2024年4月12日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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世の中には、人の嫌がることを言ったりやったりしても平気な人というのが一定数いる。はっきりとわかっているのは、そういう人とまともに付き合うことほど人生の無駄遣いはないということ。そんな人よりも、自分にとってプラスになることや大切なことを言ったりやったりしてくれる人に時間や労力を費やす方が幸せだと思うわけです。4月になって新しい環境に身を置くことになり、そういう一定数いる嫌な人とめぐり合ってしまった、という人もいるのでは? でも、そういう一定数いる嫌な人は、いくら注意しても治らない。できるだけまともに付き合わないようにして、人生の無駄遣いを減らしてください。10倍返しだ!というのが一時期流行ったけれど、そんなことを考えるのも人生の無駄遣い。そういう人たちは、きっと報いを受けるって。上司と部下とか、先輩と後輩とか、同僚とか、関係先とか、どうしても関わらないといけないということもあると思うけど、そういう時は自分がしんどくならん程度に適当に関わる。真剣にならない。それでも「もう無理、しんどい!」となったら、そこを離れることを考える。それでいいんじゃないかなあ?
日本の自殺者数は近年減少傾向にあるようだけど、それでも令和5年の1年間だけで21,837人というんだから尋常じゃない。1日に約60人が自殺している計算になる。たぶんだけど、自殺するような人は、人の嫌がることを言ったりやったりしても平気な一定数の人ではないと思うんだよな。そこが悔しいやんか。そんなしょうもないやつらのために、自分の命を捨てる必要ないって!
いつになく冒頭から暗い話で申し訳ない。一年を通じて最も自殺の多いのが4月と5月。新生活が始まるこの時期、ワクワクしている人もいるだろうけど、そうでない人も多いんだろうなと。でも命は大切にしてほしいと、切に願います。
それで思い出したのが「Suicide?」という曲。イギリスのプログレ・バンド、BARCLAY JAMES HARVESTの『OCTOBERON』収録曲で、そのものズバリ自殺をテーマにした曲になっている。BARCLAY JAMES HARVESTは、叙情メロディ愛好家の僕にとって大好物すぎるバンドで、同作にもその手の名曲がひしめき合っている。だけどラストに収録された「Suicide?」だけは、ちょっと複雑な気持ちになる曲だ。冒頭からジョン・リーズ得意の泣きのギター、そしてオーケストレーションが響き、ものすごく気持ちのいいオープニング。アコースティック・ギターをバックに歌われる優しく切ないメロディ。柔らかなコーラスは、カーテンの隙間から差し込む朝の光を思わせる。ところが歌詞を見ると、自殺の歌という衝撃的な内容。
朝起きると隣に「君」がいない。それで家を出て街を歩き、エレベーターに乗って見晴らしのいい階へ。僕にできる唯一のことは命を捨てることだった。というのが大筋だけど、曲の最後半に、その物語がSEで表現されている。街を歩く靴音、車のクラクション。ドアを開けてクラブの中へ。何の注文もせず、エレベーターに乗って上の階へ。風を切る音、悲鳴、ドスンという衝突音。そこでプッツリと終了。聴いた後のモヤモヤ感が強烈すぎる。いつまでも胸の中で、もうモヤモヤ、モヤモヤと。
「Suicide?」と、曲名の最後に「?」がついている。歌詞を見ると、飛び降りようとしている人の腕に触れた人がいる。その人は手を伸ばして助けようとしたのか、それとも突き落としてしまったのか。自殺なのか?他殺なのか? という、ある意味ミステリーなところを面白味だとしているのかもしれない。そうだとしてもブラックすぎるよなあ。そういえば彼らの『EVERYONE IS EVERYBODY ELSE』収録曲「Paper Wings」も自殺者をテーマにしたものだった。よくよく考えてみると、彼らの曲には暗いテーマのものが多い気もする。
BARCLAY JAMES HARVESTの長い長い歴史のはじまりは、1966年にランカシャーのオールドハムで結成されたTHE BLUES KEEPERSというグループ。ジョン・リーズ、スチュワート“ウーリー”ウォルステンホルム、レス・ホルロイド、メル・プリチャードの四人編成になったところでBARCLAY JAMES HARVESTと改名した。彼らは古いコテージで共同生活をしながら楽曲制作に取り組む。こうして生まれた「Early Morning」で1968年にパーロフォン・レーベルからデビューする(B面曲は「Mr.Sunshine」)。
新たにハーヴェスト・レーベルへ移籍。その頃に王立音楽院の学生だったロバート・ジョン・ゴドフリーと知り合い、ロバートが指揮を担当するLONDON SYMPHONIAとともに活動することになる。1970年にはデビュー・アルバム『BARCLAY JAMES HARVEST』を発表。史上初となる専属オーケストラを有したロック・バンドとしてツアーに出るが、費用が莫大なものとなってしまい、この試みはすぐに頓挫。オーケストラの参加は数公演に限られることになった。
1971年にセカンド・アルバム『ONCE AGAIN』を発表。ロバート・ジョン・ゴドフリーとは関係が悪化して袂を分かつことに。ロバートは後に、これまた叙情性豊かなシンフォ・ロック・バンドのTHE ENIDを結成する。一方、BARCLAY JAMES HARVESTは、1971年に3作目『…AND OTHER SHORT STORIES』を発表。後に傑作とされる同作の楽曲の良さ、またライヴ活動を精力的に行なったことも功を奏して人気が高まっていく。1972年の4作目『BABY JAMES HARVEST』発表後にポリドールへ移籍。1974年に5作目『EVERYONE IS EVERYBODY ELSE』を、そして初のライヴ作『LIVE』を発表し、同作が英40位を記録する。
ここまでのアルバムはどれも素晴らしい内容だけど、ジャケット面からすると、あまりパッとしないというか、彼らの叙情性溢れるサウンドに見合っていないというのが正直なところ。それがガラッと変わるのがポリドール時代、6作目の『TIME HONOURED GHOSTS』(1975年)から。夕日をバックに草を刈る男がたたずみ、その前にチョウが飛んでいるという美しいイラスト・ジャケットだ。BEATLESの曲タイトルを歌詞に盛り込んだ「Titles」を収録した同作は、英32位のヒットを記録する。
その良い流れを受けて発表されたのが『OCTOBERON』(1976年)だった。ファンタジー色強めのジャケット。英オリジナル盤はエンボス加工が施されている。このジャケット・デザインには元ネタがある。イギリスの芸術家フレデリック・マリオット(1860-1941)による作品「オーベロン」がそれ。彼の作品のいくつかは、マザー・オブ・パール(真珠母貝)を使用していることで知られる。日本でいうと螺鈿みたいな、貝殻の内側のキラキラしたところを使用する技法。「オーベロン」にも、そのヨロイやカブト、羽の部分に使用されている。
オーベロンとは、シェイクスピアの『真夏の夜の夢』に登場する妖精の王のこと。なので『OCTOBERON』の邦題も『妖精王』。原題の『OCTOBERON』は、彼らのアルバムのライヴ盤も合わせて本作が8枚目(ラテン語で8は「octo」)であり、しかも同作が10月(October)に発売されることからきた造語だとか。
内容が悪いはずないよな!と思わせる美しいジャケット。ところがインナースリーブを見ると、男性の胸毛モッサーの上のオーベロン・ペンダントの写真というデザイン。それとラスト曲の「Suicide?」、なんだかモヤモヤ、モヤモヤするなあ! イギリスでは同作から1曲もシングル・カットされていないし、時代的にもプログレ・バンドは下火になっていた時期ながら、本作は英19位を記録している。それも楽曲の良さと、これまで築き上げてきた実績、そして美しいジャケットのおかげではないかと思うわけです。どの曲もおススメだけど、ここでは混声合唱団が加わって荘厳に盛り上がる「May Day」を聴いていただきましょう。まだまだ素晴らしい音楽が世の中には溢れている。それらを聴かずにこの世を去るのはもったいない。みなさん長生きしましょうね!
それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。
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70年にHarvestレーベルより発表した1stアルバム。彼らといえば、メロトロンが洪水のように流れる叙情的かつ荘厳なサウンドがトレードマークですが、本作では、まだ初々しさも残る牧歌的な英国ポップを聴かせてくれています。決して個性的ではありませんが、スタックリッジ「山高帽の男」などにも似た英国の田園を想わせる親しみ安いメロディーが素晴らしい好盤です。いや〜、素晴らしい。
廃盤、紙ジャケット仕様、02年デジタル・リマスター、ボーナス・トラック13曲、定価2476+税
盤質:傷あり
状態:良好
帯有
英国叙情派プログレ屈指の名バンド。77年に発表された通算10枚目で、ジャケットのイメージどおりの陰影豊かな叙情と幻想性に満ちた佳曲がつまった名盤であり代表作。オープニングを飾る代表曲のひとつ「Hymn」から彼ららしい優美で穏やかで詩情豊かな音世界が広がります。アコースティックで柔らかな冒頭からキーボード、そしてストリングスと被さってきて壮大にフィナーレを迎える展開が実に感動的です。ある評論家が彼らのことを「Poor Man’s Moody Blues」と揶揄したことに反発して作った楽曲も粋で、ムーディーズの代表曲「サテンの夜」に似せつつもバークレイならではの美しさがつまった名曲に仕上げていてあっぱれ。その他の曲もアコースティックな温かみとメロトロンやオーケストラの壮大さ、英国ならではのメロディがとけあった佳曲が続きます。英国叙情派プログレの傑作です。
82年リリースのライヴ・アルバム。1980年、まだ東西分裂時のベルリンの壁の前で行われた伝説のライヴを収録。「Mockingbird」「Child of the Universe」など、選曲、演奏ともにベスト。同日のライヴより未発表曲3曲を追加収録。
英国叙情派プログレを代表する名グループ。93年作。しっとりとメロディアスなギター、幻想的にたなびくキーボード、優しく紡がれる英国らしい叙情的なメロディと親しみやすいヴォーカル。変わらぬ美旋律を飾らず誠実に響かせる職人芸の名品です。
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