2020年7月10日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ
70年代にCOLOSSEUMやHUMBLE PIEで活躍し、80年以降はセッション・ギタリストとして数々の作品に参加した名手クレム・クレムソン。
ブルースを根底としつつ、スピーディーでキレのあるギター・プレイで、ハード・ロックからジャズ・ロックまで多彩な名作に貢献。
ソロなど自身が先頭に立って活動することは少ないものの、各作品で確かな存在感を放つ、まさに「縁の下の力持ち」的名ギタリストですよね。
今回はそんなクレム・クレムソンの参加作にフォーカス。名盤をご紹介しつつ、彼のお仕事を振り返ってまいりましょう。
彼のキャリアの出発点となったのが、68年結成のブルース・ロック・トリオBAKERLOO。
当時は完全に無名だったクレムですが、69年に英HARVESTから発表された唯一作『BAKERLOO』を聴いて、当時の人々は「一体このギタリストは誰だ!?」と驚いたのではないでしょうか。
まず1曲目「Big Bear Ffolly」から縦横無尽な高速ブルース・ロック・インストゥルメンタルが炸裂。
4分間、弾き倒し。止まることないウォーキング・ベースやハイテンションに叩きまくるドラムも見事ですが、やっぱりこの疾走するディストーション・ギターの気持ち良さと言ったら。BLUESBRAKERSやCREAMのエリック・クラプトンにも劣らぬテクニックと鋭角なフレージング。「名手爆誕」と言える素晴らしいナンバーです。
こちらの「Drivin ‘Bachwards」はバッハの「ブーレ」をアレンジした楽曲。
ハウリン・ウルフやマディ・ウォーターズなどのブルースをルーツに持つ彼ですが、実は4歳の時からピアノを習っており、クラシックの素養もあったとか。このデビュー作『BAKERLOO』ではそんな彼の多彩な音楽性が見事に発揮されています。
質の高いデビュー作を残したBAKERLOOですが、アルバムの発表後すぐにベーシストTerry PooleとドラマーKeith BakerがMAY BLITZ結成のためバンドを脱退(ちなみに二人ともアルバム制作前にはMAY BLITZを去っています)。
クレムは後に数々の伝説を残す名ドラマー、コージー・パウエルと共に新グループの結成を図ります。
…とその時、クレムにCOLOSSEUMのジョン・ハイズマンからスカウトの声が掛かりました。BAKERLOOとCOLOSSEUMはとあるギグで共演した事があり、脱退したジェームズ・リザーランドの後任としてクレムに白羽の矢が立ったのです。
こうしてクレムはCOLOSSEUMに加入。1970年、『ヴァレンタイン組曲』の北米盤『GLASS IS GREENER』のための新録4曲に参加したのち、同年3rd『DAUGHTER OF TIME』から全面参加を果たします。
スタジオ盤としては最終作となった本作ですが、前作『VALENTYNE SUITE』に勝るとも劣らない名盤。クラシカルさ、ハードさ、ブルージーさ、ジャジーさが一体となって壮大に広がるサウンドは、まさにクレムのスタイルにうってつけ。
ハイズマンにkey奏者デイヴ・グリーンスレイドにサックス奏者ディック・ヘクトール=スミスにと主張の強いメンバー揃いの中、クレムも負けじと素晴らしいギター・プレイを披露しています。
しかしやはり彼らの傑作と言えば、翌年に発表されたライヴ盤『COLOSSEUM LIVE』でしょう。
71年3月のツアーの模様を収めたライヴ盤で、生演奏ならではの臨場感の中で繰り広げられるアンサンブルはスタジオ盤の比ではないほど熱くダイナミック。間違いなく当時の英国屈指のジャズ・ロック・サウンドが詰まった一枚です。
本作は商業的にも成功を収め、バンドは絶頂期を迎えたかに思われましたが、彼らはこのLIVE盤を最後に解散。その引き金となったのが、他ならぬクレムの脱退でした。
当時、クレムはCOLOSSEUMでの活動にあまり満足できていなかったようです。そんな中、バンドの新ギタリストを探していた、SMALL FACES~HUMBLE PIEのスティーヴ・マリオットからお声が。
クレムは新たな活躍の場を求め、ピーター・フランプトンの後釜ギタリストとしてHUMBLE PIEへ加入することを決意します。
それまでのHUMBLE PIEは、フランプトンのポップ志向とマリオットのアーシーなブルース志向が交わったサウンドが特色でした。しかしクレム加入後の本作から、ハード&ソウルフルな作風が全開に。
マリオットとのツイン・ギター・スタイルで時に豪快に、時に繊細に躍動していくクレムのギター。COLOSSEUM時代のスリリング&テクニカルなそれとは異なりますが、伸び伸びとした彼のプレイが実に小気味よく響きます。
HUMBLE PIEはこの後73年作『EAT IT』、74年作『THUNDERBOX』、75年作『STREETRATS』と数々の名盤を発表。
米国でも人気を博し多くのツアーが組まれましたが、メンバーの疲弊などから75年に解散を迎えてしまいます。
COLOSSEUM、HUMBLE PIEとビッグネームからのお呼び出しに応じてきたクレム。HUMBLE PIEの次に組んだグループもまた、自身を含めてビッグネーム揃いの「スーパーグループ」でした。
アルコールなどの問題からバンドを解雇されてしまった元URIAH HEEPのヴォーカリスト、デイヴッド・バイロン。そんな彼がクレム、そして元WINGのドラマー、ジェフ・ブリトンらと共に77年に結成したのがこのROUGH DIAMOND。
彼らは77年に唯一作『ROUGH DIAMOND』を発表しますが、すぐにバイロンが脱退して解散。キャッチーでエネルギッシュなハード・ロック・サウンドは全く悪くはないのですが、77年という時代ではブレイクが難しかったのかもしれません。
この後、彼らは代わりのヴォーカリストにゲイリー・ベルを迎えて後進バンドCHAMPIONを結成。こちらも1枚のアルバムを残すものの、短命に終わってしまいます。
80年代からの彼はセッション・ギタリストとして活躍。ジャック・ブルースとの活動をはじめ、多くのバンドや作品に名を残していきます。
しかし勿論それ以前にも、クレムは様々な作品にゲストとして参加していました。ここでは代表的なものとして、COLOSSEUM時代のバンド仲間デイヴ・グリーンスレイドの作品をピックアップいたしましょう。
COLOSSEUMのkey奏者、デイヴ・グリーンスレイド率いるGLEENSLADEの74年作3rd。
これまでギターレスのツイン・キーボード体制を貫いてきたバンドですが、本作ではギター奏者を招聘。小粋なフュージョン・テイストも取り入れた軽やかなサウンドに、クレムの相変わらずのブルージーなギター・ソロが炸裂しています。
プログレで言うと、かのYESのジョン・アンダーソンのソロ作でもクレムのプレイを聴くことができます。
オススメ曲は「Heart Of The Matter」。伸びやかな歌声が主導する明朗なアンサンブルの中、楽しそうに動き回るクレムのギターが極上です。
94年、なんとCOLOSSEUMが解散時のメンバーで再結成。クレムもラインナップに名を連ね、97年には新作『BREAD & CIRCUSES』を発表するなど精力的に活動を行っていきます。
そんなCOLOSSEUMでのバンド活動が彼を奮起させたのか、2013年、クレムはなんと64歳にして初のソロ作を発表!
COLOSSEUMの盟友クリス・ファーロウやマギー・ベルといったゲスト・ヴォーカルも招きつつ、ほとんどの楽曲でクレムがヴォーカルを担当。
歌声といいギターといいメロウ&ブルージーな楽曲といい隅から隅までコクたっぷりで、「かのクレムのソロ・デビュー作」という期待を裏切らない素晴らしい作品に仕上がっています。
2015年、ジョン・ハイズマンがCOLOSSEUMの活動終了を発表。
COLOSSEUMの歴史は幕を閉じた…かと思いきや、17年にはクレム、ハイズマン、ベースのマーク・クラークというCOLOSSEUMの面々でトリオ・バンドJCMを結成。18年にはアルバム『HEROES』をリリースしましたが、その同年に惜しくもハイズマンはこの世を去ってしまいました。
しかしなんと2020年、COLOSSEUMが再々結成!クレムにクリス・ファーロウ、マーク・クラークといったおなじみのメンバーに新メンバーを迎え、ツアーを行うことが発表されました。このご時世なので無理はしないでいただきたいですが、70歳を超えてもなお「いぶし銀」ギタリストの活躍は止まらない模様です。
COLOSSEUMのDave Greenslade、Tony Reeves、KING CRIMSONのAndrew McCulloch、SAMURAIのDave Lawsonによって結成されたブリティッシュ・プログレ・グループ、74年作3rd。デビュー作からギターレスのダブル・キーボード体制を特徴としてきた彼らですが、本作ではCOLOSSEUMやHUMBLE PIEでおなじみのClem Clempsonや名セッション・プレイヤーAndy Robertといったいぶし銀のギタリスト達が一部の曲で参加。過去作と変わらず明るくファンタスティックな色合いを醸し出すGreenslade&Lawsonのキーボード群をたっぷりとフィーチャーしつつ、小粋なフュージョン・テイストやトラッド感のあるアコギの音色、クラシカルなヴァイオリンなど多彩な表現を取り入れて完成度の高いサウンドを聴かせています。荘厳なメロトロンやチャーチ・オルガンが轟々と響き渡ったり、縦横無尽に駆け巡るダブル・キーボードと手数の多いリズム隊がスリリングに絡み合うテクニカルなパートも披露しつつ、全体的には軽やかでどこかマイルドなユーモラスさが漂っているのがポイント。技巧的ながらも肩の張らない演奏が耳愉しい好盤です。
ピーター・フランプトンに代わるギタリストとして、名手デイヴ”クレム”クレムスンが加入、米アルバム・チャート6位をマークした6thアルバム。スティーヴ・マリオットの、かつて以上にブルージーでソウルフルなリード・ヴォーカルを主軸に、勢いと安定感を兼ね備えた圧倒的なパフォーマンスを披露した傑作。72年作。
71年リリースのライヴ盤で、通算で4枚目となるラスト・アルバム。スタジオ盤でのダイナミズムがさらに増幅された演奏はただただ圧巻。ジョン・ハイズマンの超重量級でいてシャープな怒涛のドラム、ディック・ヘクストール=スミスの熱すぎるサックス、デイヴ・クレムソンの渾身のブルース・ギター、デイヴ・グリーンスレイドの淡くむせぶハモンド・オルガン、そして、クリス・ファーロウのソウルフルなヴォーカル。すさまじい一体感とダイナミズム。間違いなく当時の英国で屈指と言える実力派だったことでしょう。傑作です。
後にコロシアム〜ハンブル・パイで活躍する名ギタリスト、クレム・クレムソンがキャリアをスタートさせたブルース・ロック・トリオで、他の2人は、後にヴィネガー・ジョーやグレアム・ボンドのバンドで活躍するベーシスト、テリー・プールと、後にユーライア・ヒープに加入するドラマーのキース・ベイカー。英ハーヴェストから69年にリリースされた唯一作。オープニングから若きクレムのエネルギッシュなギターが炸裂!クリーム「クロスロード」やジョン・メイオールのブルースブレイカーズでのエリック・クラプトンのギターを彷彿させる鋭角なフレージングが光りまくっています。ジャジーな要素もある手数多くスリリングなリズム隊も特筆。バッハの曲をギターとハープシコードを中心にクラシックとジャズとブルースのフュージョンに仕立てたナンバーなど、プログレッシヴな感性もまた聴き所です。英ブルース・ロックの名作!
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