2015年5月26日 | カテゴリー:MEET THE SONGS,世界のロック探求ナビ
タグ: ハード・ロック
ロンドンで72年に結成されたハード・ロック・バンドSTRIDERによる73年デビュー作『EXPOSED』をピックアップいたしましょう。
それにしても、オープニング・ナンバー「Flying」のイントロのカッコ良さときたら!まるでジェフ・ベックばりの切れ味とタイム感でスリリング&グルーヴィーに刻まれるギター・リフ、そこからドラムが入ってきて、さぁ、くるぞくるぞ、とエネルギーを増幅させていって、ピアノのバッキングが入ってバンドが一体となって走りだす瞬間は何度聴いても痺れてしまいます。歌メロに向けてリズム・チェンジすると、こんどはザ・フー『ライヴ・アット・リーズ』でのピート・タウンゼントばりにリズム・ギターがガツンと鳴らされて、ただただ悶絶してしまうのです。
冒頭の1分の間に、めくるめくリフ&リズム・ギターの畳み掛けで聴き手を鷲掴みにするギタリストの名は、Gary Grainger。よほどのロック・ファンでなければ名前の知らないギタリストと思いますが、経歴は一流。バンド解散後には、76年~81年までロッド・スチュワートのバンドでロッドの右腕として活躍したのをはじめ、ポール・ヤング、ロジャー・ダルトリー、ニック・ロウの作品に参加したり、91年にはジェス・ローデンやジム・キャパルディとバンドHUMANSを結成するなど、ブリティッシュ・ロック・シーンでいぶし銀の活躍をした名ギタリストなのです。
ピアノ&ヴォーカルのIan Kewlyもまたマイナーながらセンス溢れるミュージシャンで、弾むようにリズミックでいて英国的な叙情性も醸すピアノ、絞りだすようなスモーキー&ハイトーンなシャウトともに魅力的。バンド解散後は、ニッチ・ポップ・バンドLIMEYでの活動、デイヴ・ギルモアの『About Face』への参加、93年には、なんとMANIC STREET PREACHERSの作品に参加するなど、英ロック・シーンを渡り歩きます。
Gary Graingerによるハード・ロッキンなエッジと、おそらくソウルやR&Bなど米ルーツ・ミュージックが好きなんだろうな、と感じさせるIan Kewlyのグルーヴ感と哀愁とがあわさって生まれた「コク」がSTRIDERならではの旨味=魅力でしょう。
彼らだけでなく、タイト&シャープなドラムとよく動きつつも安定感あるベースによるリズム隊も素晴らしいし、ライヴは相当にカッコ良かっただろうなぁ。生で「Flying」を聴いたら、ロック・ファンなら間違いなくファンになってしまうはずです。
Gary Grainger(g)
Ian Kewley(Vo, Key)
Lee Hunter(b)
Jimmy Hawkins(dr)
2曲目の「Ain’t Got No Love」は、黄昏色のピアノが流れるフェイセズそっくりの哀愁いっぱいのパブ・ロックではじまり、ギターが炸裂するとザ・フーになり、ヴォーカルが入るとハード&アグレッシヴにスイングする、というこのバンドならではのフックに富んだ佳曲。サビで聴けるソウルフルな女性コーラスは、ゲスト参加したJenny Haan(ベーブ・ルースの歌姫)!
この曲をはじめ、アルバムを聴いていると、何度も「FACES meets THE WHO」というコピーが頭に浮かびます。リズムの逞しさなんて、JEFF BECK GROUPあたりにも比肩してるし、本当、良いバンドだなぁ。
そして、オープニングの「Flying」と並んで、個人的に大好きなのが、ラストを飾る「Get Ready」。モータウンを代表するソウル・グループTEMPTATIONSによる66年のヒット曲のカヴァー(スモーキー・ロビンソン作曲)で、70年にはモータウン産の白人ロック・バンドRARE EATHがカヴァーし全米4位のヒットとなったことでも知られる楽曲。
ふくよかでいてタイトなドラム、そこに鳴り響くファットな歪みのギターと弾むようなピアノのリズム。1曲目にも負けないエッジ&グルーヴにグッときます。ヴォーカルが入る前のリズムのブレイクもまた1曲目と同じ感じで、バンドとしてのこなれたアレンジ・センスもまた特筆。
アレンジ・センスといえば、何と言っても素晴らしいのが、サビのアレンジ。ピアノのバッキングのみで、原曲にはない哀愁のバレード風に仕立てあげているんですが、うーん、ドラマティック。そこからハイトーンのシャウトが一閃、再びハードなブギへとスイッチするアレンジも出色です。
Gary Graingerは、楽曲を引き立てる巧みなバッキングと作曲&アレンジに秀でたギタリストだと思いますが、この曲では素晴らしいソロを聴かせています。歌い上げるようにエモーショナルで、「渾身」というキーワードがぴったりのソロは、まるでフリーのポール・コゾフばり。
この作品を位置づけるとすると、ビートルズの『レット・イット・ビー』の延長線上にあるハード・ロックと言えるでしょうか。R&Bやソウルを素材にしてビート・ミュージックを仕立てあげたビートルズは、サイケデリック・ムーヴメントを通過した後、ゲット・バックして『レット・イット・ビー』に到達しましたが、そんなサイケ・ムーヴメントの喧騒から離れ、R&Bやソウルへと原点回帰したサウンドの流れにある「ハード・ロック」がSTRIDERのサウンドと言えるでしょう。
米ルーツのコクがにじむグッとくる名作です。
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