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【アーティスト・インタビュー】 オランダのシンフォ新鋭プロジェクトCHRISのブレーンChristiaan Bruin

注目のプログレ新鋭の魅力に迫る「アーティスト・インタビュー」企画。

第一回のFISH ON FRIDAY、第二回のLOST WORLDに続き、今回の第三回目は、近年続々とメロディアスな名作がリリースされているオランダのプログレ・シーンの中でも特にその才能に注目が集まるコンポーザー&マルチ・インストゥルメンタル奏者のCHRISことChristiaan Bruinにインタビューしました。

2009年にソロデビューしてから、2013年の最新作まで5枚のフルアルバムをリリースと、1年に1枚を超えるスピードで素晴らしい作品をリリースしつつ、ドラマーとして別のバンドでも活動するなど精力的に活動。その活動を支える音楽的バックグランドとクリエイティビティの源泉について聞きました。

どうぞお楽しみください!

アーティスト・インタビュー ~ CHRIS

―― サイトの経歴によれば13歳にしてバンド活動と作曲を始めたそうですが、いつごろから楽器をはじめましたか?どの楽器ですか?

「7歳の時に地元のマーチング・バンドでスネア・ドラムを演奏したのが最初です。11歳の時、ドラム・キットを購入しドラムを本格的にはじめました。それからほどなく、ギター、キーボード、ヴォーカルもはじめました。最初のバンドにはギターで加入しましたが、ドラマーが抜けるたので、私が代わりにドラムをやることになりました。ドラムのレッスンをのぞき楽器は独学で、ロッテルダム音楽院に入学してはじめて本格的な音楽教育は受けました。」

―― あなたがはじめて購入したアルバムを教えてください。

「たしかパール・ジャムの『テン』だったと思います。一人では買うお金がなかったので、兄と一緒に購入したのを覚えています。なぜこのバンドを選んだのかはよく覚えていません。」

―― あなたの音楽に影響を与えたアルバムを教えてください。その理由も簡単に教えてください。

1. Blind Guardian – Nightfall in Middle Earth

「10歳か11歳の時、兄の友達が貸してくれました。最初に聴いたときは、分厚いコーラスワークに驚きました。こんなに声が重なっているアルバムを聴いたのははじめてでしたし、どうやっているのか不思議に感じました。バンドのメンバーが一生懸命歌っているんだと思ってましたよ。まだ小さい時でしたし、リード・シンガーがオーバーダビングですべてのヴォーカル・パートを歌っているとは考えもしません。コーラスワークはもちろん、この作品のドラマ性、物語性には感動しました(プログレのコンセプト・アルバムを聴くずっと前でしたし)。シアトリカルなヴォーカル、荘厳な雰囲気。魔法にかかったような体験を受けた素晴らしい作品です。」

2. Trace – Trace

「祖父の家には、たくさんのクラシックのLPの中に70年代のオランダのプログレ・バンドのLPもありましたが、その中でTRACEを発見しました。最初に聴いたときは小さかったですし、ちょっと難しく感じましたが、メロディやフレーズを繰り返し繰り返し聴いて練習しました。何年か経って、プログレを研究しはじめた時に、このLPをあらためて聴きましたが、この作品が自分の血肉となっていることを実感しました。演奏面、作曲面ともに傑出した一枚だと思います。」

3. Metallica – Ride The Lightning

「最初のバンドに居た13歳の頃は、多くのメタル・バンドに興味を持ちました。私と同じ通りに住んでいた幼なじみがメタリカを教えてくれたんです。聴いた瞬間から好きになりましたよ。99年のウッドストックのビデオ・テープを入手し、メタリカの演奏に釘付けになりました。オフスプリングやレイジ・アゲンスト・ザ・マシーンなど多くの素晴らしい演奏が収められていましたが、やはりメタリカは別格でした。何度も何度も繰り返し見ましたよ。」

4. Genesis – Foxtrot

「KNIGHT AREAのGerben Klazingaと友達なんですが、彼からジェネシスやたくさんの70年代、80年代のプログレを教わりました。この作品に出会ったことは私にとって大きく、ここから多くのことを学びました。「Can-utility and the Coastliners」は何度も何度も繰り返し演奏しましたし、その中で、緻密な歌の構造やコード進行に興味を持つようになりました。それと、この作品でのフィル・コリンズのドラミングは本当に素晴らしいですね。」

5. IQ – The Seventh House

「ネオ・プログレを熱心に聴いたわけではないのですが、IQのこの作品は私にとって特別です。素晴らしいメロディセンスとイマジネーション溢れる歌詞とメランコリックな雰囲気。私の最初の2枚のアルバムでは、この作品から大きな影響を受けています。」

6. The Beatles – Magical Mystery Tour

「ビートルズには一時本当に熱中しました。すべてを聴き漏らさないように聴き、彼らのすべてが好きになりました。カラフルなアレンジと素晴らしいヴォーカル。彼らの曲は本当にクリエイティブです。ビートルズを通して、スタジオが単なる音を記録する場所ではなく、クリエイティブな場所なんだ、ということを学びました。」

―― 音楽院ではどのような音楽を学んでいましたか?それは、あなたが作るサウンドにどのように影響を与えていますか?

「レコーディングやミキシングテクニックなど、音楽制作について学びました。そこで、SKY ARCHITECTを一緒に結成する仲間、Wabe WieringaとRik van Honkとも出会いました。授業が終わった後は、仲間と一緒にスタジオにこもり、録音の実験、作曲、ジャム・セッションに明けくれました。最高の環境でしたよ。」

―― 最近の愛聴盤とその理由を教えてください。

「KOTEBELの『Concerto for Piano and Electric Ensemble』です。とてもクリエイティブで、聴くたびに発見があります。アングラガルドの最新作も好きですよ。90年代の作品も含めて彼らのファンなんです。」

―― 最新作の『DAYS OF SUMMER GONE』は、アコースティック楽器や管弦楽器、メロトロンをメインとしたイマジネーション豊かで温かみ溢れるサウンドに仕上がっていると思います。ご自身ではどのような作品だとお考えですか?

「ありがとうございます。この作品は私にとってチャレンジでした。今までの作品と違ったサウンドにしようと思っていたんです。曲はより長く、サウンドはアコースティックで、一人ではなくゲスト・ミュージシャンと一緒に作るイメージでした。」

『City Of Light』では、シンセサイザーとドラムのプログラミングを多用しましたが、この作品では、アコースティックな楽器で、表現の繊細さやダイナミックさを伝えたいと思っていました。この変化をリスナーが望んでいるか、気に入ってもらえるか未知数でしたし、チャレンジでしたが、結果としてはうまくいったと思いますし、リスナーからも好反応です。」

―― 近年、CHRIS名義でクオリティの高い作品を立て続けにリリースされていますが、作曲のイマジネーションやアイディアを得るための特別な方法がありましたら、是非教えてください。

「特別な「方法」というものはありません。環境が変われば、出るアイデアも変わるものだと思います。音楽を作ることに集中し、情熱を注ぎ、ただただ感謝することが大切だと思っています。時には、アイデアを出そうとしても、何も生まれないこともあります。ですから、アイデアがふっと浮かんだときには、形に残すようにしています。コードであったり、歌詞であったり、メロディであったり、コンセプトであったり、浮かんだときには、忘れないうちにメモに残したり、スマートフォンに吹き込みます。メモがたまったら、それを並べ、関連性をさぐりながら意味を探り、より大きなアイデアへと広げていきます。フランケンシュタインのつぎはぎのように作品にしていくわけで、あまり一般的な方法ではないかもしれませんね。時には、一度にまとまったアイデアを思いつくこともありますし、その方が意図していない分、自然でいい時もあります。どちらにせよ、アイデアの泉が枯れないように、ただただ祈るばかりです。

アルバム制作に関して言えば、クリエイティブではなくちょっぴり退屈で、集中を要する作業も多いです。特にレコーディングの仕上げの段階ではそうですね。そのときは、時に深夜まで作業します。ベッドが恋しくなりますよ。」

―― 日本では70年代のプログレの人気が高く、オランダではFOCUS、EARTH & FIRE、TRACE、FINCH、SUPERSISTER、KAYAK、CODAなどが人気です。70年代のオランダのプログレ・シーンについてどうお考えですか?現在でも人気はあるのでしょうか?

「今のオランダでは人気があるジャンルとは残念ながら言えませんが、僕自身は70年代のプログレ・バンドは好きですよ。フォーカスやカヤックは今でも現役で活動していますが、それ以外でメインストリームで活躍しているバンドは居ません。でも、一部ではありますが、根強いプログレ・ファンは居ますし(増えている実感です)、私たち新しいプログレ・グループのことも応援してくれています。」

―― 現在のオランダのプログレ・シーンについて教えてください。国内のバンドで注目しているバンド、おすすめのバンドを是非教えてください。

「正直に言えば、最近のオランダのプログレ・シーンについてはあまりよく知りません。AYREON、KNIGHT AREA、PBII、MANGROVE、FLAMBOROUGH HEAD、THE AURORA PROJECTと言ったバンドは素晴らしい作品をリリースしていますが、どちらかと言えば、メタル系のバンドの方がより成功していると思います。最近、NINE STONES CLOSEというバンドに加入したのですが、とても良い評価を得ています。」

―― 00年代は、各国から素晴らしいプログレ/シンフォニック・ロック作品が生まれています。日本ではスウェーデンのMOON SAFARI、イタリアのHOSTSONATENが人気です。注目しているグループを教えてください。

「FROST、LEPROUS、 JOLLY、BEARDFISHは好きですが、正直に言えば、最近のプログレ・バンドを熱心に聴いているわけではありません。」

―― 日本という国で自分たちの音楽が聴かれているという状況をどのようにお考えですか?

「本当に驚くべきことです。インターネットの進化のおかげでもあるし、アンダーグラウンドながら世界規模で考えれば大きなプログレッシヴ・ロック・シーンのおかげだと思います。」

―― 日本の印象についてお聞かせください。また、日本のバンドで知っているもの好きなものがあれば是非教えてください。

「ケンソーは好きなバンドです。とてもエネルギッシュでカラフルです。あとは、友達が上原ひろみを教えてくれました。とても気に入りました。まだ日本には行ったことがありませんが、いつか訪れてみたいと思っています。」

―― 日本のリスナーへメッセージをお願いします。

「応援ありがとうございます。本当に嬉しく思います。

1月にBLACK CODEXという新しいプロジェクトをはじめる予定です。2014年の一年間に渡る音楽プロジェクトです。

申し込んだリスナーは、毎週、音楽とイラスト入りの歌詞や絵などをインターネットで受け取ります。プログレが好きで、壮大な物語が好きなら、きっと楽しんでもらえるはずです。詳しくは、Webをチェックください。Paypalで支払いができますよ!」

http://www.theblackcodex.com

いかがでしたか?

ひとつひとつ誠実に答えてくれて、メールでの返答を読んだ時にじんわり心が温まりました。

第一回・第二回インタビューでは「~だよ。~なんだ。」とフランクに訳しましたが、クリスのインタビューに関しては、「ですます」調がしっくりくると感じました。

緻密でいて温かな、彼が奏でるサウンドそのままのような文章。クリス、本当にどうもありがとう!

このインタビューをきっかけに、一人でも多くのリスナーがクリスに興味を持ってくれたら嬉しいです。

CHRIS -DISCOGRAPHY-

DAYS OF SUMMER GONE (2013)

クリスマス・アルバムの前作から1年も経たずにリリースされた2013年作。「夏が過ぎ去った日々」というタイトルの通りに、夏の終わりから秋にかけての郷愁をテーマにしたコンセプト・アルバム。ヴァイオリンとチェロが室内楽的に艶やかに鳴るオープニング。ドラムがダイナミックに入ると、キーボードが柔らかに広がり、ヴァイオリンが伸びやかに舞う。荘厳なコーラス・ワークが鳴り響くとともに場面が切り替わり、アグレッシヴな変拍子の中、レ・オルメのような深い響きのシンセがヘヴィな戦慄を奏でる。また場面が変わり、アコースティック・ギターとともにロマンティックな歌の世界へ。オープニングからの5分間、ただただうなりっぱなし。映像喚起的なサウンド・プロダクションと美し過ぎるリリシズムからは、イタリアが誇る奇才、HOSTSONATENを率いるFabio Zuffantiに比肩するほとばしる才能を感じます。Fabio Zuffantiと異なるのは、オランダらしい包み込むように優美なポップ・フィーリング。ジャケットの通りの鮮やかで温かみもあるファンタスティックな逸品。あまりにマジカルな傑作です。

SNOW STORIES (2012)

前作から1年を経ずに早くもリリースされた2012年作。ジャケット通りのしんしんと雪が降り積もるような幻想的な演奏から、一転して艶やかなストリングス・シンセとギターが躍動感いっぱいに飛び出していくオープニングから作品の世界に一気に引き込まれます。甘い歌声のキャッチーなヴォーカルとハート・ウォームなメロディ、ムーン・サファリばりの透明感と広がりを持ったコーラス・ワーク。そして、ジェネシスやキャメルのDNAを受け継ぐ優美で歌心いっぱいのギター。包み込むように優しい音色で演奏を彩るヴァイオリン、チェロなど弦楽器も印象的で、ひたすらファンタジックに紡がれるアンサンブルに心躍ります。それにしてもこのオープニングの「High Spirits」は、ムーン・サファリ『Lover’s End』に入っていてもおかしくはないほどに素晴らしすぎるファンタスティック・ロック。その後も、クリスマスをモチーフにした作品らしく、ハートウォーミングな優美さに満ちた楽曲が並んでいます。アンサンブルからヴォーカル、メロディまで、どこを切り取っても溢れだすロマンティックな叙情美。音もひたすらにヴィンテージで温もりに溢れています。ファンタスティックなシンフォニック・ロックのファンにはたまらなすぎる傑作!

CITY OF LIGHT (2012)

12年作3rd。PENDRAGON、IQなどの英ネオ・プログレの流れを汲む抜けの良いクリアなメロディが印象的なシンフォと、プログラミングによるスペイシーで刺激に満ちたデジタルサウンドを融合させた、スウェーデンのBROTHER APEにも通じる新世代のシンフォニック・ロックを演奏します。デジタルな音響に満ちた緻密なサウンドが耳を心地よく刺激したかと思うと、そこから厚みのあるシンセ/メロトロンにメロディアスなギターが舞うドラマティックで雄大なシンフォ・アンサンブルへと雪崩れ込んでいく場面などかなり感動的。少し鼻にかかったようなファンタジックで優しげなヴォーカルも特筆です。プログラミングされた一音一音にさえも有機的な温かみを感じさせるようなサウンドメイクが抜群に素晴らしい傑作シンフォ!

MAKING SENSE (2010)

2010年作2nd。繊細なタッチで伸びやかに紡がれるメロディアスなギター、荘厳にたなびく深みのあるキーボード・ワークと叙情がこぼれる格調高いピアノによる叙情的&ファンタスティックなアンサンブル。そして、ビートリッシュなポップバンドでも映えそうなドリーミーな歌声とそれを柔らかく包む巧みなコーラス・ワーク、カナダのクラトゥあたりを彷彿させるハートフルかつキャッチーな美旋律メロディ。元々がドラマーとは思えないドラマティックなソングライティングとともに、さすがドラマーと言えるメリハリの効いた躍動感あるグルーヴは特筆ものです。ジェネシスが好きで、ニッチ・ポップも好きならド直球と言える好作品。


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