2021年12月10日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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前回の当コラムで、最近「老人=穏やかな人柄」でないことを痛感するという話を書いた。それ以降も、老人と言われるぐらいの年齢の人たちが起こした不可解な事件が相次いで報道されている。まあ老人だけじゃないけどね。若い子たちも、中年も、いったい何を考えてるんだという事件の多いこと、多いこと。しょうもないことで捕まったり、人生フイにしたら勿体ないと思うんだけどね。
やっぱり何か趣味を持たないといかんのじゃないか? 例えば、好きなアーティストがひとつあれば、新作が出たり、来日ツアーをしたり、いつそんなことが起こるかわからない。今シーズンのプレミア・リーグや来年のワールド・カップも気になるし、今年のM-1グランプリの優勝はどのコンビかも知りたいところ。美味しいお酒も飲みたいし、家族とゆっくり過ごしたいとか何とか、やりたいことがあればあるほど、刑務所に行きたいとか、人に迷惑かけるとか、そんなくだらないことに労力をかける気は露ほども起こらないと思うんだけどね。
しかし、これやりたい、あれやりたいという欲求って、年を経るごとに減っていくのかと思ったら、どんどん増えている。おそらく、HAWKWINDのデイヴ・ブロックも同じじゃないかな。
そう、ここ数年は、毎年1枚というペースで新作を放ち続けているHAWKWINDが、今年もまた新作を発表した。結成から52年。デイヴ自身は80歳というから、たまらん元気。
このHAWKWINDの晩年最盛期のスタートとなったのが、2016年に発表された『THE MACHINE STOPS』だった。
E.M.フォスターの同名小説を元にしたコンセプト作。神のように君臨するマシンが人々を支配する、人間性が薄れた世界。それを振幅の激しいサウンドで描いた濃厚な作品だった。1970年代に確立した、サイケ、エレクトリック、テクノ、ハード・ロックが融合した独自のスペース・サイケ・ロックが同作でも炸裂。同作発表当時、デイヴ・ブロックは75歳。同作は英29位を記録するという快挙でもって、HAWKWIND再進撃の狼煙を挙げた。近未来的なイメージを完璧にクリアしたジャケットも印象的だった。
続く2017年には『INTO THE WOOD』を発表。ジャケットは前作から一転して森の中を描いた神秘的な雰囲気をたたえたものに。この感性もまたHAWKWINDと納得させる。
音楽的にも前作と並ぶゴリゴリのスペース・サイケ。冒頭のピアノを含め、ヴィンテージなキーボードの効果的な使い方も秀逸。冒頭のタイトル曲から混沌としたラストの「Magic Mushrooms」まで、ポップな「Have You Seen Them」などのヴァラエティ豊かな曲を挟みながら、グイグイと聴き手を引きずり込んでいく。本作も英34位というヒットを記録している。
2018年には『ROAD TO UTOPIA』を発表。こちらは大半を過去曲の再録で占めた内容で、純粋に新作とはいいがたい。それもあってか、ジャケットはいつもとは異なるマンガ風のものに。
本作の目玉は、レミーが作曲した「The Watcher」のセルフ・カヴァーで、なんとあのエリック・クラプトンが参加している。クラプトンらしいブルージーなギターがうまく溶け込んでいるのが不思議。
2019年には『ALL ABOARD THE SKYLARK』を発表。こちらは純粋な新作といえるもの。結成50周年記念作品。
朽ち果てたスペースシップを配した印象的なジャケットは、まさにHAWKWINDといえるもの。『THE MACHINE STOPS』、『INTO THE WOODS』と同じ、マーティン・クレルというアーティストがジャケットを担当。彼の手掛けたセンス溢れるジャケットは、HAWKWINDの再注目に、かなりの貢献をしていると思う。本作も英34位を記録している。この時、デイヴ・ブロックは78歳。すごいの一言。
さらに結成50周年記念ツアーを開催。公演によって元メンバーのティム・ブレイク、元MOTORHEADのフィル・キャンベル、そしてエリック・クラプトンも駆けつけた。その模様は『50th ANNIVERSARY LIVE』として2020年に発売されている。
その2020年には、HAWKWIND LIGHT ORCHESTRA名義で『CARNIVOROUS』を発表。
HAWKWIND LIGHT ORCHESTRA名義では、2012年の『STELLAR VARIATIONS』に続く2作目。デイヴのソロに近いプロジェクトということなのかもしれないが、『CARNIVOROUS』には、現HAWKWINDメンバーのリチャード・チャドウィック、マグナス・マーティンも参加している。タイトルの『CARNIVOROUS』というのは肉食動物や肉食性を表す単語だが、Coronavirus(コロナウイルス)のスペルに似ているところからのタイトルで、タイムリーな話題も取り上げるという現役感バリバリです。
それにしてはライヴも出来ないパンデミック状態。それでもジッとしてられないデイヴ・ブロック。リチャード・チャドウィックとマグナス・マーティンのトリオ編成で、音源データのやり取りをしながら、新作の制作にいそしむ。こうして完成したのが、2021年発表の新作『SOMNIA』だ。様々な眠り、夢などをテーマとしたコンセプト・アルバムになっている。
ここしばらく使用されていたバンドのロゴも変更。それにあわせてジャケットのセンスがガラッと変わっている。ベッドに横たわり、掛けフトンから両手を出している女性(おそらく)。その女性にプロジェクション・マッピングのように幻想的風景が映し出されている。ここに映されているのは、リチャード・ダッドの「お伽の樵の入神の一撃(原題「The Fairy Feller’s Master-Stroke」)」という絵画作品である。
リチャード・ダッドはヴィクトリア朝のイギリスで活動した画家だが、25歳の時に精神に異常をきたして、父との散歩中に父を殺してしまう。ベドラムの名で知られる王立ベスレム病院に収容され、そこで作品を制作し続けた。「お伽の樵の入神の一撃」もそこで描かれた作品だ。
テイト・ギャラリーで展示されたこの作品を見たQUEENのフレディ・マーキュリーが、作品タイトルそのままの曲を書いている(『QUEENⅡ』に収録)。HAWKWINDのセンスからいえば、少し外れているように思えるジャケットだが、アルバム・コンセプトにはふさわしい秀逸なデザインといえるだろう。
さて、その『SOMNIA』だが、コロナ禍なのでメンバーが一堂に会することなく、音声データを交換するというやり方でアルバムを完成に導いている。それもあってか、バンドが一体となるパワフルさは少し控えめだが、スペース・サイケな音楽性だけはしっかりと押さえられている。ここでは「I Can’t Get You Off My Mind」を聴いていただきたい。
HAWKWINDは、2021年10月28日にロンドン・パラディアムでライヴを行なった。その映像がYou Tubeにもアップされているが、デイヴ・ブロックは飛び交うレーザー光線のなかでギターをかき鳴らし、往年の名曲「Born To Go」などを熱唱している。恐らく世界最強の老人である。
いや、もう一人いた。今年8月に開催されたHAWKWIND主催のフェスティバルHAWKFESTに、あのアーサー・ブラウンが出演。顔にペイントを施して熱唱している。アーサー・ブラウン、御年79歳だからすごすぎる! えっ?ROLLING STONESは、、、って? うーん、そう思ったら、強烈な老人いっぱいいるな!目指すならそこだな。
それではまた世界のジャケ写からでお会いしましょう。
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前連載コラム「そしてロックで泣け!」はコチラ!
英国スペース・サイケ/サイケ・ハードの名バンドによる26曲オールタイム・ベスト。同時リリースの6CDアンソロジーBOX『DUST OF TIME: AN ANTHOLOGY BOXSET』からのハイライト版となっており、70年デビュー作から21年作『SOMNIA』収録曲まで、シングル・バージョンなどレアテイクも含んだ選曲で、コアなHAWKWINDファンも楽しめるセレクションと言えるでしょう。
結成50年を超え、今なお、英国スペース・ロックの王者として君臨するホークウィンドの34枚目のスタジオ・アルバムは、ローマ神話の眠りの神、ソムヌスに因んだ眠りと瞑想と様々な夢についてのトータル・アルバム。オリジナル・メンバーにしてリーダーのデイヴ・ブロックを中心に、スペーシーでハードにドライヴする不変のホークウィンドを堂々と展開する新たなる充実作!(レーベルインフォより)
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