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【ユーロロック周遊日記】 TRACE『BIRDS 鳥人王国』

本日のユーロロック周遊日記は、オランダが誇るキーボード・プログレ・トリオTRACEの75年作2nd『BIRDS 鳥人王国』をピックアップいたしましょう。

TRACEの中心人物は、あのリッチー・ブラックモアにも敬愛される天才キーボード奏者のRick Van Der Linden。ピアノ、オルガンの他、ムーグ・シンセ、ハープシコード、クラヴィネット、ソリーナなどを操り、クラシカルなフレーズから、R&B~ブルース~ジャズ・フィーリング豊かなフレーズまで、時に格調高く、時にグルーヴィーにダイナミックに鳴らされるキーボードが一番の魅力です。

ハード・ロック的なスピード感とダイナミズムを持ったリズム隊も強力で、彼らのサウンドを一言で言うならば、ずばり「踊れるクラシカル・プログレ」!

TRACEと言えば、EL&Pスタイルのバンドとして紹介されますが、バロックやロマン派クラシック音楽と黒人音楽とが結びついた強靱なサウンドは、EL&Pにはない流麗さとグルーヴ感があります。

彼らのユニークなサウンドの背景を探るべく、Rickの経歴を見て参りましょう。

1946年生まれ(キース・エマーソンの2学年下)で、13才からピアノを本格的にはじめ、ハーグ王立音楽院に進学。ロックンロール、ジャズ、バレエ音楽にも傾倒し、昼間は音楽院でクラシックを学びつつ、夜はバーでブギウギ、ラグタイム、ブルース、タンゴなどを演奏していたようです。卒業後はプロのジャズ・バンドに加入するとともに、オーケストラにも所属し、ソロピアノ奏者としても活躍しました。

68年に、ナイスのロッテルダム公演を見て、バッハのブランデンブルク協奏曲をロック・アレンジで弾くキース・エマーソンに衝撃を受けます。

オランダのナイスというべきEKSEPTIONで活躍した後、よりテクニカルなサウンドを目指して結成したのがTRACEです。

結成時のメンバーは、ドラムに元FOCUS(『FOCUS III』のあと脱退)のPierre Van Der Linden(Rickのまたいとこ)、ベースに技巧派としてオランダ国内では名が知られていたJaap Van Eik。

74年に『TRACE』でデビューした後、メンバー交代を経て、75年にリリースされた2ndが『BIRDS』です。

1stのあと、PierreがFOCUSに復帰するため脱退。その代わりに加入したのは、元ダリル・ウェイズ・ウルフで、後にマリリオンで活躍するIan Mosley!1stのリズム隊も強力でしたが、それに負けず劣らず、よりロック的なダイナミズムを増したリズムが印象的です。

T1: Bourree

いきなり、オルガンとハープシコードのユニゾンによるクラシカルな高速ユニゾンが突き抜けていますね!

バックのキレ味鋭くタイトなリズム隊も特筆。

一転して、クラヴィネットがグルーヴィーに跳ね回るパートへと展開するなど、凄まじい疾走感と躍動感で突き進むサウンドは、これぞTRACE流「踊れるクラシカル・ロック」!

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T3: Janny -> T4: Opus 1065

艶やかなトーンで奏でられるジャジーなピアノが見事な3曲目「Janny」、そして、あのダリル・ウェイがゲスト参加した4曲目「Opus 1065」へ!

ポップで躍動感あるイントロが秀逸で、まるで90年代以降の米インディー・ピアノ・ロック、ベン・フォールズ・ファイヴばり!

透明感とともに、キース・ジャレットばりに溢れるエモーションもあって、本当に素晴らしい音色です。

右chでは、ワウギターのようにムーグも入っているのが、このグループならではのセンス。

そしてきました、ダリル・ウェイのヴァイオリン!まず最初は変調した音色で自由奔放に奏でたあと、そこから、チェンバロとの目の覚めるようなクラシカルなキメに展開し、ラストは、麗しいトーンの独奏!まるで目の前で弾いているような生々しさで響いてきて感動的。

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T7: King-Bird

オープニングから荘厳に鳴り響くチャート・オルガンの迫力が凄い!

そして、まるでFOCUSのようなメロディアスなギターが登場。弾くのはベースのJaap Van Eik!

一転して、リズムが跳ねると、クラヴィネットが入ってきて、スリリングなインタープレイを炸裂。時折、ハープシコードとの高速ユニゾンのキメも飛び出して、クラシカル・ロックのファンにはたまらないでしょう。

ゆったりと荘厳でメロディアスなパート、疾走感あるクラシカルなキメ、そして黒っぽいアドリヴ・パートとがめくるめく展開に胸が高鳴ります。

4分を過ぎると、ピアノとチェンバロによる格調高いパートへ。右chで鳴るソリーナがまたドラマティックです。

ベースがブイブイと躍動するハード・ロッキンなパートを挟んで、ピアノとチェンバロの高速のキメへ!まるでリッチー・ブラックモアへのキーボード奏者への回答!

6分を過ぎると、ヴォーカルが登場。1stからずっとインストゥルメンタルでしたが、ここではじめて歌うのは、ギターでも活躍のベースJaap Van Eik!!素晴らしいマルチ奏者っぷりですね。

明朗でジェントルな歌声、人懐っこく流麗なメロディはいかにもオランダと言えます。コロコロとしてトーンのオルガンもまたファンタスティック。

ベースがゴリゴリと疾走し、ハモンドがグルーヴィーかつ幻想的に鳴ると、英国のグリーンスレイドが頭に浮かびます。

それにしても、止めどなく溢れる美旋律、技巧的でいて歌心に溢れたアンサンブル、そして、これでもかとアイデアを詰め込みつつも流れるような展開。

ラストに向けて、もう一度、ギターが泣きのメロディを奏でるあたりは、ビートルズの『アビーロード』B面のような寂寥感も漂わせて、強烈にドラマティック。

ユーロ・プログレ屈指の名曲と言えるでしょう。

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いかがでしたか?

これを居間で聴いていたら、小学4年の息子が踊り出しました。そこで、「そうか!」と腑に落ちた「踊れるクラシカル・ロック」というキーワード。

もしかすると、ライヴでこそこのバンドの持ち味が生きるんじゃないか、と思って、映像を探してみると、ありましたありました!

う~ん、体を大きく揺らしながら弾きまくるRickがカッコいいですね!

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