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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第八十四回:BLOCCO MENTALE『POA』

僕が子供の頃だから、今から40年ぐらい前のこと。近所の駄菓子屋で「昆虫採集セット」というのが売られていた。注射器と虫メガネ、赤色と緑色の謎の液体、虫に刺して飾るための針が入った小さなビンなんかがセットになっていた。虫(主に甲虫)を捕まえると、そのセットの中に入っている注射器で赤い液体を吸い上げて、昆虫にブスリと刺して液を注入して殺すという、今考えると恐ろしい玩具。緑色の液体は保存薬(赤色だったかな?)とか何とかいったと思う。死んだ後にもう一回緑色の方を注入したら、きれいに保存できるという、ホンマかウソかよくわからんけど、そんなのがあったのを覚えている方いませんか?

なぜそれを思い出したかというと、家の植木の所にいた幼虫のせいで、それを調べたらドウガネブイブイだと判明。ドウガネブイブイ、漢字では「銅鉦蚉蚉」と書く。紙に墨で書いたら護符みたいになる恐ろしい名前の昆虫だ。銅の鉦(鐘)みたいな色をしているブンブンという意味らしい。ブンブンっていうのは、カナブンのことで、関西のある地方ではブイブイともいい、そこから来てるのではないか、といわれている。

このドウガネブイブイ、果物の葉などを食べるので害虫とされている。捕まえたり、刺激すると、茶色の液体のようなものを出すこともあり、子どもたちの間では嫌われていた。そのくせ数だけはカナブンよりも多くて、「うわぁ、カナブンやおもたらドウガネブイブイやんけ!」とカナブンのハズレ的な扱いだった。

僕はそういう人気のないやつとか、マイナーなものに惹かれる性格なので、ドウガネブイブイも嫌いではなかった。どっちかというと好き。カナブンに比べるとずんぐりむっくりした体、3つに分かれた触覚もキュートだと思っていて、カナブンと同じように昆虫標本にしていた。あの恐ろしき「昆虫採集セット」で。

気がついたら1000字近くをドウガネブイブイの話に使ってしまった。何だか慌ただしい年度末のストレスのせいです。お許しください。肩から虫カゴぶら下げて、片手に虫アミ握りしめ、無邪気に走り回っていたあの頃に戻りたい。フランクフルトに行ったアルプスの少女ハイジのような気持ち。そんな時、ふと頭に思い浮かんだのは、ドウガネブイブイではなくBLOCCO MENTALE『POA』だった。黒い影の人物が、縞模様のトンネルの中を歩いている。中央部分が四角に切り抜かれていて、そこに白い花が見えている。これだけだとデザイン的につまらないが、同作はゲートフォールド・ジャケットになっていて、開くと白装束の連中が草原の中で白い花をとり囲んでいる場面が登場するという、凝ったデザインになっている。

BLOCCO MENTALEはイタリアのグループ。グループ名のイタリア語を英語に直すと、BloccoはBlock、MentaleはMentalを意味する。メンタル・ブロック=精神的なブロックというのは、自分の行動や考えに対して、精神的に制御(ブロック)をかけてしまうこと。つまり「失敗するんじゃないか」とか「これは絶対無理だ」のような後ろ向きの精神状態のことを意味する、らしい。アルバム・タイトルはギリシャ語で書かれていて、アルファベットに置き換えると『POA』となる。「草本植物」を意味する言葉だとか。「草本植物」とは、地上部分が一年以内に開花し、結実し、枯死する丈の低い植物類のこと。どこか憂鬱さもある『POA』のジャケットだが、ネガティヴ志向の鬱々とした音楽かというと、まるで違う。プログレ・ファンなら、きっと元気が出る音楽だと思うので、今回は彼らを紹介したい。

BLOCCO MEANTALEは、1972年にイタリアのラツィオ州、ヴィテルボという町で結成された。メンバーは、Aldo Angeletti (vo, b)、Gigi Bianchi (g, vo)、Michele Arena (ds, vo)、Filippo Lazzari (kbd, vo,mouthth harp)、Bernardo “Dino” Finocchi (vo, sax, flute)の五人。OLEUMというバンドで活動していたメンバーに、Aldo Angelettiが合流する形で結成された。Aldo Angelettiは、ALDO E I FALISCIというビート・バンドで1965年頃から活動していた。歌手、俳優のArmando Stulaが、マーティン・ルーサー・キングについて書いた曲をALDO E I FALISCIに提供し、1968年に「Preludio Alla Fine / Le Rondini Bianche(Luther King)」というシングルを発表している。

BLOCCO MENTALEは、1973年にイタリアのTitaniaというレーベルから、「L’Amore Muore A Vent’anni / Lei E Musica」というシングルをリリースしてデビュー。A面曲の「L’Amore Muore A Vent’anni」は、ピアノの美しい響きからスタートし、甘口のメロディをフルートとピアノ、オルガンとともに聴かせる美しい曲だ。I POOHを思わせるところも。B面曲の「Lei E Musica」は、翳りのあるイタリア的メロディとフルートが効いた叙情曲。このAB面両曲ともに、2020年に日本のベル・アンティークから紙ジャケット再発された『POA』にボーナス・トラックとして収録されている。

シングルに続いて同年に『POA』を発表。「POA」という言葉には、もっとシンプルに植物や草を表す意味があるということで、本作に収録されている曲の多くも草原とか花とかの大切さについて歌っているようだ。まあ自然派ということかな。

当時のイタリアはプログレ全盛期といえる状態で、多くの良作が出ていた。そのなかでTitaniaという小さなレーベルから出た『POA』は注目を集めることが難しかったようだ。ライヴ活動は行なっていたが、レーベルからプロモーションなどの後押しは少なかったという。メンバーが兵役に就いたこともあって、1975年には解散してしまう。

1978年にBLOCCO MENTALEのメンバーが再集結し、LIMOUSINEとしてシングル「Camminero Solo / Limousine Arancio」を発表する。A面はしっとりとした曲だけど、B面は思いっきりポップ曲。1979年には「Malgrado Te, Malgrado Noi / Bene O Male」を発表。A面曲はI POOHを思わせるシンフォニックなアレンジもある叙情的な曲でBLOCCO MENTALEに近い作風。B面曲は日本の歌謡曲みたい。ほかにも、Filippo Lazzari主導で、LIMOUSINEがアレンジで関わった『TU HAI INVENTO L’AMORE』というアルバムを1980年にリリースしている。しかし、LIMOUSINEもそれほど長く活動は続かなかったようだ。

さて、BLOCCO MENTALEが残した唯一作の『POA』だ。オリジナルは2000枚しかプレスされていないといわれるレア盤。精神的不安定状態を表しているような縞模様のトンネル。その先の小さい窓の中に見える花は白いデイジー。ジャケットを開くと、窮屈なところに咲いていたデイジーが、広い草原に解き放たれたようで、文字通りの解放感を味わえる。小さなレーベルからのアルバムだが、なかなか考えられたデザインになっている。

1曲目のオープニングから変拍子&テクニックをみせつけ、GENTLE GIANTか、同郷のPFMを思わせるところもあるが、自然をテーマにしていることもあってか、メロディやアレンジには穏やかさや牧歌的なところが多い。メロトロンも使用されている。これを書くのに参考にさせてもらったサイトの「Italian Prog」には、「同年代のプログレ作には出来が及んでいない」というようなことが書かれてあるが、疲れた心を柔らかく癒してくれるイタリアン・プログレの隠れた名作だと思う。なんとなく3月しんどいなあとか、4月からの新生活に不安だなあとか、そういう時には、この『POA』のジャケットをパッと開いていただいて、あなたの心にも白いデイジーが咲くことを祈っております。

あまりプロモーションしてもらえなかったというBLOCCO MENTALEだけど、当時テレビ番組に出演していて、その時の映像がYou Tubeにあがっています。『POA』収録曲「Aria E Mele」をバックに、メンバーが農作業をしていたり、海辺を白装束で走っていたりして笑えます。それも見ていただきたいけれど、おススメはアルバム・ラストのドラマチックな「Verde」です。ぜひ聴いてもらって、みなさん癒されてくださいませ。

それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。

Verde

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