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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第四十回 CHALICE『CHRONICLES OF DYSPHORIA』(オーストラリア)

ネットニュースを見ていると暗澹たる気分になってくる。コロナウイルスにまつわるストレスかなんか知らんけど、世の中にはこうも他人に対して苛立ったり、腹を立てたり、傷つけたり、危害を加えたりする人が多いのかと。今ちょっとヤフーでもグーグルでもいいから、ネットニュースのトピックスを見てもらうと、日本全国が非道徳的行為のお祭り状態だということがわかるはず。

若い子だけじゃなくて、ええ年した40~50代、いや60~80代が事件を起こしていることも多い。色々な経験をして、角が取れていき、いつかは好々爺と呼ばれるようになるのが理想的な年の取り方だと思うんだけど、キレたり、抑制が効かなくなったりする大人や老人が、こんなに多いというのは、どうしたらいいんだろうね。少なくとも自分だけは気持ちがささくれ立たないようにしたいと思う。

じゃあ、花植えるか!と、急に思い立つ。気持ち安定化計画のひとつ。植物を育てるのは癒しになるしね。やはり夏といえばヒマワリでしょ!と種を買いに行こうとしたら、妻があんまりいい顔しない。「ヒマワリは咲いている時はキレイけど、枯れたらコワイ感じがする」と。そうかな?これなんですけど、どうでしょう?ということで、今回はオーストラリアのCHALICE『CHRONICLES OF DYSPHORIA』です。

燃えるような赤いバックの前に見えるのがヒマワリ。すっかり枯れてしまって、花びらの多くは失われている。かろうじて残っている花びらもシワシワ。茎には力がなくなっていて、花の重みに耐えかねて頭を垂れている。咲いている時には、これでもかというほどの生気みなぎる姿を見せるヒマワリ。だからこそ枯れた時のしなびた姿には、絶望的といえるような悲壮感が漂っている。深く漂う死の香り。なるほど、これを見たら、ヒマワリを植えることをちょっとためらってしまうかも。アルバム・タイトルに使われている「dysphoria」とは、「精神的不安」や「身体的違和感」のことで、『CHRONICLES OF DYSPHORIA』は、「精神的不安感の歩み」とでも訳したらいいだろうか。そんなゴシック・メタル・バンドのアルバム・ジャケットとしては、枯れたヒマワリという写真のチョイスはナカナカのものではないかと思うわけです。

CHALICEは、日本で紹介されることがないまま解散してしまったオーストラリアのバンド。ただ忘れられるには惜しい存在で、機会があれば紹介したいと思っている。現在発売中の『メタル・ハマー日本語版』第2号でプログレ・メタルの特集記事を執筆することになった時にも、どこかに潜り込ませようかと思ったけど……すっかり忘れていた!なのでここで紹介させてください。

CHALICEの中心となるのは、ヴォーカルと作曲を担当するシラリー・モーガン嬢。ちょっと生意気そうな感じがキュートな女性シンガーだ。彼女はJENEAHAというバンドで活動を開始。1996年にはデモも録音していたようだが解散してしまう。彼女は同バンドのドラマーだったエイドリアン・ビックルと新たにCHALICEを結成。シーン・グラーツとダレン・マクレナンによるツイン・ギター、ベースのマーク・ボドシアン、ラッセルなるヴァイオリン奏者という編成で、1998年にデモ・アルバム『CHRONICLES OF DYSPHORIA』をレコーディングする。
このデモがきっかけとなったのか、メルボルンのレコード・レーベルModern Invasionとの契約を獲得。この時点でダレン・マクレナンが脱退した四人編成になっていた。CHALICEはセッション・ミュージシャンのヴァイオリニストを起用して、『CHRONICLES OF DYSPHORIA』を再レコーディング。2000年にメジャー・デビュー作として発表されることになり、そのジャケットに採用されたのが枯れたヒマワリだった。

同作をプロデュースしていたジャスティン・ハートウィグ(g)がCHALICEに加入。さらに以降のCHALICEの音楽性の要となる女性フルート奏者のアラナ・プロバートが加入する。彼女がまたシラリー・モーガンと異なるタイプのキリッとした美人で、CHALICEのヴィジュアル面における魅力も高まることに。

このメンバーで2001年にセカンド・アルバム『AN ILLUSION TO THE TEMPORARY REAL』を発表。フルートがリード楽器として活躍することで、CHALICEが本来持っていた耽美的雰囲気とクラシカルな佇まいがグッと向上した。というか、フルートの音色が好きという僕の個人的志向にグッと近づいてくれた。

ライヴ活動も積極的に行なっていたようだが、ベースのマーク・ボドシアンが脱退。彼はイギリスに渡って、PANTHEISTやESOTERICといったバンドで活動する。マーク・ボドシアンの後任にはサイモン・ヘンダーソンが加入し、2003年にサード・アルバム『AUGMENTED』を発表。よりクラシカル&シンフォニックな魅力が増し、フルートの活躍度も文句なしと、彼らの傑作といえる内容を誇っていた。OPETHやMAYHEMのオーストラリア・ツアーのサポートも務めるなど活躍の場を広げていくが、結成当時のメンバーであり、ほとんどの曲で作詞を担当していたエイドリアン・ビックルが脱退してしまう。

エイドリアン・ビックルの後任にマット・エンライトが加入し、2006年にはプロモーション・ビデオを収録したエンハンスドCD/EP『THE CALM THAT WAS THE STORM』をリリースする。そのビデオ及びレコーディングにはアラナ・プロバートも参加しているが、クレジットではゲスト・メンバー扱いになっている。

さてこれからという時期だったと思うが、2007年5月、シラリー・モーガンとその他のメンバーが袂を分かち、彼女以外のメンバーで新たにBLACK ORCHIDという名義で活動していくことがネットで報告された。女性シンガーにアビー・スカイ、キーボードのガレス・チンを加えたBLACK ORCHIDは、2008年に『INERTIA』を発表。CHALICE直系のゴシック・メタルではあったが、活動は長続きせず解散してしまう。

さて、CHALICEのデビュー作『CHRONICLES OF DYSPHORIA』だ。いわゆるゴシック・メタルで、メランコリックなヴァイオリンとシラリーのソプラノ・ヴォイスが醸しだす耽美的な雰囲気が特徴となっている。ヴァイオリンがフルートに代わる二作目以降の方がクオリティは高いが、オスカー・ワイルドの詩「死者のための祈り」をゴシック・メタルにした「Requiescat」、イプセンの戯曲「ペール・ギュント」からの「Solveig’s Song」をとりあげてアルバムのアクセントにしているなど、このデビュー作も聴きごたえがある。ここではアルバム・ラストに収録された、9分に及ぶ「Memorial Embers」を聴いていただきたい。

シラリー・モーガンのCHALICE以降の活動はよくわかっていないが、2020年4月、CHALICEファンのフェイスブックに、『CHRONICLES OF DYSPHORIA』の20周年にコメントを寄せている。そこにはCHALICEメンバーへの感謝と、当時ゴシック・メタルと呼ばれたことで腹をたてた人への謝罪が書かれている。彼女も年を経て丸くなったということか? 長く続けていれば、オーストラリアを代表するゴシック・バンドになっていたかもしれないのに。彼女の脱退の理由はよくわからないけど、怒ったり、イライラするのは損ですね。

それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。

Memorial Embers

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