2014年6月16日 | カテゴリー:ユーロ・ロック周遊日記
タグ: プログレ
ユーロロックの名盤をピックアップしてご紹介する「ユーロロック周遊日記」。本日は、フランスを代表するプログレ・グループ、アトールの75年作2nd『L’ARAIGNEE-MAL』(邦題:組曲「夢魔」)をピックアップいたしましょう。
アトールは、フランス北東部の都市メス出身で、ヴォーカルのアンドレ・バルザーを中心に72年に結成されました。
何度かメンバーチェンジを行いながら地元メスとパリを中心に活動を続け、74年に『ミュージシャンズ・マジシャン』でデビュー。
オリジナル・ギタリストのLuc Serraが脱退し、マグマともツアーしたテクニック重視のプログレ・バンドに在籍していたクリスチャン・ベアが加入するとともに、クリスチャンのバンド仲間だったヴァイオリン奏者、リシャール・オベールもゲスト参加することにより、アトール黄金のラインナップが揃います。
Andre Balzer(Vo)※
Jean-Luc Thillot(B)※
Alain Gozzo(Dr)※
Christian Beya(G)
Michael Taillet(Key)
※は、創設メンバー
ゲスト:Richard Aubert(Violin)・・・Christian Beyaの元バンド仲間
こうしてユーロ屈指と言えるテクニックとセンスを持ったメンバーが揃い、75年にリリースされた2ndが『L’ARAIGNEE-MAL』です。
霧の向こうでたゆたうような幻想性や耽美性とともにシアトリカルな熱情もあわせもつアンドレ・バルザーの歌唱と、フランス印象派画家の絵画を彷彿させる色彩感豊かにきらめくキーボードを中心としたフランスらしいシンフォニックなパートを軸に、マハビシュヌ・オーケストラからの影響が強い超絶技巧パートや、マグマやユニヴェル・ゼロ的チェンバー・ロックなパートも飛び出すなど、「壮麗」かつ「知的」でいて「技巧的」な唯一無比なアンサンブルが繰り広げられます。
8分を超えるオープニング・ナンバー「Le Photographe Exorciste」からいきなり、彼らならではのめくるめくアンサンブルが堪能できる名曲。
幻想的にたなびくキーボードによるジェネシスを彷彿させるイントロ。荘厳なメロトロンが持ち味のジェネシスに対し、アトールの場合は明瞭なトーンのムーグ・シンセが特徴で、いかにもヨーロピアンなムードが漂います。乾いた音でどこか浮遊感のあるドラムも印象的。
そして、吐息がもれるようなフランス語のイントネーションとシアトリカルな歌い回しが印象的なヴォーカル、音響的なギターのアルペジオが入るとアトールならではの音像が広がります。
2分を過ぎるとヴォーカルが熱を帯びていき、狂気すら感じさせるシャウトで扇動。ギターもロバート・フリップばりの攻撃性とメランコリーを持った硬質かつ流麗なギターで緊張感を生みます。
一転して4分50秒あたりで、透き通ったトーンのキーボードをバックに、ギターが繊細なタッチで音を描き、キラキラとした光のきらめきのように壮麗でいてしとやかな音像へとスイッチ。ギターのフレージングは映像喚起的で「筆致」という言葉がぴったりと当てはまります。
6分を過ぎると、前につんのめるような硬質なパートへと突入。フリーキーなギターを中心に、まるで『太陽と戦慄』期のクリムゾンのようなアヴァンギャルドさで畳み掛け、ラスト20秒では、ヴァイオリンが切れ込み、テンションみなぎるままにフィナーレを迎えます。
印象派プログレと言える鮮やかなパートと無調のアヴァンギャルドなパートとの落差が生むダイナミズム。そのどちらのパートでもイマジネーション豊かに奔放なフレーズを弾きまくるクリスチャン・ベアのギターは、ユーロ屈指のセンスとテクニックと言って過言ではないでしょう。
そして、続く2曲目がまた凄くて、バンドのテクニカルな面が凝縮された楽曲。
テンションみなぎる伸びやかなヴァイオリン、ヤン・ハマーばりのテクニカルなムーグ・シンセ、そして圧倒的な早弾きで畳みかけるギター。激しいインタープレイの応酬はマハビシュヌ・オーケストラへのフランスからの回答と言えるでしょう。
ボトムを支えるリズム隊も特筆で、すさまじい手数でシャープに疾走したかと思えば、ファンキーな粘っこいリズムをきかせたり、テクニック抜群。
ハード・フュージョン・バンドとしても一級品!恐るべしアトール。
アトールが結成された72年の前後と言えば、プログレッシヴ・ロックが最盛期を迎えていた時期。
・イエス『危機(72年)』
・クリムゾンが『太陽と戦慄(73年)』
・ピンク・フロイド『狂気(73年)』
・EL&P『恐怖の頭脳改革(73年)』
・ジェネシス『フォックストロット(72年)』『月影の騎士(73年)』
それとともに、マハビシュヌ・オーケストラが72年に『火の鳥』をリリースするなど、ジャズ・シーンの側からのロック・メインストリームへの回答として、テクニカルなフュージョン/クロスオーヴァーが提示されます。
そうしたプログレ最盛〜フュージョン/クロスオーヴァーの隆盛という流れの中、英米とは違うヨーロッパのその国ならではのアイデンティティを模索しながらサウンドを洗練させていき、オリジナリティを持ったユーロ・ロックの名作が多数誕生したのが74年〜75年と言えるでしょう。
AREA『CRACK(74年)』
ARTI E MESTIERI『TILT(74年)』
NEW TROLLS『TENPI DISPARI(74年)』
IL VOLO『IL VOLO(74年)』
GONG『YOU(74年)』
MAGMA『LIVE(75年)』
P.F.M.『CHOCOLATE KINGS(75年)』
その中でも、フランスならではの耽美性や色彩感を織り交ぜ、芸術的なプログレッシヴ・ロックへと昇華してオリジナリティを確立したバンドがアトールで、その代表作と言える作品が『組曲「夢魔」』。ユーロ・ロック屈指の完成度を誇る傑作です。
構築的な楽曲アレンジ、美しいコーラス・ワーク、そして華やかな音像で「フランスのYES」などと評されている、フレンチ・シンフォニック・ロックを代表するグループの74年デビュー作。その内容は一聴してテクニカルさが分かる高度な演奏技術に裏打ちされたシンフォニック・ロックとなっており、デビュー作とは思えない完成度を誇る傑作です。フランス産グループに多く見られる輪郭のぼやけた雰囲気は一切無く、リズム隊を中心にした荒々しいサウンドとストリングス・シンセサイザーを中心とした叙情性で一気に畳み掛ける圧巻のサウンドです。
紙ジャケット仕様、02年デジタル・リマスター、ボーナス・トラック4曲、ブックレット付仕様、定価2500+税
盤質:無傷/小傷
状態:良好
帯有
構築的な楽曲アレンジ、美しいコーラス・ワーク、そして華やかな音像で「フランスのYES」などと評されている、フレンチ・シンフォニック・ロックを代表するグループの75年2nd。前作での構築的なサウンドはさらに磨きをかけながら、ギタリストChristian Beya、ヴァイオリンのRichard Aubertの新加入が大きくバンドに影響を与え、YESの構築美やジャズ・ロックアンサンブルに加えてKING CRIMSONの屈折したヘヴィネスまで織り交ぜて聴かせています。多少荒さのあった前作から比べると、フランス産らしい耽美な質感も現れており、まさしく彼らの代表作とするにふさわしい名盤です。デジタル・リマスター、ボーナス・トラック1曲。
構築的な楽曲アレンジ、美しいコーラス・ワーク、そして華やかな音像で「フランスのYES」などと評されている、フレンチ・シンフォニック・ロックを代表するグループの78年3rd。ギターリフが印象的な彼らの人気曲「パリは燃えているか」で幕を開ける本作は、その技巧を武器に、よりタイトな演奏が光る名盤となっており、彼らの作品の中でも最もシンフォニック・プログレッシブ・ロックと呼ぶにふさわしい作品。ジャズ・ロック的なアプローチは楽曲に自然に馴染み、ストリングス・シンセサイザーなどのシンフォニックな彩りで聴かせる作風へと変化しています。
紙ジャケット仕様、02年デジタル・リマスタリング、ブックレット付仕様、定価2500+税
盤質:傷あり
状態:良好
帯無
帯無、解説に若干折れあり、軽微なスレあり
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