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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第八十二回:SAVATAGE『DEAD WINTER DEAD』

あけましておめでとうございます。毎年書いている気もするけど、時の過ぎるのが速い!あっという間に正月も終了。今年は特に年始から色々とあったし、何気ない日常の大切さを噛みしめるようにして生きていきたいと思います。もうホンマに、しょうもないことに時間割いているヒマはないですよね。ということで早速ですが、今回はアメリカのSAVATAGEを紹介です。

1980年代末、アメリカのヘヴィ・メタル・シーンで、プログレッシヴ・ロックの感性を宿したメタル系バンドの一潮流が生まれる。きっかけとなったのは、QUEENSRYCHE『OPERATION:MINDCRIME』(1988年)だ。同作を機に、数多くのプログレ・メタル・バンドが登場または注目を集める。筆頭はDREAM THEATER。SAVATAGEもそのひとつに数えていいバンドだけど、本国アメリカでも日本でも過小評価が著しい。僕はお気に入りのバンドのひとつで、機会があればSAVATAGEを推し続けている。今月号の『レコード・コレクターズ』(2024年2月号)でも、「このピアノを聴け!」の企画でSAVATAGE『DEAD WINTER DEAD』を紹介しているので、あわせてどうぞ。

そもそもSAVATAGEって、ゴリゴリのヘヴィ・メタルじゃないの? と思っている人がいるかも。確かに、AVATARとしてデビューした1980年代初頭のころは、JUDAS PRIESTとかオジー・オズボーンに通じる王道のヘヴィ・メタル・バンドだった。中心となったのは、ジョン(g)とクリス(g)のオリヴァ兄弟。ほかにベースのキース・コリンズ、ドラムのスティーヴ・ワコルズの四人で、1983年に3曲入りEP「City Beneath The Surface」をAVATAR名義で発表している。同EP収録曲「Sirens」は、ホメロスの『オデュッセイア』に登場する怪物セイレーンをテーマにしているなど、ちょっと知的な感じをみせている。

AVATARからSAVATAGEに改名。1983年には、「Sirens」をトップに据えたデビュー・アルバム『SIRENS』を発表する。ギター・リフ中心のヘヴィ・メタル作で、クリス・オリヴァのリフ・メイカーとしての才能の高さ、アイディアの豊かさが感じられる。アルバム・ジャケットは、海に出現する怪物セイレーンにちなんだ海と帆船のジャケット。ヘヴィ・メタル・バンドっぽくない、プログレ・ファン向きのデザインといえる。後の再発では、子供(妖精?)たちが武器を手にしている物騒なイラスト・ジャケに変更となった。

1984年にEP「The Dungeons Are Calling」を発表。骸骨ジャケットがいかにもヘヴィ・メタルだけど、タイトル曲で歌われているのはドラッグの危険性というシリアスなテーマ。冒頭の苦しそうな呼吸音やエンディングの扉が閉まるSEなどのアレンジも秀逸だ。

ついに大手アトランティックと契約し、1985年に2作目『POWER OF THE NIGHT』を発表。本作のジャケットは、モロにヘヴィ・メタル。内容的にもそうだからいいんだけども。同作を最後にベースのキース・コリンズが脱退し、ジョニー・リー・ミドルトンが加入する。

1986年には、3作目『FIGHT FOR THE ROCK』を発表。アメリカの国旗を突き立てんとするメンバーの写真をあしらったジャケット。天下を獲ってやるという気合の表れにも思えるが、実はアトランティックから「もっとヒット性の高いものを」という要求があったようで、BAD FINGERS「Day After Day」やFREE「Wishing Well」のカヴァーも収録。その結果、米158位というチャート成績を残すことになるが、メンバーは同作の方向性に不満を持っていたという。

よりドラマチックな音楽性へ。そんなSAVATAGEの思いを理解し、共闘することになるプロデューサーのポール・オニールと運命の出会い。1987年に発表された4作目『HALL OF THE MOUNTAIN KING』では、ホルストの火星やグリーグ「魔王の宮殿」をアレンジしたインスト曲、緩急の効いた展開を用いてドラマ性の増した楽曲、印象的なギター・リフとシャープなソロなど、あらゆる面でレベル・アップを果たしている。タイトルにあわせたファンタジー系イラスト・ジャケットは、ゲイリー・スミスというアーティストによるもの。

1988年、SAVATAGEとほぼ同時期にデビューしたQUEENSRYCHEが、ストーリー作となる『OPERATION:MINDCRIME』を発表。これが世界中で高く評価されることに。それまでのアメリカ・ヘヴィ・メタル・シーンは、派手かつゴージャスなスタイルがもてはやされたが、ここへきてプログレッシヴ・メタルの支流が生まれたのである。

1989年には、ポール・オニールが作曲面でも深く関わった5作目『GUTTER BALLET』(1989年)を発表。ジョン・オリヴァの弾くピアノを大々的に導入したタイトル曲やインスト曲などを収録し、SAVATAGE独自の劇的メタル・スタイルを確立した。ジャケットは前作に続いてのゲイリー・スミス。格調高い装飾のある室内で踊るバレリーナの幻を描いたイラストで、重厚さを増した彼らの音楽性にふさわしいものになっている。

そして1991年、満を持してロック・オペラ作『STREETS: A ROCK OPERA』を発表する。主人公であるロック・スター、D.T.ジーザスの栄光と挫折の物語。原案はポール・オニールで、当初は二枚組にするアイディアもあったらしい。感動的な「Believe」などの名曲を収録しているが、なぜかアメリカ本国では商業的に成功といかず、日本でも知る人ぞ知るという感じだった。メンバーが並んでいるだけのジャケットが良くなかった?

ここで何と、ジョン・オリヴァがSAVATAGEのメンバーから離脱する。ポール・オニールと共にSAVATAGEの楽曲製作面を手がける裏方役に徹することにしたのだ。新シンガーにはザッカリー・スティーヴンスが加入する。この一風変わった新体制SAVATAGE第一弾として、1993年に『EDGE OF THORNS』が発表される。ジョン・オリヴァはゲストで参加。彼の弾く美しいピアノからスタートするタイトル曲をはじめ、作風的には前作の流れを踏襲するドラマチックなヘヴィ・メタル路線。この頃から本国アメリカよりもヨーロッパ、特にドイツで人気を高めることに。ジャケットは『GUTTER BALLET』に続いてゲイリー・スミス。木の枝によって生み出された邪悪な顔、その前の川べりに座る女性というファンタジー系&セクシーさもあるイラスト。この女性はクリス・オリヴァの妻ドーンがモデルだといわれている。

さあこれからという1993年10月17日、クリス・オリヴァと妻ドーンの乗る車に、飲酒運転の車が衝突。ドーンは一命をとりとめたが、クリスが他界してしまう。衝突してきた飲酒運転者も軽傷で済んだというからやるせない。

SAVATAGEは活動継続を決意するが、バンドとしての再活動には時間が必要と判断。ひとまずドラムとベース、キーボード等をジョン・オリヴァが一人で担当し、ギターにTESTAMENTのアレックス・スコルニックが参加した『HANDFUL OF PAIN』を1994年に発表する。第二次世界大戦中にユダヤ人難民救済に尽力した日本の外交官、杉原千畝をテーマとした「Chance」では、以降のSAVATAGEの特徴となるボーカルのカウンター・パートを導入。ピアノと力強いギターが感動を誘う「Alone You Breathe」など、クリス死去の悲しみを乗り越え、よりドラマ性を強めた楽曲の数々を収録した力作に仕上がった。ジャケットはゲイリー・スミス。ムキムキの男性が天に両手を差し上げるというマッチョなイラストだけは、僕の好みではないです。

ドラムのスティーヴ・ワコルズがジェフ・プレイトに交代。来日ツアーが実現する。ツアー終了後にアレックス・スコルニックが脱退し、以前にもSAVATAGEのツアーに参加していたクリス・キャファリー、さらにアル・ピトレリを加えたツイン・ギター編成になる。この新体制で1995年に発表されたのが『DEAD WINTER DEAD』だった。同作については後述します。

名作と信じて疑わない『DEAD WINTER DEAD』だが、アメリカでは評価されなかった。1996年には、ポール・オニールが中心となり『DEAD WINTER DEAD』の収録曲「Christmas Eve / Sarajevo 12/24」から派生した、クリスマスをテーマとするロック・オペラ・プロジェクトTRANS SIBERIAN ORCHESTRAを始動させる。同プロジェクトにはSAVATAGEのメンバーも関わっていて、海外では人気を博し、その後何度も上演およびツアーが行われるヒット・コンテンツとなっている。


1997年には、前作と同様のメンバーで『THE WAKE OF MAGELLAN』を発表。世界周航を達成したマゼランの末裔を主人公としたストーリー・アルバムだった。これも力作だったが、アメリカでは1998年まで発売されないという憂き目にあっている。一方ヨーロッパ、特にドイツでは多くの支持を集めた。ジャケットは『DEAD WINTER DEAD』に続くエドガー・ジェリンズ。荒れ狂う波の中を進む帆船を描いた重厚なイラストで、SAVATAGEのシリアスな音楽性を象徴するものとなっている。

ここでなんとザッカリー・スティーヴンスが脱退し、ジョン・オリヴァが復帰することに。新作のレコーディングに入るが、アル・ピトレリがMEGADETHへ加入のため脱退する。ゴタゴタを乗り越えて、2001年に『POETS AND MADMEN』を発表する。スーダンの飢餓を訴えた、少女とハゲタカの写真でピューリッツァー賞を受賞したが、その二か月後に自殺したカメラマン、ケヴィン・カーターを題材にしたストーリー・アルバム。ジャケットはエドガー・ジェリンズだけど、どこかB級ホラー小説ぽい気も。アルバムもどちらかというと地味な曲が多いように思うが、ドイツでは7位というヒットを記録。相変わらず本国アメリカではまったく話題にならず、ビルボード・チャートの200位圏内には、かすりもしなかった。SAVATAGEは活動を休止し、メンバーはTRANS SIBERIAN ORCHESTRAを中心に活動することに。2010年ごろからは、SAVATAGEとしてもライヴ活動を再開している。

さて、今回取り上げたいのは、1995年に発表された『DEAD WINTER DEAD』だ。『レコード・コレクターズ』の2024年2月号で紹介したのもこれ。1992年から1995年まで続いたボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を題材にしたストーリー作。民族間の対立、約10日間で8000人余りが殺された大量虐殺など、近年稀にみる最悪の紛争にリアルタイムで切りこんだ内容だった。廃墟で演奏するチェロ奏者のエピソードなど、実際の出来事も盛り込まれている。決してスカッとするような作品ではない。本国アメリカでのヒットなんて期待できなかっただろう。でもSAVATAGEは、その悲劇を、その愚かさを伝えずにはいられなかった。物語の舞台は、後にボスニア・ヘルツェゴビナの首都となるサラエヴォ。教会の屋根にあるガーゴイルの彫像の目を通して、ストーリーは紡がれていく。ジャケットはエドガー・ジェリンズ。ガーゴイルの彫像とサラエヴォの街の情景が、青を基調とした色彩で描かれている。戦争や民族間の争いが、終わることなく繰り返されている今こそ聴かれるべきアルバムだと思う。

同作で効果的に使用されているのがジョン・オリヴァのピアノ。ヘヴィなギター・リフの背後で、時に物悲しく、時に憤りや苛立ちを掻き立てるように鳴り、物語の起伏を印象付けている。そのなかでも、おススメは「This Is The Time」だ。平和の尊さと脆さを同時に描いた名曲。アル・ピトレリの泣きまくるギターも感動的だ。ぜひジャケットともに味わってほしい。

ジョン・オリヴァによると、SAVATAGEとして20数年ぶりとなるアルバム発表の用意があるらしい。リリース・タイミングは2024年の早い段階という。しかも、それがSAVATAGEの最終作になるというから要注目だ。これを機に、日本でもアメリカでも、SAVATAGEを再発見、再評価する人が増えますように!

それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。

This Is The Time

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