2017年12月22日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ
タグ:
本記事は、netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』第39回 NOSTRADAMUS / Testament (Hungary / 2008)に連動しています
プロデューサーGregory Boszormenyiによって1990年に設立されたのが、ハンガリーのプログレッシブ・ロック・レーベルPeriferic Recordsです。Periferic Recordsが初めて手がけた作品はシンフォニック・ロック・グループAFTER CRYINGによる90年のデビュー作『Overground Music』であり、AFTER CRYINGはその後、2000年代の東欧プログレッシブ・ロックを象徴する存在へと大きな成長を遂げました。また、Periferic RecordsはRUMBLIN’ ORCHESTRAやFUGATO ORCHESTRAをはじめとするハンガリーの新世代プログレッシブ・ロック・グループたちをデビューさせる一方で、SOLARISやEASTといった80年代のハンガリーを代表するグループの関連作品も積極的にリリースしています。Periferic Recordsを知ればハンガリーのプログレッシブ・ロックが分かると言っても、過言ではないでしょう。
Periferic Recordsが初めてプログレッシブ・ロック・シーンに送り出した作品が、シンフォニック・ロック・グループAFTER CRYINGによる90年作『Overground Music』です。最初期のAFTER CRYINGにはベーシストやドラマーはおろか、ギタリストすら在籍しておらず、オーボエやフルート、トランペットやトロンボーン、ヴィオラやバスーンの各奏者を擁した編成で、キーボーディストVedres Casabaを中心にチェンバー・ミュージックの色濃い音楽性を聴かせていました。彼らはその後バンド・セクションを増強し、KING CRIMSON とEMERSON, LAKE & PALMERを同居させたようなヘヴィー・シンフォニック・ロックを生み出すロック・バンドへと変貌していくことになります。
94年の傑作『Fold Es Eg』を発表後、キーボーディストVedres CasabaはAFTER CRYINGを脱退し、新たなプロジェクト・グループTOWNSCREAMを結成しました。グループのシンフォニックな音楽性に大きな貢献を果たしたVedres Casabaの名に恥じない出来栄えとなっており、ゲストにフルート、トランペット、トロンボーンの各奏者を配し、アグレッシブに畳み掛けるクラシカル・ロックを聴かせます。Keith EmersonやRick Wakemanを筆頭とするキーボード・ロックの側面からも楽しめるでしょう。
80年代のプログレッシブ・ロック・シーンに登場したSOLARISのフルート奏者であるAttila Kollarは、優れたソロ・アルバムもリリースしています。彼が98年に発表した『Musical Witchcraft』は、SOLARISメンバーをバックに従え、トラディショナルなサウンドからクラシカルなシンフォニック・ロックまで、幅広い音楽性を聴かせます。なお、2002年には『Musical Witchcraft II : Utopia』、そして2006年には『Musical Witchcraft III : Psalms & Soundtracks』がリリースされており、作品をリリースするごとにアコースティックな質感が増しています。
AFTER CRYINGに続いてハンガリーから登場したRUMBLIN’ ORCHESTRAは、ヴァイオリン、チェロ、フルート、オーボエ、トロンボーンの各奏者を擁するメンバー編成からも明らかなように、AFTER CRYINGに通じる本格的なクラシカル・ロックを奏でます。しかし、へヴィーな音作りも見られるAFTER CRYINGに比べて、より正統的なクラシカル・ロック・サウンドと言えるでしょう。彼らはデビュー・アルバムとなる98年作『Spartacus』、そして2000年作『The King’s New Garment』をPeriferic Recordsからリリースしています。
84年作『Marsbeli Kronikak(The Martian Chronicles)』で知られるSOLARISの99年作『Nostradamus – Book Of Prophecies』は、Periferic Recordsからのリリースとなりました。彼らは95年に、アメリカのプログレッシブ・ロック・フェスティバルであるProgfestに招かれ名演を残しますが、その後ギタリストのIstvan Cziglanが急逝。ピンチを乗り越えるべくデビュー・アルバムにもゲスト参加していたギタリストCasaba Bogdanを正式メンバーに迎え、世紀末に相応しい重厚なコンセプト・アルバムを作り上げました。
SOLARISでスペーシーなキーボード・サウンドを操るRobert Erdeszは、2000年にソロ・アルバム『Meeting Point』をリリースしました。SOLARISメンバーを含む多数のゲスト・プレイヤーのサポートによって製作された本作では、特に女性ヴォーカリストMarta Sebestyenをフューチャーし、SOLARISとはまた違ったエキゾチックなサウンドを聴かせます。とは言え、東欧独自の冷ややかさを持ったシンセサイザー・オーケストレーションは健在であり、SOLARISファン必聴の作品となっています。
テクニカル・ジャズ・ロック・グループMINDFLOWERSは非常にユニークな作風のグループです。軽やかなジャズ・フュージョンからメタリックなエレキ・ギターがリードする変拍子セクションにつなぐなど、緩急を巧みに使い分けたサウンド・メイクは圧巻の一言でしょう。例えばインドネシアから登場し世界中のプログレッシブ・ロック・ファンを驚愕させたDISCUSにも通じるような質感ですが、一般的な辺境プログレッシブ・ロック作品とは異なり垢抜けた音楽性を提示しています。MINDFLOWERSは、2006年にもPeriferic Recordsからセカンド・アルバム『Nuances』をリリースしています。
ハンガリーを代表するトラディショナル・ロック・グループであり、プログレッシブ・ロック・ファンから高い評価を獲得しているのがKORMORANです。数え切れないほどに膨大な彼らのディスコグラフィーの中でも特にプログレッシブ・ロック・ファンに聴かれているアルバムは、2008年にリリースされた『Balvanyosvar Legendaja』でしょう。ヴァイオリニストGaspar Almosが中心となり製作された本作は、トランシルヴァニアを舞台にした壮大なコンセプト・アルバム。組曲形式を採用した、同郷AFTER CRYINGに勝るとも劣らないシンフォニック・サウンドが収められています。
SOLARISと並んで80年代のハンガリアン・プログレッシブ・ロックを代表する存在なのが、80年作『Jatekok』、82年作『Huseg』で知られるシンフォニック・ロック・グループEASTです。EASTでギタリストを務めるVarga Janosは、JANOS VARGA PROJECT名義で2000年に『The Wings Of Revelation I』、2002年に『The Wings Of Revelation II』、そして2009年に『Elixir』をPeriferic Recordsからリリースしました。Varga Janosのメロディアスなギターワークが全編に冴え渡る、民族色を強く感じさせるトラディショナル・ロックが印象的です。
90年にAFTER CRYINGがデビューを果たし、世紀末の98年にはRUMBLIN’ ORCHESTRAが登場。そして2000年代を迎え、2004年にFUGATO ORCHESTRAがデビューを飾ったことによって、新世代のハンガリアン・プログレッシブ・ロックに対する「大所帯のクラシカル・ロック」というイメージは決定的なものとなったはずです。バンド・セクションに加え、ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、フルート、オーボエ、トランペットなどの奏者を擁するFUGATO ORCHESTRAは、民族色を感じさせつつも垢抜けたクラシカル・ロックを奏でます。
SOLARISは2000年代を迎えると、活動スタンスの違いが原因となりベーシストTamas PocsとドラマーLaszlo Gomorが脱退。彼らはSOLARIS FUSIONを結成し、2007年にシングル『Mystica』をリリースしました。さらにSOLARIS FUSIONはグループ名をNOSTRADAMUSと改め、2008年に『Testament』をリリース。その後、Laszlo GomorはSOLARISに再び合流し2014年作『Marsbeli Kronikak II』にも参加しましたが、一方のTamas Pocsはリーダー・グループTOMPOXを結成しました。SOLARISやNOSTRADAMUSがそうであったように、TOMPOXにもフルート奏者が在籍しています。
netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』 第39回 NOSTRADAMUS / Testament (Hungary / 2008)) を読む
82年にブダペストで生まれ、6歳から本格的なクラシックの教育を受けたBalazs Alparを中心に、多数の管弦楽器奏者を含む編成で結成されたハンガリーの大所帯グループ。04年作に続く2010年作2nd。ひとことで言って『鮮烈』なシンフォニック・ロック!とにかく「動」と「静」の対比が鮮やか。「動」のパートでは、シャープでダイナミックなリズム隊、早いパッセージのヴァイオリンが躍動し、「静」のパートでは、格調高くクラシカルなピアノ、リコーダーやフルートなど管楽器が舞い上がります。クラシック、民族音楽を中心に、ロックのダイナミズムを加えた、西洋音楽史を総括したような壮大な作品。エレクトリック・ギターやキーボードがないのに、これほどまでにロック的なダイナミズムを出せるんですね。傑作です。
ハンガリー出身、抜群のテクニックを武器に、シャープでスリリングなアンサンブルで次々と畳みかけるテクニカル・プログレ。02年作の1st。DREAM THEATER譲りのメタリックに疾走するパートあり、フュージョン・タッチの流麗なギターと広がり豊かなアンサンブルが気持ち良い軽快なパートあり、ピアノが躍動するAFTER CRYINGばりの鮮烈なシンフォ・パートあり、とにかく硬質さとしなやかさが絶妙にバランスしたアンサンブルはかなり完成度高いです。名作!
ハンガリーを代表するシンフォ・グループSOLARISのドラムとベースを中心とするグループ。08年作。スピーディーに畳みかけるリズム隊、幾重にも重なった分厚いキーボード、躍動するフルート、ザクザクとダイナミズムを注入するギター。重厚かつ荘厳なシンフォニック絵巻は、いかにもSOLARIS。ドラマティックなシンフォとして文句無しの傑作
コメントをシェアしよう!
カケレコのWebマガジン
60/70年代ロックのニュース/探求情報発信中!