2022年9月9日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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「めんどくさい」という言葉がある。正確には「面倒くさい」で、この場合の「くさい」は程度がはなはだしいことを表している。「アホくさい」「辛気くさい」とかの「くさい」と同じ。「面倒くさい」といえば、面倒なことはなはだしい、という意味となる。
かなり前の話になるので詳細は覚えていないが、明石家さんまと所ジョージが司会のトーク番組があって、ある女性タレントが「苦労が苦手」「面倒くさいのがイヤ」というトークをしていた。すると所ジョージが「面倒くさいことが楽しいんだよ、だって、生きること、それ自体が面倒くさいんだもの。服着て、脱いで、いちいちボタン止めたり外したりって面倒くさいでしょ? 面倒くさいのが嫌なら寝てればいいんだけど、それ楽しくないでしょ?」みたいなことを言ったのだ。名言やわ。
これ、趣味人ほどわかってくれると思うけど、プラモデルとかジグソーパズルとか、 何でもいいけど趣味ってだいたい面倒くさい。でもその「面倒くさい」ことをチマチマするのが楽しいわけだ。それで、最近知ったんだけど、エポック社のジグソーパズルに「スーパースモールピース」というシリーズがある。なんとひとつのピースが従来の四分の一の大きさしかない。1053ピースでもA4の紙よりちょっと大きいぐらいのサイズ。たまらんほど、やりがいがあるやろなぁ、と思わず買ってしまった。
「それやる時間がどこにあるねん?」と、もう一人の僕が言う。そんな時に思い出すのがロイ・ウッド、そして彼の初ソロ作『BOULDERS』(1973年)だ。同作のレコーディングは、THE MOVEの最終作とELECTRIC LIGHT ORCHESTRAのデビュー作をほぼ同時並行的に製作するという多忙極める状況のなか、ほぼすべての楽器を彼一人で担当した多重録音で行われている。プロデュース、アルバム・ジャケットまでロイ・ウッドが担当している。「めんどくさ!」と思うけど、そこにこそやりがいがあるという、さすがロイ・ウッド!
ということで、今回はロイ・ウッド『BOULDERS』といきたいところだが、彼の活動をじっくり紹介していると長くなってしまう。それにロイ参加作のジャケットについては色々と書きたいこともあるので、『BOULDERS』は次回にして、今回はロイが率いたTHE MOVEの『LOOKING ON』を紹介したい。
1946年11月8日、バーミンガムに生まれたロイ・ウッドは、10代半ばに結成したFALCONSから音楽活動をスタートさせている。1963年にはGERRY LEVENE & THE AVENGERSに加入。後にMOODY BLUESを結成するグレアム・エッジも在籍していたグループだが、ロイは1年足らずで脱退し、すでにデビューを飾っていたMIKE SHERIDAN’S NIGHTRIDERSに加入する。ロイを加えた彼らは、1964年に「What A Sweet Thing That Was / Fabulous」、1965年に「Here I Stand / Lonely Weekends」を発表。MIKE SHERIDAN’S LOTと改名して、1965年に「Take My Hand / Make Them Understand」を発表。B面曲はロイが初めて世に問うたオリジナル曲だった。MIKE SHERIDAN’S LOTは、1966年に「Don’t Turn Your Back On Me,Babe / Stop,Look,Listen」をリリースするが、ロイは脱退してしまう。ちなみに、後にこのMIKE SHERIDAN’S LOTからマイク・シェリダンら中枢メンバーが脱退。ジェフ・リンが加入してNIGHTRIDERSと名乗り、やがてIDLE RACEへ改名することになる。
1966年、ロイ・ウッドは、セッションを通じて知り合ったCARL WAYNE & THE VIKINGSのカール・ウェイン(vo)、エース・ケフォード(b)、ベヴ・ベヴァン(ds)の3人と、DANNY KING’S MAYFAIR SETのトレヴァー・バートン(g)でTHE MOVEを結成する。ここからがロイの本領発揮。デッカ傘下に設立されたデラムと契約を結び、1966年末にデビュー・シングル「Night Of Fear / Disturbance」をリリースする。AB面曲のいずれもロイ・ウッドのオリジナル。A面曲「Night Of Fear」は、チャイコフスキー「1812年」のメロディを引用したリフを持つ革新的ポップ・ソングで英2位を獲得。続いて1967年に発表したシングル「I Can Hear The Grass Grow / Wave Your Flag And Stop This Train」で英5位、「Flowers In The Rain / Lemon Tree」で英2位と、いきなりビッグ・ヒットを連発する。
リーガル・ゾノフォンに移籍し、「Cherry Blossom Clinic / Vote For Me」をリリースしようとしたが、B面曲が政治的なメッセージと捉えられることを避けるために発売中止となる。その代わりにとリリースした1968年のシングル「Wild Tiger Woman / Omnibus」はチャート的に振るわなかったが、1968年に発表されたデビュー・アルバム『MOVE』は、英15位のヒットを記録する。優れたポップ曲満載の同作では、シーモン・ポシュマとマレイケ・コーガーによるデザイン・グループ、THE FOOLがMOVEの文字をサイケデリックにデザインしたジャケットとなっていた。順風満帆に思えたTHE MOVEだが、メンバー間に不協和音も響き始めていて、エース・ケフォードが脱退してしまう。
1968年に発表したシングル「Blackberry Way / Something」で、ついに英1位を獲得。A面曲では、後にELECTRIC LIGHT ORCHESTRAのメンバーとなるリチャード・タンディがハープシコードを弾いているなど、ELOファンにも見逃せない曲だ。このすこぶるポップな名曲を歌っているのはロイ・ウッド自身。カール・ウェインは歌うことを拒否したというから、不仲もここに極まれりというところか。同シングル発表後、トレヴァー・バートンが脱退し、リック・プライスを加えた編成で「Curly / This Time Tomorrow」を発表。こちらも英12位のヒットとなるが、バンド内部の混乱もあってか、1968年にライヴEP『Something Else From The Move』を挟んで、2作目の『SHAZAM』が発表されたのは1970年のことだった。
この『SHAZAM』には、AMEN CORNERに提供して英4位を記録した「Hello Suzie」や「Beautiful Daughter」というロイ作のポップなオリジナル曲もあるが、B面は全部カヴァー曲。カール・ウェインとロイ・ウッドの不仲が作品の不安定さにつながったともいえる内容となっていて、チャート的にも不発となってしまう。『SHAZAM』のジャケット・イラストを描いたのは、ロイのかつてのバンド仲間であるマイク・シェリダンらしい。メンバーがスーパーマン風の格好をしているイラストという、それも不発の原因ではないか?と思ってしまうほどの出来です。なぜプロに頼まない?! ただ、この2作続けてサイケという名のヘタウマ・ジャケットが、ある意味ロイ・ウッドに自信を与えたのではないかと、その辺の話は次回に。
ついにカール・ウェインが脱退。後任に加入したのが、NIGHTRIDERS~IDLE RACEのジェフ・リンだった。THE MOVEは、1970年に「Brontosaurus / Lightning Never Strikes Back Twice」を発表して英7位を記録。同シングルを最後にフライへと移籍。この新体制・新環境で心機一転と、1970年に発表された3作目が『LOOKING ON』だった。
しかし、何だこのジャケットは?! レコード会社にあった写真素材の中から選んでジャケットに使用しただけらしいが、頭髪の寂しいオジサンたちを上から写したもので、まるで卵が並んでいるようにも見える。ユーモアがある&ユニークと言えなくもないが、うーん、やっぱり言えないわ。どうもロイ・ウッドはジャケットに頓着しないみたい。
ところが同作のイタリア盤では、別デザインで発売されていたことがわかりました。こちらは何とギミック・ジャケ。目を閉じた女性の顔半分が写っているが、ジャケの上半分をペロッとめくると、女性の瞳が表れるという、タイトルにもふさわしい、ちょっと素敵なデザインです。これが英オリジナルならよかったのに。これで紙ジャケ再発希望!
さて、この『LOOKING ON』ですが、シングル曲「Brontosaurus」は収録されているものの、ほとんどの曲が7分や8分におよび、重いハード・ロック的なリフが使われていたり、プログレ的で、どちらかというとわかりにくい。アルバムとシングルで異なるものを求めていたんだろうけど、実験精神の方が強く出てしまった印象。歌メロディは十分にポップで、アレンジも面白いけれど、それまでのTHE MOVEともIDLE RACEとも異なる作風。ELOへのステップといえるかも。ここでは、ドイツのテレビ番組『ビート・クラブ』に出演して演奏した「When Alice Comes Back To The Farm」を聴いてもらいたいと思います。本作の中ではストレートな印象のロックンロール。ロイは、こういうのが好きです。
それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。
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ロンドンとリヴァプールの中間に位置する工業都市バーミンガムで66年に結成。60年代の英国屈指のメロディメイカーと言えるロイ・ウッド率いるビート・ポップ/サイケ・ポップの名グループ。68年にリーガル・ゾノフォンよりリリースされたデビュー作。ザ・フーのドライヴ感とホリーズのキャッチーさとハーモニーが一緒になったような佳曲がずらりで、フックに富んだ楽曲の魅力は名作ぞろいの68年の英国シーンの中でも屈指と言えるでしょう。一聴で聴き手の心をとらえるメロディとまばゆいハーモニー、そしてエッジのたったアンサンブル。トニー・ビスコンティによるアレンジも特筆で、管弦楽器による時にカラフルでサイケデリック、時に狂気をはらみ、楽曲を彩っています。カラフルなジャケットのデザインは、アップルのファッション部門アップル・ブティックでお馴染みのデザイン集団のザ・フール!
ライヴEPとしてリリースされた5曲に加え、モノ・マスター・テープに残る他の曲も収録し、当時のライヴの全貌に迫る編集盤。
60年代の英ビート・ムーヴメントの中でも屈指といえるメロディ・メイカーのロイ・ウッド率いるグループ、70年作の3rdアルバムであり、ELOでお馴染みのジェフ・リン加入後では最初のアルバム。ブルース・ロックにクラシックの要素をまぶしてヘヴィに鳴らした意欲作で、70年という時代を見事に反映していると言えるでしょう。シングル・カットされてヒットしたロイ作の「Brontosaurus」、ジェフ・リン作の「What!」など、ヘヴィな中にもメロディ・センスがキラリと光るさすがの佳曲ぞろい。
直輸入盤(帯・解説付仕様)、ボーナス・トラック5曲、定価2427+税
盤質:無傷/小傷
状態:良好
帯有
ビニールソフトケースの圧痕あり
2in1CD、背ジャケ元から無し、定価2500
盤質:傷あり
状態:良好
帯有
帯中央部分に色褪せあり、若干スレあり
サイケ・ポップ・バンドMOVEにてレイト60sを彩る数々の名曲を残し、ELOにてJeff Lynneとタッグを組んだ奇才。彼が、ギター、ベース、ドラムはもちろん、管弦楽まで一人でこなした驚異の一人多重録音作品。メロディがとにかくキレまくっていて、どの曲のどの部分を切っても驚くほど濃密なポップ空間が広がっています。水をパチャパチャ鳴らしたリズム・アレンジなど、遊び心にもワクワクさせられます。ポール・マッカートニーと比較されることが多いですが、好奇心旺盛なミクスチャー感覚、実験精神、ユーモアなど、センス的にはむしろジョンをイメージします。ロイ・ウッドの天才ぶりを証明するブリティッシュ・ポップの傑作です。
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