2023年7月19日 | カテゴリー:リスナー寄稿記事,世界のロック探求ナビ
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寄稿:ひろきさんさん
2017年まで連載されていた舩曳さんによるコラム、「そしてロックで泣け」は丁寧に詳しく調べられていて、個人的に大いに興味を喚起されました。今回、彼の精神を受け継いで「やはりロックで泣け!」というタイトルで、様々な「泣ける音楽」を紹介したいと思います。
今回は1969年にリリースされた彼らの4枚目のアルバム、『Liege & Lief』に収録されている「Farewell,Farewell」を取り上げたいと思います。
原曲はイギリス及びスコットランドに伝わるtraditional songsの一つ、「Fause Foodrage」です。この曲にRichard Thompsonが新たに歌詞をのせ、「Farewell, Farewell」としてまとめました。なぜ彼がこのような形で発表したのか。その理由を説明します。
この一つ前のアルバム、『Unhalf Bricking』が発売されるまさに直前の1969年5月2日、バーミンガムのギグから帰路についていたときのことです。彼らの乗っていたvanがmotowwayで衝突事故をおこし、ドラマーであったMartin LambleとRichard Thompsonのガールフレンド、Jeannie Franklyが亡くなるという悲劇的な出来事が起こりました。残りのメンバーも重傷を負い、ほぼbandが壊滅するかもしれないという瀬戸際まで追いつめられたようです。
この時、Richard Thompsonは相当精神的にショックを受けたと推測できます。二人をlonely travellersにたとえ、二度会えない悲しみを切々と短い言葉で歌い上げています。もちろん歌うのはSandy Denny。彼女の自然とあふれでる憂いを含んだ独特の唱法には思わず涙がこぼれそうになります。キーはGで演奏しています。
悲しい歌詞だからこそメジャーキーで表現する手法はよくあるパターンで、「蛍の光(スコットランド民謡Auld Lang Syne)」にもこの手法があてはまります。
このビデオクリップは数年前までYouTubeで視聴可能でしたが現在はなぜか視聴不可能な状態になっています。楽しそうにband メンバー全員が倉庫から楽器を野原に運び、セッティングを完了してから演奏を始めるという短い内容ですが、満面の笑みにあふれる皆の表情は今でも脳裏に焼き付いて離れません。悲しい出来事を経験したからこそあえてこのような明るい太陽の下で撮影をしたのかもしれません。
またMary Blackは1987年の作品「By the Time It Gets dark」でこの曲を歌い上げています。
その他、Pentangleはさきほど述べた「Fause Foodrage」ではなく「Willie O’ Winsbury」という曲名にして取り上げています。Sweeney’s Men, Ann Briggs, John Renbourn等も「Willie O’ Winsbury」として録音しています。
なかでも個人的に最も興味を引かれたのはThe Albion Bandの「Farewell, Farewell」のヴァージョンです。
この頃、彼らはThe Albion Dance Bandと呼ばれていました。注目するのは構成メンバーで、Barry Dransfield(vocal, guitar), Ashley Huchings(bass), Dave Mattacks(drums), Andy Roberts(guitar), Martin Simpson(guitar), Doug Morter(guitar from Magna Carta)という蒼々たる顔ぶれです。このメンバーではスタジオ録音されたアルバムはありませんが、1979年のUK television special という番組での演奏をYouTubeで楽しむことができます。
特筆すべきはBarry Dransfieldの力強いボーカルです。若干メロディラインも変え、keyは男性が歌いやすいCに変更しています。途中の控えめなギター・ソロとは対照的に彼の強力なボーカルが演奏をいっそう際だたせています。後半になるとライブ映像は途中で消え、Richard Thompsonのインタビューが挿入され終わってしまいます。わずか2分48秒ですが一部のマニアにはたまらない映像です。これはまさにロック仕様の「Farewell, Farewell」であると断言できます。
「優れたメロディは後世にも残り、歌い継がれてゆく」まさにFarewell, Farewell」こそ世界中で長く歌い継がれ、皆の心に深くしみ入り、悲しみを癒し、死者の霊を鎮めるレクイエムとならんことを願って終わりといたします。
舩曳氏のコラム「やはりロックで泣け!」も合わせてご覧ください。
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68年作の記念すべき1stアルバム。サンディ・デニーはまだ参加しておらず、ヴォーカルは、後にトレイダー・ホーンを結成するジュディ・ダイブルと英国SSWとして長く活躍するイアン・マシューズ。一曲の中で、時に交互に歌い、時に美しいハーモニーを奏でる二人の掛け合いは、本作の一番の聴き所と言えるでしょう。サウンドは後の作品とは異なるアメリカ西海岸からの影響強いフォークロックながら、2人の翳りのあるヴォーカルが英国ならではの陰影を映し出しています。
女性ボーカリストSandy DennyとギタリストRichard Thompsonを擁し、トラッド・フォークの最高峰の1つに上げられるイギリスのグループによる69年4th。69年に彼らは3枚ものアルバムをリリースしており、本作は連続リリースの3作目となります。事故によりドラマーのMARTIN LAMBLEが急逝、DAVE MATTACKSを新ドラマーに迎え、フィドル奏者DEVE SWARBRICKも正式に加入。彼ら代表作の1つであるその内容は、前作では1曲のみだったトラッド曲をアルバム8曲中5曲まで増やし、飛躍的な発展を遂げたエレクトリック・トラッド・フォークの路線にさらに磨きをかけた記念碑的名盤となっています。英国叙情が際立ったトラッド・フォークの代表作と言えるでしょう。
女性ボーカリストSandy DennyとギタリストRichard Thompsonを擁し、トラッド・フォークの最高峰の1つに上げられるイギリスのグループによる69年3rd。69年に彼らは3枚ものアルバムをリリースしており、本作は連続リリースの2作目となります。前作からIAN MATTHEWSが脱退しリリースされた本作は、BOB DYLANの楽曲が3曲、トラッド1曲、グループの楽曲4曲から成る彼らの代表作の1つ。前2作以上に統一感を感じさせるエレクトリック・トラッド・フォークを奏でており、Sandy Dennyの歌声の素晴らしさは説明するまでもなく、ゲストのフィドル奏者DEVE SWARBRICKによるヴァイオリンなどが自然にバンドに溶け込んだ名盤です。
サンディー・デニーを迎え制作された2ndアルバム。68年作。彼女の儚くも凛としたヴォーカルは別格の美しさで、「FOTHERINGAY」などコンポーザーとしても一流。そんな彼女の加入が化学反応を引き起こしたのか、リチャード・トンプソンもギタリスト/コンポーザーとして見事にその才能を開花させています。楽曲、演奏とも新人離れした風格すら感じさせる出来栄えで、英国フォークロックを代表するグループとしての地位を早くも確立した名作。
女性ボーカリストSandy DennyとギタリストRichard Thompsonを擁し、トラッド・フォークの最高峰の1つに上げられるイギリスのグループによる70年5th。名盤となった前作「Liege & Lief」をリリースした後、Sandy DennyとAshley Hutchingsが脱退、Dave Peggが加入して男性グループへとシフトした作品ですが、その内容はグループのフロントであったSandy Dennyの脱退を全く感じさせないブリティッシュ・トラッド・フォークの名盤となっており、特にRichard Thompsonのギターをはじめとしたバンドの緊張感溢れるパフォーマンスは、さすが全盛期の彼らならではのものです。
デジタル・リマスター、ボーナス・トラック4曲
盤質:無傷/小傷
状態:良好
カタログにケースツメ跡あり、側面部に若干色褪せあり
サンディ・デニー復帰後の74年のライヴ盤。「Matty Groves」「Sloth」など代表曲はもちろん、サンディーのソロ「North Star〜」収録の楽曲も演奏しています。
スリップケース付仕様、デジタル・リマスター、ボーナス・トラック5曲
盤質:無傷/小傷
状態:良好
フェアポート・コンヴェンションと並び、英国フォーク・ロックを代表するグループ、ペンタングルの記念すべき1stアルバム。68年発表。バート・ヤンシュ、ジョン・レンボーンという二人の傑出したギタリストによるアコースティック・ギター、ダニー・トンプソンによるダブル・ベース、テリー・コックスのドラムが奏でる緊張感漂うサウンドは1stとは思えない完成度。熟成されたワインのように味わい深く芳醇なサウンドは、既に円熟の域に達しています。紅一点ジャッキー・マクシーの美声も絶品の一言で、ただでさえ隙の無いサウンドを更に豊かに響かせています。名作中の名作。
68年作の2ndアルバム。68年6月29日、ロンドン・ロイヤル・フェスティヴァル・ホールでのライヴ音源とスタジオ録音音源。各プレイヤーの息遣いが聴こえてきそうな研ぎ澄まされた演奏はライヴでも変わることなく、当時の張り詰めた空気が時代を越えてこちらにピシピシ伝わってきます。名作。
紙ジャケット仕様、2枚組、ボーナス・トラック11曲、定価3,200+税
盤質:傷あり
状態:良好
帯有
帯は紙ジャケにに貼ってあります
本作は、69年にUKトランスアトランティックからリリースされたペンタングルのサード・アルバムで、メンバーはファーストから不変のジャッキー・マクシー、バート・ヤンシュ、ジョン・レンボーン、ダニー・トンプソン、テリー・コックスの5人編成。プロデュースも前作に引き続きシェル・タルミー。全作品中最もジャズ色が強いアルバムといっていいと思うが、その意味では、例えば次作「クルエル・シスター」のようなしっとり系トラッド・サウンドを好むリスナーには人気のないアルバム。しかし、このバンドをトラッドとブルースとジャズの融合を試みる場として捉えるなら、それが最も成功したアルバムと言えるのではないでしょうか。
70年作の4thアルバム。アコーディオンやリコーダーが印象的な楽曲など、前作までの張り詰めた緊張感はなくなり、暖炉のように暖かみのあるサウンドが印象的。英トラッド・フォークの傑作。ジャッキー・マクシーの独唱による「When I Was In My Prime」は、鳥肌ものの美しさです。
ルーツに立ち返った前作の延長線上にありながらも、アメリカン・フォークにも接近をみせた5作目。71年作。メンバー間の確執が噂された時期だが、その舞台裏をかんじさせないくつろいだ穏やかな雰囲気を感じさせる一枚。
紙ジャケット仕様、内袋付仕様、定価2000+税
盤質:傷あり
状態:良好
帯有
若干帯中央部分に色褪せあり、紙ジャケに若干スレあり
72年作のラスト・アルバム。バート・ヤンシュ、ジョン・レンボーンによるギターと、ダニー・トンプソンによるダブル・ベースとで織り成されるクールな演奏を聴くたびに遠い英国の荒涼とした寒空が眼前に浮かび上がります。前作ではアメリカン・フォークを意識したレイドバックしたサウンドを聴かせていましたが、本作で聴けるのは、「BASKET OF LIGHT」「CRUEL SISTER」などの名作にも見劣りしない、緊張感溢れる英国トラッド・フォーク。トラッド回帰により、ジャッキー・マクシーも水を得た魚のように美しい歌声を響かせています。バンドの最後を見事に飾った名作。
紙ジャケット仕様、インサート封入、定価2000+税
盤質:全面に多数傷
状態:良好
帯有
盤に曇りあり、若干帯中央部分に色褪せあり
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