に対する差別が根深い環境下において、あえて先住民発祥の楽器を扱った彼らのスピリットは、伝統楽器の「雰囲気」を記号的に取り入れる類の方法論とは明確に区別されるべきものです。
さて、メンバーたちはCONGAやTABOOといった前身グループでの活動を経てWARAの結成に至っていますが、前身グループ時代のメンバーと音楽活動を共にしていたのが日系人ミュージシャンJorge Komoriです。彼は、82年にリリースされたWARAの4作目となる『Pusi』に収録された名曲「Encuentros」に作曲者として名を連ねており、「Encuentros」は「アンデスのフォルクローレ」におけるスタンダード・ナンバーのひとつと言っても過言ではないポピュラリティーを獲得し、現在でも多くのミュージシャンに演奏されています。今回は、そんなWARA関連ミュージシャンJorge Komoriが参加したグループSIKUS BOLIVIAを取り上げます。
90年に国外プレゼンテーションのために結成されたSIKUS BOLIVIAは、自身の音楽性をプログレッシブ・ロックと自覚し、WARAの『El Inca』にもクレジットされていた「Musica Progresiva Boliviana」をグループのキーワードに置き、アメリカを中心に様々なフェスティバルで公演を行ってきました。ただし、ボリビアのグループは正式メンバーとゲスト・ミュージシャンの線引きが曖昧な場合も少なくないことから、積極的な活動を視野に入れているわけではないのかもしれません。グループ名の由来は、サンポーニャをアンデスのケチュア系言語であるアイマラ語で「Siku」と呼ぶことに関係したものでしょう。
2011年にリリースされた本作『E.C.L.I.P.S.E.』最大の魅力は、やはりJorge Komori自身の演奏による「Encuentros」が収録(本作では「El Encuentro」と表記)されている点にあります。前述の通り「Encuentros」は82年、WARAによって音源化されましたが、Jorge Komoriが参加するものとしてはフォルクローレ・グループKHONLAYA(一部メンバーはWARAと重複)による86年作『Expreso』での録音が残されており、加えて本作には「Encuentros」以外にもKHONLAYA のカバー楽曲が複数収録されています。KHONLAYAが80年代のシーンに提示したアプローチは、ケーナやサンポーニャといった伝統楽器にエレキ・ベース、エレクトリック・ピアノ、ストリングス・キーボード、シンセサイザーなどを融合させていくものであり、当時のボリビアにおける先進的なスタイルとしてシーンに一石を投じました。その流れはSIKUS BOLIVIAのサウンドにも受け継がれており、楽曲を彩るアンデスの楽器群をバンド・セクションの骨太なサウンドが支え、新世紀の「Musica Progresiva Boliviana」を構築しています。フォルクローレとロック・ミュージックの絶妙なバランスによって生まれ変わった「Encuentros」は、フォルクローレ・ファンだけでなく、多くのプログレッシブ・ロック・ファンを納得させることでしょう。
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ボリビア出身、73年の激レア盤。ギターとオルガンによるダーク&ヘヴィなアンサンブルに、格調高いクラシカルなストリングスが絡むヘヴィ・シンフォ・プログレ。線の細い退廃的なムードのヴォーカルがなんとも美しすぎます。手数多くアグレッシヴなドラムも印象的。全体的に謎めいた雰囲気が、なんともボリビア!秘境的名作!
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