2023年9月8日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
タグ:
平成の頃に生まれたという城ブームが、令和になっても続いているそうだ。建造物って、それ自体に魅力があるし、そこに歴史的な物語だったり、ロマンだったりが付随してくる「城」が、人を惹きつけるというのはわかる気がする。刀剣ブーム、武将ブームというのもあるそう。歴史に興味を持つ若い人が増えるのは良いことだと思います。プログレもそうなってくれるといいんだけどね。来ないかな、プログレ・ブーム。
それはともかく、 海外の人にとっても城は魅力的みたいで、ヨーロッパの古城の写真集とかがあるし、城をテーマにした子供の読みものとかも多数ある。ファンタジーといえば城みたいなところもある。城はいいよねー、ということで今回はアメリカのプログレ・バンドSTARCASTLEです。
STARCASTLEの歴史を辿っていくと、1969年のイリノイ大学にまでさかのぼる。同大学の学生だったステフェン・ハグラー(スティーヴ・ハグラー/g)、ポール・タスラー(b)、マイク・キャッスルホーン(ds)でST.JAMESというバンドを結成する。キーボードのハーブ・シルトが加入。マイク・キャッスルホーンがポールの弟のステフェン・タスラー(スティーヴ・タスラー/ds)に交代。ポール・タスラーはバンドのマネジメントを担当するようになり、新たなベーシストにゲイリー・ストレイターが加入する。彼らはST.JAMESからMAD JOHN FEVERとバンド名を改めて、1973年ごろから本格的に音楽活動を開始。BLUE OYSTER CULTやCANNED HEATなどのライヴをサポートして経験を重ねていく。
続いて専任シンガーとしてテリー・ルトゥレルが加入する。彼はR.E.O. SPEEDWAGONのメンバーとして、1971年のデビュー作『R.E.O. SPEEDWAGON』でリード・シンガーを務めたが、他メンバーとの関係が悪化。移動中にメンバーとケンカになり、コーン畑のところで車から降ろされて、そのまま解雇という悲惨な結末を迎えてしまう。テリーは新たにSEA DADDYというバンドで活動を続けていたが、SEA DADDYのギターだったマシュー・スチュワートと共にMAD JOHN FEVERに加入する。1974年、MAD JOHN FEVERからPEGUSASにバンド名を変えるが、同じ名前のバンドが他にも存在していることを知りSTARCASTLEと改名する。
彼らはオリジナル曲「Lady Of The Lake」のデモ・テープを制作。彼らの母校であるイリノイ大学内にあるラジオ局WGPUが、同デモ曲をヘヴィ・ローテーションしたことも追い風となり、CBSとの契約を獲得。傘下のEPICからデビューすることが決定した。
改めてデビュー作のレコーディング・メンバーを紹介すると、テリー・ルトゥレル(vo)、マシュー・スチュワート(g)、ステフェン・ハグラー(g)、ゲイリー・ストレイター(b)、ステフェン・タスラー(ds)、ハーブ・シルト(kbd)の六人。このメンバーは解散まで不動だった。プロデュースはプリンスからクリスティーナ・アギレラまで幅広いアーティストを手掛けることになる職人トミー・ヴィカリ。イエスの影響下にある音楽性に、アメリカのバンドらしい爽やかさが加味されたところが魅力的なデビュー・アルバム。そのアルバム・ジャケットの中央に描かれたのが、キラキラと輝く天空の城。このイラストを手掛けたのは、ファンタジー系小説などの装丁も手掛けていたイラストレーターのアレックス・エベル。城がちょっとピカピカしすぎていて重厚さに欠けるような気もするが、スッキリとしたシャープなデザインのジャケットだ。
1977年には2作目『FOUNTAINS OF LIGHT』(邦題『神秘の妖精』)を発表する。プロデュースを手掛けたのはQUEENでおなじみロイ・トーマス・ベイカー。エンジニアにはNAZARETHやRAINBOWを手掛けたニック・ブラゴナ、ミックスにはAEROSMITHやUFO他で著名なゲイリー・ライオンズという制作陣。ブリティッシュ・ロックのテイストが欲しかったのかもしれない。その狙いはどうあれ、スペーシーなサウンドや演奏のメリハリ、キャッチーなメロディなど、あらゆる面で前作からのクオリティ・アップを感じさせる。ジャケットもかなりスペーシーさを増したもので、中央には翼の生えた妖精(?)が描かれている。寺沢武一『コブラ』に出てきそうなキャラクターだ。城は妖精のひざの下にある小さな透明の球体の中に描かれている。本作のイラストを手掛けたのはピーター・ロイド。彼が手掛けたJEFFERSON STARSHIP『DRAGONFLY』にも近未来的な人物が描かれていたけど、こちらの方が神秘的で、少しエロティック。残念ながら同作もヒットとはいかなかった。
同年内に3作目『CITADEL』(邦題『星の要塞』)を発表。前作に続いてロイ・トーマス・ベイカーがプロデュース。内容的にはプログレらしさをスッキリと整理させ、洗練されたアメリカン・ハード・ロックとなり、本作を彼らの代表作に推す声も高い。音楽的に成熟、ジャケット・デザインも独自の世界観を築くなど、着実な活動を続けているように思えるが、当時はデビュー作が米95位、2作目が米101位、3作目が米156位と、チャート的に苦戦を強いられていた。
そこで起死回生に放った4作目が『REAL TO REEL』(1978年)なのだと思うけれども、まずジャケットを見てください。やたら笑顔のメンバーたちが勢ぞろいした写真。バンドのロゴも変わっている。「なあなあ、みんなで空中に浮かんでいる写真撮ろうぜ!」的な中高生のノリを感じさせる裏ジャケットも含めて、EL&P『LOVEBEACH』にも通じる、見た者の戸惑いを誘うジャケットです。美しいコーラスはそのままに、よりAOR色を増したアメリカン・ポップ作で、プログレではないけれど、爽やかなバラードなんかもあって、内容は悪くないのだけど、商業的には成功といかなかった。
同作発表後にメンバーの脱退が相次ぐも、1987年まで活動を続けていたようだ。以降は過去の音源やライヴ音源、メンバーのソロ作などのリリースを経て、2000年代になってからSTARCASTLEを再始動。新作の製作にも入るが、ゲイリー・ストレイターがすい蔵がんにかかってしまい、アルバム完成前に他界。残されたメンバーで完成に導き、2007年に新作『SONGS OF TIME』を発表した。2011年には未発表曲集『ALCHEMY』をデジタルのみで発売したが、以降は活動をストップしているようだ。
そんなSTARCASTLEのアルバムの中でも、ジャケットの魅力でイチオシなのが『CITADEL』です。ジャケットに描かれているのは、どこかの惑星。二つの惑星(衛星?)を背景に、金属的な外壁の城がそびえたっている。デビュー作の城とは違って、どっしりとした重厚感のある佇まい。よく見ると、城から五台のロケットが宇宙に向かって飛び立っているのが見えるが、画面を支配しているのは宇宙の静寂。Citadelというのは「要塞」という意味があり、だから邦題も『星の要塞』なんだけど、どこか寂しげな雰囲気もある。
このイラストを手掛けたのは、グレッグとティムのヒルデブラント兄弟。マジック・ザ・ギャザリングやSF小説の装丁などで有名なイラストレーター。彼らは『CITADEL』発表と同じ1977年に映画『スターウォーズ』のポスター・デザインを手掛けている。ダースベイダーの巨大な顔の前で、ルーク・スカイウォーカーがライトセーバーを掲げ、その前に銃を構えたレイア姫が描かれたポスターといえば、「ああ、あれね」と思い出す人もいるのでは? 荒涼とした宇宙の風景を描いた同ポスターのデザインは、『CITADEL』とも共通点を感じさせる。
音楽的には相変わらずYES色が強いけれども、YESのようなクセの強さは皆無で、爽やかかつ美しいコーラスの魅力で聴かせる。そのSTARCASTLEの個性を極めたといえるのが『CITADEL』であり、ジャケットの魅力も相まって、やはり彼らの代表作と呼ばれるにふさわしいアルバムだと思う。ここではアルバムのラストを飾った「Why Have They Gone」を聴いていただきましょう。残暑厳しい9月にピッタリの涼しげなサウンドとメロディです。
それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。
それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。
【関連記事】
音楽ライター舩曳将仁氏による連載コラム「世界のジャケ写から」。世界のプログレ作品より魅力的なジャケットを取り上げ、アーティストと作品、楽曲の魅力に迫ってまいります。
【関連記事】
音楽ライター舩曳将仁氏による連載コラム「世界のジャケ写から」。世界のプログレ作品より魅力的なジャケットを取り上げ、アーティストと作品、楽曲の魅力に迫ってまいります。
【関連記事】
音楽ライター舩曳将仁氏による連載コラム「世界のジャケ写から」。世界のプログレ作品より魅力的なジャケットを取り上げ、アーティストと作品、楽曲の魅力に迫ってまいります。
それ以前の「世界のジャケ写から」記事一覧はコチラ!
プログレッシブ・ロックの歴史においてYESフォロワーは数知れず各国から乱立していますが、その中でも最も有名なYESフォロワーとなったアメリカのシンフォニック・ロックグループの76年作。時代がコンパクトなロックへと向かっていた時期に、アメリカ独特のポップセンスを感じさせながら70年代プログレッシブ・ロックにこだわった長尺主義などを積極的に採用しており、その演奏は本家と間違えるほどの徹底したクローン・サウンドとなっています。特にきらびやかなキーボード・サウンドにはRick Wakemanの影を感じ、ハイトーンのボーカリストはまさにJon Anderson風。ここまで徹底したサウンドを追求すればそれ自体が個性になり得るという名盤です。
プログレ史を振り返ると「YES系グループ」というのは大勢登場してきましたが、その中でも最もそっくりなサウンドを展開していたのがアメリカのSTARCASTLEであることは間違いありません。特に初期はハイトーンのボーカルと清涼感あるコーラスワーク、ゴリゴリした質感を持ったベース、Rick Wakeman系の煌びやかな各種キーボードのアルペジオなど、どこまでもYESへの憧れが詰まったシンフォニックプログレ作品を生み出し、「アメリカのYES」として日本のファンにも認知されました。本作は77年発表の2ndであり、KansasやBostonの代表作と時を同じくして発表されたことから、バンドもレーベルもかなり力を入れたアルバムであったわけですが、その内容はデビュー作のYES系サウンドをさらに推し進めた明瞭なシンフォニックロック作となっており、ブリティッシュナイズされたYESフォロワーの音を多く残しつつも前述KansasやBoston系の「アメリカンプログレハード」の音像ものぞかせる快作と言えるでしょう。10分超えの大曲を採用しながらもYES譲りの構築力で飽きさせずに聴かせます。プロデュースはRoy Thomas Baker。
コメントをシェアしよう!
カケレコのWebマガジン
60/70年代ロックのニュース/探求情報発信中!