2023年12月8日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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先日、大腸内視鏡検査を受けた。その話をたっぷり書こうかと思ったけど、読みたくないですよね? ということで、今回は前置きなしで前回の続き、オランダのプログレ・バンドKAYAKの後半戦をたっぷり書きます。前回も書いたけれど、KAYAKはプログレ・バンドと呼ばれているにはポップな曲も多い。そこのところで評価が定まっていないのかな、という気もする。これまで日本で再発CD化されていないアルバムもあったりする。叙情メロディ愛好家はもちろん、メロディック・ロック・ファンにはおススメのバンドなので、再評価されることを願います。
まずはサラッと前回のおさらい。KAYAKは1973年にデビュー作『SEE SEE THE SUN』を発表。ジャケットには美しい金環日食の写真が使われていた。透明感のあるサウンドとの相性も良く、初期KAYAKのなかでは名ジャケットだと思います。以降もアルバムとしては良作を連発するが、ジャケットはコミカル路線だったり、「これはどうだろう?」と思うものも多い。それが理由ではないだろうけど、1981年のスタジオ・ライヴ作『EYEWITNESS』を最後に解散してしまう。前回はここまで。
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解散から約20年後の1999年、Ton ScherpenzeelとPim Koopman、Max Wernerのオリジナル・メンバーを中心にKAYAKが再結成される。2000年に復活作『CLOSE TO THE FIRE』を発表。ピアノが美しい「When Hearts Grow Cold」や「Here Today」、得意のポップな曲も収録されている。「Full Circle」などトラッド風のアレンジやメロディが増えているのも本作の特徴かと。本国オランダでも、そこそこ話題になったみたい。ジャケットは円を描いて燃える炎の中に女性が立っているというもので、雰囲気はあるけれど、どうだろうなあ? KAYAKの音楽的魅力は、ハードになってもポップになっても失われない透明感と品の良さ、格調高さだと思っているが、それに見合うようなジャケットではないかな、と。ここでは、復活の狼煙となったタイトル曲「Close To The Fire」を聴いてください。
Max Wernerが脱退し、ソロで活躍していたBert Heerinkが新シンガーとして加入。2001年に『NIGHT VISION』を発表する。歴代シンガーがクリアな声質で、エモーショナルさを抑制する歌唱がKAYAKの優雅さにつながっていたと思うが、Bert Heerinkは適度にしわがれたロック寄りの声質。熱い歌唱が持ち味で、最初聴いたときは違和感もあったが、パワー・バラード系の曲ではハマっている。本作の中では、特に「Hold Me Forever」が良い出来です。アルバム・タイトルは暗視スコープを意味する。だからこのジャケット。これはコミカル路線といっていいでしょうか。
再結成後、KAYAKのアルバム・コンセプトや歌詞に深く関わっていたのが、Ton Scherpenzeelと妻のIrene Lindersだった。Ireneは、かつてKAYAKでコーラスを務めていました。ここでTonとIreneの二人がぶち上げたのが、2003年に発表された『MERLIN – BARD OF THE UNSEEN』だった。1981年に発表した『MERLIN』のアナログA面を占めていた『アーサー王伝説』をテーマにした組曲の拡大版であり、『MERLIN』収録曲をリアレンジ、さらに新たに書かれたシンフォニックな曲を詰め込んだ渾身のアルバム。ここへきて、プログレ・バンドらしさを前面に押し出してきたか!と驚きました。ジャケットは神秘的かつシンボリックなデザイン。少し地味というか、暗すぎないか? もっとファンタジックなイラストでも良かったのでは? 本作には、ソロで活躍していた女性シンガーのCindy Oudshoornがゲストで参加している。そのCindyとBert Heerinkのデュエットによる「Friendship And Love」を聴いていただきたい。まるでミュージカルみたいでしょ。
続く2005年に発表された『NOSTRADAMUS-THE FATE OF MAN』は、預言者ノストラダムスをテーマとしたCD2枚組のトータル・ストーリー作。ライヴでも同作をロック・オペラとして披露するという、前時代的なプログレ的試みを実践。前作に続いてCindy Oudshoornが参加しているほか、なんとかつてのメンバーEdward Reekersが復帰。他にもシンガーが参加するなど豪華なアルバムとなった。KAYAKらしい曲も多いけど、間をつなぐ曲や静かな曲が多いので、プログレ初心者、KAYAK初心者にはハードルが高いかもしれない。十二星座の早見盤というんでしょうか。そこに悪魔の形をした炎が燃えているジャケットは、ノストラダムスにまつわる神秘的かつ怪しげな雰囲気を象徴していて悪くない。前作に続きミュージカル風の「Settle Down」を聴いてください。
Bert Heerinkが脱退し、Edward ReekersとCindy Oudshoornの男女デュエット体制に。2007年のアコースティック・ライヴ作『KAYAKOUSTIC』を経て、2008年に『COMING UP FOR AIR』を発表。本作はコンセプトなしの楽曲集、そして女性シンガーを正式にメンバーとした初アルバム。これが素直に良曲目白押しの内容で、1980年代の彼らを思わせる叙情性とメリハリの効いたメロディが復活。Edward Reekersのジェントリーな声とCindy Oudshoornのパワフルな声の相性も抜群で、本国でチャートの50位以内に入るヒットを記録した。ジャケットは、ちょっと抽象的で、これは何なんでしょうか? よくわかりません。ここでは同作の中で最もヒット性の高い「Undecided」を聴いてください。
2009年発表の『LETTERS FROM UTOPIA』は、コンセプト作ではないが2CDのヴォリューム。これがKAYAKらしい、とにかくいい曲がいっぱい。美麗ピアノとシンフォ・サウンド、印象的なギター・フレーズ、フックのあるメロディに特化しました、とでもいいたげな充実の内容。水没するサグラダ・ファミリアのジャケットは、シリアスなSFファンタジーのようで、再結成後のアルバム・ジャケットでは、最も目を惹くイラスト・デザインだと思います。ここではタイトル曲「Letters From Utopia」を聴いてもらいましょう。
ますます波に乗るKAYAKだが、2009年11月23日、Pim Koopmanが心臓発作のために他界してしまう。まだ56歳は若すぎる! KAYAKは後任にHans Eijkenaarを加えて活動を継続。2011年に『ANYWHERE BUT HERE』を発表する。前作同様のメロディ豊かな楽曲集だけど、ポップなセンスが前作以上に強まっている。ジャケットは前作のファンタジーからはうって変わっていて、シリアスなメッセージなのか、ユニークさを狙ったのか、ちょっとわからないけど、過去作でいえば『PERISCOPE LIFE』のジャケットを思い起こさせるものがある。なるほど、あれもポップなアルバムだったから共通点を感じさせる。そのなかでもコマーシャル性の高い「Over You」をどうぞ。
ここで再びプログレ魂が炸裂。2014年の『CLEOPATRA THE CROWN OF ISIS』は、古代エジプトの女王クレオパトラをテーマにした2枚組CDのロック・オペラ作に。ジャケットはまあ、これしかないわな。すっかりKAYAKの顔になったCindy Oudshoornのヴォーカルが活きるドラマチックな曲も多く、聞きごたえのある内容。ひときわドラマチックな曲「The Queen Of Kings」がベストかな?
ここでKAYAKに一大事が。『CLEOPATRA~』の完成後にEdward ReekersとCindy Oudshoornが揃って脱退してしまう。KAYAKは二人の代役を立ててライヴをこなすものの、Ton ScherpenzeelはKAYAKのリセットを決意し、彼以外のメンバーを総入れ替えすることに。2018年に発表された『SEVENTEEN』では、クレジットを見るかぎり、Ton Scherpenzeelと、シンガーのBart Schwermann、ギターのMarcel Singorという3人がKAYAKメンバーとなっている。通算17作目だからこのタイトル。青をバックに渡り鳥が17羽飛んでいるという、シンプルすぎないかな?! 10分越えの大作があったり、楽曲的には充実の内容。かつてTon Scherpenzeelが関わっていたCAMELのAndy Latimerがゲスト参加した「Ripples On The Water」を収録という話題もあってか、本国ではヒットを記録している。その曲もいいけど短いインスト曲なので、ここでは「Love,Sail Away」を聴いていただきましょう。
そして現時点での最新作が、2021年に発表された『OUT OF THIS WORLD』だ。ジャケットを見た瞬間にゾワッとした。月に向かって伸びる道路。彼らのデビュー作『SEE SEE THE SUN』のジャケットは、月が太陽を隠す金環日食の写真だった。そして、KAYAKは2022年にフェアウェル・ツアーを行なうことを発表する。そうか、『SEE SEE THE SUN』で宇宙から舞い降りた彼らは、『OUT OF THIS WORLD』で月へ帰っていくのか。「かぐや姫」を思わせるジャケット・ストーリーが、ここに完結?! 年配の方は『銀河鉄道999』を想像したりして。いずれにせよKAYAKの音楽性にふさわしい静けさと神秘を感じさせイラストで、また想像性も掻き立てる良いジャケットだ。
メンバーは前作の三人に加え、前作にも参加していた元PAIN OF SALVATIONのKristoffer Gildenlow、そしてドラムのHans Eijkenaar。シンフォニックな大作曲から、CAMEL風のインスト曲「Kaja」、ポップな「Cary」までヴァラエティ豊かな楽曲を収録。確かに集大成と言いたくなる内容で、70~80年代のKAYAKらしさが絶妙に各楽曲に溶け込んでいる。やはりここはタイトル曲「Out Of This World」を、ジャケット・アートを愛でながら聴いてもらいたいと思います。
それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。
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