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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第五十三回 CARMEN『DANCING ON A COLD WIND』(イギリス)

『レコード・コレクターズ』2021年8月号は、見ていただけましたでしょうか? 特集記事は、「70年代ハード&ヘヴィ・アルバム・ランキング100」です。今回は僕も選者で参加しております。海外の音楽雑誌でも、こういうランキングものはあるが、発表当時と今の評価のズレだったり、雑誌の傾向だったりが反映されていて興味深い。

そのランキング結果を踏まえて、まず嬉しかったのは、SLADE『SLAYED?』が41位だったこと。これは大健闘でしょう! 僕は同作を11位に選んだ。SLADEというと、子供向きの軽薄なグラム・ロックと思われがち。いやいや、それこそが彼らの持ち味で、ハード・ロックの魅力を若年層に広げた功績は大きい。日本でも、もっと評価されていいバンドです。また、STATUS QUOとBUDGIEも大健闘!こんなに愛されているなら、まとめて過去作の再発を希望したい。あと、NAZARETHを挙げている選者は何人かいたが、その多くが25位以下にしているのがNAZARETHらしくていいなあ、と思ったり。

などなど、こういうランキング企画は楽しまないと損。ランキング100位の中に入っているアルバムで未聴のものや、各選者が選んでいるけどランキング100位から外れている作品なども、ぜひ聴いてみてほしい。

ということで、この場をお借りして、僕が選んだ70年代ハード&ヘヴィ・ロック30選から、本編のランキング100位に選ばれなかったものを救済(紹介?)したいと思います。30選の内訳は、『レコード・コレクターズ』2021年8月号をご参照ください。


まずは、SWEET『GIVE US A WINK』で、僕は29位に選出。SLADEと同じくティーン向けグラム・ロック・バンドと思われていて、まあそれも正解だと思うが、「Action」に代表される魅力的なリフやコーラス・アレンジ、ストレートなロックンロールは、DEF LEPPARDなどの後続に与えた影響も大きい。

Action

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先述したNAZARETHは、『RAZAMANAZ』(1973年)が70位にランクインしていた。僕も最初は『RAZAMANAZ』を選んでいたが、最後の最後で『LOUD ‘N’ PROUD』(1973年)に変更した。ヘヴィな「Child In The Sun」のほか、「Not Faking it」「Teenage Nervous Breakdown」といったゴキゲンなロック・ナンバーが揃っているというのが理由。『RAZAMANAZ』にしとけば、NAZARETHがもう少し上位にランクインしたのに残念!

Not Faking it

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GUN、THREE MAN ARMY、BAKER GURVITZ ARMYと、ポール&エイドリアン・ガーヴッツ兄弟関係作品が惨敗だったのは少し不思議だ。僕はTHREE MAN ARMY『TWO』を27位で選出。ファンキーなノリのギター・リフが冴える「Polecat Woman」「Burning Angel」や怒涛の迫力のハード・ロック・サウンドに泣きのギターがうなるインスト「Irving」などを収録。

Polecat Woman

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LYNYRD SKYNYRD『(Pronounced Leh-Nerd Skin-nerd)』(1973年)はサザン・ロックということで、あまり選ばれなかったのかな? ラストの「Free Bird」はもちろんだけど、「I Ain’t The One」や「Poison Whiskey」の重いギター・リフはハード・ロックと呼んで差し支えないでしょう? 僕は25位に選出した。

Poison Whiskey

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ATOMIC ROOSTERが一枚もランキングに入っていないのは納得いかん! 僕は『DEATH WALKS BEHIND YOU』を23位で選出。アルバム・タイトルに「Death」って単語を使うって、その時点でダーク&ヘヴィでしょ?!タイトル曲のヘヴィさは、2020年代にも通用します。

Death Walks Behind You

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僕が22位で選んだ『BABE RUTH』は、まあ好みの一枚ということで。紅一点シンガー、ジェニー・ハーンのかっこよさったらないんだけどね。同作の冒頭曲「Dancer」の映像が残っているので、ぜひ見ていただきたい。

Dancer

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さて、今回紹介したいのは、僕が16位と高い順位で選んだにもかかわらず、ランキング外だったCARMEN『DANCING ON A COLD WIND』。プログレやブリティッシュ・ロックの範疇で紹介されることが多い同作だが、これは紛うことなきハード・ロックですよ! しかも、フラメンコとハード・ロックの融合を実現させた唯一無二の存在。独創性という点でも群を抜いていて、ランキング外は残念すぎる!

ジャケット・デザインも素晴らしい。これは、広告デザイナーのマックス・ポンティがデザインしたフランスのタバコ「Gitanes(ジタン)」のパッケージをそのまま使用している。Gitanesというのはジプシーの女性を意味する言葉で、踊り子として描かれている。青を基調とした背景で、シルエットの踊り子が煙をまとうようにして踊っている秀逸なデザインは「ジタンブルー」とも呼ばれる。フラメンコ+ハード・ロックのCARMENが、これをアルバム・ジャケットの中央に据えたセンスが見事。踊り子にまとわりつくような煙は、紫煙(煙草の煙)と表現されることが多いが、CARMENの同作では「Cold Wind」と表現されている。紫煙ではなく木枯らしのイメージ。それが、この踊り子の寂しげな雰囲気を際立たせている。同作のアナログB面に収録された組曲「Remembrances (Recuerdos De Espana)」の物悲しい世界観にも合致している。

さて、このCARMEN、実は生粋のブリティッシュ・ロック・バンドではない。CARMENの中心人物であるデヴィッド・アレンはロサンゼルスの出身。父がフラメンコ・ギタリスト、母がフラメンコ・ダンサーだったことから、デヴィッド・アレンはフラメンコ・ギターを、妹のアンジェラ・アレンは踊りを学んだ。

デヴィッド・アレンは、デニス・トレロトラたちとOFFBEATSを結成して1966年にデビュー。そこにアンジェラ・アレンが加わってSOMEBODY’S CHILDRENと改名。さらにCHILDRENなどと改名しながら1968年まで活動を続けた。続いて、デヴィッド・アレンとデニス・トレロトラ、サムラという女性シンガーとMARIANNEを、デヴィッド・アレンとデニス・トレロトラのデュオでBRAVE BUTTERを組んで活動するも成功とはいかなかった。

そんな二人が、GODS~TOE FATを経て、イギリスからアメリカに渡ってきたブライアン・グラスコックと出会う。そこにアンジェラ・アレンたちが加わって、1970年にCARMENが結成された。後に、TOE FAT~CHICKEN SHACKを経たブライアンの弟ジョン・グラスコックが合流。イギリスでハード・ロックを体現してきたグラスコック兄弟の加入は大きかったはずで、ここに世にも珍しいフラメンコ・ハード・ロック・バンドが誕生することになった。

ところがアメリカでは契約を得ることができず、イギリスに渡ることを決意。しかしブライアン・グラスコックはアメリカに留まることを選ぶ。CARMENはデヴィッド・アレン、アンジェラ・アレン、ロベルト・アマラル、ジョン・グラスコックの四人で渡英し、イギリスの地でCHRISTIEのポール・フェントンが加わった。これがCARMEN躍進のきっかけになる。CHRISTIEを手掛けていたマネージャーのブライアン・ロングレイがCARMENと契約を結び、EMI傘下のRegal Zonophoneとレコード契約。かの名プロデューサー、トニー・ヴィスコンティとも引き合わされ、1973年にデビュー・アルバム『FANDANGOS IN SPACE』を発表した。

1974年に2作目『DANCING ON A COLD WIND』を発表。翌1975年に3作目『THE GYPSIES』を発表する。いずれも名作ながら、当時はヒットといかなかった。ツアーで一緒に回ったことのあるJETHRO TULLにジョン・グラスコックが引き抜かれたりして、CARMENは解散してしまう。

CARMENのアルバムはどれも魅力的だが、ジャケットの秀逸さでいえば2作目『DANCING ON A COLD WIND』が群を抜いている。アナログB面の組曲だけでなく、A面の曲も粒ぞろい。ここでは1曲目に収録された「Viva Mi Sevilla」を聴いてもらいたい。ジョン・グラスコックのブンブン唸りまくるベース、サパテアードと呼ばれる足で踏み鳴らすリズム、ガッガッと力強く刻まれるギターなど、フラメンコの情熱とハード・ロックの激情とが理想的に融合している。改めて聴いてもハード・ロック史に残る名盤です。

それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。

Viva Mi Sevilla

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  • CARMEN / FANDANGOS IN SPACE

    叙情溢れる英国ロックにフラメンコの要素を大胆に取り入れた個性派グループ、トニー・ヴィスコンティによるプロデュースの73年作1st

    フラメンコとロックを融合したサウンドで大きな注目を集めた5人組。トニー・ヴィスコンティのプロデュースによる1st。73年作。フラメンコの静と動を表現したオリジナリティー溢れるサウンドは現在でも十分刺激的。メンバーのジョン・グラスコックは後にジェスロ・タルに加入。

  • CARMEN / DANCING ON A COLD WIND

    フラメンコの要素を大胆に取り入れたエネルギッシュな英国ロック、75年2nd、傑作!

    フラメンコとロックの融合を試みたサウンドで大きな注目を集めた5人組バンドが、前作同様トニー・ヴィスコンティのプロデュースで発表した75年2ndアルバム。前作で提示したフラメンコ由来のパッションとロックのダイナミズムが有機的に結びついた唯一無二のサウンドを、20分超の組曲も交えて展開。スペイン国外におけるフラメンコ・ロックとしては群を抜いてナンバー1の完成度を誇っています。熱情ほとばしる傑作!

  • CARMEN / FANDANGOS IN SPACE and DANCING ON A COLD WIND

    ブリティッシュ・ロックにフラメンコの要素を加えた躍動感と熱気に溢れるプログレ、73年1st/74年2nd

    フラメンコ・ロックとして知られるグループ。73年作1stと74年作2ndを各CD1枚に収録した2枚組。ギターとキーボードを中心としたソリッドなアンサンブル、変拍子を巧みに用いた躍動感溢れるリズム隊、哀愁溢れるメロディーと分厚いコーラス・ワークによるサウンドは、GENTLE GITANTあたりにも比肩しうる圧倒的な完成度。フラメンコ・ロックと言っても、キワモノ的な雰囲気は全くなく、ベースにあるのはテクニカルかつセンス溢れるオーソドックスなプログレ。そこに、フラメンコ的エッセンスが加味され、英ロック特有の「暗さ、重さ」とは異質の、躍動感を持ったエネルギッシュなプログレへと昇華しています。

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