2022年1月14日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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「人を責める」という行為を好むか、嫌うかというのは、人それぞれ。まあ、攻撃的な人間か、そうでないかということだと思うけれど、僕はどちらかというと、いや、ハッキリと後者で、「人を責める」労力ほど無駄なものはないと思うし、そこまでして正したいと思う正義も、ほぼ持ってなかったりする。誰だって間違うことも、失敗することも、勘違いすることもあるんだから。自分の子どもに対してぐらいかな、厳しいこと言うのは。SNSとかもそうだけど、批判することが当たり前になっていて、それがネット・ニュースとかになったり、それを見て喜ぶ人がいたり。なんか不健全だと思うわけです。
と前フリしておいて、何を言いたいかというと、エライ間違いをしてしまいましたが、責めないでいただきたいということです。間違いというより勘違いかな。「あ、そういうことか」と今になって気がついたというか、まあ、自分でもなんでわからんかったんやろ、と情けなくなる話なんですが。
ダラダラ言い訳していても仕方がないので書きますが、TRILLION『TRILLION』です。
アメリカン・プログレ・ハードの名作である同作は、カケレコ・ユーザーならご存知の方も多いでしょう。もしかすると、先日ソニーから発売された、「プログレッシヴ・ロック紙ジャケット・コレクション」の第三弾、アメリカン・ロック編での再発CDを手に取ったという方もいらっしゃるのではないでしょうか?そのライナーノーツを担当させていただいたのですが、そこで同作のジャケットに触れ、「雪山の頂上に三頭のトラの頭が描かれている」と書いてしまいました。
今回の当コラム、寅年やし、TRILLION『TRILLION』で行こか、と思い、「まてよ?これって、TRILLIONの単語からの連想で、トラではなくライオンちゃうか!!」と。ああ、痛恨のミス! 同再発CDをお買い上げいただいた方には謹んで訂正させていただきます。これ、トラではなくてライオンです!
Trillionという単語には、数の単位の「兆」という意味がある。『TRILLION』の裏ジャケットには、Trill(トリル)という音楽用語に関する説明も書かれている。(画像をクリックで拡大)
トリルとは、離れた音と音を震えるように細かく行き来する装飾音のことで、ご丁寧にトリルの音楽記号も描かれている。では、なぜ三頭のライオンなのか? そこで考えられるのが、TRILLIONという単語からの連想だろう、と。まず「tri-」は、ラテン語で「3」を意味する接頭辞である。で、「lion」なので、トラ……じゃなくてライオン。「tri」と「lion」ということで、三頭のライオンをジャケットに描いたということなのだろう。
さて、今回は懺悔の意味も込めて(?)、TRILLION『TRILLION』です。冬らしいジャケットかと思います、寅年にはハマらなかったけれども、ライオンもトラもネコ科なので許してください?!
TRILLIONが結成されたのはシカゴ。それなりに下積みを経験していたメンバーによって結成されている。なかでもシンガーのファーギー・フレデリクセンは、STYXへ加入するためMS FUNKを抜けることになったトミー・ショウが、自分の後任に推薦したという話もあり、その実力はアンダーグラウンドでも知られていた。キーボードのパトリック・レオナルドとギターのフランク・バーバレイスは、TRILLIONの活動と同時期にスティーヴ・キャンプの『SAYIN’ IT WITH LOVE』のレコーディングに参加している。
そのような下積みも功を奏してか、TRILLIONは結成から間もなくしてEpicレーベルと契約を獲得する。
こうして1978年にリリースしたデビュー作が『TRILLION』だった。プロデュースはゲイリー・ライオンズ。まさかのライオンつながり!いやいや、名プロデューサーですから、レコード会社のTRILLIONに対する期待も相当に高かったと思われます。それに彼らの音楽性を考えれば、ベストな人選でしょう。同年には「Hold Out / Big Boy」をシングル・カット。『ローリング・ストーンズ』誌に1ページの広告を打つなど、プロモーションにも力が入っている。1979年にはセカンド・シングル「Give Me Your Money, Honey / Big Boy」をリリース。ライヴ活動もしていたようだが、早くもファーギー・フレデリクセンが脱退してしまう。
ファーギーの後任にはトム・グリフィンが加入して、1980年にセカンド・アルバム『CLEAR APPROACH』をリリース。
デビュー作のプログレ・ハード色は薄れ、AOR色がグッと増している。ハード・ロック系のファンには物足りないというか、薄味になったと感じるかもしれないが、スウィートなメロディと美しいサウンドは健在で、AOR系のファンにはおススメの内容になっている。残念ながら発表当時も話題になることなく、TRILLIONは解散してしまう。
キーボードのパトリック・レオナルドは、作曲家、プロデューサーに転身。マドンナの初期作品に楽曲を提供したり、ロジャー・ウォーターズの『AMUSED TO DEATH』のプロデュースをするなど、裏方ながら第一線で活躍する。
ファーギー・フレデリクセンはデヴィッド・ロンドンと名乗って、1981年にソロ・アルバムをリリース。以降はANGEL、LE ROUXを経て、ボビー・キンボールの後任としてTOTOに加入。『ISOLATION』でシンガーを務めるが同作一枚で脱退してしまう。
しばらく音楽活動から遠ざかっていたが、ANGEL時代の盟友リッキー・フィリップスと1995年に『FREDERIKSEN / PHILLIPS』をリリース。
1999年にはソロ・アルバム『EQUILIBRIUM』を発表。
いずれもAORハードの良作だったが、C型肝炎とガンを患っていることを公表する。闘病を続けながら、2011年に『HAPPINESS IS THE ROAD』、
2013年『ANY GIVEN MOMENT』を発表するが、
2014年1月18日に肝臓ガンのため他界している。
クリアなハイトーンで魅せる稀代のシンガー、ファーギー・フレデリクセン。数々のバンドを渡り歩き、ソロ作も残しているが、その実力に見合う評価を得ているとは言い難い。そのファーギー参加作品の中でも、彼の実力が遺憾なく発揮されていると思うのが『TRILLION』なので、今回の再発CDに限らず、機会があれば聴いてもらいたい。
まず冒頭の「Hold Out」から、力強いリズムとメロディアスなギター・フレーズ、そして伸びあがっていくファーギーのヴォーカル、きらびやかなキーボードが全開。アメリカン・ハード・ロックらしい爽快さとキャッチーさが噛み合った曲になっている。ハード・ポップ曲「Big Boy」、ヒット性に溢れた「Give Me Your Money, Honey」と、冒頭からの3曲にTRILLIONの魅力が凝縮されている。ここはやはりデビュー・シングル曲でもある「Hold Out」を聴いていただきたいと思います。ジャケットの勇壮さにもふさわしい、堂々としたサウンドが素敵です。
それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。
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