2019年12月2日 | カテゴリー:世界のロック探求ナビ
タグ: プログレ
周辺国から「ネーデルラント(低い地)」と蔑まれ、極寒の北海でのニシン漁で生計を建てていた小国ながら、16世紀には、海洋国家としてヨーロッパに覇権を築き、世界へと飛び出したオランダ。
彼らの成功の地盤にあったのが、堤防を築いては風車の力で干拓しながら地道に国土を広げていく中で培われた質素さと生真面目さ、そして北海の荒波での漁で育まれた自立心と精神力でした。
そんな性分が「商業」の世界で花開き、一気にヨーロッパの強国へと躍り出たのが16世紀。海洋大国イギリスより先に世界初の株式会社と言われる東インド会社を興し、宗主国だったカトリック大国スペインに勝利して独立を勝ち取りました。
過酷な土地と商業文化が育んだ合理主義と自主の精神。そこから生まれた禁欲と勤勉のプロテスタンティズム。
そういった歴史の中で脈々と受け継がれた「働きものの真面目」な国民性は音楽の中でも息づき、オランダならではの端正でいて素朴な人情味にも溢れたメロディアスなプログレッシヴ・ロック名作を多数生み出しました。
卓越したポップ・センスでフックに富んでいながらも決して軽くはならず、中世の修道院が目に浮かぶような敬虔さがヴェールとなってメロディを包み込んでいる、そんな感じ。
フォーカスをはじめとする70年代のバンドからスタートし、彼らのDNAを受け継いだ90年代以降のバンドまで、カケレコオススメのオランダ・プログレ作品をピックアップしてまいりましょう。
オランダを代表するロック/プログレ・バンドと言えばフォーカス。そしてフォーカスと言えば、この「Sylvia」ですね!
Key兼VoのThijs Van Leerと名ギタリストJan Akkerman率いるオランダの名グループ。
温かみあるオルガン、ツブ立ちの良いトーンのメロディアスなギター、そして、大らかなメロディが素晴らしい。
なんだか「勤勉さ」がにじみ出ているような愛すべき端正なる名曲。
フォーカスと言えば、ギタリストのヤン・アッカーマン。彼がフォーカスで世界的にブレイクする前に在籍していた伝説のグループがこのブレインボックス。
こちらの2ndでは1stからメンバーが総入れ替えとなってしまいヤン・アッカーマンは脱退しているのですが、本作もオランダらしいメロディアスさと瑞々しさに満ち溢れた好盤。
英プログレやウェストコースト・ロックからの影響も感じさせつつ、それを軽やかにまとめる演奏&アレンジ力が見事です。
BRAINBOXと同時期のダッチ・ロック黎明期に活躍したグループによる作品を2枚ピックアップいたしましょう。
オランダのサイケ・ポップ/オルガン・ロック・グループの69年作なのですが、オープニング・ナンバーを聴いて驚きました!
R&Bテイストの強いアグレッシヴな楽曲に、スティーヴ・ウィンウッドばりのソウルフル・ヴォーカル!こいつは痺れますよ~。
オランダのアート・ロック・バンド、70年唯一作。
初期イエスやフォーカスに通じるメロディアス&スピーディーなアート・ロック感とともに、格調高いオルガンなどクレシダやグレイシャスに通じるクラシカルな感じも。
60年代末から70年代はじめならではの空気をたっぷり吸い込んだサウンドがたまらない好盤です。
フォーカスと並んでプログレ・ファンに人気のバンドがトレース。
Rick Van Der Lindenは、オランダのみならずユーロを代表するキーボード奏者ですね。
EL&Pへのオランダからの回答と言われますが、バロック~ロマン派クラシックとR&Bやジャズなど黒人音楽とが結びついたサウンドは、EL&Pにはない美麗さグルーヴがたっぷり。
一言でいえば、「踊れるクラシカル・ロック」!
そのRick Van Der LindenがTRACE以前に活動していたグループがEKSEPTION。69年1stから72年5thまでの初期5タイトルをセットにした堪らんボックスがコチラ♪
こちらも上記と同シリーズのボックスセット。サックス/フルート/ヴァイオリンらが表情豊かに躍動する、ジャジーかつメロディアスなアンサンブルが聴き物のダッチ・プログレ好バンドですね。派手さはなくとも彼らならではの安定感抜群で職人的な演奏スタイルがたっぷり楽しめる、72年1stから76年5thまでの初期5タイトルを収録!
オランダで女性ヴォーカルで叙情派プログレと言えば、このバンドでしょう!
前作2ndもユーロ・ロック史に残る傑作でしたが、この73年作3rdがまたより一層オランダらしい叙情性を増した大傑作。
必殺の泣きのギター、幻想的なメロトロン、ファンタスティックなフルートの洪水。絶品です。
これぞオランダ!と言える柔らかでファンタスティックな美メロが魅力のグループがカヤック。
ずばり「イエスやジェントル・ジャイアントなど英プログレ」 meets 「ELOやパイロットなど英ポップ」!
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イエス『危機』を出発点に、テンションいっぱいのアンサンブルとファンタスティックなメロディ&コーラスが素晴らしいプログレを世界中からピックアップ!
イエスやフォーカスや北欧のカイパが好きなら、このオランダのマイナー・グループには「おおっ」と前のめりになっちゃうはず!
瑞々しいメロディに躍動感たっぷりのギター、ベース、オルガン、さらには流麗なサックス&フルートも。
ちょっぴりバタバタしてる感もあるけども、そんなところも愛おしい好グループです!
もしもムーディー・ブルースに、スティーヴ・ハケットとピート・バーデンスが加入したら、って感じ!?
陰影のあるヴォーカルやメロトロンはムーディー・ブルースだけど、キレのあるリズム・チェンジはまるでジェネシスだし、伸びやかなギターや柔らかいムーグはキャメルやキャラヴァンっぽいし。
このシンフォ・バンド、ずばりユーロの秘宝!
こちらはオランダのプログレッシヴ・フォーク作品ですが、例えるならばフェアポート・コンヴェンション×初期アシュ・ラ・テンペル!?
フルートやリコーダーやマンドリンが幽玄に鳴り響くパートはブリティッシュ・トラッド直系なのですが、そこへ突如マニュエル・ゲッチングのようなファズ・ギターが突入してきて個性満点。
プロテスタント的な厳格さと、ヨーロピアンな牧歌的ユーモアを混ぜ込んだようなサウンドが非常にユニークな一作です。
オランダにはシンフォニック・ロックだけでなく、ジャズ・ロックにも注目のバンドがございます。
3バンドをピックアップ!
オランダが誇るジャズ・ロックの名バンドによる70年デビュー作。
70年と言えば、ソフト・マシーンは『3RD』、キャラヴァンは2nd『キャラバン登場』、エッグは1stと2ndをリリースした年。
カンタベリー・スタイルのバンドとして人気のグループですが、カンタベリーのバンドとほぼ同時期に活動していることから、彼らのフォロワーではなく、R&B~サイケデリック・ロックを出発点に、オルガンやフルートをフィーチャーしながらジャズ・ロック化する中で同じようなサウンドにたどり着いたバンドと言えるでしょう。
それにしても、ハットフィールドよりも先にこれほどの音がオランダで生まれていたとは。
ドーヴァー海峡をはさんで、素晴らしいジャズ・ロック作品が同時に生まれていたんですね。ファンタスティック。
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カンタベリー・スタイルのバンドとしてユーロ・ロックのファンに人気のグループですが、ほぼ同時期に活動していることから、カンタベリーのグループのフォロワーというよりは、R&B~サイケデリック・ロックを出発点に、オルガンやフルートをフィーチャーしながらジャズ・ロック化する中で同じようなサウンドにたどり着いたバンドと言えるかもしれません。
隠れたダッチ・ジャズ・ロック名品と言える本作も取り上げておきましょう。74年作2nd。
グルーヴィーなリズムに乗って流麗なギターやオルガンが技巧的に駆け巡るスタイリッシュなアンサンブルは、「渋めのFOCUS」とも呼べる出来!?
特にジャズ/フュージョン/ハードロックを織り交ぜた自在なギタープレイはヤン・アッカーマンにも匹敵するでしょう!これはカッコイイ!
さぁ、最後に、現在進行形のプログレ新鋭シーンから、70年代のバンドのDNAを受け継ぐ作品を3枚、セレクトいたしましょう。
プログレ新鋭シーンの中でカケレコ一押しなのがこのクリス。
彼にはメールにてインタビューをお願いしましたが、音楽への溢れんばかりの誠実さに、彼の中にきっと流れているであろう、日本人にはなかなか馴染みのないプロテスタンティズムの精神を身近に感じました。
オランダ注目のマルチ奏者による12年作で、これがムーン・サファリばりの流麗で躍動感あるアンサンブルに、ジェネシス/キャメルを受け継ぐ夢見るようなロマンティックさが加わった絶品シンフォ作。
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注目のプログレ新鋭の魅力に迫る「アーティスト・インタビュー」企画。近年続々とメロディアスな名作がリリースされているオランダのプログレ・シーンの中でも特にその才能に注目が集まるコンポーザー&マルチ・インストゥルメンタル奏者のCHRISことChristiaan Bruinにインタビュー。
2010年に16歳という若さで作曲&レコーディングをはじめたKey奏者&コンポーザーRindert Lammersを中心に結成されたオランダ産シンフォニック・ロック・バンド。
清涼感いっぱいに広がる多彩なキーボード・ワーク、そして、オランダらしい柔和で温かみあるハイ・トーンのヴォーカルとフックに富んだ伸びやかなメロディ。
充実の2014年デビュー作!
01年に結成されたダッチ・プログレ新鋭。出世作となった12年の3rd。
「オランダの伝統」と言える、表現力豊かなギターとリリカルに舞うフルートによって紡がれる叙情美に溢れたシンフォニック・ロック逸品。
オランダ産新鋭プログレはこちらでさらにご紹介しております!
いかがでしたか?
人懐っこいポップ・センスとともに敬虔さも併せ持った気高き名作ぞろいですね。
みなさまにとってぴったりの一枚が見つかれば幸いです。
元EKSEPTIONのRick Van Der Lindenが新たに結成したキーボード・トリオ。74年作1st。クラシカルかつテクニカルなオルガン、ピアノ、メロトロンをフィーチャーしたドラマティックな一枚。オランダ・プログレを代表する名作。
盤質:傷あり
状態:
オランダを代表するシンフォニック・ロック・グループ、73年発表の3rd。傑作となった2ndと同様に、タイトル・トラックである組曲が聴き所。2ndと比べ、荘厳さが若干薄れ、その分、優美で伸びのある叙情性が印象的。美しいメロディを丁寧に紡ぐ必殺の泣きのギター、幻想的なメロトロン、ファンタスティックなフルートなど、叙情的なメロディの良さでは前作以上と言えるでしょう。紅一点ジャーネイ・カーグマンの存在感はもはや言わずもがな。2ndとともにユーロ・ロック史に残る傑作。
オランダのシンフォニック・ロック・バンド、79年の唯一作。サウンドはずばり「もしもムーディー・ブルースに、スティーヴ・ハケットとピート・バーデンスが加入したら!?」って感じ。フォーキーなメロディ、朗らかでジェントルなヴォーカル、陰影を描くメロトロンなどはムーディー・ブルースを彷彿させながら、アンサンブルにはジェネシスやキャメルに通じるドラマティックさがあります。ハモンド・オルガンのクラシカルなキメとシャープなリズム・チェンジで緊張感を生むリズム隊との組み合わせはまるでジェネシスだし、ギターの繊細なアルペジオにムーグの柔らかなリードが乗るパートはキャメルを思い出します。ローカルなレーベルからのリリースで原盤は激レアのようですが、クオリティの高さは特筆もの。これはユーロ・ロックの秘宝と言える名作です。
70年代前半に活動したオランダのジャズ・ロック・グループによる74年作2nd。俊敏なリズムに乗って、派手に弾きまくるオルガンとスリリングで技巧的なギター、渋くむせぶブラスらが丁々発止で繰り広げるスタイリッシュなジャズ・ロック・アンサンブルが炸裂!のっけからかなりカッコいいです。2曲目からはややジャズ要素が強めですが同郷FOCUSへの意識を感じさせるメロディアスなナンバーが続きます。ジャズ・ロックと言うと無骨で硬質な印象を持ちがちですが、このバンドはフュージョン的な軽やかさとどこかお洒落な感覚が備わっていて、伸びやかで洗練されたサウンドがとても心地いいです。ギターはジャジーに抑えたプレイを主としますが、ここぞという場面ではハードに切り込む熱いプレイで圧倒し振れ幅自在。このへんは少しヤン・アッカーマンを彷彿させるかも知れません。舞うようなタッチでクールに音を刻むエレピのプレイも特筆です。これほどのバンドが埋もれていたとは驚き!ジャケの酷さが勿体無いですが、中身は絶品ジャズ・ロック。これは名品です。
女性Key奏者&ヴォーカル、サックス&フルート奏者を擁するオランダの5人組プログレ・バンド、76年唯一作。太くもエッジの立ったトーンのリズムと粒立ちの良いキャッチーなリードがフォーカスを彷彿させるエレキ・ギター、ゴリゴリと疾走するベース、手数多くスピーディーに畳み掛けるドラム、そして、エネルギッシュなリズム隊&ギターと対照的に、涼やかなトーンのキーボード、流麗なフルートやサックス。そんな各パートが押しては引いてのせめぎあいを続ける「緩」「急」いっぱいのアンサンブルが持ち味です。イエスやフォーカスや北欧のカイパが好きなら「おおっ」となることでしょう。インスト中心ながら、時にハイ・トーンの女性ヴォーカルも入るのも特筆。ちょっとバタバタ感はいなめませんが、そのB級感がまた愛すべきところであり、リード・ギターをはじめ、リードはハッとするメロディに溢れています。
ヤン・アッカーマンがフォーカス以前に在籍していた1stが有名なオランダ産プログレ・グループ。1stからメンバーが総入れ替えとなった72年作の2nd。ヴォーカル兼フルート奏者、ベース兼オルガン/ピアノを含む4人編成。細かく手数多くもふくよかなトーンのドラム、
ハイ・トーンキャッチーなヴォーカルと豊かなハーモニー、エッジの立ったトーンで鋭角に切れ込むスリリングなギター、そして、変拍子のキメのパートを折り込んだスピーディーかつ緊張感ある展開。オープニング・ナンバーから、初期イエスやフラッシュあたりを彷彿させるスピード感いっぱいでキャッチーなプログレ・ハードにじっと拳を握りしめてしまいます。2曲目はジャジーなギターとパーカッシヴなリズムが光るオリエンタルなムード溢れるナンバーで、3曲目は、ユーロ・ロックらしい翳りに満ちたリリカルなピアノとエモーショナルな歌声が胸に迫るバラード。バラエティーに富んだ楽曲を軽やかにまとめる演奏&アレンジ力は特筆もの。英プログレとウェストコースト・ロックを見事にブレンドしたフックに富んだ好作品です。
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